追いかける海外ドラマシリーズが新たに加わった。「賢い医師生活」は自身にとって特別なドラマだった。毎話、見終わる度に「このドラマ、ホント好きだわ」と独り言が漏れてしまう。好きが止まらなかった。
「愛の不時着」「梨泰院クラス」と、韓国ドラマの実力に唸らされ、魅せられた自分にとって、もはやネトフリや、HBOと並ぶジャンルになった韓国ドラマ。かつて「韓流」と言われたメロドラマ一辺倒の印象は完全に払拭された。で、最新の韓国ドラマ事情を調べたところ、韓国本国で放送が終了したばかりの本作が面白いとの記事を見つけ、その直後、ネトフリで配信がスタートする情報をキャッチして飛び上がった。
1話あたり90分程度は、他の韓国ドラマと同じだが、全12話でやや少なめのボリューム。たいていの海外ドラマは、シーズンを通して1つのストーリーラインをを追いかけていく設計だが、本作の場合は、複数のキャラクターが織りなす群像劇であり(ちょっと違うか)、話は続くものの、ほぼ1話で完結する作りになっている。
なのに、見始めると、時間が許す限り見続けてしまう。先の展開を気にするのではない。主人公である5人が醸す物語に、ずっと浸っていたいという心地よい中毒性というか。サウナで例えるならば、飲める天然水「サウナしきじ」の水風呂といえる。
同じ大学病院で働く、5人の医師の仕事ぶりと私生活を描く。5人は大学の同級生であり20年来の大親友のグループ。固い友情は大人になった今も変わっていない。大学という舞台が、病院に変わっただけという見方もできる。今でもしっかり青春しているからだ。変わったのは年齢が40歳になったということと、医師として責任ある仕事に就いていること。40歳という年齢設定が本作のポイントであり、社会に出て修行の期間はとっくに過ぎ、プレイヤーとして実績を積み重ね、成熟期に達している状況だ。若い医師たちを育てるメンターとしての役割も担い、組織の第一線で活躍するエースでもある。彼らは、自分と同世代であり、いろいろと重ね合わせてしまった。
たぶん、ありそうでなかった医療ドラマだ。特別なイベントを用意するでなく、病院内で5人組が経験する日常を、気負いのない筆致で描いていく。面白くしようとか、わかりやすくしようとか、脚本側の作為があまり見えない。ただ、本作の舞台は命のやりとりが日常的に繰り広げられる病院だ。医療専門用語が容赦なく飛び交うなか、命の最前線で戦う医師たちの日常はそれだけでドラマになる。
腹部外科、脳神経外科、胸部外科、小児外科、産婦人科と、5人が働くフィールドは異なる。個性もバラバラな5人だが、仕事に対するモチベーションは同じだ。目の前の命を救うことに全力を尽くすこと、患者とその家族の心情に寄り添うこと。医師としてあるべき姿、理想的な良心を体現する。そのキャラクター設定に「リアルじゃない」などと水を差すこともできたかもしれないが、他人の人生を救済するほどの力をもったプロフェッショナルを描く「覚悟」みたいなものにも見え、彼らの生き様を肯定するほうが自然だった。
彼らはとにかく忙しい。命の現場は待ってくれない。休憩中はもちろんのこと、プライベートな時間も「必要」とあらば、病院にかけつける。彼らの多くは外科であり、手術に10時間以上かけることもある。殺人的な忙しさにも、それを不満として口に出すことはないし、深刻になることもなく、軽やかにこなしていく。一方、患者とその家族の想いもしっかり受け止める。「必要な資質は責任感があること」、逃げてはダメだ。状況を楽観的に見ることはなく、あらゆるリスクを視野に入れる。人の命を救う力を持っている、だけど神ではない。「最善を尽くす」と宣言して、全力で医療に向かう。
彼らを通して見えるのは、医師という仕事はフィジカルと同等にメンタルを鍛錬しなければ務まらないということ。患者の命を預かる、とんでもなく大変な仕事だ。ただ、それ以上に仕事を通して得られるものがある。目の前の命を救い、患者とその家族の人生を救うこと、そこで発生する様々ば幸福のドラマを自身のエネルギーに転化している。彼らも医療現場で感動を与えられていることがよくわかる。もちろん、命を救えないこともある。その悔しさが彼らをさらに強くする。
という具合に、ガチでシリアスな医療現場のドラマが展開する一方、筆致はあくまで軽快だ。仲良し5人組の個性が最高に魅力的。キャラクターを輝かせることに秀でた韓国ドラマの真骨頂がここにある。そして、5人が集まったときの空気が溜まらない。ノリが学生のときのままで、じゃれ合って遊ぶ。一方、大人として互いの仕事や生活への理解もしっかりしている。「友情」というテーマをこれほど、ユーモアとドラマに昇華できた作品もあまりないのではないか。学生の頃より築かれた友情と、積み重ねられた思い出。同じ時代を生き、同じ命の現場で戦ってきた戦友でもある。5人という人数になれば、たいていその中で仲良しの偏りが出てくるものだが、彼らの関係性は完全なフルフラット。この風通しの良さがとても気持ちいい。
転職を繰り返しきた自分にとって、会社の「同期」が羨ましい。一部を除いて大学の同期たちともすっかり疎遠になっている。劇中の彼らと同じく、親の老後を心配するタイミングに差し掛かっている。後輩たちへの接し方にも共感でき、体育会系で上から締め付けを喰らった最後の世代で(たぶん)、後輩たちには同じ思いはさせないよう気を配る。彼らは定期的にバンドの練習をしているのだが、そこで使われる音楽は彼らが学生時、流行ったポップスのようだ。どれもこれも全く知らない音楽だが、日本の自分たちからすると、ミスチルや、スピッツ、椎名林檎あたりだろうか。
「自分の好きなことや、やりたいことを諦めずに生きたいんだ」という言葉が、5人の生き様を的確に表現している。演じる5人のキャストの飾らない快演も絶品。チャーミングでカッコイイ。5人が時間を合わせて囲む食事シーンも印象的で、こっちの胃酸を刺激する。あぁ、韓国に行きたい。クライマックスに押し寄せるロマンスにもすっかりヤラれてしまった。泣かせてくれるわ。
特に何かが終わるでもないし、始まるでもなく、ぬるっと終わった。
なのに余韻にしばし浸った。
そして「来年、続編やりますよ」にガッツポーズをした。
【90点】