から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

第88回アカデミー賞 受賞結果!!!

2016-02-29 15:31:45 | 映画


第88回アカデミー賞が幕を閉じた。

受賞結果については昨年に引き続き、納得&大満足。
受賞式の娯楽性はまずまずといったところ。

取り急ぎ、受賞結果と雑観。<>は予想結果。

【作品賞】「スポットライト 世紀のスクープ」<×>
【監督賞】アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ(レヴェナント:蘇えりし者)<○>
【主演男優賞】レオナルド・ディカプリオ(レヴェナント:蘇えりし者)<○>
【主演女優賞】ブリー・ラーソン(Room)<○>
【助演男優賞】マーク・ライランス(ブリッジ・オブ・スパイ)<○>
【助演女優賞】アリシア・ヴィキャンデル(リリーのすべて)<○>

予想が難しかった作品賞と助演男優賞。「レヴェナント」の上位独占を阻止した「スポットライト」に拍手。助演男優賞は、スタローン獲得ならず!!アカデミー会員の俳優陣は冷静に演技を評価していたということだ。スタローンの最期のチャンスであり、作品(「クリード」)支持者としては残念なのだが、まあ納得がいく結果だ。そしてイニャリトゥの2年連続の監督賞はやっぱり凄い。2年連続監督賞受賞は3人目らしいけど、もう半世紀の前の話。映画の市場が各段に拡大している現代での受賞は、初の快挙といっても良い偉業だろう。ディカプリオの受賞よりも個人的には、イニャリトゥの快挙のほうが感慨深い。本音はジョージ・ミラーにとってほしかったけど。

【脚本賞】スポットライト 世紀のスクープ<○>
【脚色賞】マネー・ショート 華麗なる大逆転<○>
【アニメーション映画賞】インサイド・ヘッド<○>
【外国語映画賞】サウルの息子<○>
【撮影賞】レヴェナント:蘇えりし者<○>
【編集賞】マッドマックス 怒りのデス・ロード<○>
【美術賞】マッドマックス 怒りのデス・ロード<○>
【衣装デザイン賞】マッドマックス 怒りのデス・ロード<○>
【メイキャップ&ヘアスタイリング賞】 マッドマックス 怒りのデス・ロード<○>
【視覚効果賞】エクス・マキナ<×>
【録音賞】マッドマックス 怒りのデス・ロード<×>
【音響効果賞】マッドマックス 怒りのデス・ロード<×>
【作曲賞】予想:ヘイトフル・エイト<○>
【主題歌賞】予想:007/スペクター<○>

想定以上に「マッドマックス」が技術賞を独占し実に痛快だったが、今回の最大のサプライズは視覚効果賞を受賞した「エクス・マキナ」だろう。「スター・ウォーズ」など、名だたる大作を押しのけ、堂々の受賞にシビれた。「エクス・マキナ」を昨年のベスト映画に上げる欧米の映画ファンも多く、未だに日本でのリリースが決まらない状況に、日本の配給会社のケツを叩いてほしい。昨日、観たばかりの「ヘイトフル・エイト」は作曲賞を受賞したが、納得の素晴らしい音楽だった。モリコーネが初受賞であったという事実に驚愕。

ほか、WOWOWの放送内容含めて授賞式の雑観メモ。

・レッドカーペットのインタビュー、少なっ!!!(苦笑)
・アダム・マッケイ、デカっ!!!
・レッドカーペットの人間模様、今年はこれといった見所なし。
・ストレイト・アウタ・コンプトンの脚本家がまさかの白人だったとは!
・今年のオープニングムービーが素晴らしい出来栄え。過去最高。
・視覚効果賞のプレゼンター、アンディー・サーキスのキャスティング正解。
・今年の歌唱パフォーマンスは、どれもパっとしない。
・歌唱以外の式のパフォーマンスはなし。物足りない。
・クリス・ロック、結局イジれるのは同じアフリカ系だけ?
・有色人種差別についての言及は前半までにしてくれ。後半まで引っ張るとしつこい。
・そもそも今年(昨年)は、有色人俳優で評価されたのはイドリス・エルバくらい。
・有色人差別の自虐ネタは最高に可笑しかった。
・ドライバー700人によるパブリックビューイング。面白いトリビアをWOWOWありがとう!
・「スタントマン」賞など、尾崎さん、今年もナイスコメント!
・新たなゲストとして加わった大根仁監督、ハズさないコメントが素晴らしい。

とりあえず、以上。
今夜の字幕版を観てもう一度振り返りたい。

スティーブ・ジョブズ 【感想】

2016-02-29 08:00:00 | 映画


目前に迫ったアカデミー賞授賞式だが、そのハイライトともいえる受賞者スピーチで毎回気になることがある。受賞者が作品に携わったスタッフの名前を列挙して持ち時間をオーバーするよくあるシーンだ。感動的なシーンなのに、メモを見ながら読み上げるなんて興ざめる。関係者に対する「謝辞」であるが、視聴者からすれば、知らない名前を聞いてもつまらないだけだ。しかし、呼ばれる人の立場からすれば大きな意味を持つのもわかる。

本作で描かれるスティーブ・ジョブズも、「謝辞」を述べるか否かで大きくモメる。相手はジョブズを語る上で書かせない盟友のウォズニアックだ。新しいマシーンの発表の場で、これまでアップルを支えてきた者たちへの「謝辞」を述べることをジョブズに懇願するが、ジョブズはガンとして受け付けない。それどころか、彼らが携わり、会社に多大な業績をもたらした旧型マシーンを「出来損ない」とまでいう。

スティーブ・ジョブズは、何て変人なのだろうと素直に思う。本作は紛れもない伝記映画であるが、カリスマ経営者と言われたスティーブ・ジョブズという男が「何をしたか」ではなく「どういう人間だったか」を描く。

その人物像を浮き彫りにするために用意された舞台は3つのみ。84年の「Macintosh」、88年の「Next Cube」、98年の「iMac」。それぞれの新作発表会にける直前の舞台裏を追っかけるだけだ。かなり大胆な脚本構成だが、ダニー・ボイルのハイテンポでキャラクターに密着した演出と、アーロン・ソーキンの膨大なセリフ量で埋め尽くされた迫力の会話劇に圧倒される。

MacよりもWindows。ipodよりもウォークマンな自分にとっては、スティーブ・ジョブズが社会に与えた影響がよくわからない。本作を見終わってもその認識は変わらなかった。但し、アップル社がビジネスとして大きく成功していることは当然わかっている。もちろん、その成功の牽引者がジョブズであったこともだ。ウォズニアックの言葉を借りれば「デザイナーでもプログラマーでもない」彼がなぜ、天才ともてはやされ、成功を手中に納めることができたのか、その答えを導き出そうとする映画でもあり、自分も少し理解できたように思う。ジョブズの個性→ビジネスの成功、という因果関係を模索しているのが本作の優れた点であり、単なる自己チュー男として描かれていたアシュトン・カッチャー版と一線を画す。

しかしながら、本作で描かれたジョブズという男に共感できたかどうかは別だ。いや、共感する必要はないと思うが、魅力的に感じられなかったのが大きい。仕事仲間との確執、家族との確執。ラストで後者の家族の問題は一人娘への理解でわずかな発展をみせるものの、基本的に彼の個性が最初から最後まで一徹変わることはない。誰かに影響を受けることもない。だからこそのジョブズなのだろうが、単純に観ていて面白くないのだ。その意味で、ジョブズを映画として取り上げるのは不適当であるとすら思える。個人的にはジョブズよりも、彼の仕事上の妻であったケイト・ウィンスレット演じるジョアンナや、セス・ローゲン演じたウォズニアックの方が魅力的に見える。

大ファンであるマイケル・ファスペンダーがジョブズを演じている。やはり文句なしに巧い。本作でアカデミー賞の主演男優賞にノミネートされているが、彼のキャリアとして本作での受賞は相応しくない。もっとスペシャルなキャラクターを演じて受賞してほしいと思う。これから何度もチャンスは訪れるだろうから。

【65点】




第88回アカデミー賞 最終予想

2016-02-22 22:00:00 | 映画
いよいよ第88回アカデミー賞の授賞式まで1週間を切った。
前哨戦も一通り終え、主要部門と最終予想をして勝手に盛り上がってみる。

【作品賞】
 予想:「レヴェナント:蘇えりし者」
 希望:「マッドマックス 怒りのデス・ロード」

「スポットライト 世紀のスクープ」で受賞は堅いと思っていたが、最後の前哨戦、監督組合賞、英国アカデミー賞で立て続けに受賞した「レヴェナント~」が最有力とみるのが適当だろう。希望はもちろん「マッドマックス~」なのだが。まぁノミネートされただけでも幸福というもの。。。

【監督賞】
 予想:アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ(レヴェナント:蘇えりし者)
 希望:ジョージ・ミラー(マッドマックス 怒りのデス・ロード)

作品賞同様、監督賞もイニャリトゥが、監督組合賞、英国アカデミー賞で立て続けに受賞。GG賞に気まぐれと思っていたが、「レヴェナント」の勢いは本物といえるだろう。イニャリトゥファンとしては、彼の2年連続の快挙に期待する一方で、やはりどうしてもジョージ・ミラーの受賞を願ってしまう。

【主演男優賞】
 予想:レオナルド・ディカプリオ(レヴェナント:蘇えりし者)
 希望:ブライアン・クランストン(Trumbo)

予想も何も、ディカプリオの受賞は120%確実。対抗馬と目されたマイケル・ファスペンダーの「スティーブ・ジョブス」を観たが、彼の受賞には相応しくない作品。ブレイキング・バッド信者としては、受賞はムリでもブライアン・クランストンに目立ってほしい。

【主演女優賞】
 予想:ブリー・ラーソン(Room)
 希望:ブリー・ラーソン(Room)

ディカプリオ同様、主演女優賞もブリー・ラーソンで確定。シアーシャ・ローナンも大好きなのだが、彼女はまだ21歳。これからたくさんノミネートの機会が訪れるだろう。

【助演男優賞】
 予想:マーク・ライランス(ブリッジ・オブ・スパイ)
 希望:シルヴェスター・スタローン(クリード チャンプを継ぐ男)

今回、主要部門のなかで、最も予想困難となるカテゴリー。舞台役者でもあるマーク・ライランスは、投票権のある俳優たちの支持を集めそうなので受賞確実と予想していたが、全米俳優組合賞でイドリス・エルバに賞をもっていかれた。英国アカデミー賞では受賞したものの、アメリカのアカデミー賞ではどうなることやら。「クリード~」は素晴らしい映画なので、スタローンの受賞で少しでもスポットを浴びてほしい。

【助演女優賞】
 予想:アリシア・ヴィキャンデル(リリーのすべて)
 希望:アリシア・ヴィキャンデル(リリーのすべて)

「エクスマキナ」をはじめ、昨年はヴィキャンデルの年だったと言えるだろう。全米俳優組合賞も受賞し、前哨戦の結果からも彼女の受賞は有力で、昨年の活躍を讃えるうえでも受賞に相応しい人だ。

他、部門予想。

【脚本賞】予想:スポットライト 世紀のスクープ
【脚色賞】予想:マネー・ショート 華麗なる大逆転
【アニメーション映画賞】予想:インサイド・ヘッド
【外国語映画賞】予想:サウルの息子
【撮影賞】予想:レヴェナント:蘇えりし者(ルベツキ、3年連続!!)
【編集賞】予想:マッドマックス 怒りのデス・ロード
【美術賞】予想:マッドマックス 怒りのデス・ロード
【衣装デザイン賞】予想:マッドマックス 怒りのデス・ロード
【メイキャップ&ヘアスタイリング賞】予想:マッドマックス 怒りのデス・ロード
【視覚効果賞】予想:スター・ウォーズ/フォースの覚醒
【録音賞】予想:レヴェナント:蘇えりし者
【音響効果賞】予想:スター・ウォーズ/フォースの覚醒
【作曲賞】予想:ヘイトフル・エイト
【主題歌賞】予想:007/スペクター

「マッドマックス~」は技術賞で3~4冠というところだろう。
にしても、ルベツキの3年連続の撮影賞って凄い快挙だよな。

この国の空 【感想】

2016-02-20 10:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて
はちきれんばかりに実ったトマトを「今食べて」と主人公が差し出す。男はそのトマトにカブリつき、滴る果汁を漏らすことなく口内に運ぶ。その光景を主人公は満足気に眺める。あぁエロス。
第二次世界大戦末期の東京。母と2人で暮らす19歳の娘と、その隣人で、妻子を疎開先に出し1人で暮らす男の密かな情事を描く。質素で不十分な生活、情報不足による不安、空襲による死への恐怖。男は戦争に行き、子ども疎開でいなくなり、ご近所は女性とオッサンばかり。どれをとっても現代生活とは離れた状況なのだが、本作で描かれる戦時下の生活は不思議と身近に感じる。戦争万歳なマインドに振り回されず、どこか他人ゴトのようにマイペースで暮らす人たちが多くいたことを想像する。慎ましくも穏やかな日々が流れるなか、ある日を境に仲の良い隣人同士であった男女が情念にほだされる。少女がいつ間にか「女」であったことを気付かせる臭気。立ち上る夏の熱気に汗ばむ体をよじらせ密着する。娘を演じた二階堂ふみが持ち前の魔力を発散。艶めかしいセリフ回しと豊満な臀部にヤラれる。相手役の長谷川博己の口髭がいやらしく、そのディープキスに昭和のエロスを感じる。2人の情事は不倫という過ちではなく、少女が男を知った戦時下の記憶として描かれる。

【65点】

ラブ&マーシー 終わらないメロディー 【感想】

2016-02-20 09:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。
名前は聞いたことあるが、その人物像について全く知らない音楽バンド「ザ・ビーチ・ボーイズ」の中心メンバーであった、ブライアン・ウィルソンの自伝的回想ドラマ。主人公のブライアン・ウィルソンは2つの時代で描かれる。音楽シーンの全盛期にあった60年代と、バンド活動から離れ、中年男子となった80年代だ。その曲名は知らずとも聞きおぼえがあり、耳障りのよい音楽が映画を彩る。突き抜けるような海と空の青さに相性を感じさせる旋律の数々。なるほど「ザ・ビーチ・ボーイズ」。このテの実話系音楽バンドの映画は、その活動の光と闇のコントラストを見せたがるが、本作は毛色が違って、主人公の栄光は大きく描かれず、爽快な音楽の裏に隠された主人公の闇にスポットを当てる。ヒット曲を生み出さねばならない重圧と、それでも自分の音楽を作りたいという表現者としての欲求。そして、暴力的なまでに主人公を追いつめる父親の存在。この父親の恐怖が、時代の変わった80年代においても、別のキャラクターとなって主人公を苦しめる宿命が切ない。ただし映画は悲劇のまま終わらない。描かれるのは主人公にようやく訪れる魂の解放だ。主人公と恋の落ち、魂の解放者となったエリザベス・バンクスの好演が光る。起伏に飛んだ物語ではなく陰鬱なシーンも多いため、娯楽性は結構低い。その中で見どころは何といっても60年代の主人公演じたポール・ダノだろう。脂肪を蓄えた顔面の二重あごに、ポテっとした下腹部。柔和さのなかに「天才」たる男の才能と苦悩を好演し、いよいよ性格俳優としての地位を固めてきた印象だ。
【65点】

デッドプール 【気になる映画】

2016-02-20 08:00:00 | 気になる映画


先週末より全米で公開された「デッドプール」が大変なヒットになっている。これはエラいこっちゃ。

週末だけで製作費の倍以上となる1.3億ドルを稼ぎ出し、2月公開作としては最高記録を樹立。これは本家XMenシリーズを軽く上回るだけでなく、本作を配給する20世紀FOXとしても歴代最高記録でもあるらしい。しかも、この映画はR指定なのに。凄いの一言だ。

癌にかかった男が、その治療と引き換えに受けた人体実験に末、超人的な治癒力を身につけ「デッドプール」として活躍(?)する話らしい。
「XMenウルヴァリン」でも登場したキャラだったが、そのビジュアル、個性は全く異なるようだ。トレーラーを観ると日本の変態仮面と同じ匂いがする。

過激描写により、レッドバンドのトレーラーが公開された当時から話題になっていたものの、まさかこれだけハネるとは誰が予想しただろう。昨今のアメコミ映画のシリアス路線に、観客たちは飽きてきたのかもしれない。

本作の大ヒットと比例するように、映画の評判もすこぶる良く、ロッテントマトでは現時点(2/19)で、84%のフレッシュを獲得。注目すべきはオーディエンスのスコアが95%という超ハイスコアな点だ。映画ファンの熱狂的な支持を得ていることがわかるが、最近、自分がハマっている、海外ユーチューバーの映画レビュー動画でも、一様に最上級の評価を提示しており、これまでのヒーロー映画にはない魅力に溢れた傑作らしい。
めちゃくちゃ気になる。

日本公開は6月。まだ4カ月も待たねばならぬか。
相変わらず日本の映画公開は遅い!


キャロル 【感想】

2016-02-17 09:00:00 | 映画


香水は手首や首元につけるのが効果的という。そこに集中する体脈の熱によって香水が気化して香りが広がるからだ。その香りは、つけた人の香りになる。人を好きになるときに反応する五感のうち、臭覚は実は結構大きな比重を占めていたりする。その人を目の前で感じ、その人の香りを嗅ぐ。その香りを胸いっぱいに含んだ瞬間、幸福に満たされる。そんな動物的な感覚が恋愛といえるのかも。

トッド・ヘインズの新作「キャロル」を観た。ジャーナリストを目指す若いデパート店員の女子と、離婚調停中の裕福な主婦のラブロマンスを描く。1950年代という保守的な時代背景で起きる女性の同性愛ということで何か特異な展開が用意されていると勝手に予想していたが、とてもストレートな恋愛ドラマだった。

女性同士の恋愛を描いた映画でまず思い浮かぶのは2014年の「アデル、ブルーは熱い色」だ。女性同士の恋愛の延長にも当然、性行為があって、相手を欲し合う肉体の絡み合いを長尺かつ鮮烈に描いていた。美しい女性同士の性行為はどんなに生々しく描いても、絵としてある程度許容されてしまう。それは男性同士では成立せず、女性の肉体だから成立する性描写とも考えられ、その映像表現に自分は強いフェミニズムを感じた。結果、あくまで女性同士の恋愛劇として捉え、観ていてあまり居心地が良くなかった。

一方の「キャロル」はフェミニズムとは相容れない映画だった。まったくの予想外。

本作の主人公2人はどちらも絵に描いたような美女だ。2人が織りなす全てのシーンが見苦しくなく、ただただ美しい。本作はある意味ファンタジーといえる。しかし、本作はそれでよい。人間が魅かれ合い、愛し合う姿は美しいと確信し、そのメッセージの象徴として「美」を描くことに終始しているようだ。ヘインズの真骨頂、美術、衣装、音楽と、彼の美意識が画面の隅々にまで行き渡っている。「エデンより彼方に」を上回る眼福感。その美しさに何度もため息が出る。

2人が最初に出会い、恋に落ちる瞬間のシークエンスが美しい。人混みの中で見かけた、話したこともない人を見て目を奪われる。目を離した瞬間、視界から消えたのち、目の前にその人が現れる。高鳴る鼓動を抑え平常心で対応する。他人同士で終わるはずだった出逢いが、思わぬ事態によって繋ぎ止められる。運命と気まぐれの狭間で揺れながらも、その人ともう一度再会することを願う。。。2人の体温の上昇が感じられる。それは恋愛の原風景ともいえるもので、異性、同性の区別はない。

当時、社会的タブーとされた同性愛は、当然ながら物語上で大きな障害となる。しかし、本作はそうした時代性を強調することを避ける。主眼はあくまで恋に落ちた2人の行方だ。出会い、恋愛、別れという、とてもシンプルなストーリーのなかで、2人の感情の高まりと揺らぎを丹念に追い続ける。

主人公のテレーズとキャロルを演じたルーニー・マーラとケイト・ブランシェットが素晴らしい。2人の間に流れる熱を帯びた空気のマと、感情の瞬間の移ろいを逃さない名演だ。2人の異なる色香が堪らない。太く迷いなく伸びたマーラの眉がクラシカルな空気によく似合う。そして可愛い帽子も素敵だ。さらけ出される白く柔らかな肌は女性の美そのものだ。一方のブランシェットは、女性的であり男性的。性別の枠を超えたような存在感を放ち、その佇まいは品格に満ちている。彼女が発する言葉の説得力たるや。「キャロル」を夢中にさせる男など、この世にいるのだろうかと考える。

後半、2人がレストランの卓上で対峙し、お互いを無言のまま見つめ返すシーンが印象深い。キャロルはテレーズを変え、テレーズもまたキャロルを変えた。経験は人を成長させる。2人が紡いだ、短くも濃密な時間が双方の人生の転換点となったことに強い共感を覚えた。「自分らしく生きる」。それが本作の最大のテーマだったのだろう。惜しむらくは、テレーズの成長を表現するのに、もう少し時間経過を感じさせたほうがより深い余韻に繋がったと思う。

【70点】

キネ旬でマッドマックスが1位をとった件。

2016-02-16 22:00:00 | 日記
もう1カ月以上前になるが、2015年の第89回キネマ旬報ベスト・テンが発表された。

http://www.kinejun.com/kinejun/best10/tabid/64/Default.aspx

そして、その掲載号となる最新号を先週購入したので記録として残しておく。



年に一度、このベストテンの掲載号と、昨年より別紙扱いとなってしまった総括号を購入することにしているが、今回が非常に特別な号となった。

理由は1つ、昨年、日本の映画ファンを熱狂させた「マッドマックス 怒りのデス・ロード」が、キネマ旬報のベストテンで1位になったということだ。この映画の芸術性を考慮すれば当然の結果であるものの、まさか「キネマ旬報」でNo1を取るとは夢にも思わなかった。キネ旬の選考者は映画評論家や映画ライターで構成されており、映画監督として活躍するクリント・イーストウッドを神格化している特徴がある。イーストウッドが監督した映画であれば、否応なしにNo1をとるのがいつものお約束。昨年のアカデミー賞で作品賞にノミネートされた映画「アメリカン・スナイパー」だ。赤ちゃんに人形を使ってようが、選考委員のイーストウッド人気は揺るぐことはなく、No1は決まったも同然だった。その座を堂々「マッドマックス 怒りのデス・ロード」が奪ったのだ。痛快(とはいえ、それでも2位は「アメスナ」であるが)。日本の映画評論家という人達も「マッドマックス~」を支持するしかなかったのだろう。

そして、もう1つ。「キネマ旬報」と対極をなす映画雑誌「映画秘宝」でも「マッドマックス 怒りのデス・ロード」がNo1を獲得。この結果は案の上だが、結果として「キネマ旬報」と「映画秘宝」のNo1が一致することになった。これは奇跡に近く、おそらく最初で最後の事態だろう。「マッドマックス~」ファンとしては興奮せざるを得ない。思わず記念撮影をしてしまう。



ちなみに「キネマ旬報」と「映画秘宝」のトップ10を比べると以下のとおり。

【キネマ旬報】
1位 マッドマックス 怒りのデス・ロード
2位 アメリカン・スナイパー
3位 アンジェリカの微笑み
4位 バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)
5位 黒衣の刺客
6位 神々のたそがれ
7位 セッション
8位 雪の轍
9位 インヒアレント・ヴァイス
10位 おみおくりの作法

【映画秘宝】
1位 マッドマックス 怒りのデス・ロード
2位 キングスマン
3位 セッション
4位 グリーン・インフェルノ
5位 ジュラシック・ワールド
6位 野火
7位 ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション
8位 ナイトクローラー
9位 007 スペクター
10位 ジョン・ウィック

2位以降は、両紙の色が明確に出ている。そのなかで「セッション」が両紙から選出されるという快挙。なお、「セッション」についてはキネ旬の読者選出では堂々の1位&監督賞(デミアン・チャゼル)を獲得。大納得である。

オデッセイ 【感想】

2016-02-11 10:00:00 | 映画


ハイパーポジティブムービーの誕生。最高か。
火星に取り残された男。死を覚悟し、悲嘆に暮れるか?。。。いやいや。
「ここで死ぬのはゴメンだ」と、彼はせっせと生き抜くための準備をはじめる。彼に絶望しているヒマなどないのだ。ただただ前進あるのみ。
「火星よ、我が植物学の力を恐れるがよい」。
彼は気負うことなく火星と対決することを決める。ニヤリ。

リドリー・スコットの新作「オデッセイ」。その評判の高さは耳にしていたけど、ここまで多角的な魅力に溢れている映画とは思わなかった。アメリカで大ヒットした理由がよくわかる。なぜなら自分もリピートでもう一度観たいと思うからだ。2013年の「ゼロ・グラビティ」、2014年の「インターステラー」に続く、宇宙映画の傑作であるとともに、過去のどの宇宙映画にもプロットされない新たな価値観で作られた映画だ。そして、とにもかくにも面白い。

6名で構成されるNASAの火星探査チームが火星で不慮の事故に遭い、チームの一員が火星に取り残されてしまう。取り残された男は、事故によって腹部に大怪我を負っている。泣きっ面に蜂。負傷してるし、誰もいないし、救出の目途は4年後のことだ。何とか辿り着いた居住コロニーには限られた食糧しか残っていない。しかもここは火星。外に出ても得るものは何もない。そもそも人間が生きられる場所じゃない。。。。何もかもが最悪な状況。絶望という感情に囚われて当然だ。感情は人間の思考を止める。しかし、本作の主人公、マークは例外だった。

「死ぬ可能性は確かに高い。でも、生き延びる可能性もある。じゃあ、生き延びるためにはどうすっか?」
マークは迷うことなく早々に動き出す。

マークの楽天的な性格によるところも大きいが、それだけでは片づけられない。学者として培ってきた論理的な思考力と、その思考力を持続させる習慣性が彼の実行力に起因したと考える。また、火星でのサバイバルという目的を達成するためには、多くのリスクが伴うことも承知であり、そのリスクに挑戦するだけの勇気も持ち合わせていた。食糧、水、酸素、エネルギーと、人間に必要な要素が欠如する火星で、それらをどう生み出していくのか、あるときは自身の知識から、あるときはふとしたヒラメキから、目の前の課題をクリアするための方策を地道に試す。試しては失敗するが、失敗は成功のもとである。マークの挑戦は次々と実を結び、ことごとく突破。その挑戦の手を緩めることもしない。なんて痛快な男だろう。「孤独」という難題に対しては「GoPro」を相棒にして語りかけ、自身の立場を1人舞台の役者のように客観し、ユーモアを連発しならがら、その場の空気が凍てつくことを避ける。まとめると、本作の主人公は最高に魅力的なキャラであり、彼のサバイバル劇に目が離せないということだ。

マークの個性に魅了されると同時に、何としてでも彼に生き延びてほしいと願うようになる。バッドエンドはあり得ないのだ。そして、彼の地球への生還は誰かの救出なくしては実現されない。ここで物語の舞台がさらに2つに分かれる。1つは、地球から探査チームを火星に送り出したNASAをはじめとする宇宙科学機関。もう1つは、マークを救出することができず地球へ帰還中であった探査チームのメンバーだ。この2つの舞台で起こるドラマが、マークの火星でのドラマと同じく見応えたっぷりに描かれる。

火星での事故の報告を受け、マークの死を公表したNASAだったが、彼の無事を火星の画像監視係が偶然見つける。そのシークエンスの語り口が見事でワクワクする。マークを救出したいものの、それには莫大な費用と多くの宇宙計画を犠牲にしなければならない。NASAのポジション維持と未来を見据え、当初、NASAの長官はマークの救出を渋るが、世論の高まりとNASA機関内での議論の末「救出」の一点にゴールが絞られる。限られたリソース、限られた時間の中で、どうすればマークを救出できるか。。。火星でのマークの奮闘と同様に地球上でも試行錯誤が続く。火星と地球の試行錯誤をシンクロさせて見せる編集が巧い。やがて、マークの救出ミッションが地球規模に広がっていく。地球上のすべての英知とリソースがマークの救出に集中する。ここで中国が出てくるのはご愛敬(笑)。マークの帰りを待つ地球規模のムーブメントと、本作を見守る観客のベクトルが一致するのだ。完全に没入。脚本の勝利。

そして、マークを置き去りにした格好となった、宇宙を航海中の探査チームのドラマも秀逸だ。彼の生存を知らされたメンバーは安堵するが、その後、彼の救出に向かうべきかどうかの決断が迫られる。それぞれの家族が待つ地球への帰還が年単位で遅れることは勿論のこと、「死の可能性の低い5名を優先するか、死の可能性の高い1名を優先するか」という具合で、マークの救出は彼らにもリスクが伴う事態であった。本作ではマーク以外の探査チームメンバーの個性も丁寧に設計されており、とりわけチームのリーダーである女性指揮官ルイスの存在感が効いている。彼女は軍人であり、マークの危機的状況に責任を感じる一方で、無事でいるチームメンバーの安全を守る役割も担っている。彼女の1人の意思で決められることはできず、全員一致の意思決定に委ねる判断に説得力がある。「マークが同じ立場だったら同じ決断をしたはず」と、彼らに迷いはなかった。その決断の様子を熱く煽ることなく、淡々と見せる演出が逆にエモーションを煽る。それぞれの得意技を駆使した救出劇でのチームプレーも見事だ。

マーク演じたマット・デイモンの好演は、彼の演技力だけではなく、彼が素質としてもつ「陽」の気質と、嫌みのないユーモアセンスの賜物であり、これぞ「当たり役」といえる。探査チームのリーダーを逞しく演じたジェシカ・チャステイン(カッコよし!)、宇宙船の操縦士であり、ムードメイカー役でもあったマイケル・ペーニャ、ときに組織の保身を優先しヒール的な役割を担ったNASA長官演じるジェフ・ダニエルズ、マーク救出のために奔走する火星探査責任者を演じたキウェテル・イジョフォー、探査チームの心情に最も近く彼らの代弁者となるチームディレクターを演じたショーン・ビーン・・と、マット・デイモンの1人舞台だけでなく、実力派俳優たちのアンサンブル劇としても大いに楽しめる。

そのアンサンブル劇の指揮をとったのが、監督リドリー・スコットだ。火星という未知の惑星の精緻で美しい映像描写や、美術、小道具の完成度をみれば「なるほど。」と頷けるが、本作のアップテンポでライトな語り口からすると、リドリー・スコットのクレジットがインプットされなければ、彼が監督したとは思えない仕上がりだ。78歳にして新境地に挑み、成功したという見方ができるのではないか。そしてリドリー・スコットの監督が決まる前に完成していたという脚本の力が大きい。脚本はドリュー・ゴダードによるもので、ホラー映画「キャビン」でド肝を抜かせた人だ。脚本の執筆段階でマーク役をマット・デイモンにあて書きしたらしく、その試みが見事に結実している。また、本作のもう1つの脇役として欠かせないのが音楽だ。マークが「悪趣味」(笑)という、ルイス船長お気に入りの70年代のディスコ音楽が、これでもかと映画を賑やかす。このアガる音楽もまた、展開の推進力に大きく貢献する。

ラストのマークの救出劇は想像を絶するものだった。マーク、探査チーム、地球、3者の希望が宇宙の果ての一点で繋がろうとする。運命は自らの力で手繰りよせるもの、そんな本作のテーマを語るうえで象徴的なシーンでもあり、この壮大なドラマのクライマックスに相応しい。

多くの科学考証を重ねたSF映画でもある。火星でマークが実行する多くの挑戦が科学的な裏付けをもって描かれたものであるという。本作は科学を軸とした人間の知性を讃えた物語であると同時に、人類が未知の宇宙へ踏み出すフロンティア精神を讃えた物語でもある。そして、その物語の過程から浮上するのは、生きることを肯定し、奇跡の星、地球で人生を送ることができる喜びだ。新たに芽吹いた雑草を愛おしくなぞったマークの眼差しが印象的だった。

エネルギーを充電するためにまた観に行こうと思う。

【90点】




人生はローリングストーン 【感想】

2016-02-09 21:00:00 | 映画


毎年、この時期になると海外での評判は良かったものの、日本での興行が難しいと判断され、DVDスルーに流れるタイトルがチラホラと散見されてくる。邦題がまるっと変わっているのでわかりにくいタイトルも多く、本作もその典型的なタイトルだ。「人生はローリング・ストーン」って凄いな(笑)。一周半回って深い意味があるのかもしれないけど。。。
原題は「The End of the Tour」。1996年、Rolling Stone誌の記者が、今は亡き小説家、デヴィッド・フォスター・ウォレスの朗読会ツアーに密着取材した5日間を振り返った物語だ。主人公のライターは小説家志望だったが、泣かず飛ばずで雑誌社のライターに甘んじていた。ある日、口コミで知った小説を読んで彼は衝撃を受ける。その小説を描いた作家がウォレスだ。優れた小説家は優れた書評家でもあるのだろうか。その小説を読んだ主人公はウォレスがヘミングウェイやピンチョンと並ぶ伝説の作家になると確信する。雑誌社に直談判して、ウォレスの代表作である「Infinite Jest」刊行の最後のツアーに同行することになる。
本編の大半を占めるのは主人公とウォレスの2人による会話劇だ。同じモノ書きであり、歳も近い2人はすぐに打ち解ける。記者と取材対象という一定の距離感を保ちながらも、主人公がウォレスのはからいで自宅に泊めてもらうなど、ウォレスのプライベートな領域まで踏み込んでいくことになる。出会って間もないのに、さながら旧友のような関係を築く。2人のとりとめのない会話の中から浮上するのは、ウォレスという特異な人物の才能と、人間が持つ豊かな思考力だ。そして、2人の仲良しこよしの共鳴に終わるのではなく、双方が互いの才能、あるいは個性に対する嫉妬が芽生えていく過程も興味深く描かれる。
主人公演じるジェシー・アイゼンバーグと、ウォレスを演じたジィソン・シーゲルの巧みな演技が素晴らしく、ときに心地よく、ときに辛辣な2人の間に流れる空気を現実感たっぷりに醸成する。アイゼンバーグは元々器用な俳優であることはわかっていたけど、驚くべきはシーゲルのパフォーマンスだ。天才でありながら、心を病を持つ男の陰りを見事に体現してみせる。コメディ映画のイメージが強く、こんなに巧い俳優だとは思わなかった。
ウォレスは2008年に自殺で亡くなっており、映画はその悲報を聞いた主人公の回想記として描かれる。惜しむらくは、たった5日間の付き合いだった主人公が、そこまでウォレスに影響を与えられた経緯、描写が不十分に感じられたこと。リピートで観たら、また違う味わいが出てくるのかもしれない。
【65点】

ジ・アメリカンズ シーズン1 【感想】

2016-02-07 15:00:00 | 海外ドラマ


もう当分、NETFLIXに戻ることはないと考えていたが、今年に入って戻ることにした。日本でのリリースが待たれていた海外ドラマ「ジ・アメリカンズ」がNETFLIXで配信開始されたからだ。それを知ったのは昨年の年末のことだったが、どうやら12月早々にリリースされたらしい。NETFLIXはホントに宣伝が下手だ。NETFLIXのオリジナルコンテンツではないが、自分が知る限り、他の放送チャンネルではどこも扱ってないので、現状NETFLIXの独占リリースの模様。

計13話のシーズン1を見終わった。
聞きしに勝る面白さ。いやはや面白い。
新たな追っかけドラマシリーズがまた1つ増えた。

物語は1980年代前半、米ソの冷戦時、アメリカに潜伏するKGB(ソ連のスパイ)夫婦を描く。夫婦といっても彼らは偽装夫婦。アメリカ社会に溶け込み、任務遂行の便宜として婚姻関係を結んでいるだけで、元々は赤の他人だ。当然結婚に至るまでの愛情はない。そして、アメリカ社会の目をさらに欺くために一男一女の子どもをもうけている。子どもたちは中学生くらいの年になっているが、今でも両親たちがスパイであることを知らない。ご近所つきあいにも積極的で社交的だ。見た目はどこにでもいる幸せ家族である。



夫のフィリップ、妻のエリザベスはともにKGBの精鋭中の精鋭だ。母国ソ連への忠誠が任務遂行のモチベーションとなっていて、あらゆる手段を使って母国へアメリカの情報を流している。お互いアメリカの機密情報を得るために、他の人間と体の関係を持つことも日常茶飯事。いろんな意味で体を張っている工作活動を続けている。
そんなある日、運命のいたずらか、彼らの隣にFBIに勤める一家が越してくる。ここからが本作の始発点だ。

FBIによる赤狩りが激しかった頃の時代。そのターゲットであるスパイがまさか隣にいるとはツユ知らず。一方、フィリップ夫妻はその隣人のFBIの動向に警戒しながらも情報収集の一環として利用しようとする。両家はともに同年代の子どもをもち、親同士の年齢も近いことから、家族ぐるみのつきあいをしていく。ホントに仲がよい両家だ。そんな穏やかな交友関係とは裏腹に、KGB VS FBIの攻防は熾烈を極め、ついには血で血を争う「戦争」へと発展していく。劣勢続きであったFBIがKGBの中に「モグラ」を仕込んだあたりから、さらに緊張感が増していく。序盤の緩いスタートからは想像できないほど、回を重ねるごとに物語はハードになっていく。

KGBとFBIの戦いは実にスリリングでそれだけでも見応えがあるが、本作の魅力はもう1つある。それは家族愛、夫婦愛、友情、恋愛などの人間ドラマが濃密に描かれている点だ。それも洗練されたものではなく、あえてメロドラマのようなベタな描き方を選んでおり、1980年という時代の色とマッチしていて面白い。

フィリップ夫婦の愛は偽物から始まっているが、子どもたちへの愛は真実であり、夫婦としての愛情も、家族として過ごしてきた10数年の中で本物になりつつある。おそらくソ連からの命令よりも彼らは「家族」を選ぶに違いない。そして隣のFBIの家族、そしてFBI組織の中でも様々なドラマが繰り広げられる。登場するキャラクターたちがそれぞれの任務と人情の狭間で揺れ動き、展開をスムーズに進めることを妨げ、結果的に本作のスリルを増幅させていく。その脚本が秀逸だ。

人間のむき出しの感情によって多くのルールが突破され、ドラマのダイナミズムに繋がる様子は、時代もテーマもまったく違うが1997年の傑作映画「L.Aコンフィデンシャル」に近いものを感じる。

フィリップ演じるマシュー・リースと、エリザベス演じるケリー・ラッセルの熱演も素晴らしく、2人の迫力の格闘アクションと、変装パフォーマンスも本作の見せ場の1つだ。中でも一番のお気に入りはマシュー・リースの金髪結婚詐欺男への変装で、胡散臭いながらも相手の女性を手玉にとってしまう立ち回りが見事で堪らない。

シーズン1の最終話では絶体絶命の危機が描かれ、面白くてもう目が離せなかった。

ありがたいことに、先月末からシーズン2がNETFLIXで配信開始された。NETFLIXに感謝。引き続き、観ることにする。

【85点】

シーズン2 【感想】
シーズン3 【感想】
シーズン4 【感想】
シーズン6(最終シーズン) 【感想】


ブラック・スキャンダル 【感想】

2016-02-06 08:00:00 | 映画


かつて個性派俳優と言われた数少ないハリウッドスター、ジョニー・デップ。昨今、珍作への出演連打によりその面影はすっかりなくなった。昨年の日本でのお寒い事故もあって「お騒がせセレブ」としての顔がすっかり定着している。もはや帰らぬ人となっているニコラス・ケイジの二の舞を感じていたが、本作で演技者としての底力を見せつける。

1970年代から1980年代にかけ、ボストンで一大勢力を築いた実在のマフィア、ジェームズ・バルジャーを描いたクライムサスペンス。

バルジャーが他の歴史上のマフィアと大きく異なる点は、水と油の関係であるはずのFBIと、ズブズブの癒着関係にあったことだ。当時のFBIはイタリア系マフィアの一掃に躍起になっていた。そのマフィアのボスを逮捕するための情報源として、彼らと縄張り争いをしていたアイルランド系マフィア、バルジャーと手を組んだ。FBIにとってはおおやけにすることはできない禁じ手であり、パルジャーにとってもまた、仲間の憎悪の対象であったFBIと組むことはリスクがあったはずだ。しかし、パルジャーはその見返りとして、ボストンで好き放題やってよいという免罪符を得る。そのおかげで、町のチンピラ風情に過ぎなかったパルジャーが、非道を尽くして自らの犯罪組織を拡大させていく。FBIはパルジャーを見抜けなかった。

このスキャンダルはやがて明るみになるが、本作はその史実の再現に留まらない。癒着のきっかけを作り、バルジャーとの連絡役として暗躍したFBIの男(ジョン・コノリー)が、バルジャーと旧友関係にあったという事実があり、その2人の信頼関係が物語の骨子になっているのだ。「失うものより得るものが大きい」と、大きな賭けに出たFBIだが、その作戦の渦中にいたコノリーは、パルジャーとの友好関係のなかで多くの恩恵に預かることになる。正義を曇らせ、自らの利益と保身のためだけに立ちまわるコノリーは、その立場は違えど、マフィアのパルジャーと同類に見えてくるのがおかしい。コノリー演じたジョエル・エドガートンの熱演が素晴らしく、人生の坂道を転がり落ちていく男の狼狽ぶりが見物だ。

しかし、そんなエドガートンの印象をも吹き飛ばすほどのインパクトを与えるのが、主人公バルジャーを演じたジョニー・デップだ。禿げ面オールバックの特殊メイクに、いつもの調子を思い返し懸念していたが、「生来の犯罪者」という邪悪な個性を冷徹な眼差しに宿らせ、男の闇を迫力たっぷりに体現する。どのタイミングで狂気が発動されるかわからず何度もゾクゾクした。ジョニデのパフォーマンスに心惹かれたのは何年ぶりだろうか。彼が本作で最高のパフォーマンスを見せた、というよりは、彼のポテンシャルが久々に発揮されたという見方が適当だろう。本作の脚本もバルジャーの動向に比重を置いた内容になっているので、なおさらジョニデの印象が強くなるというものだ。

バルジャー、つまりジョニデの1人舞台に近い。これは良くも悪くもだ。バルジャーを描くことを優先したことで、彼に関わる周辺の登場人物たちの造形描写が疎かになっているようだ。その割を一番食ったのは、バルジャーの弟であり、マフィアと畑違いの政治家だったウィリアム・バルジャーだ。マフィアの兄をどう考え、兄弟の絆をどう継続したのかが十分に描かれず、兄弟という設定だけで済ませている。本来、2人の兄弟関係というのが強く描かれて然るべきなのに、かなり薄味になっているのが残念。そして共演者が豪華であったという点も大きい。ウィリアム・バルジャーを演じたカンバーバッチに始まり、ケビン・ベーコン、ピーター・サースガード、ジュノー・テンプル、コリー・ストールと、主役級あるいは芸達者な俳優たちが出るわ出るわのオンパレード。また、ドラマ「ブレイキングバッド」の「トッド」役で演技派としての存在感を示したジェシー・プレモンスの登場と、その強烈な面構えにテンションが上がるも、以降、見せ場という見せ場がほとんどなくバルジャーの取り巻きの一人になってしまっていて勿体なさ過ぎる。名脇役たちの表層を並べた見本市みたいだ。その中でもサースガードあたりは少ない出番でも良い仕事をするけれど。

本作のもう一つの特徴は、主要キャラに「幼なじみ」という背景を持たせながらも、過去の回想シーンを放棄し、当時の現在進行のみを追っている点だろう。ここも人物描写同様、両刃の刃だ。過去を振り返らないことで展開にもたつきがなくなりスピード感が得られる一方で、ボストンの故郷で育まれた主要キャラ3人の関係性が想像されにくい。バルジャーの豪腕ぶりにフォーカスした作りなので、本作の選択は正しかったと思うが、ドラマとしての味わいは薄く、残り香のないスリラーとして楽しむことに終始する。まぁそれだけでも十分な映画なのだけれど。

【65点】

ルック・オブ・サイレンス 【感想】

2016-02-05 10:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。
1960年代、インドネシアで起きた100万人の大虐殺。その全容を加害者視点から振り返った前作「アクト・オブ・キリング」に対して、被害者視点から追ったのが本作。当時の虐殺によって兄を殺された男が、加害者たちを訪問し、兄の死を探るためにインタビューをして回る様子が収められている。前作同様、監督オッペンハイマーの演出が非常に強いが、それがプラスに働いた前作に対して、本作はマイナスに働いているようだ。気を使うべきは加害者よりも被害者のほうであり、起きた悲劇の真相をそのまま誠実に映画としてまとめるのが適当と考えるが、インタビュアーとなる主人公に無駄な演技をさせるなど(前作ほどではないが)、水を差すシーンが多い。
また、被害者視点といっても実際に被害にあった人たちのインタビューではなく、その先で出会った加害者側の視点から語られる内容に留まっている。なので、前作とは違う情報や価値観に触れることが少ない。「被害者視点-」というのは、配給会社が勝手に作ったコピーかもしれないが、本作はあくまで前作の番外編といった感じ。前作ではあまり語られなかった加害者家族たちの視点が含まれていたのは興味深く、「共産主義者を排除した父を誇りに思う」という娘の発言が印象的だった。但し、その後の父の凄惨な殺害方法を初めて聞き「恐ろしいわ。。。」と普通にドン引きしていた。それを見てホッとする。
【60点】

共犯 【感想】

2016-02-05 09:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。
自殺した女子高生の遺体を発見した男子高校生3人が、女子高生の死因を探っていくミステリー。いじめられっ子で友達がいなかった主人公の男子が、現場にたまたま居合わせた同学年男子と秘密を分かち合うことで同志的な友情を育んでいく。10代の青さを活かした瑞々しい描写がベースになっているが、そこに無知や無関心による10代の冷酷さが加わっている。SNSの存在をすべてネガティブに捉える必要はないが、リアルなコミュニケーションの希薄化は他者を思いやることを一層難しくさせ、顔の見えないお手軽なコミュニケーションは人を暴力的にする危うさを孕む。
謎解きドラマを通して、現代の10代が抱える問題を浮き立たせるアプローチは悪くないが、不思議なほど「共感」として感情に落ちてこない。物語の展開を生み出す登場キャラの心理描写がもう少し欲しいところ。始発点となる女子高生が自殺に至った背景や、主人公が事件の迷宮を作り出そうとした背景だ。本作のそれは、なんとなしに感じるレベルであり、彼らが辿った結末も運命的なものとして処理できない。
映像の手触りは「リリイ・シュシュのすべて」に非常によく似ている。映像特典の監督インタビューで「日本の映画監督で影響を受けた人は?」と問いに「岩井俊二」と回答。なるほど。
【60点】

ターナー、光に愛を求めて 【感想】

2016-02-05 08:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。
1800年代初頭に活躍した英国画家、ウィリアム・ターナーを描いた伝記映画。マイク・リーの新作であり海外での評価も高かったので楽しみにしていたが、やや肩透かしだった。「見ていて楽しめる」いつものマイク・リー映画とは違い、ターナーという男の人物像や、彼の芸術性の解釈に焦点を置いた内容だった。どこを切り取っても絵画のような当時の風景は目に楽しく、悲喜劇を交えた当時の美術界の人間模様は興味深い。また、ターナー演じるティモシー・スポールの多彩な名演に、一世一代のハマり役と評された理由もわかる。しかし、普段まったく馴染みのない絵画アートに密着している男の生き様は、理解や共感するには難しく、魅力と感じる点も少ない。起伏よりも平坦なストーリーは150分という長尺をもたせるには不足。
ターナーを描く上で映画では3人の女性が登場する。ターナーが扶養を放棄した内縁(?)の妻、ターナーの召使で時に慰みの対象となる女性、ターナーが恋に落ちて後の伴侶となる未亡人の女性。映画の中盤から最後まで、3人目の女性との平穏な夫婦の営みが描かれるが、ターナーに捨てられた格好となった、2人目の召使にもターナーへの愛情があったことを示唆するシーンがラストに差し込まれる。マイク・リーらしい眼差しを感じた結末だった。
【60点】