から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

人生スイッチ 【感想】

2015-07-28 09:00:00 | 映画


めちゃくちゃ面白い。オムニバス映画の傑作であり、コメディ映画の傑作。展開が全く読めず、観る者の予想を鮮やかに裏切り続け疾走する本作は、「ジェットコースタームービー」に相応しい。しかも、話のオチはもれなく痛快。人生って喜劇から逃れられないのだ。もう絶品。

海外での評価(高評価)に対して、日本の映画ファンの評価が低すぎるのに少々驚くが、残念なのは作品ではなく、日本の配給会社のナビゲートではないか。「人生スイッチ」という邦題はミスリードであり、「爆笑」という謳い文句は、安易な笑いを期待させるため不適当(個人的には大いに笑わせていただきましたが)。

6つの独立した物語を順々に描く典型的なオムニバスだ。このタイプの映画だと「どの話が良かった」などと、優劣を付けてしまうのが常だが、どのエピソードも違った味わいがあって漏れなく面白い。というか、1つ1つのエピソードに対して考察したくなるほど、それぞれが高い完成度を誇る。単純にして濃密。脚本の構成に隙がなく、演出は大胆不敵。毎話毎話「なるほど、そうくるのね」と唸りっぱなしだった。

共通の1人の男性に接点を持った飛行機の乗客たち、閑古鳥の泣くダイナーで恨みを持つ男性に再会したウェイトレス、運転中追い越した車の運転手に罵声を浴びせた男、理不尽な駐禁レッカー移動にブチギレした爆破解体職人、息子が起こしたひき逃げ事件から免れようとする大金持ちの男、結婚式で夫の浮気を確信してしまった花嫁ー。

描かれるのは、感情のコントロールを失った人たちの顛末である。邦題の「スイッチ(を押す)」という選択の話ではない。あれよあれよという間に転がり落ちていき、状況が二転三転していく。善と悪、登場人物たちのパワーバランスが入れ替わっていく展開が秀逸。状況にブチ切れてしまった人間を描いた映画は過去にも幾多あるが、この点において本作は一線を画す。ときにシュールに見える画も、不条理ではなく、ちゃんとした論理の上に成立しているのが素晴らしい。

6つの物語に分断されていながら、この映画に疾走感があるのは、理性というブレーキを外した人間たちの生き様で貫かれているからだろう。アルゼンチン映画ということで、ラテンな人たちの気性やアルゼンチンのお国柄が反映されているものの、彼らの導火線に火をつけてしまう感情の変化は、とても身近なものに感じる。一見、寓話的なエピソードも、社会の中で真っ当に生きる一般人が引き起こす「事件」として全然ありそうな話だ。

物語の語り口は終始辛口。それが最高に可笑しく、自分は爆笑。「他人の不幸は密の味」と、悲劇のなかで見えてしまう喜劇を余すことなく掬い取る。ただし、登場人物たちを単純に笑い者にしているというわけではない。「あーこのまま終わってしまったら気持ち悪いな」という予想を覆し、ハッピーエンドとは言えないながらも、スカッとしたオチをつけるあたりは、どこか人生を愛を持って楽観視しているように見える。

本作は、昨年のアカデミー賞で外国語映画賞の候補作となった。ブラックコメディというジャンルの映画が、ノミネートされることは珍しい。各エピソードの喜劇のなかに、それぞれのテーマの核心が明確に打ち出されている点が評価されたのではないか。他者との関わりなくして成立しない社会と個人のあり方、人生の機微までに昇華したドラマだと評したい。

【80点】

インサイド・ヘッド 【感想】

2015-07-24 09:00:00 | 映画


大好きなピクサー映画が帰ってきた。傑作。
観る者のイマジネーションを凌駕する脚本と演出はピクサー映画の真骨頂。誰が観てもわかりやすいのに、物語の真意はとても深い。そして予想だにしないエモーショナルな展開に思わず感涙。これがピクサーなのだ。

物語の主人公は「ヨロコビ」「イカリ」「ムカムカ」「ビビリ」「カナシミ」の5つの感情たちだ。彼らの宿主、少女ライリーの生誕から感情の芽生えと共に、ライリーの脳内にある「司令室」に登場する。彼らの存在はライリーにとって守護天使のようなもので、彼女を幸せにするために日々奔走する。幸せに一番近い感情「ヨロコビ」がリーダー的な存在であり、他4人の感情たちを統率する。「ここはどうすべきか」「ここは私の出番だ」と議論を交わしながら、ライリーが最善の選択をするように導いていく。

家族や友人との対人関係のなかで、ヨロコビだけでなく、他の感情たちが力を発揮するシーンも多く、その駆け引きがコミカルで楽しい。しかし、その中で唯一お荷物な感情がある。それは、カナシミだ。カナシミが何かしでかすと、事態は悪転するばかりだ。カナシミもライリーの幸せを想っているのだが、どうしようもない。ヨロコビがカナシミをライリーから遠ざけようとするのは必然だ。そんな中、ある日事件が起きる。司令室での事故により、ヨロコビとカナシミが司令室の外に放り出されてしまうのだ。ここから物語は、両極の個性を持つヨロコビとカナシミによる壮大な冒険活劇に変わる。ヨロコビとカナシミが指令室からいなくなったライリーの感情は崩れ始める。一刻も早く司令室に戻らなければならない。

彼らが放り出され、冒険の舞台となる記憶の世界の作り込みが見事だ。人が成長し、個性を育む糧となるのは「思い出」だ。その思い出は、そのときの感情と共にあり、記憶として大量にストックされている。その記憶を封じ込めた玉が感情の色とともに堆く積まれており、そのカラフルでポップな背景が目に鮮やかで楽しい。また、ライリーの個性を形成する「おふざけの島」や「友情の島」、ライリーの脳内にある「夢工場」「潜在意識の世界」「想像の世界」など、様々なゾーンがまるでテーマパークのように点在していて、彼らの行く手で様々なイベントを起こす。その1つ1つが抜群のユーモアをもって描かれていると共に、俯瞰して観ると、それらが実際の心理行動として科学的に計算されたものであることに気づき、驚かされる。「なるほど~そう描くのか~」と感心しきり。

5つの感情たち、そして、彼らのほかに記憶の世界で出会うキャラクターの設定が素晴らしい。とりわけ物語の中心となる、ヨロコビとカナシミが愛すべきキャラとして作られているのが大きい。常に前向きでハイテンションなヨロコビのマシンガントークに、画面を縦横無尽に走り回る活発さと、常に後ろ向きですぐに思い悩み、自責の念のあまりすぐに行動が停滞してしまうカナシミとの、コンビネーションが最高に可笑しい。個々の個性が魅力的であるばかりでなく、それらが有機的に繋がり合い、リアルなライリーの生き様に呼応しながら、物語の展開を動かす歯車になっているのが凄い。アニメーションの可能性を最大限に活かし、比類なき想像力をもって、クライマックスへのボルテージを一気上げるダイナミズムにも圧倒された。この映画の完成度を観る限り、全盛期のピクサー映画のレベルに戻ったと断言できる。

ブーイングすることが多い、ディズニー映画の声優のタレント起用には珍しく、本作でヨロコビとカナシミを演じた、竹内結子と大竹しのぶの好演が素晴らしい。ズングリとした体型のカナシミが可愛いので、フィギュアが発売されたら速攻購入したい。

物語のハイライトは、お荷物とされたカナシミの本当の役割が明らかになるプロセスだろう。このシークエンスも確かに素晴らしいのだが、それ以上に胸に刺さったのは、記憶の「忘却」である。多くの思い出と感情たちによって今の自分がいるわけのだが、知らぬうちに置き去りにし、消去している自分がいることに気づく。それは当時の自分にとっての大切な宝物だったはずだ。劇中、ヨロコビたちが絶体絶命に危機に瀕し、その脱出のためにとられた決断を目撃し、過去の多く思い出たちが一気に蘇ってきた。そして知らぬうちに頬が濡れていた。

監督は「モンスターズ・インク」と「カールじいさん~」のピート・ドクター。両作で感じた描き方の特徴が本作でも良く出ており、素晴らしい傑作に仕上がった。本作をもってすれば「カールじいさん~」以来の、アニメ映画としてオスカー作品賞候補も十分ありえるのではないかと思う。

【90点】

最後に、本編にはまったく関係ないのだが、本作の主題歌だという、ドリカムのPVを冒頭に流すのは全くセンスがない。本作の艶消しもいいところで、そこで流れる映像も本作のテーマに無関係であり、ただただ気恥ずかしく(気持ち悪く)、ずっと目を伏せていた。

リアル鬼ごっこ 【感想】

2015-07-19 09:00:00 | 映画


「何の話やねん!(笑)」と吉本芸人バリにツッコむのか、舞い落ちる羽毛からバタフライエフェクトな話と考察するのか。。。どっちが正解かといえば、後者の理解は無理なので、迷わず答えは前者だろう。

園子温、本作でエログロを復活させる。
だが、彼のエログロ描写だけでは関心しない自分にとっては、かなり物足りない映画だった。園子温映画のピークは「ヒミズ」まで。昨今、オファーを断らず量産するのは良いが、いい加減、あの頃の映画作りに戻ってくれないかな・・・。

「リアル鬼ごっこ」というタイトルだが、その中身は原作とはまったく脈略のない話だ。監督自身、原作を読んでないし、映画シリーズも観ていないのだから、当然なのだが、そのタイト ルをつけることに原作者からクレームはなかったのだろうか?そもそも「鬼ごっこ」な話でもありません(笑)。女子高生たちを駆除するというCMも嘘っぱちだ。

主な登場キャラは女子高生だ。最後の一部のシークエンスを除き、画面はすべて女子たちで埋め尽くされる。その女子たちが突然、目に見えない「風」によって肉体をバサーッと、真っ二つにされる。舞い上がる血しぶきと残された肉片。主人公の女子高生は命からがらその殺戮現場を逃れる。その道中で寄った川辺でも、女子高生たちの死体の山が積まれている。その女子高生たちの姿をみると、無駄に上着がはだけている。。。最後にたどり着いた女子高(「私立女子高等学校」(笑))では、そこに通う女子生徒たちのスカートの丈が短い。いや、丈の短さ以上に、スカートの腰位置を異常に上げているのが気になる。パンツが見えるのは必至となる。ドラマ「みんなエスパーだよ」で味をしめたか、「ダメだよ、もっとパンツが見えるくらいにスカート位置を上げなきゃ」という、AV男優っぽい園子温の女優たちへの卑猥な注文が聞こえてくるようだ。男性のみの視点。この映画、完全に女性層をターゲットから除外している。

いくつもの理解不能なパラレルワールドがシームレスにつながり、その場でその場で、女子たちの女子たちによる女子たちへの殺戮&バトルが繰り広げられる。その描写の動機らしきものも全く描かれない。おかげで展開がまったく予想できないのだが、見終わって結局どのシーンも同じだったな、と思えてしまう。残酷かつシュールな映像の連打。一応、そのネタばらしが最後に明かされるが、とうてい納得できるものではなく、監督本人もそこに深い意味をもたせていない。描きたいのは、エロとグロなのだ。うーむ、退屈。

映画の味気なさのなかに、主人公演じたトリンドル玲奈の予想外の熱演が光る。彼女のパンチラはさすがに事務所からNGが出たようであるが、そのトレードオフともいえる描写が用意されている。ただ、ここもどうでも良い。恐怖に慄き、血まみれになりながら必死の形相で逃げ惑う彼女の姿は「熱演」という表現が相応しい。走るシーンも非常に多く、棒キレのように細く、筋肉を持たない彼女の脚力では、体力的負担は大きかったと思う。他の篠田麻里子、真野恵里菜はトリンドル玲奈の添え物程度の扱いで気の毒。期待の女優として個人的に注目していた高橋メアリージュンも端役過ぎて勿体ない。

しかし、本作で思わぬ収穫があった。主人公の親友役を演じた桜井ユキの存在だ。綺麗で妖艶にも見える口元が最高にチャーミングだ。演技の巧さという点においてはトリンドル玲奈を完全に食っている。彼女のWikiも立ち上がっていないほど、女優としてのキャリアは少ないようだが、今年に入って、連チャンで園子温が彼女をキャスティングしているとのこと。お願いだ、パンチラ映画ではなく、女優としての真価を問うような映画で彼女の才能を開眼させてほしい。今後、彼女は要注目だ。

後半で登場する斉藤工の使い方は非常に面白かった。ムチ ムチツルツルのボディに白のブーメランパンツ。「男優か!」とタカトシばりにツッコんで、1人爆笑するのだった。

【60点】

バケモノの子 【感想】

2015-07-18 10:23:02 | 映画


2つの孤独が出会い、共鳴し、強く成長する。師弟関係から始まる人間とバケモノの絆と、2人の成長の行方を追ったアクションファンタジー。
細田映画、4打席連続ヒットとはならなかったものの、ジブリなきジャパニメーションの後継は、スタジオ地図であることを再認識する。これまでの過去作以上に娯楽性を強く感じる内容だったが、細田監督の作家性が良くも悪くも作用した感じも。

物語は、大きく前半と後半で分かれる。主人公「九太」の少年期と青年期だ。少年期は面白いが、青年期はややダレる。
行き場をなくした孤独な少年が、人間社会の裏にあるバケモノたちが住む「渋天街」に迷い込む。人間社会で1人でも生きていく強さを身に着けるため、九太は渋天街に定住する ことを選び、「熊鉄」というバケモノに弟子入りする。渋天街はジブリ映画の「千と千尋~」を彷彿とさせるが、多国籍の都市風景をハイブリットしたような本作の世界はまた異なる味わいだ。現実社会の渋谷の風景もそうだが、そのディテール描写が素晴らしい。

少年が目指す「強くなること」とは、シンプルに腕っ節が強くなることから始まる。師匠の熊鉄もライバルとの決戦に向けた修行を積むうえで、弟子の九太の存在が不可欠になる。弟子が強くなり、師匠も強くなる、ベストキッドの発展系といえそうだ。おそらくタイトルの「バケモノの子」とあるように、本作のテーマとして、2人の師弟愛から親子愛への発展と見るのが自然なのだと思うが、その割に2人の関係、特に九太側がドライ過ぎるのが気になる。9歳から17歳という8年間を共に過ごしたにも関わらず、人間界に戻ることを、葛藤のないままあっさりと決めてしまうのを見ると、修行だけの付き合いというビジネスな関係に映る。以降もそれ以上の発展、あるいは、2人の表層には出ない絆を感じさせることもないため、熊鉄が最後に選んだ決断についても感動を覚えることが難しい。

青年期における九太の人間社会とバケモノ世界の2足ワラジが、容易に描かれるのもどうか。夢か幻、パラレルワールドとして、渋天街、バカモノたちを描いているのではなく、現実社会と地続きで、行き来が自由な隣国として位置づけられる。それってアリなのか!?
青年になった九太が現実社会と再び交わることで、物語の情報が増える。人間社会へ の順応、将来への不安、実家族との再会、初めての恋、など、描かれる内容は至って自然でリアルなのだが、ファンタジーとしてシンプルだった前半(少年期)の流れからだと、停滞感を感じざると得ない。現実社会における九太の心象描写は丁寧であり「さすが細田監督」と思えるのだけれど、「渋天街」あっての本作にあって、逆に足かせになってしまった。

青年期の違和感に輪をかけるのが。染谷将太のキャスティングだ。青年になった九太の第一声を聞いて愕然とする。キャラクターの輪郭と、染谷将太のこもった声が完全に離れているのだ。演技が巧いのと、キャラに命を吹き込む声優起用はまったく別物。タレントを多く起用するアニメーション監督のなかで、外さないセンスを発揮し続けてい た細田監督。本作でも、役所広司、宮崎あおい、大泉洋(ドハマリ!)、リリー・フランキー、広瀬すずなどの他のタレント起用は完全にハマっていた。実に勿体ない。熊鉄のライバル「猪王山」が最高にカッコいいのは山路和弘のキャスティングによるところが大きく、プロの声優に任せれば間違いないことを証明する。本作をきっかけに細田映画のタレント起用が、ジブリ化しないことを強く望む。

渋谷~代々木を舞台にしたクライマックスはなかなかの迫力。その発端の経緯がイマイチなのはさておき、小説「白鯨」から派生したダイナミックな映像は幻想的で美しい。その圧巻の完成度から、本作で一気に国民的な映像作家に駆け上がろうとする細田監督の野心みたいなものを感じたりするのだ。期待を下回ったものの、完全オリジナルでここまでのストーリーを描けるのはやはり凄い。また次回作に期待してます。

【65点】

イントゥ・ザ・ウッズ 【感想】

2015-07-18 08:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。
アベンジャーズのおとぎ話版。誰もが知るおとぎ話の主人公たちを森の中で一同に出会わせ、新たな物語を共に紡いでいく。それぞれの主人公たちのエッセンスを掻い摘んでいるだけなので、細部まで描かれることはないが、新たな解釈をもって巧く構築された話だと思う。但し、物語の展開を含めて、ストーリー自体はそんなに面白いものではない。一番の被害者はどう考えても「巨人」なのだが、それに相反する気の毒な結末は本作のブラックユーモアか。あまり共感できないけれど。。。
原作はブロードウェイミュージカルとのこと。ミュージカル映画は嫌いじゃないが、本作については不思議なほど熱をもって観られない。ありとあらゆるセリフを歌唱することに、どこまで意味があるのだろうと思う。映画「レミゼ」でも感じたものが蘇る。その多くが合唱ではなく、独唱によるものだった点も大きい。終盤の「責任のなすりつけあい」でようやくテンションが上がる。豪華俳優が競演するなか、赤ずきんを演じたリラ・クロフォードがキュート。その歌唱力と、ユーモアを手玉にとった表現力に魅了された。

【60点】

ターミネーター: 新起動/ジェニシス【感想】

2015-07-17 09:00:00 | 映画


ターミネーターシリーズの傑作は、生みの親ジェームズ・キャメロンが手がけた「1」か「2」のいずれかであることは明らかだ。「1」を初めて観た時の恐怖、「2」を初めて観たときの衝撃を今でも鮮明に覚えている。映像技術が進んだ現在においても、その感動が色褪せないのは、その優れた プロットと、確固たる世界観にある。シュワちゃん演じるターミネーターの人間離れした肉体とクールで底知れない個性が中心にあり、スリリングなチェイシング劇が繰り広げられる。

「3」と「4」がイマイチだったのは、そこから冒険したものの、巧く着地できなかった点にあると思う。5作目となる本作は、「1」と「2」の 流れに再び戻ったものであり、その点においてはジェームズ・キャメロンがレコメンドするのは何となくわかる。しかし、ジェームズ・キャメロンが本作について「(心底)面白い!」と太鼓判を押したかどうかは甚だ怪しい。

オリジナルに新風を吹き込んだというより、「セルフパロディ」に近いのではないか。1と2へのオマージュをしっかりと描いたのち、そのオリジナルをいじくり倒している。いっそ、B級作品として狙いにいってくれれば良かった。

老齢となってカムバックを果たしたシュワちゃんは、サラ・コナーを我が娘のように愛でる。我が娘の写真を貼っているクダリはなんなんだ?サラ・コナーもシュワちゃんを「オジさん」と呼び、我が父のように慕う。人間とターミネーター の絆を描くのは悪くないが、緊張感のない、甘ったるさだけを残す描き方にはガッカリだ。海外ドラマGOTで存在感を示した、サラ・コナー演じるエミリア・クラークは、大男たちの中にあってその華奢な体形が浮いたように目立つ。守りたい娘キャラにはピッタリだが、運命に抗うタフなキャラとしては完全にミスマッチで魅力的ではない。クールでガチな映画を期待していたのだが肩透かし。

そして、タイムスリップの破綻が許容できない。多くの荒業により時間軸はどうでも良くなる(笑)。後半になるにつれ、その言い訳とばかりに多くの情報を詰め込むが、話がややこしくなるし、結局どうにでもなってしまうという設定は変わらない。スカイネットの起動までのタイムリミットが、本作のスリルの醸成に繋がるはずなのに、おかげでまったく機能しないではないか。タイムスリップした時代で、なぜか場所がピッタリ特定されるあたりは典型的なご都合主義。まーそのくらいは良いか。。。

本作のラスボスとなる、新型のターミネーターは強い。よって、旧型のターミネーターとのバトルは白熱したものになる。当然ながら、これまでのシリーズで登場したターミネーターを上回る強さでないと盛り上がらない。が、その戦闘能力はもはや行き着くところまで行ってしまった感じだ。アメリカ本国では興行的にコケてしまったので、おそらく本作の続編が作られることはないだろう。もし続編が製作されるのであれば、戦闘能力のアップだけではつまらない気がする。

CGで再現された青年期のシュワちゃんのクオリティは極めて高い。ツッコミどころは満載だが、アクションシーンのスケールも大きく、ビジュアル面では一定の満足を与えてくれる。

今年の映画は、本作に限らずリブートものが多い。ハリウッドの企画力のネタ切れを感じながらも、「マッドマックス」のような大傑作も生み出されるわけだから侮れない。「マッドマックス」のジョージ・ミラーのように、本作シリーズもジェームズ・キャメロンによってリブートされたらどうなってただろう、と想いを巡らす。

【60点】

アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン 【感想】

2015-07-10 10:00:00 | 映画


待ちに待った「アベンジャーズ」の続編「エイジ・オブ・ウルトロン」。
前評判で見受けられた失望感に期待感がすっかり薄れていたが、その懸念を一蹴してくれた。いろいろと言いたいことはあるけれど、それでもやっぱり面白い!さすがジョス・ウェドン。どうしても自分はマーベル映画が好きなのです。

全員が主人公、全員が異なる世界観を持ったヒーローたちを1つの映画にまとめしまった前作。改めて振り返ると、「アベンジャーズ」は奇跡の所業だったと思う。その前作の達成から、もう一段階先に向かうために必要とされたのは「深堀」と「変化」。その引き金となるのが、アベンジャーズに新たに加わる新キャラだ。現時点におけるアベンジャーズ の中心的なリーダーはアイアンマンこと、トニー・スタークであることは間違いないが、本作では「正しいと思ったことは何でもやる」という彼の性質が、結果的に本作の敵(ウルトロン)を生み出すことになる。自業自得なお話という見方もできるが、それ以上に本作が果たす役割は大きい。それはスタークのリーダーとしての資質が問われ、世代交代による変化を予感させる。また、彼の行動に火をつけた事件は他メンバーの個性を深堀することに繋がる。次作への伏線も散りばめられており、結果、よく出来た脚本だと思えた。これだけの話題作だ、どれだけ考え抜いたことだろう。

アクションはどうか。
前作の突き抜けた痛快さと比べると、迫力不足は否めな い。前作ではバラバラだったヒーローたちが一丸となり「アベンジャーズ」が覚醒、その後、一気に怒涛のアクションに雪崩込む。それぞれの強みを活かした連携プレーをもって、大小様々な敵たちを蹴散らした。後半にバトルシーンを集約したのも大きかった。
それと比べると本作は、見所となるアクションシーンが分散しているので、それだけに観ている側の熱量も分散される(「あのシーンが自分は好きだ」と話し合えるのは楽しいが)。最大の見せ場はラストの全面対決だが、登場人物が多くなった分、「今あいつは何をやっているのか(ここで一緒に戦えば良いのに)」と壮絶な戦いの最中なのに、余白を感じてしまう。ウルトロン軍団の造形や攻撃パターンも単調なのも、アクションシーンの広がりに足かせになったか。「前作と比べると~」は避けられないのが、それでもテンションが上がる。「サーカス団」とウルトロンに揶揄されるが、前作以上にパワーアップした連携プレーは笑えてしまうものも含めて楽しいし、ファンのツボを心得たキャラごとの決め技がバシバシと見事に決まり気持ちよい。一番アツくなったのは3人によるビーム光線(笑)。「ジョス・ウェドン、わかってるなー」と何度も唸った。

制作費は2.5億ドル(それでもあっちゅう間に回収、凄い!!)。その多くがキャストのギャラに費やされたのではないかと思うほど出演陣が豪華。端役に至るまで主役級の俳優たちが揃い、やや勿体ない気もしたが、彼らがこの後のマーベル映画に出てくるような匂いもプンプン。いやはや何とも壮大で逞しい「マーベルユニバース」。 新たにアベンジャーズに加わったエリザベス・オルセンがナイスキャスティングだ。アメコミの女子キャラはグラマラスなほど映える。既存メンバーのスカーレット・ヨハンソンもそうであるように、エリザベス・オルセンの肉感ぶりが素晴らしい(勿論演技力もあり)。彼女の色気が今後どう活かされるのかが楽しみだ。

本作の賛否が分かれる1つの要因として「情報量過多」が指摘されるが、自分も本作の内容を十分に理解できなかった。インプットする情報が多いため、理解が追いつかないし、展開にすんなりついていけい。情報が密集し整理されないまま、最後は力技でケリをつける、そんな粗さも目立った。物語のスピードを殺さず次作に繋げるためには、これ以上の描き方はできなかったのかもしれない。とはいえ、個人的にはもっと情報を省いても良かったのかなと。これまでのマーベル映画を予習しないとわからない、強気の構成には驚かされた。

次作への期待を膨らむが、いろいろと言いたいことがある。以下独り言。
ハルクがいなくなるのは大幅なパワーダウンだし、絶対に嫌だ。ソーも同じ。ホークアイはお疲れ様。ウォーマシンはいらない(アイアンマンと同じじゃん)。ファルコンはまあよい。ヴィジョンはもっと出来るはず(大きく期待)。アイアンマンは華としてやっぱり必要。キャプテン・アメリカ、このままいくと戦闘レベルが半端なくなるな。いずれにせよ、サノスと戦うためにはまだまだ戦力不足。3作目のキャプテンアメリカで強力メンバーが加わることを求む。。。。な どなど、
本作を見たせいで話は尽きない。おそらくマーベルファンによって議論が白熱しそう。これが「マーベルユニバース」の魅力であり、本作の術中にハマった表れである。週明け、同じく本作を鑑賞した会社の同僚と「あーだこーだ」と大いに盛り上がった。

今週発表された日本での公開2日間で稼いだ興収はナント8億近くだ。洋画実写としては、3Dで沸いた2010年の「アリス・イン・ワンダーランド」以来の超絶ヒット。洋画ファン、マーベルファンとしては何とも嬉しいニュースだ。(その影で「マッドマックス」のスクリーン数が減らされたが。。。)

【75点】

アリスのままで 【感想】

2015-07-10 09:00:00 | 映画


「過去の記憶が消えてしまう悲劇」。アルツハイマー病等の認知症を扱った映画は少なくない。家族愛、恋愛、友情など、人間同士の絆が試される機会を描くことで、共感性の高いドラマに仕上げることが可能だ。しかし、そういった映画が多いだけに「既視感」と捉えられやすいのも事実で、「どうしてこの映画を撮ったのか」という動機に対して、新たな視点を欲してしまう。

本作の主人公「アリス」が患うのは、若年性アルツハイマー病だ。名門コロンビア大学で教鞭をとり、各地で講演活動を行うほどの優秀な言語学者である彼女が、記憶とともに人生を捧げてきた言語を失っていく。それは自身の肉片を剥がされていくような痛みを伴う。早くに家族を失い 、大変な苦労を経て今の幸せを築いた彼女を想えば、その悲しみを想像することは容易だ。本作では運命に抗い苦悩するアリスの姿というより、運命を受けいれ、残された記憶を精一杯活かそうとする姿が印象として残る。大きな展開の変化は望まず、静かな筆致で、アリスが記憶を失っていく過程を細やかに、そしてリアリティたっぷりに描いていく。背景をぼやかし、記憶が失われる感覚を観る側にも体験させるカメラワークもユニークだ。

難病に冒されたアリスを受け止めるのは、強い絆で結ばれた家族だ。次女を除き、家族全員がインテリな職業に就いている。良き理解者であり、一途な愛で彼女を支える夫と、アリスたちの愛情を受け立派に成長した3人の子供たちで構成される。その家族の中で、舞台役者を目指し、わが道を行く次女の「リディア」と、アリスの関係性が際立つ。2人の間に合った溝がアリスの発病をきっかけに埋まっていく過程と、リディアが最後にとった決断に感動を覚える。

この映画を観た理由は、アリスを演じたジュリアン・ムーアのオスカー受賞によるもの。彼女の熱演なしでは語れない映画ではあるものの、もともと抜群に演技が巧い人だ。本作のような良い脚本、良い演出家に巡り合えれば、当然のパフォーマンスと思えた。俳優にとってのオスカー受賞は特別な体験であってほしいので、「一世一代」「千載一遇」といった作品で受賞してほしかったかも。その意味では「ゴーン・ガール」のロザムンド・パイクを推したかった。そのジュリアン・ム ーアよりも、本作で印象に残ったのは、リディアを演じたクリスティン・スチュアート。彼女の自然体の好演がかなり効いている。こんな良い女優さんだったけ!?と感心した。

本作のテーマはアリスとその家族のあり方に重心を置いているようだけど、理解ある家族のなかで「良い話」で終わってしまったという味気なさもある。過去の記憶への回帰も少々わかりにくかった。個人的には、言語学者が言葉を失うという運命のいたずらをもう少し掘り下げてみせてほしかった。

【65点】

嗤う分身 【感想】

2015-07-10 08:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。
自分と全く同じ人間が目の前にいるのに、周りに全く理解されず、人格の違いだけで、別の人間として認知されてしまう世界。そこで主人公はもう1人の分身に、人生をのっとられる。悲劇であり喜劇。「なぜにどうして」という論理を無視した不条理な物語が展開し、主人公の姿をどう受け止めるかは観る人次第といったところか。思考力の足りない自分は、表層以上の深読みが進まない。しかし、それでも面白い。電車、会社、団地(?)という限られた密室空間で起きる出来事はほの暗い照明に照らされ、その陰鬱さが目に焼きつく。場所も時間もわからず、まるで夢の中を彷徨っているような感覚だ。脈略のない日本の歌謡曲が挿入され混迷に拍車をかける。その世界で踊らされるのがジェシー・アイゼンバーグだ。何をやっても冴えない主人公と、キレキレのやり手の分身を鮮やかに演じる。たまらなく愉快。これを観るだけでも楽しい。監督はリチャード・アイオアディ、「サブマリン」に続き、本作でその作家性が見えてきたか。

【65点】

2015年上半期 ベスト映画TOP5

2015-07-08 09:00:00 | 勝手に映画ランキング


早くも2015年の折り返し。2015年の上半期で見た映画のなかで、トップ5を勝手に決めてみる。
対象は今年上半期に劇場で観た24本。

1位 マッドマックス 怒りのデス・ロード
2位 バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)
3位 セッション
4位 イミテーション・ゲーム
5位 シェフ 三ツ星フードトラック始めました

近年稀にみる洋画の大当たり年で、上位3タイトルについては、例年であればどれも年間ベスト級の映画。それぞれ2回以上観てます。。。

そのなかでも、やはり「マッドマックス~」については、ちょっと突き抜けた位置づけ。
失神するほどの映像美と至高の芸術性に感涙。「映画」の可能性を広げてしまった歴史的事件に近い傑作。現状、限られた映画ファンのカルトムービーになってしまっているのが残念。
「バードマン~」は、人生を物語と捉え、想像と現実の世界をシームレスに繋げてしまった奇跡の映画。「セッション」は、狂気と芸術の表裏から誕生した「怪物」を目の当たりにして恍惚の域に達した。今年の夏は、続編・リブート映画だらけだけど、今から非常に楽しみだ。