から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

三度目の殺人 【感想】

2017-09-30 09:00:00 | 映画


質感はミステリーだが、真実探しに本作の焦点はない。全能ではない人間が同じ人間を裁く司法制度において「利害の調整」の場となった裁判の実態をみる。しかし、このあたりのテーマは他の映像作品で織り込み済みなのであまり興味は湧かず。見どころは、真実に目を向けてこなかった主人公の弁護士と、主人公に変化をもたらす殺人容疑者との接見室での探り合いだ。福山雅治はやっぱり福山雅治なのが惜しいw。容疑者を演じた役所広司はさすがの妙演、底知れない闇を感じさせる。本作において真実のありかは重要ではないことは理解できるが、どうしてもモヤモヤしたものが残る。

殺人を自白した容疑者と、その容疑者の弁護士の交流を描く。

主人公ら弁護士たちを振り回すのは、二転三転する容疑者の供述だ。真実や正義よりも裁判に勝つことだけに注力する主人公にとっては、非常に扱いずらいクライアントといえる。容疑者の供述からは有力な情報が得られないと判断し、その事件の真相を探るなかで、知られざる背景と容疑者の底なしの闇に触れ、主人公は初めて真実を知りたいと欲するようになる。

本作のベースにあるのが現代社会における裁判のあり方だ。裁判に臨む主人公の志向は極端であるものの、結論を出す裁判長も「仕事」として請け負っており、裁判の速やかな運営が自身の利益になることがわかっている。裁判所が真実を明らかにする場ではないことは、先日見た、海外ドラマ「OJシンプソン事件」で強く認識させられたので、改まって感じることはなかった。アメリカでも日本でも裁判運営の価値観は基本的に変わらないことがわかった。

そのシステムの、いわば犠牲ともいえる顛末である。司法の闇を描いた社会派映画である一方、濃密な人間ドラマである点も見逃せない。思い出したのは「羊たちの沈黙」。サイコ博士「レクター」に翻弄される「クラリス」の構図に本作もあてはまる。容疑者と対峙し、真実を覗きにいった当事者が、逆に自身の内面をえぐられ、開眼させられるのだ。弁護士と容疑者、2人の間に流れる空気が緊迫感を帯び、物語の行方から目が離せなくなる。

楽しみにしていた是枝監督と役所広司の初コラボ。正直なところ、是枝映画の持ち味は本作においては希薄に感じるため(是枝作品というタグがなければわかならない)、その相性の良さは判断しかねた。とはいえ、さすがの役所広司だ。本作のつかみどころのない役柄を見事に演じ切っており、本作の引力は間違いなく彼のパフォーマンスにあり。一方の福山雅治は、セリフの第一声から最後まで「福山雅治」であり、見ていて想像の範囲を超えてこない(本作もモノマネの対象になりそう)。もっと違う役者をキャスティングしたほうが面白かったかも。

真実は完全に観客側に委ねられる。本作の狙いは真実にないのはわかっているが、ストーリーの運びが謎解きのような構成になっているため、いささか置いてきぼりを食らう。まったくの新境地に挑んだ是枝監督であるが、従来のホームドラマや新たなキャスト起用にこそ、監督の演出能力が活きるように思った。

【65点】

2017年夏公開映画 BEST/WORST

2017-09-30 08:31:50 | 映画


もう9月も終わりで、今さらであるが、今年の夏公開映画を振り返ってみる。

「パイレーツ~」のロケットスタートで幕が上がったものの、以降、8月末まで際立ったヒット作が出なかった。当然、昨年大ヒットした「君の名は」を補てんするだけの興行にはならず、洋画だけでなく邦画も盛り上がらなかった(「怪盗グル―~」は相変わらずの強さだが)。「パイレーツ~」「怪盗グル―~」を除き、興行的に目立った結果を残したのは「銀魂」だ。30億を超えるヒットとなり、その製作規模を考えれば大成功といえそう。外資でありながら邦画製作を続けたきたワーナーの苦労がようやく報われた格好だ。一番ヒットすると思われた「メアリと魔女の花」はようやく30億を超えたあたりでストップ。「ポストジブリ」として期待を寄せていた東宝からすれば大きな肩すかしだったと思われる。日本の映画ファンの目は意外とシビアだった。

興行結果はさておき、個人的には面白い映画が多かった。
2017年夏公開映画のベストとワーストを決めてみる。

ベスト映画 :「ベイビードライバー」
ワースト映画:「メアリと魔女の花」

最初から最後まで「熱」が下がらなかった「ベイビードライバー」、最初から最後まで失望感に打ちのめされた「メアリと魔女の花」。

洋画を中心に今年の夏公開映画は大当たりフィーバーが続いた。特に8月11日から公開された「スパイダーマン ホームカミング」を皮切りに、「ベイビードライバー」、「ワンダーウーマン」、「Elle エル」、「新感染」と、毎週ペースで公開された期待作が、ことごとく面白かった。これほど続いたのは稀なこと。やっぱり今年は洋画の豊作年だと実感する。年末にかけても「猿の惑星:聖戦記」「バリー・シール」「ブレードランナー 2049」「ゲット・アウト」「IT イット」「ノクターナル・アニマルズ」(やっとか)、「マイティ・ソー バトルロイヤル」「クボ 二本の弦の秘密」「ギフテッド」「スター・ウォーズ 最後のジェダイ」など、えげつないほどに期待作が続く。

一方、邦画のなかでは「ジョジョの奇妙な冒険」が想定外に面白ったのが印象に残った。だけど、やっぱり今年の邦画は不作の予感。見に行く予定だった「打ち上げ花火~」と「関ヶ原」は、観た知人の酷評によって見るのをやめた。ネットの評判も良くないようだ。9月に入っても注目作が続いたが「奥田民夫になりたい~」「ユリゴコロ」など、悪評を聞いてスルーが続いた。期待値の高かった「三度目の殺人」もイマイチだったしな。来月公開の「アウトレイジ 最終章」は、確実に見に行く予定なので、面白い映画になっていてほしい。

ダンケルク 【感想】

2017-09-15 08:00:00 | 映画


描かれるのは生死の岐路に立たされる人たちだ。自らの手で生をつかみ取る者、他者によって生を与えられる者、生に固執しながらも命を奪われる者、それらの運命がまるでロシアンルーレットのように決められる残酷さ。セリフは最小限に残され、生き抜くことに懸ける人間たちの息遣いに近づく。そんななか、音楽が展開の代弁者となる。やや音楽が語りすぎなきらいもあるが、映画音楽の効力を改めて再認識させられる。海上でのサバイバルを通して、水に押し潰される恐怖が観る者に浸食し、広角で捉えた空撮映像は、観る者を空中に放り込む。絶え間ない緊張感と臨場感。監督のクリストファー・ノーランは体感を超えた体験を目指す。

第二次世界大戦中、フランスの北部のダンケルクでドイツ軍に包囲された、アメリカとフランスの連合軍が救出される様を描く。

この映画を知るまで「ダンケルク」という言葉を聞いたことがなかった。その後、戦時中に連合軍とドイツ軍が戦った地名であることがわかったが、日本の歴史教育では触れることのない史実と思われる。監督は、あのクリストファー・ノーランだ。彼の「新作」というだけでなく、初の「実話モノ」「戦争映画」というフレコミが興味をさらにかきたてた。見た結果、確かにそのとおりの映画であったが、史実を知らせてくれたことに意義を感じる映画が多いなか、本作の印象は大きく異なった。

映画は、連合軍が窮地に至った背景を冒頭の字幕説明だけで済ます。まだ表情にあどけなさの残る主人公の青年に密着し、命からがら海岸に逃げ込む様子を映し出す。ダンケルクの舞台は広い浜辺だ。波も穏やかなため、普段なら海水浴場としても賑わいそうである。追いつめられた連合軍はイギリス軍とフランス軍で40万人になる。どこまでも続く浜辺に追い詰められた兵士たちが無数に集まっている。壮観なスケール。嘘じゃないリアルな風景。ジャンルは変わっても、これぞノーラン映画と実感する。

連合軍の状況は絶望的だ。平坦な浜辺に逃げ場などなく、ドイツ軍に対抗するだけの武器ももたない丸腰状態だ。ドイツ軍が求めるのは降伏。すなわち捕虜として捕えることだ。逃げることを目指す連合運に対して、ドイツ軍は空から揺さぶりをかける。戦闘機から爆弾を投げ込まれても爆撃を受けても、その場に伏せるだけという無防備さ。爆弾が当たるかどうかは運次第だ。一寸先に死の恐怖が横たわるなか、取り乱す者はおらず、爆弾を投下されても彼らの反応は思いのほか静かだ。このダンケルクにいる限り、どうすることもできないとわかっている。一方的な状況で、敵と味方で互いを傷つけあう戦争ではない。

40万人という数の連合軍だ。そして、海峡を挟んでイギリスがすぐ傍にある。自国民を有するイギリスが救出にあたるのは必然的な流れだが、ドイツ軍が押していた状況下でイギリス本国への侵攻をにらみ、政府は兵力を温存するという決断に至る。その代わりに徴用されたのが民間船である。その多くが遊覧船や漁船などで武器をもたない船だったようで、それを運航するのも持ち主の民間人だ。どこまでが史実通りかわからないが、非武装の民間人を戦地に追いやるようなその作戦は乱暴で無謀そのものである。本作の着地は、そんな作戦が民間人の協力によってなされ、多くの人命を救った奇跡として描かれる。

英国人であるノーランが、その知られざる美談を知らしめたかった、という見方もできるが、その奇跡に至るまでのプロセスは説明不足で釈然としない。当初「民間の救出では不足」と悲観的に算段していた状況がどこで好転したのかが省かれているからだ。史実を解説することに本作はこだわっていないとも思える。大パノラマで捉えるショットが多いなか、作戦の全体観はさほど捉えられない。焦点をあてるのは登場人物の個人であり、カメラもその間際からほとんど離れない。スクリーンを通して目撃する観客と同じ高さの視点ともいえ、それによってもたらされるのは臨場感だ。

視点は大きく3つに分かれる。冒頭から登場する、ダンケルクの陸地から逃げようとする主人公と、海から救出に向かうイギリスの民間人一行、そして空からドイツ軍の敵機を撃墜する空軍の男だ。面白いのは、3つの場面で流れる時間のスピードがそれぞれで異なることだ。同じ作戦下でも、それぞれの状況によって時間の比重が異なるわけで、その人にとって人生を変える時間が1時間であれば、ある人にとってみれば1週間かもしれないのだ。その構図を知るまでに頭をフル回転させる。そして、その構図に気付き、3つの時間が1つの終着点にたどりついた瞬間、唸らされた。

物語のあらすじは非常にシンプル。主人公はいかにしてダンケルクから脱出するか、海からの救出一行はいかにして兵士を救うか、空軍の男はいかにして敵の戦闘機を撃墜するか。その過程のなかで、それぞれが命がけの局面にさらされる。「生き抜け」という日本版の映画のキャッチコピーをそのまま思い浮かべる。ノーランはこの3つの状況下に観客を引きずりこむことに注力する。リアルで固めたシーンは生々しいスリルを生み出す。余計なセリフは排除され、音楽によって展開を語る。観客の想像力を高めるのに効果的な演出である一方で、鳴りやまない音楽が、先んじて展開の変化を知らせてしまうのはいささかもったいない気がした。また「チクタク」という時間を刻むような旋律も、物語上、タイムリミットの必要性が感じられないので違和感を感じた。(時間に追われるのは空軍のパートくらい!?)

昨年の「レヴェナント」以来の、IMAX2Dでの観賞。それに相応しい圧巻の映像体験だった。史実映画という側面だけでなく、シンプルにスリラー映画として楽しめる娯楽性も、アメリカで大ヒットしている要因に思える。個人的には、救出に尽力した民間人のヒロイズムにあまりドラマは感じられず(その事実自体は凄いことだが)、船内で起こった不幸な事件の「救い」についても「ただ不運だっただけ」と感動することもなかった。さすがに「ノーランの最高傑作」はこれではないと思うが、ノーランが新たなジャンルに挑み、興行、評価の両面で見事な成功を収めたことで、今後のノーラン映画の広がりがますます楽しみになった。

【70点】

新感染 ファイナル・エクスプレス 【感想】

2017-09-09 08:00:00 | 映画


昨年、お隣の韓国で最もヒットした映画は、ゾンビ映画の形をしたヒューマンドラマだった。変わる男と変わらない男、2人の父性に感涙。生死を分けるサバイバルの中で試される人間の真価。「自分だったらどうする?」と終始、揺さぶりをかけられる。ゴア描写を避け、ドラマに比重を置いたのが成功要因。大きなスクリーンで堪能するパニック映画としても大変な完成度。ゾンビ映画史に名を刻む1本。舞台となる列車の特性、形状を生かした脚本も巧い。主演のコン・ユが素晴らしく、また1つ彼の代表作が生まれた。

韓国の釜山行きの特急列車に乗った親子が、ゾンビ大量発生のパンデミックに襲われるという話。

B級感たっぷりな邦題とは裏腹に、欧米の賞賛をかっさらった韓国映画。個人的には、今年の夏公開映画のなかの大本命に位置づけていた。そして、その前評判に違わぬ秀作だった。

公開初日、疎らな客席の中、自分の後方に座っていた若い女子グループのリアクションが凄かった。「キャー!」という悲鳴、「ウゥ。。。」という泣きの嗚咽、家で見てんのか!という賑やかさだったけど、映画に熱中している雰囲気が新鮮で楽しかった。

本作の主人公はファンドマネージャーの中間管理職の男で、自身あるいは会社の利益最優先で仕事に励んでいる。そのスタイルは私生活にも及んでいて、離婚して幼い1人娘を引き取るものの、あくまで仕事優先で自分の母親に子育てを任せているようだ。そんな父親よりも、母親に会いたい子どもは、母親の住む釜山に向かおうとし、主人公は仕方なく連れていくことになる。釜山までは特急列車に乗れば、半日で戻ってこれる距離らしく、主人公は娘を母親に送り届けたのち、普通に仕事に戻る予定だった。しかし、列車に乗ったのち、思いもよらなかった地獄旅行がスタートすることになる。

当たり前の日常が、知らぬうちに崩壊していく描写がが恐ろしくて素晴らしい。「ゾンビ」いう概念がない現実世界で、突然「ゾンビ」という得体の知れない怪物を投下した想定を丁寧に描き取っている。登場人物からは「これって映画やドラマで見た『ゾンビ』じゃないの?」みたいな発想も排除し、未知の脅威に晒される人間たちのリアクションに終始する。その一方、ゾンビのお馴染のルールはそのまま活かされており、ゾンビは生きた人間の肉体を求め、襲われ傷口から感染すればゾンビに変化させられ、増殖する。また、本作では過去作「28日後」で開発された「走る」ゾンビが採用されているのがポイントで、追われる人間側の恐怖とリスクを拡大させている。

事前に予告編を見たところ、列車内で起きる事態かと思っていたが、韓国全土でゾンビが発生する事態として描かれている。列車の外からもゾンビの襲来を受けるのだ。列車は外部から攻撃を受けずに安全な地へ向かうことのできる「ノアの方舟」的な役割も果たしている。しかしながら、時速何百キロというスピードで進む方舟は、逃げ場のない密室であることも確かで、結果、中にいても外にいても危険という状況だ。しかも、前と後にしか進むことのできない列車内の空間が絶望感に輪をかける。ドアを開けることを知らないゾンビは一両一両ごとに仕切られていて、列車内を無事に移動するためには、そのステージを毎回クリアしなければならない。車窓から見えるロケーションが変わるという空間設定も対ゾンビの戦術に生かされている。テレビゲーム的な要素も加わっていてとても面白い。

本作で登場するキャラクターは大きく4つのグループに分かれる。主人公とその娘、お腹を大きくした妊娠中の奥さんがいる夫婦、遠征で移動中の高校球児たち、2人のお婆ちゃん姉妹だ。特に前者の2つのパーティは序盤から大きく関わり、正反対の2人の男が展開を牽引することになる。ゾンビの脅威に直面し、自分と娘だけ助かればOKとする主人公と、妊娠中の奥さんはもとより周りの人間たちも救おうとする夫だ。インテリでズル賢い主人公に対して、粗野だが人情に厚く剛力の男という構図。当初、2人は衝突するが、剛力の男の生き様に感化された主人公は正義に目覚めることになり、愛するものを守る父親としても大きな変化を遂げる。その主人公の成長過程が説得力をもって描かれる。人間の価値は「誰のために生きたか」と、どこかで聞いたことがあるが、本作のテーマとそのまま重なった。

その一方で、同じ列車のなかで最後の最後まで、エゴに走る人たちもいる。劇場の反応や空気から察するに、完全な悪者扱いをされているようだが、実際に、自分たちがその状況にいざ置かれたら、自身の保身のために、救えるはずの人間を見殺しにする人がどれだけ出てくるだろう。ゾンビ化の原因もわからず、「感染症」というイメージだけ先行すれば、彼らがとった行動はむしろ自然といえるかもしれない。「このドアを開ければ、助けを求める人を助けられるかもしれない。しかし、自分が死ぬリスクも一気に高まる」、そんな極限の状況を目前に付きつけられ「自分だったら、どうするか」と思いを巡らす。人として正しくありたいと思う自分と、恐怖に逃げる自分が脳内でせめぎ合う。気付けば、劇中の世界に完全に埋没している。

パンデミックによるサバイバルを描く本作は、その設定として「ゾンビ」を使ったに過ぎないともいえる。しかし、ゾンビ映画だからできるアクションやドラマを本作は存分に魅せる。人間の全速力とほぼ同じスピードで走り、生身の人間と同じ筋力を持つゾンビが、集団芸で襲いかかる。その恐怖たるや。走るゾンビの「28日後」や、人柱になったゾンビの「ワールド・ウォーZ」など、それだけみれば既視感が先行するが、本作はそうならない。人間とゾンビの間に、移動する列車を置いたことが大きく、逃れることのできない絶望と、逃れることのできる希望が紙一重で同居する。また、誰が犠牲になるのか、まったく予想ができない展開となっており、先読みを難しくする脚本がスリルを増幅させる。愛する人がゾンビになることで派生する人間ドラマは「ウォーキングデッド」発だが(面白った頃が懐かしい)、エモーショナルな演出に長ける韓国映画らしく、しっかり泣かされてしまう。

序盤から、とてつもてない傑作になると予感するが、どうしても残念だったことが2つある。1つはお婆ちゃん姉妹が、他のグループに比べて描き込みが極端に薄いことだ。姉妹の2人とも、大きな騒動のきっかけを作るのだが、その動機がよくわからず、「意味分かんないんだけど」と、後方に座る女子の言葉に同調してしまった。もう1つは、終盤のシーンで、あんなに用心していたのにわざわざ口の前に手をもっていくかね?というツッコミで、その後、案の定の悲劇の展開になった。完全にもらいにいった感があって、イマイチ盛り上がることができなかった。こうしたファンタジーは、多少の引っかかりも気にせず楽しむのが常だが、この2点については展開の大きなターニングポイントに掛っていたので許容できなかった。ここまでの映画を撮れる監督なので、いくらでも隙をつぶすことができたと思われる。あー勿体ない。

主演は。男が惚れる韓国映画の至宝コン・ユだ。「トガニ」「サスペクト」ですっかり彼のファンになったが、本作でのパフォーマンスも素晴らしかった。誠実な役柄のイメージが強いが、本作ではのっけから自己チューのクズ人間から始まる。そんな男が、想像を絶する状況のなかで、人間としての良心や、子どもを持つ親として父性を取り戻す過程が感動的だ。そして、その主人公に大きな影響を与える役を演じる、マ・ドンソクも強烈な印象を残す。強面の大男。ヘラクレスの如き強さでゾンビども蹴散らす痛快さで映画を盛り上げ、妻と生まれてくる子どもへの愛に生きる男を熱演する。

韓国映画が本気を出すとこういう映画を作れてしまう。監督のヨン・サンホはアニメ出身の人らしいが、初の実写映画でいきなり満塁ホームランを打ってしまった。いろんな意味で現在の日本ではとうてい作れない映画と思えた。

【75点】


ゲーム・オブ・スローンズ 第七章 【感想】

2017-09-06 08:00:00 | 海外ドラマ


先週、スターチャンネルで最終回が放送されたゲーム・オブ・スローンズ(GOT)の第七章。
録画でイッキ見したので感想を残す。

シーズン最高傑作。
この展開をどれだけ待っていたことか。。。。
「ゲーム・オブ・スローンズ」を観るという幸福を噛みしめる。
壮大な旅路の果てに待ち受けた幾多の再会に心を揺さぶられる。

第七章は計7話で、これまでのシーズンのなかで最もエピソードの少ないシーズンだった。しかし、これほど1話ごとに熱中したシーズンはなかった。GOT版「アベンジャーズ」が実現。まさに副題の「氷と炎の歌」。そして、シーズン1からスターク家を応援してきた自分にとっては、むせび泣き(w)のシーズンだった。第一章を見返したくなるのは必至で、第七章のあとに第一章を観るとまた味わいが違って、GOTへの愛がいっそう深まった。

細切れに展開していたエピソードが大きく3つに集約した前章(第六章)。英雄「ジョン・スノウ」率いるスターク家、ドラゴンの母「デナーリス」率いるターガリエン家、爆破の一掃により女王の座を得た「サーセイ」率いるラニスター家である。

<以下、ネタバレあり>

第七章では、これらの3つの勢力がいよいよ1つの舞台で相まみえることになる。鳥肌。



ついに氷と炎が出会う。
これまで一度も交わることのなかった、スノウとデナーリスだ。2人とも民に選ばれた王であるが、野心の有無で異なる。スノウは自身が望んで王になったわけではなく、王の座に固執していない。一方、デナーリスは、自身がウェスタロスの王になることを強く望み、現王であるサーセイを打ち倒すことに執念する。華奢な体型のデナーリスであるが、ますます女王としての威厳と風格が出てきた。かつて「狂王」と恐れられた父を「悪人だった」と公然と言いのけ、自らは民の救済者であることを目指す。前章でティリオンを、自身の「王の手」に任命し、ティリオンの助言を受けながら正しい道を模索する。人としての良心を見失わないティリオンは相変わらずカッコいい。スノウの人間性を見抜いていたティリオンが、ラニスター家から王都奪還のために必要な同盟者として、スノウをデナーリスに引き合わせたのは必然だったといえる。そしてそれは苦難の旅を共にしたティリオンとスノウの再会でもあった。「ナイツウォッチの新兵だった男が北の王になるなんてな」「ラニスター家の手がターガリエン家の王の手になるなんてな」、2人が交わす言葉が感慨深い。まさに「長い旅路の果て」だ。その後の、デナーリスとスノウの初対面シーンには思わず鳥肌が立った。「ひざまずけ」というデナーリスに対して、まったく媚びないスノウだ。ドラゴンもスノウを勇者として認めているようだ。



デナーリスのもとには、既にグレイジョイ家のヤーラ、タイレル家のオレナ婆さんらが同盟関係として集まっている。このメンツが揃うのも凄いこと。グレイジョイ家のヤーラ姉が来るということは、その弟のシオンもついてくる。かつてスターク家で寝食を共にした、スノウとシオンも再会するのだ。スターク家の転落の一翼を担ったシオンに対して、スノウが激しい憎しみを持つのは当然のこと。再会して早々「サンサが死んでいたら、お前をこの場で殺していた」というスノウの言葉が重い。かつてスターク家に「居候」として住んでいた2人は、その後、正反対の人生を歩む。禁欲のナイツウォッチに入り、命をかけて、正義のため仲間のために一歩も引かず戦い抜いたスノウに対して、好色に耽け、人を裏切り、転落し、逃げ続けてきたシオンだ。運命のいたずらのようでもある2人の再会。シオンが進むべき道を模索するなか、スノウと真っ向から向き合う場面はシーズン屈指の名シーン。「お前はどちらかを選ぶ必要はない、グレイジョイ家であり、スターク家の人間だ」。スノウの言葉に震えた。その言葉についに目を覚ましたシオン、次のシーズンで死んじゃう予感がする。



そして、スターク家の面々。思えば、あまりにも悲惨な一家の離散。子どもだったそれぞれが辿る苛酷な長い長い旅路を経て、前章で再会を果たしたスノウとサンサのもとに、ブランとアリアが合流する。そりゃ泣くわ。しかし、ここで本ドラマのSっ気が発動。間違いなく感動の再会である。しかし、本ドラマは感傷に浸ることを許さず、けっこうドライな描き方に終始する。ファンとしては、彼らがまだ子どもだった頃の懐かしの回想シーンを入れてほしかったが、作り手としてはファンの想像力に委ねたかったのかもしれないし、過去を振り返る暇などない状況を強調したかったのかもしれない。そして何よりも、スターク家の子どもたちが想像もできなかったほど強く成長しているのだ。ただし、ブランについてはいささか文句アリ。「三つ目鴉になったから」で、彼のために弟を失い、命をかけてスターク家の連れてきたミーラに対してあんな冷淡な別れの挨拶はないだろう。人間の心まで失ってはいないはずだけど、急に変なキャラクターがついた印象。サンサとアリアという姉妹の再会も、そのまま仲良し子良しにはならず、2人の間に早々に不協和が生まれる。しかし、結末にホッとし、2人の成長した姿を再認識させる。さらば、ベイリッシュ。



そしてそして、本章の最大のハイライトは、ジョン・スノウ、デナーリス、サーセイといった、これまで別々のエピソードで主役としてドラマを引っ張ってきた3人の集合である。まさに夢の競演。その対談が実現するきっかけとなるのが、デナーリス軍による、ジェイミー(ラニスター家)軍への急襲だ。前章にも増して、デナーリスが従える3頭のドラゴンが巨大化し、圧倒的な戦闘力を見せつける。その攻撃の迫力がスゴい。ホント映画だ。「ドラゴンを持つ者が王になる」という言い伝えは、普通に現実的な話なのだと実感。しかし、ドラゴンの破壊によってもたらされる危うさも見逃さず、冷静なティリオンが向ける悲壮感が印象的だ。さすがGOT、スペクタクルに溺れない。



3者の集合により、彼らに従うキャラクターたちの間にも様々な再会劇が生まれる。これまでのシーズンを追いかけてきたファンにとってはどれもこれも堪らない。奇妙な絆で繋がっているティリオンとブロン、拭えない兄弟愛を持つジェイミーとティリオン、かつて命を奪い合ったブライエニーとハウンド、苦難を共に乗り越え友情が芽生えたジェイミーとブライエニー、ティリオンの命を救ったポドリック、アリアとホットパイ(癒される)。。。。人間は縁で繋がっている。

その他。
王都攻略のための出兵するワームとミッサンディがついに結ばれる。ミッサンディの豊満な肉体がまぶしく、眼福と官能のベッドシーン。。。。死の軍団を倒すための方法を探るため、知識の城に留学中のサムは、灰鱗病に感染したジョラーと出会い、看病をすることになる。ジョラーの父に恩義があるサムは必死の治療を施す。その「皮膚はぎ取り」治療は本シーズンで最も痛覚を刺激するシーン。しかも、それで治っちゃうんかい(爆笑)。ジョラーにとって命の恩人となったサム、治療後、2人は別れることになるが再び再会すると思われる。死の軍団を倒すヒントを見つけたサムは使い鴉でスノウに伝える。それを受け取るなり、疑うことなく「これは私が最も信頼する男からのメッセージだ」と変わらぬ絆の強さを示すスノウ。スノウとサムの友情の日々を思い返しウルウルする。愛する1人娘を殺されたサーセイは復讐を果たす。その内容が100倍返しでエグい。あんな地味に恐ろしい発想、よく思いつくな。。。



本章の最大のスリルである、スノウ一行&ドラゴンVS死者の軍団の戦いなど、夢にみたアクションが展開する。ホワイトウォーカーの力はかなり強大であり、事態の深刻さを印象付ける。最終話ではまさかまさかの事態に発展し(その展開にも納得)、「どうなるの!?」と固唾を呑むばかり。いやはや大変なことになった。。。最終章となる次の第八章では、とんでもないスケールになりそう。

今週入ったニュースによれば、次の章の放送は再来年2019年になるとのこと。あまりにも待たせるが、きっと伝説を作ってくれるに違いない。

【98点】

ゲーム・オブ・スローンズ 第六章 【感想】

ゲーム・オブ・スローンズ 第五章 【感想】

ゲーム・オブ・スローンズ 第四章 【感想】

ゲーム・オブ・スローンズ 第三章 【感想】






エル ELLE 【感想】

2017-09-03 15:00:00 | 映画


共感度ゼロ。だけど、激しく面白い。常識や倫理を突き抜けた怪作であり傑作。冷徹な表情の下に怪物を宿した女の復讐劇であり、ロクデナシどもの狂騒劇でもある。主人公ミシェルの強烈な個性に引き込まれた2時間。隙のないストーリーテリングに片時も目が離せない。変態系監督ポール・バーホーベンと、大女優イザベル・ユぺールとの科学反応が大きな破壊力を生んだ。

自宅で覆面の男にレイプされた中年女性が、その犯人を突き止めようとするサスペンス・スリラー。

冒頭、いきなりレイプシーンから始まる。相手は見ず知らずの男だ。普通の被害女性なら、かなりのショックを受けるはずだ。ところが、本作の主人公ミシェルは違う。しばらく放心状態になるが、その後、ムクっと立ち上がり、レイプ犯との攻防で壊された家財道具をささっと片づけ、お風呂でリフレッシュ。その後、何事もなかったように日常生活に戻る。警察に通報することもなく、事件直後に訪れた息子にも「自転車で転んだだけ」と顔にできた痛ましい傷を動揺することなく隠す。この女、タダ者ではない。

ミシェルはゲーム制作会社の社長で金持ちだ。会社での社長ぶりは豪腕で、彼女のやり方に反感を持っている社員もいる。制作するゲームはエログロなゲームで、彼女は暴力とセックス描写に生々しさを求める。プライベートでは、離婚経験ありの独身で、豪邸に猫と2人で住んでいる(猫映画としてもポイント高し)。39年前に彼女の身に起きた社会的事件が、彼女の人物形成に大きな影響を与えているようだ。強靭な精神力を持つ一方、性格は寛容で社交的。レイプ事件のあと、当然ながら防犯対策を徹底するが、レイプ犯に対する恐れよりも、レイプ犯への復讐をイメージしている。今度来たら、鈍器で顔がぐちゃぐちゃになるまで殴り倒すのだ。鮮血を浴びる彼女の顔は恍惚さを帯びている。

かなり特異なキャラクターの主人公であるが、ミシェルの周りの人間たちもなかなかである。元ドラッグの売人で半人前の1人息子、1人息子の若妻で違う男の名のタトゥーを入れている女、生まれてきた肌の色が違う赤ちゃん、若い女子と恋仲になる元夫、整形を繰り返し若い男を連れ込む母、その母の財産目当てで近づく男、親友の恋人でありながら、執拗に主人公の体を求めるハゲ男(それに応える主人公)。何かしらの欠陥を持つ、あるいは好色な人たちばかりだ。彼らが一同に会する場面で、空気を読むことなく明け透けなコミュニケーションをとる主人公に静かな迫力を感じる。平静な空気に危険な香りが充満する。主人公は破壊することを恐れない。

レイプという精神的肉体的なダメージに会いながらも、異性に対する性欲を欠かない主人公の姿は異様であり、共感できるものではない。主人公が抱く、隣人へのロマンスや、犯人探しの顛末も絶対にあり得ない話だ。物語の核心に迫る「アブーマルプレイ」に対しても興味はない。なのに強烈に引かれてしまう。

フランス産映画なのに余白を作らず、短いカットとめまぐるしく変わる展開、多くの伏線を張って予断を許さない作りだ。「氷の微笑」や「スターシップトゥルーパーズ」に象徴されるように、監督ポール・バーホーベンの変態性が、本作ではサスペンススリラーとして見応えのある完成度に結実している。テーマもジャンルも全く異なる映画だが、園子温の「冷たい熱帯魚」を見たときの興奮に似ており、ポール・バーホーベンと園子温に強いシンパシーを感じる。

ミシェル演じたイザベル・ユベールはフランスを代表する名女優であるが、まさかこんなキャラクターを演じるとは。。。おそらく彼女自身も全く理解できないキャラクターだったと想像するし、そのキャラを体現することは至難の業だったに違いない。外国語映画にも関わらず、今年のアカデミー賞で主演女優賞に候補入りしたのも納得できた。演技の巧さ、難易度だけで見れば、エマ・ストーンよりも受賞に相応しいかも。イザベル・ユベールの演技は本当に圧巻だった。

上映後、早々に席を立つ人も多かったので好き嫌いが大きく分かれそうな映画だ。自分はスリリングでアブノーマルな空気に晒され、非日常を大いに楽しんだ。

【80点】


ヒットマンズ・ボディーガード 【感想】

2017-09-03 08:00:00 | 映画


NETFLIXにて。
アメリカ側の情報で8月25日の配信と知ったけれど、日本のNETFLIXは同日配信の「デスノート」押しで、わざわざ検索しないと出てこない始末。完全に間違ってるわw。本作をもっと大々的に告知すべき。
大量殺人で起訴された独裁者を国際裁判で有罪とするため、そのカギを握る証人の男を凄腕のボディーガードが護送する話。証人の男は現在収監中の無敵のヒットマンであり、主人公のボディガードはそのヒットマンと宿敵の関係にあったという設定。このありそうでなかった面白い設定を、本作では生かし切る。会って早々、互いを知らされていなかった2人は殺し合いの喧嘩を始めるw。スマートな2人の駆け引き、軽妙な憎まれ口の応酬が楽しい。独裁者が放った暗殺者の攻撃の目をくぐりぬけて裁判所へと向かう道中、犬猿の中であった2人の間に不思議な友情が芽生えていく。ヒットマンの知られざる過去がドラマに厚みをもたせる。過去随所に描かれるアクションは痛快で、笑いとアクションのバランスもいい。アムステルダムの運河を舞台としたアクションシーンが大迫力で、3000万ドルという低予算で作られた映画とは思えない。ボディガード側にロマンスを盛り込みすぎて、スピード感を淀ましたのが難点。ロマンスはヒットマン側だけでよかったかも。ライアン・レイノルズとサミュエル・L・ジャクソンのコンビネーションは期待通りの面白さ。サミュエル・L・ジャクソンはやっぱりワルが似合う。

【65点】