自分の趣味嗜好があるかもしれないが、映画館で観て満足できた日本映画があまりない。
その多くは、予想通りか、期待外れなものである。
そんな中、昨年、映画館で見逃してしまったことを悔やむ日本映画に出会う。
内田けんじの新作「鍵泥棒のメソッド」は、日本映画にしては稀にみる傑作だった。
DVDで自宅鑑賞ながら、観終わって1人興奮してしまった。
大スクリーンで観なくてもよいレベルの映画だが、
イチ映画ファンとしてこの映画を公開時、リアルタイムで楽しめなかったことが残念だった。
本作は、人生に絶望していた売れない役者が、
記憶喪失となった殺し屋になりすましたことで起きる騒動を描いたものだ。
「お見事!!」と、思わず拍手してしまいたくなる秀逸な脚本だ。
オリジナルストーリーに拘り、自分で脚本も書いてしまう内田けんじの才気を改めて感じてしまう。
「運命じゃない人」「アフタースクール」と、過去2作いずれもハズレなしのコメディだったが、
3作目となる本作「内田ワールド」の完成度は特筆すべきものだ。
徹頭徹尾ブレることない語り口と、人間の可笑しさを見逃さない視線。
何気ない情景に散りばめられた伏線が、物語を追うごとに綺麗に回収され、
無駄なく、予測不能な展開の原動力になっていく。
作り込まれた主要キャラ3人の描き方も非常に面白い。
とりわけ、記憶喪失となった殺し屋が、持ち前の完璧主義を発揮し、
役者として才能を見出していく過程とか、可笑しくて仕方ない。
それら魅力的なキャラを好演したキャスティングも申し分ない。
ダメ人間を地で行く堺雅人のみっともなさに大笑いし、
記憶喪失前後で、キャラが180度変わってしまう香川照之にまた大笑いし、
天然で、予定通りの人生を一途に追っかける広末涼子は可愛くて堪らない。
堺雅人や香川照之のハマり具合は予想の範疇だったが、
広末涼子のコメディエンヌぶりは予想だにしない発見だった。
狙いにいったコメディを得意とする三谷映画とは異なり、断然こっちがハイセンス。
タイトルの「鍵泥棒のメソッド」というネーミングも実に巧い。
こういう映画が日本映画のスタンダードになってくれると、日本映画ももっと観に行くのだけれど。
極上のコメディであり、サスペンスであり、小粋なラブストーリー。充実の120分。
ハートを打ち抜かれた爽快感たっぷりのエンディングには「やられたー!」である。
エンディング曲の吉井和哉のノリノリな曲と合わせて、気持ちよさのあまり万歳。
もう大満足。
【90点】