から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

ローガン・ラッキー 【感想】

2017-11-28 08:00:00 | 映画


後味が気持ちのいい快作。種明かしの痛快さもさることながら、綺麗なハッピーエンドに胸がすく。
何かとアンラッキー続きのローガン兄弟による大金泥棒を描く。その方法はカーレースイベントの売上金を横からかすめとるというもので、誰も傷つけず、誰も脅かさず、「強奪」という言葉は似合わない。ソダーバーグの過去作「オーシャンズ」シリーズが「プロ」たちによる犯罪劇である一方、本作は素人による犯罪劇。綿密に立てた計画も当然のように巧くいかず、ラッキーとアンラッキーが交互に押し寄せ、笑いとスリルに転じていく。全編、オフビートなユーモアが散りばめられていて、一見、コーエン兄弟の映画を見ているようだ。主人公の兄は離婚と失職(クビ)という不運続きながら、かつては田舎町のアメフトスターだったという背景あり。栄光に焦がれるアメリカの国民性と、南部の貧困問題という暗部にさらりと触れているが、語り口は終始軽快でずっと見ていられる。
今やすっかり売れっ子となったチャニング・テイタムとアダム・ドライバーの兄弟役は新鮮で、アンラッキーな兄弟を楽しく演じている。しかし本作で一番目立つのは、「唯一のプロ」としてチームに加わる爆弾男を演じるダニエル・クレイグだ。「ボンド」の匂いを完全に消した久々の怪演で、映画を一気に賑やかす。兄弟のセクシー過ぎる妹に出会うなり、「見るなよ、見るなよ」とダチョウ倶楽部ばりのフリに爆笑する。
ごく一部(セス・マクファーレンw)を除き、登場人物全員がもれなくハッピーになるエンディング。楽しい映画だった。
【65点】
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KUBO/クボ 二本の弦の秘密 【感想】

2017-11-26 08:00:00 | 映画


祝日本公開。ストップモーションという制作労力を一旦無視しても、素材のリアルな質感を残したアニメーションの迫力に圧倒される。アクション描写も驚くほど躍動的で、ライカはどこまで進化するのだろう。
物語は三味線によって折り紙を自由に操ることのできる能力をもった少年の壮大な冒険を描く。旅のお供はサルとクワガタという変化球。本作はアメリカ人の手により日本のおとぎ話と神話が融合した世界が描かれるが、日本古来の文化・風景の再現は勿論のこと、侘び寂びを感じさせる日本特有の陰影が外れされることなく描かれている。本作を見た外国の人たちが日本を美しい国と思ってくれたら誇らしい。主人公のクボ少年が三味線を奏でるが、三味線の音色ってドラマチックなんだなと感じられ、その魅力に気づいた製作陣の感性はすごい。ライカの前作「パラノーマン~」同様、登場キャラクターが魅力的な個性を放っているのも特筆すべき点だ。「クレヨンしんちゃん」で馴染みの矢島晶子の好演も手伝い、優しく勇敢であるクボ少年は愛されキャラとして観客を映画の中に引き込む。ビジュアルに目を見張る一方で、脚本面はやや見劣るか。早々に明かされてしまうサルの正体には拍子抜ける。大きな冒険が展開するなか、直接的でミニマムな話に閉じてしまったのが個人的には物足りなかったが、これは好き嫌いの問題。他の制作スタジオにはない美学に徹し、無二の映像作品を創造するライカを今後も応援したい。
【65点】
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GODZILLA 怪獣惑星 【感想】

2017-11-26 07:00:00 | 映画


「シン・ゴジラ」が希望のゴジラ映画なら、こっちは絶望のゴジラ映画。そもそも本作において「ゴジラ」である必要はなさそうだが、本作のようなゴジラの使われ方も全然ありなのではないかと思う。ゴジラ云々の前に、まずは徹底して作り込まれた未来の世界観に唸らされる。膨大な科学情報と、緻密な背景設定。それらが2万年後の地球という想像も及ばない舞台の描写に説得力をもたせている。日本産映画でここまで練られたSF映画もないのではないか。「ゴジラは人間の尊厳を奪った」など、いちいち画になるセリフの応酬もアニメというフィルターを通せば違和感なく落ちてくる。昨今、アイドルとして扱われがりな人気声優を配しているようだが、彼らの人気が実力に裏付けられていることがわかり、アニメに命を吹き込むプロ声優たちの凄みを感じる。アクションシーンは綺麗なキャラクターデザインとは裏腹になかなかハードで見ごたえがある。ピンク色の噴射で飛ぶ空中バイクがかっこよく、ゴジラを前に滑空するシーンに高揚する。地球をゴジラの手から奪還するために仕掛けるクライマックスもよく考えられていて、ギリギリを攻める綱渡りな攻撃には手に汗握る。本作の「ゴジラは絶望的に強い」は正解で、人類が地球の支配者として奢った歴史への戒めとして存在する設定は過去の実写映画と変わらない。世界に打って出られるハイクオリティなジャパニメーションだが、本作の賛否は、ラストで真っ二つに割れそうだ。あれで1つの終幕であれば文句はないが、続編への持ち越しであればブーイングだ。
【65点】
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グッド・タイム 【感想】

2017-11-25 09:00:00 | 映画


警察に追われる男の行き当たりばったりな一夜を描く。ロッテンで評価が高かったので急遽見ることにしたが、かなり面白かった。何で「グッド・タイム(良い時間)」なんだろw。
ちょっと男前だが粗雑な兄と知能障害をもつ弟の2人兄弟。銀行強盗に入った兄弟はいとも簡単に現金を奪うことに成功するが、世の中そんなに甘くなく、あっという間に足がついて公開捜査のもと警察から追われることになる。まるで警察24時のドキュメンタリーを犯人の目線で見ている感覚に近く臨場感あり。主人公の兄は、すぐに捕まってしまった弟を救出するべく、町中を奔走することになる。無計画な主人公には、何度も予期せぬ事態が降りかかる。自らが招いた事態を切り抜け、状況に懲りずにそれでも攻め続ける男の様子が、展開を予想する観客を置き去りするように疾走感して描かれる。善良な市民にも迷惑をかけ、その場しのぎの行動を続ける主人公に感情移入ができないものの、不思議なほど引き付けられる。それは危機に直面した人間が発する火事場のクソ力にも似た強烈なエネルギーによるもの。渦中の人間にしか見えないゾーンがあって迷走に迷走を重ねてしまう。本人は常に最善の道を探そうとするも、外部から冷静にみる第三者(この映画でいえが観客)からすれば、「もっと考えろよ」と普通に愚かしく見えたりする。その構図がなんともオツだ。監督のサフディ兄弟の前作をまだ見ていないが、かなり自分のツボに入りそうだ。
主人公演じたロバート・パティンソンが素晴らしい。まだ若いが、間違いなく彼のキャリアベストといえ、演技派として本作で見事に開眼した模様。主人公のお財布役でもある年増のガールフレンド演じたジェニファー・ジェイソン・リーも「こういう人いるな。。」と思わせるイイ仕事ぶりだった。エンドロールの教室の風景は余分だったかな。
【70点】
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ノクターナル・アニマルズ 【感想】

2017-11-25 08:00:00 | 映画


「シングルマン」から8年、トム・フォードの新作を心待ちにしていた。遅すぎる日本公開もパッケージスルーにならなかっただけ良しとしたい。できるだけ事前情報をシャットアウトして観たが、前作と全く異なるアプローチの映画で驚かされた。

画廊を営むセレブ女子が、元夫から送られた小説を読み、心をかき乱されるという話。

美しいものを美しいと言う、トム・フォードの人生観に彩られた前作から一転、本作では血なまぐさいスリラーが展開する。冒頭からいきなり異様。脂肪の固まりのような病的に太った女性が全裸で踊る。どう反応していいかわからず、トム・フォード本人にどんな意味があったのか聞いてみたい。オープニングの衝撃度でいえば私的映画歴代屈指。

主人公の実生活と平行して描かれるのは暴力的な小説の中の復讐劇だ。主人公にとって全く共感性のないものに思われたが、読者として小説の中の復讐劇を追いかけるうちに、自身の秘められた感情が露わになっていく。

本作で印象づけられるのは「赤」だ。主人公の美しい赤色の髪、室内の壁紙の赤、そして、小説世界で幾度も登場する血の赤。思い返せば、本編が始まる前の配給会社「FOCUS」のクレジットもいつもの青色ではなく赤色だった(その赤色がとても美しい)。それは情熱の色であり、警戒の色でもあり、本作を象徴するような色だ。1ショット1ショットのフレーミングが1つの絵画のように見えるなど、ファッションデザイナーであるトム・フォードのヴィジュアルは本作でもスクリーンに映える。クラシカルな音楽の旋律も相変わらず美しい。

2つ物語に共通するのは、人生の選択に誤った人間の末路。主人公は元夫を捨て、新しい結婚生活を得たが、結果、夫は不倫に走り、満たされない日々を送る。小説のなかの主人公は、家族でドライブ中、タチの悪い輩にからまれ、悪夢のような悲劇に見舞われる。洗練された主人公の現実世界と、土埃と血でまみれる小説世界。この2つの異世界をつなげたトム・フォードに、語り手としてのセンスを感じる。

実力派キャストによるアンサンブルも大いに見モノだ。主人公演じるのはエイミー・アダムスだが、いい意味で人間くさいイメージが強かったので、トム・フォードとの相性にピンと来てなかったが、さすがだった。若き旬を過ぎた女の枯れた色気が立っていて強い存在感を放っていた。その脇を固める俳優陣はヨダレもののラインナップで、ジェイク・ギレンホール、マイケル・シャノン、アーロン・テイラー=ジョンソン、それぞれが生身の人間を体現した熱演を魅せる。個人的にはアーミー・ハマーもかなり好きなので、もうちょっと見せ場があっても良かった。彼の新作「Call Me by Your Name」に期待。

綺麗に転結した前作と比べると、ラストのあまりの「気配」のなさに物足りなさを感じたが、トム・フォードの映画はやっぱり素晴らしかった。2本じゃ足りない。これからもまだまだ観たい。

【70点】
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IT イット “それ”が見えたら、終わり。 【感想】

2017-11-21 08:00:00 | 映画


まさかの涙腺刺激。ホラー映画であると同時に、輝ける子ども時代を描きとった青春映画。個人的には後者の趣が強かった。舞台となる時代と登場キャラの年齢が自身の時代と合致していたため、ノスタルジーを強く感じてしまい、いつもよりも過剰に映画の中に入り込んでしまった。子どもたちの勇気と友情に何度も胸がアツくなる。「怖がらせ」のホラー映画としては不十分かもしれない。だが、それ以上に多くの魅力が詰まった映画。子どもたちと実は表裏にある怪物像が秀逸で、「イット」こと「ペニー・ワイズ」を生み出したスティーヴン・キングの天才ぶりを再認識する。自分が子どもの頃、怖かったものって何だろ??

公開初日に観た。この前の「アナベル~」と同じく、客層がいつもの洋画よりも明らかに若い。そしてみんな友達と連れだっているようだ。恐怖体験の共有といった感じだが、鑑賞中のリアクションは「アナベル~」と違っていた。それもそのはず。本作を「ホラー映画」とひとくくりにすることはできない。

原作は未読、オリジナル版の映画も観たことがないので、もともと面白い物語なのかもしれないが、本当によくできた映画だった。物語の概略は、子どもの失踪事件が多発する田舎町で、ピエロ型の悪魔(?)が子どもたちを脅かすという話。

ほぼ子どもたちしか出ていない映画なのに、R15指定。主人公の少年と彼の幼い弟に訪れる悲劇から幕をあけるが、子ども相手に容赦ないバイオレンス描写で驚く。天使のように可愛い幼児でも悪魔は容赦しないのだ。従来の映画で子どもに対する安全描写は、作り手の忖度ともいえる。本作は「子どもだから大丈夫」という幻想を冒頭から断ち切る。

ピエロ型の悪魔である「ペニー・ワイズ」は、子どもたちが日々感じている恐怖に化けて、取り憑き殺す。子どもたちが抱く恐怖の形は三者三様で、自宅の壁にかかっている不気味な絵画が怖いなど、子どもらしい他愛のないものから、深刻な家庭環境に起因するものまで様々だ。子どもたちの恐怖の形は、いわば子どもたちの個性とイコールといえる。本作では7人の仲良しグループが登場するが、それぞれの個性を惜しむことなく丁寧に取り上げていく。彼らは学校生活において陰に追いやられる負け組だ。そんな彼らが友情を育んでいく様子が瑞々しく描かれる。ホラー映画であることを片時忘れてしまう。

本作では大人たちがほとんど登場しない。正確にいえば、子どもたちの親が数人出てくるが、いずれも彼らの背景に留まり、物語の展開に直接的な影響を与えない。すべて、子どもたちの目からみた世界でまとめられている。その世界は、大人がみる世界の2倍大きくて、恐怖の対象も2倍怖いと感じるに違いない。彼らにはやっぱりいじめっこがいて、それが悪魔のように怖く描かれているのも、そんな発想から来ていると思えた。

つい、自分の子ども時代を思い返してしまう。周りの友達の個性が一番はっきり見えていたのは、本作の主人公たちくらいの年だったと思う。それぞれの性格、それぞれの家庭環境がもろに個性となって表れ、友達に対してそれまで気にしていなかったことが気になり始めた頃だ。ワケありな友達や、いらぬ風評が立っていた友達もいた。アメリカと日本と舞台はまるで違うも、彼らの人間関係に「わかるなー」と何度も共感してしまう。1人の女子をめぐって、すれ違うロマンスなんかも堪らなく思い出のツボを刺激する。自分が怖かったものを思い出した。テレビで放送していた「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」で心臓を抉り出すシーン。

そんな子どもたちを餌食にするのが本作の怪物「ペニー・ワイズ」だ。7人それぞれの恐怖に化けるが、そのホラー描写がバラエティ豊かで面白い。「それ」は子どもたちの恐怖から生まれている。その設定に気づいた彼らはペニー・ワイズに打ち勝つために、自身の内面にある恐怖と向き合う。とりわけ、主人公が抱える罪悪感から派生する恐怖や、紅一点のベバリーが抱える残酷な家庭問題は大きな勇気を伴わせるものだ。大小様々な恐怖への克服が描かれ、彼らの成長へと繋がっていく。俯瞰するとペニー・ワイズの存在が、子どもたちが大人へと成長するための通過儀礼のように見えてきたりする。

メタファーなキャラにも見えるペニー・ワイズだが、ホラーエンタメ映画としてクライマックスでは大いに展開を盛り上げる。畳み掛けるようなアクションシーンに圧倒される。ここでも「子どもらしい」妥協は排除される。負傷しながらも、子どもたちがヌルくないハードな一斉攻撃をペニー・ワイズに見舞う。ずっと応援モードだったが、さらにボルテージが上がってしまう。

本作の監督はアンディ・ムスキエティで、4年前の「MAMA」を撮った人だ。前作ではホラー映画を通して母性を描いたが、本作ではホラー映画を通して子どもたちの友情と成長を描く。本作で興行と評価の両面で成功を果たしたことで、今後大きな機会に恵まれると期待する。この間、最新シーズンを見終わったNETFLIXのドラマ「ストレンジャーシングス」とプロットは良く似ているが、本作のほうが断然完成度が高くて面白い。とにかく子どもたちがイイ。子どもたちメンバーのなかで牛乳瓶メガネで「おしゃべり」担当のリッチー役のフィン・ウルフハードは、「ストレンジャーシングス」の主人公のコだった。ドラマとは打って変わって脇役に徹しているのが新鮮。今後が楽しみな逸材だ。また、男子たちのマドンナとして登場するベバリー役のコも魅力的で、納得感のあるキャスティングだった。あの頃は、女の子のほうが大人っぽい。

描かれていたのは、子どもたちの一生忘れることのできない夏の日の記憶だった。それは恐怖の記憶であり、一生モノの友情を育んだ思い出の記憶でもあった。もう戻ることのできないあの日。。。清清しさと儚さを感じさせるラストが素晴らしく、余韻のあまり、なんだか泣けてきてしまった。彼らの大人になった後の続編は、いらないかな。これで終わりでよい。

【88点】
コメント (2)
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ブレードランナー 2049 【感想!】

2017-11-15 08:00:00 | 映画


SF映画の傑作が、続編によって生み出された奇跡をみる。

鑑賞2回目。1回目は衝撃を受けて圧倒されるばかりだったが、2回目でようやく全体像をのみこめた。オリジナルの世界観は洗練されていて、密度を保ちながらスケールアップ。オリジナルのテーマは掘り下げられ、より鮮明になっている。伝説的なオリジナルに対し、最大限の敬意を払いながらも、全く新しい映画として誕生させようとする熱量を隅々まで感じる。広大なスケールと、スタイリッシュでまばゆいビジュアル、架空にして実在感のある舞台、独創的なSF設定の数々、そして、1人のレプリカントを通して描かれる人間の生き様に震えた。感動は1回目よりも2回目のほうが大きかった。

1回目は2D、2回目はIMAX3Dで見ようと目論んでいたが、公開2週目にして早くもその座を「マイティソー~」に奪われてしまった。しかし、あとから考えると本作は2Dで見てこそ、その映像力を堪能できると思えた。それぞれのシーンの画が背景に至るまで緻密であり、3Dの奥行きによってボヤけてしまうのはもったいないからだ。

オリジナルの主人公はブレードランナーだった。しかし、描かれていたのは、人間によって生み出されたレプリカントだ。ブレードランナーは抵抗なきレプリカントを駆逐する汚れ仕事といえる。その後、30年後の本作によって、「ブレードランナー」の仕事を同類であるレプリカントに課している設定に、人間の業が透け、強い必然性を感じる。また、主人公をレプリカントに据えたことでオリジナルの持つテーマがストレートに打ち出される。

レプリカントは「人間もどき」であり、一見、一般の人間との区別がつかない。彼らは人間によって利用される運命のもと「生」を受けている。「魂」はないとされ、感情を持つことも許されない。感情の起伏は、過去に人類が経験した反乱へとつながりかねないからだ。旧型のレプリカントを処分する主人公の「K」も同様である。人間側の警察として働くが、レプリカントであることが変わりなく、常に監視の対象になっている。そして外に出れば人々の視線は常に冷たく、差別的な言葉を吐きかけられる

オリジナルでも描かれていたレプリカントの記憶。成人の形で生まれる彼らが予め脳内に埋め込まれているデータであるが、これが本作の大きな鍵となる。記憶は職人の手によって製造されていて(設定がユニークで面白い)、「レプリカントの未来は過酷、せめて安らげる過去を与えたい」というのが、職人のモチベーションだ。Kが処理した事件をきっかけに蘇るのが、彼の中の記憶であり、それも偽者の記憶のはずだった。

本作で明らかになるのが、前作でデッカードとレイチェルの逃避行の末に起こっていた知られざる真実だ。それは、人間とレプリカントの境界を揺るがすもの。その真実の在り処をめぐり、事件を捜査するブレードランナー(「K」)、その真実を利用して新たな支配を目指すレプリカントの製造会社、その真実によってレプリカントの解放を目指すレジスタント、3つの勢力が絡み合っていく。。。SF映画ながらミステリーとしての要素も強い。あのシンプルなオリジナルから、よくぞここまで壮大な物語を生み出せたものだ。続編映画としてこれほど完成度の高い映画を知らない。

レプリカントの宿命と、彼らのアイデンティティの探求が描かれる。それは偽者である彼らが、本物である人間に近づく過程にも重なる。「大義のための死は、何よりも人間らしい」と、新たに登場するレプリカントが主人公のKに説く。1回目の鑑賞時、ここでの大義をレプリカントにとっての大義と感じたため、本作のラストに尻切れ感をもった。しかし、2回目は違った。Kにとっての大義は別のものだったと感じた。孤独な人生に唯一安らぎの与えたAI「ジョイ」とのロマンスによって、愛というリアルな感情を知ったことは確かで、それはデッカードが真実を隠し続けた動機と繋がるものだった。自身にとっては儚い夢であったとしても、彼にとっては果たすべき大義と思えた。主人公Kのパーソナルな生き様に収束させたラストは完璧と思えるし、2回目にして熱いものがこみ上げてきた。美しい雪のラストシーンが瞼に焼きつく。

第2次のゴズリングイヤーが本作で有終の美を飾った。本作の主人公はハリソン・フォードではなく紛れもなく、ライアン・ゴズリングだった。2011年~2012年にかけて「ブルーバレンタイン」「ラブ・アゲイン」「ドライヴ」と、すっかり彼の大ファンになったが、5年の月日を経て、それと同じムーブメンドが再び訪れるとは。。。「ラ・ラ・ランド」「ナイスガイズ」そして本作「ブレードランナー 2049」と、役柄の振れ幅もさることながら、彼のパフォーマンスに魅了され続けた。やっぱりゴズリングは最高だ。

また、恋するAI「ジョイ」を演じたアナ・デ・アルマスや、恐怖のターミネーター「ラブ」を演じたシルヴィア・フークスという2人の女優の個性も本作の大きな引力になっていた。名の知れたハリウッド女優を起用するのではなく、映画の世界観を優先し(たぶん)、色がついていない2人を起用したキャスティングも成功要因だったと感じる。監督のドゥニ・ヴィルヌーヴは映画によって個人的に好き嫌いがあるが、本作に関してはぐうの音も出ないほど、素晴らしい映画を生み出してくれた。見終わって感動よりも感謝の思いが先立った。

文句なしの傑作。本作もまた後世に語り継がれるに違いない。ブレードランナーという無二の世界観を開拓した前作に対し、そこで築かれた地点から飛翔し、映像、音楽、脚本、演技と総合芸術の域に到達した本作。前作を超える映画といっても過言じゃないほど素晴らしかった。

【95点】

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マイティ・ソー バトルロイヤル 【感想】

2017-11-11 20:00:00 | 映画


盛大に打ち上がる花火。エンタメ度100%。観客を楽しませることに徹した娯楽作。MCUで語られてきた話の流れよりも自由度を採用。前後の細かい話はどうでもよくなってしまうほど豪華絢爛でパフフル。「マイティソー」シリーズとしては3作目にしてアッパレなホームランだ。アクションシーンにおける少年漫画的なカタルシスも堪らない。また、「ガーディアンズ~」との合流を控えるMCUにとって、その橋渡しをする役割を本作が担っていたようだ。主演のクリス・ヘムズワース、やっぱりコメディセンスが抜群。本作でもマーベルの思い切った監督起用が見事に成功。レッツエンジョイな映画。

マイティソーの3作目。アスガルドの存亡をかけ、主人公のソーと、死の神「ヘラ」との戦いを描く。ヘラはなんとソーの実姉で、父のオーディンがアスガルドを統治した知られざる経緯も明らかになる。

本作の邦題がリリースされた際、ファンからブーイングが殺到した副題の「バトルロイヤル」。見当違いの邦題のつけ方は今や珍しくなくなったが、本作はそのなかでも見苦しい部類に入る。おそらく、一番最初のトレーラーで公開されたソーとハルクの闘技場での戦いから思いついたものと想像するが、そのバトルシーンは本作の一片に過ぎない。「エイジオブウルトロン」でのアイアンマンVSハルクしかり、「シビルウォー」の仲間割れしかり、ストーリー上の必然性よりも、ヒーロー同士を戦わせることの新鮮さを狙ったアイデアが個人的に好きじゃない。その都度、新しい敵を作って、普通に戦わせればいいじゃないかと思う。但し、ヒーロー同士のアクション描写は普通に面白いけど。

本作で新たに登場するヘラは、MCUシリーズで登場してきた数多のヒールのなかでも最強と思えるほどの強さだ。ヘラがアベンジャーズに加わってくれたら、サノスといい勝負になるんじゃないかと想像する。演じるケイト・ブランシェットがさすがのカッコよさ。彼女の圧倒的な力を前に、「ラグナロク(=世紀の終末)」というテーマが説得力をもって掲げられる。その未曾有の危機をソーがいかにして食い止めるかが本作の最大のハイライトだ。なので、副題は原題の「ラグナロク」以外はない。副題のつけ方には文句ありだが、日本での公開をアメリカと同時でやってくれたことには感謝。

監督はタイカ・ワイティティ。 ニュージーランド作品ながら「シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア」と「ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル」で、欧米を中心に高い評価を受けた人だ。「ハント~」は日本ではパッケージ化もされていないので、Amazonビデオで視聴。毛色の違う2作品だったが、どちらも監督の笑いのセンスが光る映画だった。それもアメリカンコメディのドタバタ劇ではなく、脱力系かつ、空気のマで笑いを取りに行くのが得意。当然、中にはスベリもあり。そんな監督が、本作でイッキに大作映画デビューとなったが、彼の作家性はそのままにコメディ色の強い映画になっていた。

結果まんまとハマって、ほとんど笑いっぱなし。MCUメンバーの中でもコメディのイメージが薄いソーだけに、そのギャップから笑いに転じやすいアドバンテージはあったものの、違和感なく面白いキャラに変化していた。本作のソーは、これまでにないほど表情が豊かでユーモラス。演じるクリス・ヘムズワース、昨年の「ゴーストバスターズ」で感じた彼の真価がいよいよ証明された。本作で新たに登場する酒豪女子「ヴァルキリー」や、お馴染みのロキやハルク(バナー)との掛け合いもこれまで以上で軽快で絶好調。監督が演じていた岩男のコーグもナイスキャラで楽しい。

笑いだけでない。ソー=(イコール)ハンマーであるが、それほど象徴的なアイテムを冒頭から粉々にして使いなくさせるw。「まったく新しいマイティソーにするんでヨロシク」的な、ワイティティの挨拶と受け取ったら考えすぎか。ソーのハンマー使いが好きな自分にとっては残念な気もしたが、そんなファンの心情を思ってか、ハンマーが消える前に、ハンマーの力を存分に見せつけるアクションシーンを用意してくれる。その後、ハンマーなきソーは「雷神」として覚醒するが、中二的思考が強い自分は、スーパーサイヤ人的な展開に大興奮した。チームでの共闘シーンを含め、ド派手で、血わき肉おどる痛快アクションが連発する。レッド・ツェッペリンのあの曲の使い方、最高だ。

前作までに描かれていたソーとロキとの確執がリセットされていたり、ハルクがずっとハルクのままでいた理由がほったらかしだったり、ハルクが普通に会話していたりなど、MCUを追っかけていれば普通に違和感が残るシーンも多いが、それを忘れさせるほどの面白さだった。力でねじ伏せるような「豪腕」という表現が近いかもしれない。いやはやお見事。個人的にはMCUの17作品のなかでも5本の指に入るお気に入りとなった。「ガーディアンズ~」のジェームズ・ガンから始まった、実績よりも先見眼によるマーベル映画の監督起用は、もはや揺ぎない勝利の方程式になったか。唯一の難点は、映画自体の問題ではなく、トレーラーで面白いシーンを露出し過ぎている点。

本作の舞台を宇宙規模に広げ、カラフルな世界観に統一。振り返れば、これまでの「マイティーソー」シリーズのイメージを刷新させることは必要な条件だったのかもしれない。おかげで「ガーディアンズ~」との距離が大幅に縮まった。「ガーディアンズ~」ファンとしては「アベンジャーズ」への合流に期待と不安が入り混じるが、本作の成功はMCUの1つ集大成となる「インフィニティ・ウォー」に向け、大きな追い風になったと思う。

【85点】

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バリー・シール/アメリカをはめた男 【感想】

2017-11-10 08:00:00 | 映画


夢の国アメリカは逸話の底なし沼だ。こんな面白い話がまだあった。アメリカとソ連の冷戦時代、そしてアメリカと中米の麻薬戦争の裏にあった、数奇な男の半生。こういうダイナミックな話がたまらなく好きだ。主演のトム・クルーズが「ザ・マミー」の出演ミスから一転、いつもの調子でカムバック。栄光と転落を猛スピードで駆け抜けた主人公をエネルギッシュに演じる。これぞトム・クルーズ映画。

週末の台風の影響もあり公開3週目で見た。日本での評判が芳しくないため、優先順位を落としていたが、いやいや面白かった。

民間飛行機会社でパイロットをしていた男が、CIAと麻薬カルテルという2つの組織の運び屋として奔走する様子を描く。実話の映画化とのこと。

このテの話の主人公はたいてい、自らで進むべき道を切り開いていくような「能動的」タイプが多いが、本作の主人公は逆で、与えられた機会にひたすらありつく「受動的」タイプといえる。「つい先走っちゃうのよ」と主人公自身も自己分析しているとおり、楽しい、あるいは金になることを目の前にぶら下げられると後先を考えずに食いついてしまう。日本の副題では主人公が「ハメた」と言っているし、現に劇中の主人公も「俺がやってやったぜ」とイキるが、どうにもそう見えないのが可笑しい。

先月、NETFLIXで配信されていた「ナルコス」の最新シーズン(傑作!)を見たばかりの自分にとって、本作で描かれる内容はまさにタイムリーだった。最新シーズンはシーズン1、2で射殺されたパブロ・エスコバルの後の話であり、本作の時代設定とは少しズレているが、アメリカへの密輸問題と、アメリカのDEAとCIAと、麻薬カルテルの関係性が濃密に描かれていた。本作の主人公はアメリカのCIAと、エスコバル率いる麻薬カルテルの両方と手を組む。

主人公に与えられた個性は飛行機の運転テクと、楽天的な野心だ。飛行機を運転するのが大好きで、スリルも大好き。主人公の些細な弱みに目をつけたCIAは、主人公を利用し始める。コンプライアンスもゆるゆるだった時代のこと、CIAの独立性と自由度、非道っぷりは、ドラマ「ナルコス」でもずっと描かれていた。新しい玩具を与えられた主人公は危険も顧みずに喜んでCIAの犬になる。一方、CIAの手伝いをするため、これまで勤めていた民間会社をやめ、収入が不安定になる。そこで入ってきたのが、麻薬カルテルからの「仕事」のオファーだ。そして案の定、大金に目が眩んだ主人公は密輸という犯罪に手を染めていく。

そして主人公は大金を手にする。麻薬ビジネスのダイナミックな恩恵をもろに受けるのだ。やはり人間は基本的にお金が好き。自分も溢れ返る大金の画に釘付けになってしまった。ダグ・リーマンらしい、疾走感たっぷりの編集が効果的で、主人公の栄光劇を盛り上げる。主人公のサクセスストーリーと平行して、アメリカによる中米の政情コントロールや、その状況を利用する麻薬カルテルの強かさなどが描かれ、当時、アメリカと中米との嘘のようなホントの友好(?)関係がわかりやすく解説される。

栄光あれば転落あり。本作の主人公が不幸だったのはCIAと麻薬カルテルと手を組んでしまったことだ。様々な海外ドラマでも描かれているCIAの常套手段「トカゲの尻尾きり」や、麻薬カルテルならではの残虐性たっぷりな報復行為が、主人公の身に降りかかる。まあ案の定といったところだが、その様子は悲惨でスリリングだ。主人公のバリー・シールという人物は日本版のウィキペディアに乗っていないほど、あまり知られておらず、当然予備知識もないため、本作で初めて知ることになるが、かなり衝撃的な展開が待っていた。本作もまたネタバレ厳禁。

主人公演じるトム・クルーズがドンピシャ。CIAと麻薬カルテルに転がされ、愚かしくも見える主人公がそれでも魅力的に映るのは、トム・クルーズの功績が大きい。ユーモアと良心とパワー。陽性型俳優、トム・クルーズの才能ともいえる個性が本作の特異なキャラでも発揮されている。自分が好きなトム・クルーズが再び帰ってきた。また、「オール・ユー・ニード・イズ・キル」に続き、監督ダグ・リーマンとの相性の良さも感じられ、監督はトム・クルーズの輝かせ方を良く知っているようだ。主人公をかき乱す義弟「JB」を演じたケイレブ・ランドリー・ジョーンズが、「ゲット・アウト」に続く怪演。

ストーリーも面白いが、主人公が乗り回す飛行機の空中アクションもかなりの迫力。そのアクションの代償として、撮影中に大変な不幸が起きてしまったことも話題になった。まずは絶対安全。それを分かってしまうと楽しく見られないので。

【70点】

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彼女が名前を知らない鳥たち 【感想】

2017-11-05 10:00:00 | 映画


こういう日本映画がもっと増えてくれたらいい。久々に痺れる恋愛映画を見た。愛することに憑かれた男と女。狂おしいほどの純愛。立ちこめる人間の臭気。演じる役者陣の凄み。惚れたら最後、恋は人を盲目にするというけれど、人はこうして同じ恋愛を繰り返していくのだろうか。

主人公は同姓している年の差カップル。若い女性(といっても30代前後か)と中年の男性という、最近よくあるパターンだが、本作のカップルは恋仲という関係から程遠い。男が一方的に女を好いている様子で、女は男を「チンケな能なし」と邪険にしている。女は男のヒモであり、家計、家事、おこづかい等、生活のすべてを男にゆだねている。男は土建屋の現場監督をしていて、不潔で、ガサツで、背が低くて不細工。口をついて出るのは職場の陰口だ。魅力的な点が何も見あたらないカップルだ。

女は男に尽くされることだけに喜びを感じる。しかし肉体関係は許さない。男はそれでも構わない。なぜなら女を愛しているからだ。女は過去に別れた男の未練を引きずる。今の同棲相手とは似ても似つかないハンサムで金持ちだ。ただし、その昔の男からは過去に壮絶な暴力を振るわれている。女はそれでも男との良き思い出に浸る。女はイイ男に目がない。そんななか、日課のように行っているクレーム活動のなかで女は新たなイイ男に出会う。

ここで現れる第三の男。誠実な仮面を被ったゲス男だ。自身の顔が男前であることを自覚し、それによって女を利用できる術を知っている。「妻とうまくいっていない」浮気男の常套句がリアル。主人公の女はその男にまんまとのめり込む。2人の淫らな性行為に、不幸な結末を予想する。案の定、男は女に愛想をつかす。女はまだその男を諦めない。一方で同棲相手は早々に女の浮気を知る。

3者の愛のベクトルが向かい合うことはない。第三の男にいいように弄ばれる主人公の女だが、未練を残す過去の暴力男にも散々利用されていた。過去の失敗から学ばない。というより、それが失敗であったこともわかっていない。よく聞く「ダメ男を好きになってしまう」とはワケが違うほど、本作の主人公は悲惨だ。一方で同棲相手の男は女にひたすら無償の愛を注いでいく。2人とも最善の生き方をしているとは思えないが、これが愛の魔力だと感じる。しかも純粋な愛だ。

恋愛と性欲が、あるときは密着し、あるときは離れる。終始むき出されるのは人間のどうしようもなさ。去年の「日本で一番悪い奴ら」に続き、白石映画を年1で見られる幸福。生身の人間の醜さ、愚かさ、美しさを恋愛映画というフィールドで濃密に描いてくれる。そして、白石監督の演出に応えるキャスト陣のパフォーマンスも素晴らしい。変質的同棲カップルを演じた蒼井優に阿部サダヲに、第三のクズ男役の松坂桃李、過去のクズ男役の竹野内豊と、それぞれがもれなく表現者たる役者の底力をみせる。最後の最後まで彼らの演技に圧倒された。

少し残念だったのは、過去の回想シーンが説明過多であったこと。あそこまで見せるのはタイミング的に野暮で、主人公の2人が辿ってきた思い出の描写は最小限にとどめ、観客側の想像に委ねても良かったと思う。

【75点】
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ゲット・アウト 【感想】

2017-11-04 08:00:00 | 映画


人種差別を逆手にとった傑作スリラー。北米での絶賛ぶりも納得。まったく予想外の展開だった。笑えて怖くて考えさせられる。人種間の壁の「今」を描きとっていると感じる。すべての謎が1つの線で繋がる怒濤のクライマックス。思い返すとあれもこれも伏線だったことに気づき、結末がわかった後でも再び楽しめる旨味がある。ジャストアイデアではなく、人種が異なる事実を鋭く洞察している。突拍子のないタネ明かしにも「なるほど」と唸ってしまった。余分な贅肉をそぎ落とした完成度の高い脚本。脚本兼監督のジョーダン・ピールに今後要注目。「ノーノーノーノノノノノー」の黒人メイドのドアップシーンが絶品。あの黒人女優さん、助演女優賞モノ。

登場するのはボビーオロゴン似の黒人男性と、美しい白人女性というカップルだ。2人はラブラブだ。アジア人の自分から見れば、釣り合いのとれない組み合わせに思え、「いかんいかん偏見だ」と自身を戒める。しかし、映画はその先入観を逆に狙っていたようだ。

一般的に白色人種は有色人種を差別しているという印象が強いが、有色人種は有色人種で、同じ肌の色の人間に対して強い同属意識をもっていることも確かだ。自分が学生時代、海外旅行に行った際、行く先々で大半が欧米系(白人系)のバックパッカーのなか、言葉は通じなくても同じ肌の色の韓国人旅行者と会ったとき、強い安堵感を覚えた。本作の主人公の黒人青年も、白人ばかりの彼女の実家で黒人の来賓客を見つけるなり「ヘイブラザー、自分と同じ黒人がいて安心したよ」と声をかける。「人類みな兄弟」と平等主義を掲げても、人種間の壁は良くも悪くも拭えない。

主人公が訪れる恋人の実家は、使用人がすべて黒人という、絵に描いたような古いタイプの家だ。白人一家に大歓迎で迎えられるが、その後の滞在中、主人公の身にあらゆる不可解な出来事が起こる。なぜ使用人がすべて黒人なのか、なぜ登場する白人たちがもれなく黒人に寛容なのか、なぜ使用人の黒人女性は笑いながら涙するのか、なぜ使用人の黒人男性は夜中に走り回るのか、、、そもそもなぜ主人公は招かれたのか、何かがおかしい。。。どんどん降り積もっていく不穏の山が、1つの事実で一掃される。それはおぞましくもあり、後半の畳みかけが鮮やかなあまり痛快ですらある。ネタバレ厳禁の映画である一方、伏線の張り方がとても綺麗なのでリピート鑑賞でも十分に楽しめそうだ。

主演のダニエル・カルーヤは、傑作オムニバスドラマ「ブラックミラー」に出ていた人だ。奇妙な世界に迷い込んだ一般人をナチュラルに演じて、観る側の共感を得る。脚本と監督はジョーダン・ピールという人で、長編映画は本作がデビューとのこと。初めて聞く名前だが、パンフ情報によれば、TV界を中心にコメディ作家として活躍していた人らしい。笑わせることに長けている人は、人間を見る目も確かなのだろうと感じる。脚本だけでなく、演出面でも優れたセンスを感じさせる。新たに注目すべき映画人が現れた。

本作の特筆すべき点はもう1つ。北米で1.7憶ドルの大ヒットを飛ばした事実だ。面白い映画はちゃんとヒットするという北米映画市場の健全性を再認識した。

【80点】

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アトミック・ブロンド 【感想】

2017-11-03 08:00:00 | 映画


シャーリーズ・セロンとアクションの相性のよさ。長身かつ、長い手足、細すぎず太すぎずの肉体から繰り出される接近戦攻撃に迫力あり。ブロンドヘアーに濃いアイシャドーメイクがなんとも絵になり、艶めかしいネオン照明に映えること。ベルリンの壁崩壊という激動の情勢に密着した設定がユニーク、主人公に課せられたミッションにさらなるスリルを与える。全身痣だらけになった(登場シーンの裸体が衝撃的)主人公の女スパイの回想シーンで語られていく構成だが、現在と過去のシーンが頻繁に交差するので、流れが淀んでアクション映画にしては全体的に鈍重な印象を持つ。一匹オオカミな「ジョンウィック」と似た映画であるが、痛快アクションではなく、主人公も高確率で反撃を喰らう。そりゃ大怪我するわw。良く言えばリアル、悪く言えば泥試合。その多くは痛覚を刺激するものであり、少々見苦しい。一番残念だったのは、ストーリーラインをわかりにくくしたため、享受されるべきカタルシスがラストで空振りしたこと。清清しいラストの音楽と自身の感覚にギャップが生じた。ラストだけでなく、劇中随所に不可解な点も多い。もう一度、見返したいシーンもないため、振り返って話を整理する気にはならない。共演のジェームズ・マカヴォイ、「フィルス」同様、クズ男ぶりが似合って愉快。
【60点】

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