から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

透明人間 【感想】

2020-07-30 07:00:00 | 映画


透明人間の映画で真っ先に思い浮かぶのはポール・バーホーベンの「インビジブル」だろうか。「人間が透明になって悪さをする」と、ある程度予想はしていたものの、その範囲を本作は超えてきた。古典劇もこんなに新しい味がする作品に再誕できるなんて。

ポイントは、主人公に対する透明人間の執着。誰よりも守りたい相手であり、傷つけることはしたくない、ただただ、自分のもとに戻ってきてほしい。そして支配したい。

追われる側の主人公の視点で描かれるが、同時に、透明人間側の思惑が色濃く描かれている。「どうすれば逃げていった恋人が戻ってきてくれるか」⇒「戻らざるを得ない状況を作る」、その目的を達成するための手段が透明人間になること。そのやり口が実に巧みで唸らされる(卑劣w)。そして、透明人間が仕掛けた罠が明らかになるとき恐怖が襲い掛かる。ホラー描写が秀逸だ。

「いないようで実はいる」、観客に刷り込まれた心理を監督は利用する。フェイクを入れるカメラワークが面白く挑発的でもある。透明人間と主人公のマウントが鮮やかに切り替わるカタルシスしかり、男子ゴコロを熱くさせる演出と脚本だ。前作の「アップグレード」で感じた期待が確信へと変わる。ラストの伏線回収も絶品。

主人公演じたエリザベス・モスの職人芸的熱演の功績も大きい。透明人間という事実を周囲にわからせようとする様子は、必死な常人にも見えるし、気がふれた狂人にも見える。恐怖よりも強さを体現した彼女の姿に引き込まれる。

劇中の彼女が発するとおり、取り立てて何の魅力もない彼女にどうしてそこまでこだわるのか。その謎は最後まで明かされないが、説明できないことこそ、透明人間になる男のサイコなのだと思えた。

【75点】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

海外ドラマ「ダーク」 【感想】

2020-07-22 07:00:00 | 海外ドラマ


ドイツ産の海外ドラマ「ダーク」。シーズン1~3をイッキに完走したので感想を残す。

Netflixの海外ドラマ、あるいは、数あるSFドラマの中でも屈指の独創性を持った作品だ。タイムトラベルの究極系ドラマともいえる。今年配信されたばかりの作品だが、これはカルトな名作として語り継がれそうだ。

本作の一言でいえば、時間に挑んだ人間たちのドラマである。小さな田舎町を舞台に4人の家族がタイムトラベルを繰り返す。ブラックホールの向こう側には何があるのか。。。

残念ながら話の1割くらいしか理解できていない(鬼難しw)。こんなにも理解できなかったドラマは初めてだ。キューブリックの作品を理解できない難解さとは違う。世界観にハマれないのではない。シンプルに話が複雑すぎて理解が追いつかないのだ。

話の発端は、6人の中高生男女が夜の森で遊んでいる最中、一番下の男子が神隠しにあう事件。突如消えた男子は、33年前の同じ場所にタイムスリップしていたことがわかる。当初は、その男子を元の時代(2019年)に戻すことができるか、というシンプルな話だった。しかし、それはやがて訪れる、壮大な時間旅行と、世界の「終焉」の始まりを告げるきっかけに過ぎなかった。

過去の人間として生きることになった男子は、その後、その時代で年齢を重ねることになる。狭い田舎町であり、まだ高校生だった頃の両親たちにも早々に出会う。そして、現在の登場人物たちにも影響を及ぼす関係に至る。

「過去が未来を変える」はタイムトラベルのセオリーだが、本作では、そこに「未来が過去を変える」を追加する。時間の「裂け目」である洞窟内の穴、もしくはタイムトラベル装置により、「33年」という区切りのなかで、登場人物らが、フレキシブルに過去と現在と未来を行き来する。とすると、同じ自分でも、過去の自分と、今の自分、未来の自分の3人が存在することになる。本作ではその3人がそれぞれでタイムトラベルをすることになる。キャラクター数×時代 になり、登場人物の数が膨らむ。

同系のSF作品では、これまでご法度であったはずの「異なる時代の自分がその時代の自分に会う」は、このドラマでは当たり前に許容される。未来の自分が、今の自分に会いに行き、おもいっきり干渉する。必要とあらば「消す」ことも辞さない。そこで変わった人生が、未来へと影響を及ぼす。過去を変えようとすると未来の自分が追いかけてくる。こうした連鎖が、あらゆる目的意識をもった登場人物単位、異なる時代単位で続いていく。

さらに最終のシーズン3では、これまでの時間的な関係という「縦」で繋がった世界から、第三の世界(パラレルワールド?)という横で繋がった世界が新たに加わる。同じ時代の同一人物でも、同時並行で存在する2人の人物が存在することになり、この人物間でも様々なドラマが展開する。

辿り着く結末は1つだけなのだが、それに向かうまでの過程が極めて複雑。但し、煩雑とは違う。すべての登場人物が物語を紡ぐ当事者として配置される。気が遠くなるような緻密な設計図をもとに脚本が書かれていることがわかる。「愛」を軸とした、登場キャラたちのそれぞれの感情もしっかりと描きこむ。何を選択して何を捨てるのか、自分のため、あるいは家族のため、ひいては世界のために時間をコントロールしようとする。

芸術的でありグロテスクにも見えるオープニングが本作のイロを見事に表現している。凄惨な描写や、人間のの時間経過を表現する特殊メイク、時間旅行を表現するアイテムの美術や視覚効果の完成度、役者陣のパフォーマンスも申し分ない(ヌードシーンに抵抗がないのはドイツでは普通なのかな)。「反・原発」という裏テーマが透けてくるあたりも巧い。

「時間は無慈悲で、生まれた瞬間から死へのカウントダウンが始まる」「目の前にある宿命は因果関係の連鎖でしかない」「終わりは始まりであり、始まりは終わりである」。

シーズン3の「楽園探し」になってからは完全に置いてきぼりを喰らった。おそらく、ミステリー小説など読書に慣れ、想像の世界で読み解くことに長けた人には、これ以上ないご馳走になると思う。自分はまだまだですな。。。

【70点】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

賢い医師生活 【感想!】

2020-07-05 09:50:20 | 海外ドラマ


追いかける海外ドラマシリーズが新たに加わった。「賢い医師生活」は自身にとって特別なドラマだった。毎話、見終わる度に「このドラマ、ホント好きだわ」と独り言が漏れてしまう。好きが止まらなかった。

「愛の不時着」「梨泰院クラス」と、韓国ドラマの実力に唸らされ、魅せられた自分にとって、もはやネトフリや、HBOと並ぶジャンルになった韓国ドラマ。かつて「韓流」と言われたメロドラマ一辺倒の印象は完全に払拭された。で、最新の韓国ドラマ事情を調べたところ、韓国本国で放送が終了したばかりの本作が面白いとの記事を見つけ、その直後、ネトフリで配信がスタートする情報をキャッチして飛び上がった。

1話あたり90分程度は、他の韓国ドラマと同じだが、全12話でやや少なめのボリューム。たいていの海外ドラマは、シーズンを通して1つのストーリーラインをを追いかけていく設計だが、本作の場合は、複数のキャラクターが織りなす群像劇であり(ちょっと違うか)、話は続くものの、ほぼ1話で完結する作りになっている。

なのに、見始めると、時間が許す限り見続けてしまう。先の展開を気にするのではない。主人公である5人が醸す物語に、ずっと浸っていたいという心地よい中毒性というか。サウナで例えるならば、飲める天然水「サウナしきじ」の水風呂といえる。

同じ大学病院で働く、5人の医師の仕事ぶりと私生活を描く。5人は大学の同級生であり20年来の大親友のグループ。固い友情は大人になった今も変わっていない。大学という舞台が、病院に変わっただけという見方もできる。今でもしっかり青春しているからだ。変わったのは年齢が40歳になったということと、医師として責任ある仕事に就いていること。40歳という年齢設定が本作のポイントであり、社会に出て修行の期間はとっくに過ぎ、プレイヤーとして実績を積み重ね、成熟期に達している状況だ。若い医師たちを育てるメンターとしての役割も担い、組織の第一線で活躍するエースでもある。彼らは、自分と同世代であり、いろいろと重ね合わせてしまった。

たぶん、ありそうでなかった医療ドラマだ。特別なイベントを用意するでなく、病院内で5人組が経験する日常を、気負いのない筆致で描いていく。面白くしようとか、わかりやすくしようとか、脚本側の作為があまり見えない。ただ、本作の舞台は命のやりとりが日常的に繰り広げられる病院だ。医療専門用語が容赦なく飛び交うなか、命の最前線で戦う医師たちの日常はそれだけでドラマになる。

腹部外科、脳神経外科、胸部外科、小児外科、産婦人科と、5人が働くフィールドは異なる。個性もバラバラな5人だが、仕事に対するモチベーションは同じだ。目の前の命を救うことに全力を尽くすこと、患者とその家族の心情に寄り添うこと。医師としてあるべき姿、理想的な良心を体現する。そのキャラクター設定に「リアルじゃない」などと水を差すこともできたかもしれないが、他人の人生を救済するほどの力をもったプロフェッショナルを描く「覚悟」みたいなものにも見え、彼らの生き様を肯定するほうが自然だった。

彼らはとにかく忙しい。命の現場は待ってくれない。休憩中はもちろんのこと、プライベートな時間も「必要」とあらば、病院にかけつける。彼らの多くは外科であり、手術に10時間以上かけることもある。殺人的な忙しさにも、それを不満として口に出すことはないし、深刻になることもなく、軽やかにこなしていく。一方、患者とその家族の想いもしっかり受け止める。「必要な資質は責任感があること」、逃げてはダメだ。状況を楽観的に見ることはなく、あらゆるリスクを視野に入れる。人の命を救う力を持っている、だけど神ではない。「最善を尽くす」と宣言して、全力で医療に向かう。

彼らを通して見えるのは、医師という仕事はフィジカルと同等にメンタルを鍛錬しなければ務まらないということ。患者の命を預かる、とんでもなく大変な仕事だ。ただ、それ以上に仕事を通して得られるものがある。目の前の命を救い、患者とその家族の人生を救うこと、そこで発生する様々ば幸福のドラマを自身のエネルギーに転化している。彼らも医療現場で感動を与えられていることがよくわかる。もちろん、命を救えないこともある。その悔しさが彼らをさらに強くする。

という具合に、ガチでシリアスな医療現場のドラマが展開する一方、筆致はあくまで軽快だ。仲良し5人組の個性が最高に魅力的。キャラクターを輝かせることに秀でた韓国ドラマの真骨頂がここにある。そして、5人が集まったときの空気が溜まらない。ノリが学生のときのままで、じゃれ合って遊ぶ。一方、大人として互いの仕事や生活への理解もしっかりしている。「友情」というテーマをこれほど、ユーモアとドラマに昇華できた作品もあまりないのではないか。学生の頃より築かれた友情と、積み重ねられた思い出。同じ時代を生き、同じ命の現場で戦ってきた戦友でもある。5人という人数になれば、たいていその中で仲良しの偏りが出てくるものだが、彼らの関係性は完全なフルフラット。この風通しの良さがとても気持ちいい。

転職を繰り返しきた自分にとって、会社の「同期」が羨ましい。一部を除いて大学の同期たちともすっかり疎遠になっている。劇中の彼らと同じく、親の老後を心配するタイミングに差し掛かっている。後輩たちへの接し方にも共感でき、体育会系で上から締め付けを喰らった最後の世代で(たぶん)、後輩たちには同じ思いはさせないよう気を配る。彼らは定期的にバンドの練習をしているのだが、そこで使われる音楽は彼らが学生時、流行ったポップスのようだ。どれもこれも全く知らない音楽だが、日本の自分たちからすると、ミスチルや、スピッツ、椎名林檎あたりだろうか。

「自分の好きなことや、やりたいことを諦めずに生きたいんだ」という言葉が、5人の生き様を的確に表現している。演じる5人のキャストの飾らない快演も絶品。チャーミングでカッコイイ。5人が時間を合わせて囲む食事シーンも印象的で、こっちの胃酸を刺激する。あぁ、韓国に行きたい。クライマックスに押し寄せるロマンスにもすっかりヤラれてしまった。泣かせてくれるわ。

特に何かが終わるでもないし、始まるでもなく、ぬるっと終わった。
なのに余韻にしばし浸った。
そして「来年、続編やりますよ」にガッツポーズをした。

【90点】
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ワイルド・ローズ 【感想】

2020-07-04 11:41:54 | 映画


「何でカントリー音楽が好きなの?」という問いに、主人公はこう答える、「3コードの真実だから」。これはいったいどういう意味なのか、その疑問は最後まで晴れなかった。本作においてそんなことは重要ではないのか。日本ではほとんど馴染みのない音楽ジャンルだけに、海外の多くの人が愛する理由を少しでも理解したかった。昨年、アメリカに初めて行ったとき、エルパソのテレビから流れていたカントリー音楽らしきライブに大勢の人々が熱狂していたのを思い出す。
本作の舞台はアメリカではなく、スコットランドのグラスゴー。刑務所から出所したばかりの女子が、カントリーを唄いまくる。ものすごい歌唱力。刑期は1年だったらしい。彼女の犯罪歴も明らかにされないが、彼女の振る舞いを見てれば何となくわかってくる。
刑務所暮らしで周りに迷惑をかけたこともいざ知らず、何も成長していない模様。礼を礼で返すことが当たり前の感覚になっている日本人の自分にとっては、彼女の利己的な態度や言動は目に余るほどに引いた。「どういうこと??」と何度も頭をかしげる。独り身ならまだしも、2人の幼い子どもがいる。幸いにも主人公の母親がしっかりした人で救われる。
主人公の変化や成長が置き去りにされたまんま、「好き」や「夢」というだけで歌唱パフォーマンスが披露されるので、気分が高揚しない。こっちは突き抜けたいのに、もやもやが足を引っ張る。主人公の個性の描き方だけでなく、育児と仕事と夢の選択の場面でも、現実的にいくらでも両面をカバーするやり方があるのに、何かを犠牲にする道しか用意しない。これまたモヤモヤ。だから、彼女が夢を掴む最大のイベントも、「大事なものに気づいたから」ではなく、「無責任」という見え方がせり出してしまう。
サクセスストーリーではなく、自分探しなドラマとして描かれた点は良かった。「責任を持つことと希望をもつこと」、かなーり回り道をしたが、ようやくたどり着いた答えにグッときた。あと、子どもが親にしてくれるパターンは万国共通。子どもたちが本当にかわいい。聖地ナッシュビルで彼女のささやかな夢は果たされ、グラスゴーの地でカントリーと生きる。ラストのパフォーマンスは圧巻。やっぱ音楽の力が偉大。
【65点】




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ハニーランド 永遠の谷 【感想】

2020-07-04 07:44:16 | 映画


舞台となるマケドニアの場所を調べる。ギリシャの上、ブルガリアの左に位置する国だ。おそらくこの映画を見なければ知ることがなかった世界だろう。水も電気も通っていない乾いた山間部で、自然養蜂で生計を立てる女性のドキュメンタリー。主人公の彼女の身に起こることは嘘のような本当の話で、文明から離れた環境で繰り広げられる「蜂」を巡る物語は、ドラマチックな劇映画そのものであり、まるで現代の神話だ。
年老いた母親と2人で静かに暮らす主人公の家の隣に、子だくさんの家族が住み着く。多くの牛たちを引き連れて放牧をするつもりだ(牛たちの扱い方が酷い)。
「半分残して半分いただく」をモットーに、自然と共生してきた主人公の生活に変化が訪れる。隣人の家族と衝突するかと思いきや、彼女は寛容ですぐに家族と仲良くなる。独身で子どもがいなかった彼女にとって子どもたちが可愛かったのかもしれない。養蜂のやり方についても惜しげもなく教えてあげる。最初は順調だったが、子だくさん家族のもとに”拝金”の悪魔が接触し、すっかり毒されてしまい、蜂たちとの約束ゴトを破る。ついには、主人公と蜂たちとの間で築かれた関係をも崩壊させる。
演出なき演出に圧倒される。登場人物たちにカメラは肉薄するも、物心がついてない小さい子どもに至るまで、それを異物として見ていない。まるで、その場に居合わせて傍観する自分が透明人間にでもなっているかのよう。土埃を上げながら、大暴れして、生傷が絶えない子どもたちの生々しさよ。寝たきりの母親の介護をしながら、この場所から出ていけない主人公の複雑な心情もしっかりとらえる。人間だけでなく、意思疎通できないはずの蜂たちの怒りの感情すらも描写する。
被写体との信頼関係を築くというドキュメンタリーの在り方を感じながら、おそらく偶発的であっただろうドラマをカメラに収めることに成功したドキュメンタリー。
主人公の彼女はこの映画の成功で、生活が一変したのかも。
【75点】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする