から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

search/サーチ 【感想】

2018-10-31 08:00:00 | 映画


情報社会の"今"を切り取ったサスペンススリラーの秀作。個人のあらゆる情報はオンライン上に集約され、世界中に共有される時代。起こり得る可能性と危険性が網羅され、物語の展開に機能して見事。観客を翻弄する脚本は、スリリングで隙がなく最後の最後まで引き込まれる。普遍的な家族のドラマがベースにあり、娘を想う主人公の心情に強く共感。交錯する2つの父性と母性が本作の隠れた旨味。素晴らしく面白かった。

16歳になる娘の謎の失踪を、父親がネットを駆使して追いかける話。

一部のシーンを除き、ほぼ全編、PCの画面上で展開される。斬新さを狙ったというより、すべての生活がオンラインで完結してしまう現代性を表しているように思えた。画面上の限られた空間で描かれるドラマにも関わらず、見ていて不自由さを感じさせない演出に驚かされる。冒頭に訪れる家族の悲劇をアプリの記録を介して描き、早々に涙腺を刺激する。

主人公はアジア系アメリカ人の中年男子で、1人娘と2人暮らし。仲の良い親子だ。どんな家族にも秘密はあるもので、本作の親子にも該当し、失踪事件をきっかけに父親は娘の知られざる一面を知ることになる。こうした光景は今に始まった話ではない。ただ、今と昔の違いは、様々なアプリによって真実を隠し、溜め込むことが容易になっているということ。

SNSというのはつくづく厄介なものと思う。共有と承認欲求は、もう1人の別人格を作らせる。ときに、その別人格が本性だったりする場合も。顔の見えない大衆は好き勝手に振る舞い、他人を持ち上げ、他人を攻撃する。バズの波にのって、偽りの自分を演じ、ひとときの愉悦に浸る人間の愚かさが痛い。

一方、ありとあらゆる情報のデータベースであるネットやアプリは、難航する主人公の捜索に関門突破の鍵を与える。情報漏洩は日常生活における大きな脅威だが、非常事態時には恩恵に化けたりする。元をたどれば、あのアプリがすべての始まりだったけど。情報社会は現代人の味方か敵か、突きつける視点が鋭い。

事件の解明につながる様々な情報が提示される。その度に予想が浮上し、確信に迫ったと思えば、すり抜けていく。深まる謎。ミステリーを堪能する一方、オチでコケるパターンを心配する。ところが、本作においては見事な着地。全く想像し得なかったが、主人公の父性と重なり、必然性をもって受け止められた。ネット社会で生きる人間たちだが、根っこは今も昔も変わらない。

【75点】
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娼年 【感想】

2018-10-30 08:00:00 | 映画


話題作をようやくレンタル。レンタル開始から1月半後にようやく借りられた。

女性に体を売る仕事についた大学生を描いた映画。完全なる「ファンタジー」(褒め言葉)。

"普通の男"と言われる主人公は、どっからどう見ても目立つ美青年。演じる松坂桃李の顔面力もさることながら、引き画のシルエットの美しさに惚れ惚れする。もちろん脱いでも良し。「ボクは女性達の欲望のジャングルに入っていった」と、様々な女性をエスコートし、オスとして本番行為に及んでいく。登場する相手の女性はいずれも、たいがいの許容範囲に入り、イケメンが様々な女性と経験を重ねるという状況と変わらない。

マザコンからくる年上女子への想いが、主人公のモチベーションにあり、少なからず恋愛感情が介在している模様。どんな女性を相手にしても機能させるAV男優の特殊技能とは違うし、本作を見ても、男性による女性相手の風俗が成り立つとは考えにくい。男性と違って"プロセス"を楽しむ女性、その性欲の複雑さが語られるが、原作者が男性という時点で信用ならない。

松坂桃李の美しい泣き顔しかり、最後までアイドル映画の匂いが強い。自分はセックスを巡る官能とユーモアを描いた寓話として楽しむ。セックス描写は予想以上。"スタート"から"フィニッシュ"までの一連の動きを余すことなく追う。「女性側が求めている状況」という前提だけに、男性にとってはポルノよりもポルノに感じるかも。性行為時の男性側の肉体的な動きは演技でカバーできる範囲を超えると見え、松坂桃李のプライベート時の動きと想像してしまう。文字通り、体も心も曝け出した松坂桃李の役者魂には感服する。

この映画。公開後しばらくして「応援上映」なるものをあったのを思い出す。「まだイクなー!」とか応援するのだろうか。想像するだけで楽しい。

【65点】
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ベター・コール・ソウル シーズン4 【感想】

2018-10-29 08:00:00 | 海外ドラマ


今年の海外ドラマ生活の楽しみの1つであった「ベター・コール・ソウル」の最新シーズン。

配信が開始されたのは8月だったが、週イチの配信であったため、最終話が配信された10月のタイミングでイッキ見をした。

全10話。Netflixにて。

相変わらずの完成度。ヴィンス・ギリガン"ブランド"に恥じない脚本と演出であったが、これまでのシーズンと比べると面白さは最低レベル。キャラクターに変化を与えるイベントが少なく、展開のスピードが遅い。
噂された「ブレイキング・バッド」(「BB」)のウォルターとジェシーの登場はなかった。

本シーズンも、ジミーとマイクの両輪のストーリーだ。残念なのは、ジミーとマイクが絡むシーンが1つしかなく、完全に2人の物語が分離してしまったこと。コメディとドラマパートは「ジミー」担当、スリラーパートは「マイク」担当みたいな具合。1つのドラマで描く効果はあまりない。



まずジミーの物語。本シーズンでいよいよ「ソウル」が誕生。
前シーズンでは兄チャックの自殺という衝撃的な事件で幕を下ろした。兄の死をもっても兄弟の確執は埋まらず、ジミーは悲しむことを放棄する。ジミーにとっては、1年間という長い弁護士停止期間のほうが重要のようだ。本シーズンでは、この停止期間に起きた出来事が描かれる。

巧みな話術を駆使したショーマンの才能が本シーズンでも遺憾なく発揮される。コピー機営業の面接におけるパフォーマンスが面白い。彼なら何を売ってもトップセールスマンになるのだろう。彼が暫定的に就職したのは携帯販売のチェーン店。そこで新たなアイデアを思いつき、携帯を売りさばくことになる。今では古い手法だが、プリペイド携帯の新たな活用法を唄い、犯罪者を相手に商売を始めるのだ。「バレなければ何でもOK」がさらにエスカレートする。



パートナーのキムは、本シーズンでも相変わらず魅力的だ。あの美しいブロンドヘアとポニーテールの後ろ髪に萌える。前シーズンで大けがを負ったが、ソウルとは対照的に仕事で大躍進を遂げる。ジミーとの生活でスレ違いが生じるのは必至。大出世を遂げる一方、無料弁護を積極的に引き受けるようになり、自身の能力を人助けに活かそうとする。ジミーとは大違いだ。



ジミーパートのクライマックスは、弁護士資格を取り戻す審査会。ここで、やはりチャックとの関係性が重くのしかかる。問われるのは本当の「誠実さ」だ。しかし、それすら操ることに成功したジミーは、別の次元へ行ってしまった印象。そして「うまくやれば、すべてよし」=『ソウル・グッドマン』が声高に確立された。

次にマイクの物語。
シーズン3に引き続き、サラマンカ一族とガスの動向がセットで描かれる。こっちはさらにBBに近づいてきた。ナチョの反逆により、脳性麻痺となったへクター・サラマンカ。BB名物である「チンチン爺さん」が完成。あのベルを鳴らすようになった逸話が面白い。この事件をきっかけにナチョはガスの所有物となるが、結果、サラマンカの時よりもいい暮らしができるようになる。脳性麻痺になったヘクターも結果的に、ガスによって命を長らえた。「生かして支配する」、BBでウォルターに対してとったやり方と同じだ。



マイクパートのハイライトは、BBでも重要拠点として何度も登場した地下製造所の建設だ。ガスがウォルターのために用意したと思われた製造所は、ウォルターに出会う前からの計画だったことが判明。この建設計画を全面的にガスがマイクに委託。以降、ガスがマイクに対して全幅の信頼を寄せる経緯が描かれる。クリーニング工場の地下に"バレずに"巨大な施設を作ることは相当な難儀であり、ドイツからリクルートした建設員たちとの交流を絡め、丹念に建設過程を追っていく。



そこでマイクは"タブー"を破る。ガスの命令に従ったという側面が大きく、BBまで続くガスとの蜜月関係を決定づける。ただ、最終話まで引っ張って描くべき事件ではなく、せめて前半パートで完結させ、後半はもっと展開を進めてほしかった。語るべき物語はもっとあったはず。

今年も引き続き、いろんな海外ドラマを見ているが、撮影、編集は「ブレイキング・バッド」仕様であり、他の海外ドラマにはないセンスを改めて感じる。オープニングからの伏線回収も巧い。しかし、10話からようやくスリルを醸成するエンジンがかかるのは遅い。シーズン単体でみれば、十分に面白いドラマであるが、これまでのシーズンがハイレベルだったため、期待はずれ感は否めない。

「ソウル」の誕生を目撃したので、本家BBにおける「ソウル」(ジミー)の初登場回を見直してみた。「ソウルは本名じゃないんだ」とウォルターに話していた。本家を久しぶりに見ると、やはり別格のドラマだ。オープニングから素晴らしい演出で唸らされる。

本家のスピンオフとして始まった、このドラマ。2シーズンくらいで終わると思いきや、このシーズン4まで続き、この内容だと次のシーズンまで続きそうだ。BBのシーズン4は既に神レベルに達しており、スリルが少ないという作風の違いを無視しても、甚だしく見劣りする。このシーズン4で結末を迎えても良かったので、もっと本気を出してほしかった。

【70点】

ベター・コール・ソウル シーズン1 【感想】
ベター・コール・ソウル シーズン2 【感想】
ベター・コール・ソウル シーズン3 【感想】

「ブレイキング・バッド」の最終話を見届けた件


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億男 【感想】

2018-10-27 08:00:00 | 映画

資本主義の支配者「お金」のあり方について問う映画。ただ、大風呂敷を広げることなく、「お金」と「幸福」の関係性に留まる。それも日本のような恵まれた環境に限られた話。「お金に換えられないものがある」、登場人物と同様、お金持ちのモノ言いであり、「そりゃそうだね」と再認識するレベルだ。価値観を揺さぶるような発見を勝手に期待していたのだが、見つからなくて残念。
3億円を持ち逃げした友人の失踪を追うため、3人の「賢者」に会いに行くというストーリー。北村一輝と藤原竜也の怪演は楽しいものの魅せ場は乏しく、主人公の変化も目に見えないため、中だるみ感が続く。
「モノの値段は人が決める」のモロッコから着想を得た事業が「メルカリ」そのものだったり、落研の人がモロッコまで卒業旅行に行くのか、とか、そこまでの親友が大学卒業してから一度も会ってないのか、とか、高橋一生の前髪がやたら長い、とか、いらぬ違和感が時々邪魔する。BUMPの曲は素晴らしく染み入った。
いっそ「3億円使ってみた!」みたいなシミュレーションドラマにしたほうが面白かったかも。非日常体験を味わうと共に、その先に見える答えのほうが説得力があると思う。
【60点】
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ウエストワールド シーズン1 【感想】

2018-10-26 08:00:00 | 海外ドラマ


「バリー」、「ジャック・ライアン」に続き、Amazonプライムビデオにて。

一昨年、スターチャンネルで放送していたが、1話目で興味が沸かなかったのでスルーしていた。今回、改めて見たが、こんな面白いドラマだったとは。

全10話だが、1話あたり60分みっちりで、最終話にいたっては90分、見終わるまでに結構な時間がかかった。傑作ドラマを生み出すHBOが、かなり力を入れて製作したドラマといえる。



舞台となる「ウェストワールド」を一言でいえば、「"リアル" レッド・デッド・リデンプション」。

西部劇のオープンワールドでプレイヤーが自由に動きまわる洋ゲーを、そのまま実写化したような場所だ。プレイヤーには一定のストーリー(シナリオ)が事前に準備されているのも同じ。近未来の設定らしく、お金持ちが数百万という高額な入場料を支払い、西部開拓時代を再現した広大なテーマパークで遊ぶ。そこでは、限りなく生身の人間に近いアンドロイド(人造人間)が「ホスト」として普通に生活していて、入場客はホストに対して何をやってもOKというシステム。体を弄ぶのも良し、暴力を振るっても良し、殺しても良し。



玩具として使われるホストたち、そのホストを自由に弄ぶ入場客、ホストを製作しウェストワールドを管理する運営者たち、この3者による物語だ。

人間に利用されるロボットの悲劇は映画の「AI」や「イノセンス」など過去の映画でも描かれてきたが、本作がユニークなのはホストには人間と同じ自意識や感情、感覚が備わっていて、自分自身も「人間」であることを疑っていないということだ。なので、攻撃してきた人間に対して憎しみを覚え、反撃を試みたりする。しかし、絶対に人間を傷つけないようにプログラムされている。肉体の耐性も人間と等しく、一定のダメージで普通に死ぬ。人間と異なるのは、死んでも修復され再利用される点と、死を迎えたタイミングで記憶がリセットされる点だ。

このあたりのシステムを理解していない序盤は「?」が頭をずっとよぎってドラマに入り込みにくい。ストーリーが進行するにつれ、この違和感が解消されていく仕掛けだ。現実世界とウェストワールドという2つの境界でせめぎ会う展開が中心だが、後半にかけて時間軸の伏線回収が描かれるなど、脚本の緻密さに驚かされた。

ウェストワールドのクリーンな遊び方としては、運営者たちが用意したシナリオに沿って、冒険の旅に出ることであるが、その遊び方をしている入場客たちはごく一部のようで、その多くが「殺し」や「セックス」といった、シンプルな快楽行為に興じる。このあたりの描き方はとても自然。欲望に生き、人間の本質が曝け出されるウェストワードだ。それゆえ、嘘の世界なのに「リアル」を感じていくキャラクターたちが面白い。



中盤以降、予想通り一部のホストが「覚醒」する。支配する人間と、支配されるホストの構図が揺らぎ始める。見極めが難しいのは、その理由が偶発的なものなのか、それとも、ある人間の計画によるものなのかだ。アンソニー・ホプキンス演じる、ウェストワールドの実質的支配者が、あまりにも展開を掌握しすぎているし、背景の後付け感も強いが、予想を超えていく怒涛の展開にすっかり夢中になってしまった。



エド・ハリスやエヴァン・レイチェル・ウッド、ジェームズ・マースデン、タンディ・ニュートンなど、主要キャストは映画界でも活躍する豪華な顔ぶれだ。SFの視覚効果や西部劇のセットなど相当の製作予算が組まれていると思う。シーズン2に向けての期待値も高く、引き続き、視聴を続けたいと思う。

【70点】
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ジャック・ライアン シーズン1 【感想】

2018-10-24 08:00:00 | 海外ドラマ


「バリー」に続き、Amazonプライムビデオにて。
見た人のレビュー件数と評価スコアが非常に高かったため、見ることに。
全8話なので、このドラマもあっという間に見終わった。

先のエピソードが気になる「イッキ見」型の海外ドラマだが、面白さはまずまず。。。

テロリストを追うCIAの活躍を描いた海外ドラマとしては「ホームランド」という傑作があり(シーズン4までしか見てないけど)、プロットが似ていることもあってつい比べてしまう。本作については、見劣りする点が多々あり、夢中になるほど楽しめなかった。

「デスクワーク」の分析官という点がユニークだが、「主人公」という設定ありきが強く、ここまでテロの現地で動き回る必然性は感じにくい。主人公が現場に引っ張り出されるきっかけは、彼だけが気付いた分析結果によるもので、新しく赴任してきた上司と行動を共にするところから始まる。容疑者の取り調べの偶然によって、テロリストを追う宿命を背負うだのが、以降は分析官としての知能よりも、元軍人という肉体力で任務に駆りだされている。わざわざ彼の活躍を見せるために、展開のラインが引かれている場面が多い。序盤のヘリコプターによるお出迎えシーンが象徴的か。知人に猛プッシュされた漫画「キングダム」にハマれなかった理由と似ている。



先月に見た映画「クワイエット・プレイス」。髭をたくわえたジョン・クラシンスキーはあんなにカッコよかったのに、髭を剃った本作のクラシンスキーは体がデカいだけで、知的なイメージが少ないのが残念。彼とコンビを組む上司役のウェンデル・ピアースは小太り気味の体型で迫力が出ない。主人公の恋人を演じるアビー・コーニッシュは顔がパンパンで仕上がり不足。主要キャラが魅力的じゃないのも本作の弱点だ。また、主人公らの活躍と交錯する形で描かれる、ドローンパイロットの葛藤は、これまで数々の映画で描かれてきただけに今更感が強く、「被害者お宅訪問」のクダリは、とってつけたような嘘でシラける。罪悪感があるならば絶対に行けないはず。他にも首をかしげてしまうシーンが散見された。

その一方で、CIA側のドラマよりもテロリスト側のドラマのほうが面白い。冒頭で描かれるアメリカの「汚点」と、そこから始まった憎しみのルーツ、移民国家であるフランスで味わった屈辱の思い出など、普通のイチ市民が「テロリスト」に変わっていく経緯が丁寧に描かれる。テロリストリーダーとその妻の追走劇が、個人的には最もスリルを感じたエピソードで、主人公らと出会うシーンにどれだけ安堵したことか。



その完成度はさておき、普通に楽しめたドラマ。
銃撃戦などのアクションシーンは映画並みのスケールで見応えあり。

シーズン2の製作が決まっているようだが、舞台が変わるのと同時に、できればキャスティングも替えてほしい。

【65点】
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バリー シーズン1 【感想】

2018-10-23 08:00:00 | 海外ドラマ


ボタンを押し間違って、Amazonプライム会員になってしまった。
年間ではなく1ヶ月400円なのでまあ良しとして、せっかくなので、久しぶりにプライムビデオを見ることに。エミー賞が終わったばかりで、チェックしていた「バリー」のシーズン1が配信されていたので見た。

全8話、1エピソードあたり30分前後なのでサクサク鑑賞、あっという間に終了。
小品ながら、予想以上に面白かった。高度なコメディドラマ。

アフガニスタンの帰還兵で、現在は殺し屋として働く男が主人公。依頼を受けた暗殺案件でたまたま演劇学校に潜入。そこで出会った人たちの勘違いで自身も演劇を習うことになり、新たな生きがいに目覚めていくという話。タイトルのバリー(Barry)は主人公の名前だ。オープニングの寸劇から「Barry」のタイトルまでの流れが秀逸。それだけでこのドラマのレベルが推し測れた。

バリーは凄腕の暗殺者であるが、演じるビル・ヘイダーはどこから見ても普通の一般人にしか見えない。ギャップが面白いというよりも、案外、そういう人こそ裏の稼業があったりするのではと生々しく思えた。ドラマのファーストショットは死体が映る殺しの現場であり、コメディだと思っていたのでかなり面食らった。ただ、本作は間違いなくコメディ。



人間の生き様はコメディから逃れられない、名作「ブレイキング・バッド」でも描かれてきたテーマが本作でも生きている。傍らで深刻な事態が起きているのに、それに気付かない現実生活の表裏、真面目にやればやるほど空回りして、些細なコミュニケーションのすれ違いが思わぬ方向へ向かい、笑いへ転じていく。ユーモアの発生方法が高度だ。

バリーは良識ある人間であり、自身の仕事に罪悪感をもっている。足を洗いたいと思っていた矢先に、演劇というものに出会うことになる。舞台は夢追い人が集うロサンゼルス、役者として成功しようと学ぶ演劇学校の仲間たちとの友情、そして恋愛。孤独だったバリーは新たな生活に溶け込もうとするが、裏稼業の縛りから解放されるのは難しく、演劇学生と暗殺請負人の2足草鞋の生活を続けていく。暗殺待ちのなか、必死に台本を読み込む姿が可笑しい。そんな状況にバリーを追う警察も加わり、さらに面白くなってくる。

バリーが恋する女子を中心に、ドラマや映画への出演を切望する役者たちのリアルが丁寧に描かれているのが面白い。成功パターンではない、もう1つの「ラ・ラ・ランド」の姿だ。アルバイトとオーディションに追われる日々、ライバルとの役の奪い合い、端役ですらキャスティングされることの喜び、良くも悪くも俳優たちのキャリアを左右する「エージェント」との関係性などなど、多くの俳優たちが経験するであろうエピソードは悲喜こもごもだ。

バリーの暗殺請負と演技学習。相容れない2つの生き方だが、暗殺現場での出来事が演技に思わぬ幅を広げるなど、双方に影響を与えるのが面白い。コメディの枠のなかでギリギリを攻めるスリルが絶妙だが、最終話で起きた事件は余計に思えて残念。あのまま「仲良く」終わったほうがコメディとして収まりが良かった。

主演のビル・ヘイダーは監督、脚本も兼任しており(共同だが)、実は凄い人だった。

【70点】

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止められるか、俺たちを 【感想】

2018-10-22 23:00:00 | 映画


映画で世界を変えようと信じた若き映画人たち。タバコと酒、合唱、ピンク映画、学生運動、1969年の時代の臭気が充満する。人と人の距離が今とは違っていて、熱い本音をぶつけ合う会話が新鮮だ。「あの文化人の若い頃」みたいなテレビ番組のモノクロ映像で見た、あの独特の理屈っぽいしゃべりかた。今の俳優を起用しながら、当時の再現に徹した描写が興味深い。

自分たちの撮りたい映画を撮る、そのためにカネになる映画を撮る。本作で描かれる映画人たちの情熱は、今からすれば過去の遺物なのかもしれない。芸術性を声高に謳う映画よりも、商業主義にまみれた娯楽作品のほうが好きなので、やや冷めた目でみながらも、かつて実存した映画のあり方に思いを馳せる。

若松監督の映画は「キャタピラー」しか見たことがなく、ほぼ知らないに等しい。見に行った日が若松監督の命日ということで劇場の前に献花台が置かれていた。白石監督目当てだったので少し引け目を感じる。若松監督に縁のあるスタッフとキャストで製作された模様。身内遊びになることなく、普遍的な青春ドラマとして仕上げられているのが良かった。井浦新のなりきり演技はパワハラさえもどこか憎めず、若松監督への愛情が滲んで見えた。

【65点】
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アンダー・ザ・シルバーレイク 【感想】

2018-10-19 23:00:00 | 映画


難解。。。
一目惚れした隣人美女の失踪を追いかける青年の話。ハリウッドの都市伝説らしき逸話を組み合わせ、どんどん先の見えない迷宮に入っていく。現実世界に夢が混じり合うようで、不可思議なイベントが展開。ちょっと方向性は違うが、途中で鑑賞を諦めた「ツイン・ピークス」(ドラマ版)と似ている。ノワール映画へのオマージュと暗喩を気配として感じるのみ。主人公による謎解きは過大な妄想レベルで、観客の理解を置いてきぼりにする。監督が撮ってみたかった映画を撮ったようで、良く言えば作家性が強い作品、悪く言えば自己陶酔に墜ちた作品。
観客の想像力を試すようで、本作はそれでいて退屈。前作同様、監督の映像センスは多分に感じるものの、いかんせんお話がつまらない。見終わって何を見せられたのだろうと脱力感が残る。退廃的な色に染まったアンドリュー・ガーフィールドのお尻と、ライリー・キーオのブロンド美女ぶりが印象的。「オ●った?」の日本語訳に萌える。
【55点】
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バッド・ジーニアス 【感想】

2018-10-13 08:00:00 | 映画


凄い。展開が予想をどんどん超えていく。

インド映画を含め、アジア産のエンタメ映画にこれほど夢中になったのは初めてだ。

2人の天才によるミッション・インポッシブル。学歴至上主義の戦場を舞台にした「カンニング」アクション、ギリギリの人間たちによる心理サスペンス、天才たちの頭脳を可視化したファンタジー、スクールカーストを舞台にした学園ドラマ、学歴偏重社会を投影した映画、強固な親子愛を描いたドラマ、このすべてがあてはまる。

なかでも本作を特別なものにしているのは青春ドラマとしての側面。天才だが貧しい学生と、成績が悪い金持ち学生、限定された2極のキャラ設定で、それぞれの造形を掘り進める。普段聞きなれないタイの言葉だが、物語に入り込むのは容易だ。自業自得、あるいは、不運によって、逃げ道がなくなっていくキャラクターたちの心情に肉薄。人生の岐路に立たされた高校生たちの葛藤を丁寧にすくいとる。

ダイナミックな引きとクロースアップの緩急、縦横無尽に動くカメラワーク、リアルに空想を挿し込む巧さ、キレ味鋭い編集。疑いようのない映像センスは、初めて「セッション」を見たときの衝撃に似ている。一人よがりの映像プレイに陥ることなく、すべてが本作のドラマを描くための要素として機能。天才たちの戦いは臨場感に溢れ、緊張感に高鳴る鼓動が伝染する。常軌を逸した暗記処理に目が回り、圧倒的スリルに手の握力が強まり汗が滲む。

彼らは何を失い何を得たのか、その決断と「落とし前」に胸が揺さぶられる。世界は頭脳によって支配され、天才こそが勝者になる条理なのかも。シドニーに降り立ち、2人が交わした言葉が深く響く。実はかなり危ういことを描いているとも感じた。

この映画なくして2018年の映画生活は総括できないと思えるほどの傑作。
監督のナタウット・プーンピリヤが、ハリウッドで活躍する日を楽しむにして待つ。

【88点】

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マツコ・デラックスMCの風俗特番が素晴らしかった件。

2018-10-10 23:00:00 | 日記

一昨日の月曜日の深夜、日本テレビで放送された、日本における「風俗産業史」を取り上げた特番があまりにも素晴らしかったので、日記として残しておく。
永久保存版の情報番組。攻めに攻めた企画であるのは勿論のこと、知的好奇心を刺激する教養番組であり、激動の時代を己の身1つで逞しく生きた女性たちを描いたドラマだった。

毎週「月曜から夜ふかし」がやっている時間帯であり、この特番の放送を知らずして、毎週録画にたまたま入っていた。番組名は『かたせ梨乃が進駐軍の前で踊り狂った時代…とマツコ』。映画「肉体の門」から引用したタイトル名だ。「●●が輝いていた時代」の第2弾で、前回は「不良」文化、これもまためちゃくちゃ面白かったのだ。

「風俗」

テレビ局の放送コードがどんどん厳しくなるなか、「エロ」ではなく「文化」として大真面目に向き合った情報バラエティだ。「イッテQ」しかり、大衆迎合する日本テレビ気質が個人的に好きではないのだが、この番組を見て、日本テレビの心意気と覚悟に感動してしまった。

番組では、現代→近代→創成期(江戸時代)→戦後と、変わりゆく風俗の形を追っていった。いつの時代も、男にとって「秘密の園」である一方、女性にとっては「孤独な戦場」。女性たちへの敬意を強く感じる内容だった。

風俗の店舗数は増加の一途をたどり、ある調べによれば風俗嬢と言われる人たちは30万人に上るとのこと。2004年の石原都知事による浄化作戦により店舗型が一掃され、新たな業態としてデリヘルが台頭、手軽さと便利さは現代にマッチしたサービス形態だ。そんななか、今も残る「料亭型」風俗として番組では「飛田新地」を取り上げる。

自分が社会人2年目くらいだっただろうか。大阪に赴任した学生時代の友人を3人くらいで訪ねたことがある。学生時代のノリで「飛田新地を見に行こうぜ!」と車で向かったものの、その異様な雰囲気に尻ごみして引き返した思い出がある。番組では現在の飛田新地の様子をカメラに捉え(スゴい!)、その「お作法」までも細かく解説する。まさに異空間であり、店先で女性と客が顔を向き合わせて、サービスに流れる、かつて旺盛した失われた風俗の原風景のよう。その一方、笑かせのパートとして、風俗近代史の「産業革命」として評される「あべのスキャンダル」が取り上げられる。このノーパン喫茶で誕生したコンセプト型エロスは、現在のAV文化にも通じていると感じた。

国の公認形態として風俗産業が最初に起こったのは江戸時代で、女歌舞伎と湯女の裏仕事を取り締まるためだったという。そこで遊郭が誕生。働く遊女たちには明確なカーストがあり、その頂点に立つ「花魁」は吉原のなかでも片手で数えるくらいしかおらず、客に性的なサービスを施す仕事人というより、大衆に愛されるアイドル、もしくはファッションリーダーだった。遊郭といって、自分が真っ先に思い浮かべるのは映画の「吉原炎上」。番組内でも取り上げられており、古い日本映画に疎い自分も何度も見た名作だ。映画の主人公同様、家族の借金の肩として売られてきた女性たちが多く働いていた。番組に出演していた専門家曰く、遊郭で勤めたのち、その多くは梅毒で亡くなったらしい。娘を預けた家族はその亡骸を引き取ることはほとんどなかったとのこと。生前は遊女になった娘に甘えて追加借金をすることもあったという。遊女たちはそれでも懸命に家族のために働いた。通勤電車でこっそり見ながら、悔しくて涙ぐんでしまった。漫画家の村上もとかが「JIN-仁-」を描いた気持ちがよくわかった。いつか、彼女たちが投げ込まれたという浄閑寺に手を合わせに行きたいと思う。

哀れみと同時に感じるのは、その世界で生き抜いた女性たちの強さだ。戦後まもなく、連合国に占領された日本で進駐軍の相手をしていた娼婦たち(「パンパン」)の存在。GHQによって、解体された遊郭。そして誕生した「赤線」が、停滞する経済活動を支えていた事実。娼婦たちの縄張り争いと勢力図は、暴力団のようであり、まさに「肉体の門」で描かれた状況があったと知る。公認の「赤線」に対抗する形で、非公認の「青線」ができて、その地点をみると、池袋、新宿、五反田などがあり、現在の風俗エリアであることに驚かされた。その姿や形を変えても、必ずルーツというものがあるのだ。番組は最後に、赤線地帯の高級娼婦であった老女「ヨコハマメリー」を取り上げる。番組時間が短いので、彼女の紹介シーンがやや駆け足になってしまったのは残念。彼女のドキュメンタリー映画を見てみたいと思う。

「男は絶対風俗で仕事はできない」、最後にMCのマツコ・デラックスが発した言葉に大きく頷いてしまった。男は女性にかなわない。男は女性に敬意を払うべきと思えた。

未知の史実に触れ、大きな感銘を受けた番組だった。欲をいうと、1時間では収まらないテーマであり物足りなさもあったが、よくこの短時間でまとめたともいえる。
これでかなりハードルが上がってしまったが、次の第三弾はいったい何を扱うのだろう。

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イコライザー2 【感想】

2018-10-10 08:00:00 | 映画


またまた痛快な続編。
善良な市民を脅かす悪党たちをたった1人で一掃した前作。今回は主人公自身の過去や背景にスポットを当て、自身の復讐のために「処刑」が執行される。「お前はどうなんだよ?」と、もっともなセリフが飛び出すように、前作と比べると、敵側への憎悪が小さく、目的達成時のスッキリ度も低い。一方で、イコライザーvsイコライザーの構図は新たな切り口として面白く、両雄がぶつかるクライマックスのアクションシーンは熱い。ここでも空間が巧く使われている。主人公の無敵ぶりはパート2でも揺るがず、「こうでなくちゃ」と前作ファンの期待を裏切らない。多くのヒーロー映画で危機に瀕する局面を主人公に与えるが、本作シリーズは別。襲いかかる脅威を知力と攻撃力で返り討ちにするのが醍醐味。「強い男」に憧れを持つ中二男子としては堪らないヒーロー像だ。危険が襲う前兆を音楽でバラしてしまうのは勿体ないか。個人的なツボはクライマックスよりも、前半で描かれる、女性に乱暴した卑劣男たちへの強烈なお灸シーン。しがないオッサンと侮る男たちを、正義の鉄拳で粉砕する。演じるデンゼル・ワシントンの冷静さと重量感がカタルシスに輪をかける。本作では近所の若者を導くメンターのような一面も描かれるが、主人公の「お節介」によって大迷惑を被ったとも受け取れ、散々な目に合った若者を見てちょっと可哀そうにも思えた。
【65点】
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若おかみは小学生! 【感想】

2018-10-07 23:00:00 | 映画


危なくスルーするところだった。
萌えなキャラデザインとタイトル、普段なら全く触手が伸びないジャンルだが、「傑作」という評判も納得のアニメ。
「全てのものを受け入れる」温泉地を舞台にした、少女の成長を描いた物語だ。神から授かった温泉は傷ついた人々を癒し、植物に至るまですべての生物に慈しみを注ぐ。旅館業の仕事を通して、人をもてなすことの美しさが見えてくる。3人のゴーストとの交流、対照的な同級生との新たな友情、ワケありな訪問客たちとの出会いが、主人公を成長させていく。大きな悲劇を前提としているのに感傷で振り回したり、同情心を煽ることをしない。亡くなった人への想いを喪失とするのではなく、心に生き続けるものとする。観客の想像力を信じる、吉田玲子らしい脚本が本当に素晴らしい。あとは個人の好みの問題で、みんながウィンクして、一同に良心の向かう場面は自分には甘すぎたりした。ただ、子どもを含めた全世代に向け、このほうが訴求しやすいようにも受け止められる。無条件に人にオススメできる映画であり、日本の精神を知ってもらう上で外国の人にも見て欲しい映画だった。
【70点】

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クレイジー・リッチ! 【感想】

2018-10-06 08:00:00 | 映画


眼福と心福の映画。「オールキャスト、アジア人」というラベルをとっぱらっても傑作。
笑いながら泣かせる、ハリウッドの王道ラブコメ映画だが、知られざるアジア人事情に着目したストーリーが新鮮。「バナナ」である中国系アメリカ人と、中国系アジア人の壁、そして、名門と一般人の壁に立ち向かう1組のカップルの奮闘劇は、純度の高いラブロマンスでもあった。浮かれ騒ぐシンデレラ・ストーリーとは違う。主人公は自立した人であり、目の前にある富には目もくれず、まっすぐに突き進む。最初から最後まで互いを想い合う恋愛感情がブレないのがいい。主人公の2人だけでなく、それぞれの役割に徹する個性豊かなキャラクターたちも秀逸。ラストシーンの伏線回収がニクくて思わず涙した。大アタリな映画。

「スーパーリッチ」を越えた「クレイジーリッチ」。その資産規模は王族並みという規格外の大金持ちがいる。彼氏の実家が「クレイジーリッチ」と知らずして付き合っていた女子が、その実家のシンガポールに赴き、様々な騒動にもまれるという話。

アメリカでのヒットが話題になっていた本作。客層の4割がアジア人という情報を聞いて「どうせ、滅多に劇場に足を運ばないアジア系の人たちが、こぞって観にいっただけだろう」と完全にナメていた。深く反省。久々に素晴らしい出来栄えのラブコメ映画。この映画、アジア人じゃないと成立しないだけで、おそらく人種に関係なく誰が見ても面白いと思う。

ニューヨークに住む中国からの移民2世の女子と、故郷のシンガポールから離れニューヨークで仕事をしている男子のカップル。女子は若くして大学で教べんをとっている。自らの努力と情熱で勝ち取った大学教授という輝かしいステータスだ。外見はまあまあ、小柄でスタイルも良いとはいえない。モデルのような長身ハンサムガイの彼氏は、彼女の内面にも惚れ込んでいるのがわかる。そんな彼氏が親友の結婚式のため、故郷のシンガポールに帰る折、彼女を一緒に連れて行く。目的はもう1つ、彼女を家族に紹介するためだ。

彼氏も1人で自活している身であり、お金には無頓着。行きの飛行機がファーストクラスだったことで、実家が金持ちであることが彼女にバレる。身分を隠していたというより、明かす必要が今までなかったのだろう。「実家が金持ちというだけ、資産は僕のものじゃない」とあっさり。2人にとって「クレイジーリッチ」であることは重要じゃない。

ところが、彼らの周りがそうはさせない。彼氏は富豪一家のド真ん中の御曹司。彼氏を狙う女子たちがわんさかいて、2人を待ち構える。「バーチェラー」な争奪戦を予想するが、2人は幸せになりたいだけで、愛の力でどうにでもなる障害。最大の関門は、彼氏の実家。大陸から移り住み、シンガポールのジャングルを開拓し、財を成した華僑の一族だ。自らの力で夢を掴むことを美学とするアメリカ人に対して、自ら築いた財産を一族に残すことを美学とする華僑。同じ肌の色のアジア人だが、生まれ育った環境によって価値観がまるで違う。

立ちはだかるのは彼氏の母親であり、一族の実質的なトップ。一般人&アメリカ人である彼女を受け入れようとしない。注視するのは、その母親の存在が本作における悪者ではないということ。一族に嫁いだ経験から、多くのしがらみを背負い、彼女自身も多くの辛酸をなめてきた。一族の血脈を守ることの重大さを知っていて、息子の将来の幸せを思えば、彼女との関係を絶つことが最良の選択と信じている。母親演じるミシェル・ヨーのエレガントな凄みと説得力。「自由」と「家柄」、肯定すべき2つの価値観が共存する。主人公の女子はそれでも彼氏との将来のために戦う。

一族の多くが、その資産で人生を満喫する一方、主人公の彼氏と同様、地に足をつけて生活する従兄弟の女子が登場する。主人公らと平行して描かれる、その彼女のドラマがとても興味深い。セレブ女子として自身の役割を演じながら、家ではその気配をできるだけ消し去り、一般人である夫に尽くす。夫に余計な気を遣わせない思いやりからだ。この彼女と夫の夫婦関係が、主人公らと対照的に位置づけられる。「持てる」者の不幸があまりにも切ない。

シンガポールの活況(屋台メシ!)、東洋の伝統と近代性が融合する文化、ゴージャスでまばゆい衣装と美術の数々と、目に飛び込むものすべてが楽しい。世界のどこかに確かに存在するであろう、非日常的な世界に酔いしれながら、2人のラブロマンスに魅せられる。主役の2人があまりにも素敵でずっと見とれてしまった。恋愛映画のアジア人俳優にこれほど魅了されたのは初めてかもしれない。ほか、主人公2人の良き理解者である親友など、脇役の存在も効いている。

相容れない価値観の壁を突破する、主人公女子の捨て身の決断。すべては愛のためだ。結末は、わかっていても感動させられる。ハッピーエンド以外、考えられないジャンルの難題を軽々とクリア。お見事です。

【80点】

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クワイエット・プレイス 【感想】

2018-10-03 08:00:00 | 映画


聞きしに勝る面白さ。
「音出しNG」のアイデア勝負に終わらず、練りに練られた脚本と演出に引き込まれる。音を効果的に操るホラー映画の原始系でありながら、音そのものを恐怖にしてしまう進化系。静寂の劇場はもう1つの「クワイエット・プレイス」であり、スクリーンの世界と境界がなくなる。圧倒的な臨場感だ。クリーチャーの特性、聴覚障害者を加えた設定、サバイバルアイテムと生き抜く知恵、物語の展開を生み出すあらゆる要素が綺麗に配置され、ゲーム映画としてもかなりの完成度。かつ、ここまで本作に没入できるのは、血の通った家族のドラマがベースに描かれてこそ。子どもたちを守ろうとする父性と母性に感情移入してしまう。散見される理解できない発想をツッコむよりも、賞賛に値する映画だ。

地球に衝突した隕石から、エイリアンなクリーチャーが地球に侵入。音を発する人間たちを襲うようになった世界で、生き抜く1つの家族を描く。

物語の背景は、劇中、映し出される過去の新聞記事や、人間たちが書き残したメモ書きのみで、説明描写は極力省かれる。声を潜める家族の現在進行形の姿と、思わぬ冒頭の悲劇で、コトの状況が静かに、そして雄弁に語られる。冒頭段階で傑作の予感。

クリーチャーが人間を襲う動機も、容易に察することができる。「盲目」「音に反応」「硬い外皮」という3つの特性があり、特に尋常ならざる聴覚の鋭さが強調され、その描写から彼らには音の存在が「不快」と捉えられるようだ。「捕食」ではなく「消す」ために音を発した生物を襲うようだ。蚊を見つけたら、迷わず叩きつぶす人間の行為と似ている。

その音を消すために、遠路はるばる人間を襲いに来るのだが、このあたり動機はまったく重要ではない。襲われる人間には悪気はないが、この不条理さがホラーの原理だったりするので。

「硬い外皮」によって反撃が敵わない相手だ。とりあえず見つからぬよう、音を出さないことしかできない。そんななか、音を発するあらゆる要素を排除する術を、主人公ら家族たちは心得ている。当たり前に生活している日常がいかに音で溢れているかを再認識すると共に、彼らの創意工夫に「なるほど~」と関心が止まらない。パンフ情報によると、私生活のパートナーでもある主演の2人が、日常生活のなかでシミュレーションをして見つけたアイデアが盛り込まれているらしい。また、家族は声を発してコミュニケーションをとれないため、手話でコミュニケーションをとる。元々、家族には耳が聞こえない長女がいて、手話を使うことには慣れている様子。この聴覚障害を持つ長女が展開の大きな鍵を握る。

音を認識できないのは、致命的な弱点だ。音を発したのち、恐怖が忍び寄る音も察知することができない。ところが、この弱点が幸にも不幸にも振れるのが面白い。父親が長女に対して、何かと目を向けるのも当然だが、一方の長女は父親のケアを煩わしく思ったりしている。長女には些細な優しさから悲劇を引き起こした過去の自責の念もあり、父親がかける愛情を素直に受けられない。

ありもしない絶望的な設定だが、描かれるのは普遍的な家族のドラマだ。夫と妻の変わらぬ夫婦愛、強固な親と子の絆、子どもたちの成長。命の危機に晒される状況下で、家族の力が試される局面が大きなスリルと共に押し寄せる。父親演じるジョン・クラシンスキーのカッコよさよ。一家の大黒柱として、常に賢明な判断を下しながら、危機に陥れば身を呈して家族を守ろうとする。娘とのわだかまりが解消されないなか、子どもたちを守るために下した決断に胸を打たれた。そして、娘への愛情の象徴だったアイテムの使い方に唸った。

劇中、違和感を感じる点はいくつかある。母親の妊娠問題は最たるもので、家族を守る親として無責任だなと。出産がスリルの源泉になることは確かなので、この事態が始まる前から妊娠の兆候があったなど、設定に補強が欲しかったところ。また「とうもろこし」のクダリなど過剰な演出も目立つ場面もある(そんな埋まらないから)。確かにツッコミどころはあれど、それ以上に映画の面白さが勝ってしまう。モノ言わぬキャラクターに代わり、ホラーを代弁する音楽の使い方も秀逸。

劇場鑑賞の特異性を活かした映画でもある。「ゼロ・グラビティ」が「闇」で劇場を宇宙にしたのに対して、本作は「静寂」で劇場と一体化した。「まだこんな手があったのか」と、今思い返しても感心する。

脚本家兼監督として才能を開花させたジョン・クラシンスキーの今後の活躍にも注目だ。

【75点】

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