満を持してディズニーがついに出した。ディズニーアニメの中でも名作中の名作の実写化。その高いハードルに挑むべく、製作陣の熱量が全編に渡って感じられる。とびっきりの映像美と、迫力のミュージカルシーンに酔いしれる。余計なアレンジを加えず、オリジナルアニメの世界観を忠実に再現してくれたのが嬉しい。ただ、どうしても野獣はイケメンになっちゃうんだな(笑)。外見ではなく心で通じ合う、ベルと野獣のロマンスはオリジナルよりも希薄に感じる。予定外であった、ユアン・マクレガーの超絶パフォーマンスと、ルーク・エバンズの豪快な悪人ぶりが素晴らしい。
「美女と野獣」は、ディズニーアニメの中で一番好きな映画だ。自分同様、オリジナルのファンの人は世界中に沢山いると思われる。それにしても、驚いた。公開初日のレイトショー、行きつけの映画館の座席予約を3日前にしようとしたら、大きいスクリーンにも関わらず前席だけを残してすべて埋まっていた。他の映画館を探して、無事、席を確保できたが、それでも8割近くが埋まっている状態だった。そして当日、劇場はやはり満席。しかも、レイトショーなのに女子率が極めて高い。劇中、両隣に座っていたお姉さんは号泣している。これは日本でも大変なヒットになりそうだ。
ストーリーはオリジナルに忠実。そのうえで、ベルや野獣の個性に厚みを持たせるため、彼らの過去に踏み込んだエピソードが追加されている。また、ガストンの手下(?)ル・フウには同性愛の臭いを明確につけるなど、寓話の世界の出来事で終わらせない味付けがされている。アニメを実写の世界に置き換えるだけでなく、観客に近い生身のキャラクターとして描こうとする意図が伝わる。
主演のエマ・ワトソンが美しい大人の女性に成長していた。その彼女の登場シーンだけでもハリポタファンには堪らないだろう。芯の強さを感じさせる凛々しい眼差しと、笑ったときの口元がチャーミングだ。オリジナルの「ベル」の、空想好きで変わり者ゆえに、村人に馴染めないキャラとは少し違うけれど、勇敢で美しいヒロインとして存在感は十分だ。
彼女を中心として回る、冒頭のミュージカルシーンが圧巻だ。アニメの世界をそのまま再現した、目に楽しい衣装と美術の数々。賑やかに人が行き交う村の広場で、ひたすら歌が巧い村人たちとベルが音楽を奏でていく。そのミュージカルの構成がお見事。さすがはディズニー、掴みの重要性をしっかりわかっている。
その後、父親の遭難をきっかけにベルと野獣が出会う。予告編でわかっていたが、姿を現す野獣の顔が非常にハンサムだ。「そりゃ惚れてまうやろー」とツッコんでしまう。オリジナルのようにブサイクで、ときに恐ろしく、ときに愛嬌のある顔にデザインするのは難しかったか。野獣を演じたはダン・スティーヴンスだったが、顔つきも声も彼の要素が全く感じられず、彼のファンとしては残念だった。
エマ・ワトソンは、エマ・ワトソンで素晴らしいのだが、彼女ではない、オリジナルに近いベルを見てみたかった気もする。最後に顔を出すダン・スティーヴンスもロン毛があまり似合っておらず格好良くない。おかげで最後の大団円もイマイチのれなかった。
その一方で、彼らの脇役たちが実に魅力的で予想外にヤラれた。野獣同様、魔法によって家具に変えられた召使いたちだが、俳優たちが地声のまま演じている。誰が演じているのだろうと、最後に明らかになる答え合わせが楽しい。唯一自分が正解したのがユアン・マクレガーだった。孤独なベルを食卓でもてなすミュージカルシーンで、ユアン・マクレガーの歌唱パフォーマンスが披露されるが、もう、めちゃくちゃ凄い。豪華絢爛、ド迫力の映像と相まって、本作屈指の鳥肌モノの名シーンだ。また、野獣を攻撃するガストンは、オリジナルよりも随分と悪く描かれているが、演じるルーク・エバンスの悪人ぶりが逆に気持ちいいほど。豪快な歌唱パフォーマンスと、救いようのないクズっぷり。見事な助演といえる。イアン・マッケランやエマ・トンプソンといったベテラン勢の好演も光る。
エンドロールに流れるアリアナ・グランデとジョン・レジェンドによる主題歌がまた最高。最後まで聞き惚れてしまった。まだ気が早いが、来年のアカデミー賞で主題歌部門に候補入りしたら、2人のデュエットによる生ライブが聞けるなーと思った。
【65点】