から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

イコライザー 【感想】

2015-03-28 22:14:03 | 映画


新作DVD感想。

イコライザー 【65点】
痛快痛快。ホームセンターに勤める男が、巨大なロシアンマフィアの組織をたった1人で「浄化」する話。タイトルの「イコライザー」よりも「クリーナー」。男の目的は1人よがりな正義にあらず。平穏に実直に生きる人々を脅かす悪をこの世から取り除くことにある。その悪に対しても制裁や天罰を与えるのではなく、正しいことを為す機会を与える。平和的な解決を前提とするが、そう簡単にはいかず、更正のしようのない悪が立ちはだかる。力には力をもってしか、終わらせることのできない現実。「お前に対しては例外だ」と、そこから一気に容赦のない男の殲滅作業がはじまる。男は一騎当千の凄腕をもち、男の前では銃も玩具同然になる。その手並みの鮮やかさが堪らない。「どこまで強いんだ?」というツッコミはどこかへ行き、その痛快さに身を任せる気持ちよさ。主人公は無敵の聖人であり、デンゼル・ワシントンが説得力をもった存在感で魅了する。西部劇を観ているような味わいだ。物語の構成もシンプルにしてあるのが良い。ただ、クロエのキャラは、クロエ人気を意識したリップサービス程度で、彼女じゃなくても良かったと思う。続編あったら劇場で観たい。

ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE2 サイキック・ラブ 【40点】
「こんなの映画と認めん!」は映画の多様性を否定してしまうことになるのか。1つ言えるのは、前作に続き映像作品として普通に面白くない。「ゴッド・タン」は好きだが、番組の特番でやってほしい話だ。映画にしたことで無駄な色気を出した分、逆につまらなくなった。これを劇場で観ることを楽しみにしているファンがいると思うと複雑だし、映像特典で、演者たちが「廊下での長回しシーン、凄いな!」としきりに感動するのを見て悲しくなる。本作の最大の魅力は劇団ひとりのアドリブだ。アドリブを軸に映画を作り出していく、その製作プロセスは斬新だし、強い可能性を感じる。但し、本作においては、その土台となる脚本があまりにも幼稚だし、低レベル。映画という高い入場料金を支払う以上「お笑いバラエティなんだからー」というノリはやめてほしい。ちゃんとした映画人が、アドリブという本作のプロットをそのまま継承し、本気で映画を撮ったら、とんでもない傑作ができそうな予感もするのだけれど。

グレート・ビューティー【55点】
「年甲斐がある」という年齢は何歳なのだろうか。主人公の男は65歳だが、まだまだ「男」だ。
過去にヒット作を出して以来、小説を書いていない「小説家」が、10代の若き日に恋した女性の死を受け、追憶の日々を送る話だ。物語は変化することを避け、ローマの町をウロウロする主人公をひたすら追っかける。夜な夜な繰り広げられるセレブな人たちの狂乱パーティーに埋もれ、主人公の虚無感がさまよい続ける。観念的とまではいかないが、まるですべてが主人公の白昼夢のようだ。上映時間は2時間半。その時間のすべてに夢中になれるほどの想像力をもっていない自分には厳しかった。パオロ・ソレンティーノ映画の中では一番苦手な映画だったかも。主人公のお爺さんにダンディズム以外の魅力を感じられなかったことも大きい。
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イミテーション・ゲーム 【感想】

2015-03-20 08:00:00 | 映画


第二次世界大戦を2年早く終わらせ、1400万人の命を救ったといわれる男がいた。アラン・チューリングという天才数学者であり、彼は時代に翻弄された悲劇の英雄である。

毎年この時期は、洋画のゴールドラッシュだ。前年北米で公開され、好評を得た映画たちが堰を切ったように日本市場になだれ込む。映画ファンとしては春の陽気とともにテンションが上がる。で、今年の重要タイトルである「イミテーション・ゲーム」を観た。想定外に娯楽性があって、胸に響くドラマだった。期待を上回る傑作。見終わって「これってラブストーリーじゃないか・・・」と余韻に浸る。

第二次世界大戦中、ナチスが攻勢を強めるなか 、解読不可能とされたナチスの通信暗号「エニグマ」の解読に挑む英国チームを描く。そのチームの中心にいるのが、自らを「世界一の数学者」と豪語するアラン・チューリングだ。彼は後からチームに加わった後輩だったが、結果を出さないチームの現状をみて、力業でチームの指揮権を奪う。チームの爪弾き者として衝突するが、周りのメンバーの感情はお構いなし。彼の目の前にあるのは「エニグマ解読」という目標達成だけだ。実際にその達成までのビジョンを描けていたのは彼しかいなかった。そしてエニグマというマシンに対抗する、手製のオリジナルマシンの開発に心血を注いでいく。

戦争の終結に多大な影響を及ぼした「エニグマ解読」。それは知られざる重大な史実だった。本作はその全 容を描くとともに、解読に挑んだチームの人間模様、そしてその渦中にいたチューリングの人物像に深く迫る。

まず、本作を観て感じたのは抜群のわかりやすさだ。数学、暗号解読といったとっつきにくいテーマを扱うにも関わらず、とても内容が明確でわかりやすいのだ。状況説明を代弁する登場人物たちの会話は、比喩やユーモアを交えて端的に発せられるため、観ているこっちの理解浸透が早い。チューリングを軸に3つの時代を交差させながら進むストーリー構成も、一見複雑なのだが違和感なく理解できる。このテの映画にありがちな置いてきぼりを食らうことはなく、物語の波に気持ちよく乗っていける。お見事だ。

当時、アメリカ、旧ソ連など、世界の強国が挑んだエニグマ解読だったが 、「デジタル」なんて言葉すら存在しない時代、その解読パターンは159000000000000000000(0が18個)通りという天文学的なもの。解読は不可能とされた。解読チームのメンバーは、チェス、クロスワードの達人などで構成され、彼らは誰もが解けない問題を自らの頭脳でクリアすることに喜びを得る人種である。その志向の延長で始まった挑戦は彼らにとってはいわば「ゲーム」。しかしエニグマという最強王者に打ちのめされる日々のなかで、その目的は次第に変わっていく。「敵はナチスではなく、時間」という言葉が秀逸だ。映画はその解読への挑戦過程をスリリングかつ、ダイナミックに描く。この筆致が、ワクワクして堪らない。終盤のクライマックスでは登場キャラの心理と完全に同化し、ボルテージが一気 に上がった。物語のリズムを使い分けることで、強い引力を生み出して観る者を離さない。このあたりは演出のなせる業か。本作が英語映画デビューとなるモルテン・ティルダムがオスカー監督賞にいきなり候補入りされたことにも納得だ。

解析チームと軍上層部との衝突や、スパイを巡るサスペンス、解読達成の先にあった非情過ぎる現実など、どれも見ごたえ十分。そして女性の社会進出を当たり前のように阻む性差別や、同性愛を犯罪とする性差別など、多くの人権を虐げていた時代の闇を、強い説得力と共に描き出す。歴史ドラマとしても高い完成度を誇るが、本作はさらにその向こう側へ行く。
それは、チューリングがエニグマ解読に懸けた、もう 1つの理由にある。それは史実とは異なる解釈かもしれないが、素晴らしい脚色だったと思う。チューリングが感情を爆発させるそのシーンに涙があふれた。

チューリング演じるのはカンバーバッチだ。天才かつ個性的なカリスマキャラは「シャーロック」でのホームズと重なる部分もあるが、本作ではチューリングの孤独と悲哀、秘めた情熱を繊細に演じてみせる。そして、チューリングの元婚約者であるクラークを演じたキーラ・ナイトレイがまた素晴らしかった。母性に近い大きな包容力でチューリングを包み込む女性を、しなやかに演じる。チューリングとクラーク、2人の異性愛を越えた絆に最後の最後まで胸を打たれた。ほか、マシュー・グードや、マーク・ストロングなど、ザ・英国俳優たちの キャスティングも映画をグッと引き締めてくれる。あと、現在ドハマリ中である「ダウントンアビー」の駆け落ち男「ブランソン」が、重要キャラとして好演をしていたのが嬉しかった。

「事実は小説より奇なり」というが、本作はその事実にあえて肉付けを施し、歴史ドラマの枠を超えた人間ドラマに昇華させた。チューリングが見ていたもの、その愛は切なく美しい姿をしていた。うん、やっぱ、この映画、ラブストーリーだよな。

【90点】

コメント (2)
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ザ・レイド GOKUDO 【感想】

2015-03-19 01:57:32 | 映画


ザ・レイド GOKUDO 【70点】
劇場スルーした「ザ・レイド」の続編を新作DVDで見る。前作と肉付き(体型)が大きく変わったけども、結果、これはこれでアリ。非常に面白った。前作の壮絶な戦いがあった直後から話が始まる。主人公ラマの心身疲労をよそに、あれよあれよという間に今度は潜入捜査に挑むことになる。警察、地元ギャング、日本ヤクザの3つ巴の戦いに話が広がり、地元ギャング間の抗争も加わって、かなりボリューミーな内容に。前作の高層ビル内という限られたスペース内での舞台は、本作では屋内外を問わず多種多様な空間に広がり、カーアクションまで飛び出す(但し爆破はなく、あくまで人間の身体能力のかけたもの)。いろんな種類の揚げ物を盛って盛って盛りまくった大食いメニューのようだ。すべてはアクションを魅せるための脚本であり、この方向性には大賛成。泥地でのアクションなんかまさにそう、難易度の高いアクションを見せつけるための舞台である。惜しむらくは、アクションに何の関わりを持たなかった日本のやくざの登場。あれは不要だと思った。日本語のセリフが無駄に聞き取りにくかったし。前作を大きく上回るアクションのバラエティ、想像性を強く感じさせる圧巻のカメラワークなど、見応え、食べ応え十分。スプラッター感も過剰なほどにパワーアップして笑いを誘う。そしてトドメのクライマックス。「終わらせるには、全員を倒さねばならない」で主人公ラマが体1つで殴り込みにかかる。「キターっ!!」と、怒涛のノンストップアクションに血沸き肉躍る。本作のハイスピード格闘アクションは 、緻密な計算と双方の強い信頼に上に成り立っている。これはアクションという名のアートだ。あと、ギャングの若頭のイケメン俳優がかなり演技が巧く、印象的だった。

FRANK ーフランクー 【55点】
ミュージシャンを夢見る平凡な男子が、ひょんなことから風変わりなロックバンドのメンバーに加わるという話。タイトルの「フランク」はバンドのリーダー(?)の名前であり、食事、寝るとき、シャワーの時まで、ずっと頭に被りモノをしている。本作は間違いなくコメディだと思うのだが、どっからどこまでが面白いのかよくわからなかった。一言でいえば「シュール」な作りであり、フランクや他メンバー、一般人である主人公との間で起きるヘンテコな空気のマが笑いを生み出すのだが、それ以上の価値を見出すのが難しい。結局、物語の中心にいたフランクのキャラが天才なのか、凡人なのか、ただの病人なのか、うやむやに描かれ、その魅力が十分に語られない点が大きい。ライブのシー ンもグダグラに終わり、高揚感のないまま終了。主人公演じたドーナル・グリーソンは、個人的には「アバウトタイム」よりも等身大キャラとして納まりが良く、ナイスな好演ぶり。また、マギー・ギレンホールの変人キャラが新鮮で面白かった。フランク演じるマイケル・ファスベンダーは相変わらずの細マッチョぶり。ラストにフランクが歌う「あ~い、ら~~びゅ~~♪」が、なぜか耳に残った。

罪の手ざわり 【60点】
中国を舞台に、実在の事件をベースに作られた4つのオムニバスからなる映画。炭鉱の利益を搾取する人間たちにキレて「八つ墓村」する中年メタボ男、出稼ぎと偽り強盗を繰り返す小男、商売女と侮辱され包丁を振り回す女、職を転々とし行き場をなくした青年。どの事件も大量の血を流すのが印象的で、その描写はなかなかのインパクト。各話ごとに都市部、郊外、田舎とロケーションが次 々と変わり、現代の中国の情景が見えてきて興味深い。「格差社会にある虐げられた弱者たちの不条理」みたいなものがテーマなのは理解できたが、事件の動機にあまり共感できない。冷徹な視線が行き過ぎて、キャラクターたちの必然性すら削がれてしまった印象。1話目の炭鉱「八つ墓村」男は単なる自己中に見え、3話目の包丁女は侮辱シーンも含めてコントに見えた。監督は名だたる映画人、評論家たちから熱い支持を受けるジャ・ジャンクー。個人的に苦手な監督の1人だが、本作は過去作に比べて一番とっつきやすかった。説明することを避け観客の想像力に委ねる作風は相変わらずだが、過去作のなかで一番動きがある。いろんなメタファーが散りばめられているのもわかりやすい。それでも 上級者向きの映画には変わりないのだが。
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プリデスティネーション 【感想】

2015-03-18 02:10:31 | 映画


劇場の空気が一変したのがわかった。退屈で淀み切った空気が、中盤からスクリーンの中に吸い込まれていくような感じだ。
2010年の「デイブレイカー」ですっかりハマったスピエリッグ兄弟の新作。その期待を裏切らない面白さだった。

過去と未来を行き来することだできる時空警察の男が、その時代で多くの命を奪う連続爆弾犯を追い詰めていくという話だ。予告編で見た、「バンバン」と早いテンポで姿を消し、未来、過去を自由に行き来する登場キャラのアクションから、スピード感をもった展開を勝手に想像していた。しかし、序盤を過ぎたあたりから、流れが一気にスローダウンする。過去の時代にタイムスリップした主人公が捜査のために、バーテンになりすますのだが、そこで知り合った客と酒を片手にグダグダと話を始める。その話は、話し合い相手である客の身の上話だ。「捜査に無関係ではない」と信じながらも、まったくゴールの見えない長時間に及ぶ思い出話に、観ているこっちの集中力が切れてくる。「こんなルーズな映画を見に来たわけじゃない」と自分を含め、周りの人たちが思ったはずだ。劇場ではスマホをいじり出す人たちもチラホラ出てくる始末。そんな退屈な空気が、バーテンに扮した捜査官の意外な一言から急展開する。その一言に端を発した行動も、捜査とどう繋がっていくのか全く見えないのだが、先の読めないその展開がいつしかスリルに転化し、観る者を引きつけていく。

「すべての任務は終点への道標」という劇中セリフが示すとおりだ。バラバラに散りばめられ、無関係と思われたイベントが、時空を超えてことごとく意外なところで繋がりを見せ始める。そして、最後のラストの1カットにそれらが見事に集約されてしまう。まさに圧巻。見届けた瞬間、思わず絶句した。劇場全体に「ハッ」と息を飲み込んだ音が一瞬聞こえた気がした。タネ明かしの見せ方だけではない。おそらく、序盤のルーズな展開による観客のリアクションは織り込み済みであり、結末まで観客たちを支配するために必要なタームであったと判断したのだと思う。しかし、それは同時に勇気がいることでもあり、序盤の展開で完全に気持ちが離れてしまう観客を生み出すリスクも伴う。実際にエンディング早々に余韻に浸ることなく、席を立つ人も多かった。自分は完全にハマった口だけど。

また、前作の「デイブレイカー」同様、浮き世放れしたSFの世界であるにも関わらず、ドラマを十分に感じさせてくれる。今回はかなりの変化球で、結末を迎えないと主人公の生き様を実感することができない。それを踏まえ、振り返ってみると無駄に思えたバーテンでのグダグダな会話劇も、もう一度見返したら味わい深いシーンだったのかもしれない。少なくとも一度目と二度目では、作品の色はまるで違ったものに映るだろう。DVDで見返すのが楽しみになってきた。

主人公演じるのはイーサン・ホーク。すっかり皺が目立つおじさんになったけれども、「ガタカ」といい「デイブレイカー」といい、SFとすこぶる相性が良いのは何でだろう?1つ言えるのは端正な顔立ちと、いつまでも変わらぬ体型の賜物かもしれない。

主要キャラは他2名という、かなりの小品ながら、そのスケールの窮屈さをまるで感じさせない映画だ。スピエリッグ兄弟、引き続き要チェックである。

【70点】

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博士と彼女のセオリー 【感想】

2015-03-17 00:09:03 | 映画


「宇宙、そして万物の謎を解く方程式はエレガントで美しいものであるはずだ。」
どこまでも美しく描かれる「博士」と「彼女」の物語はその方程式を導き出そうとする。

「博士と彼女のセオリー」を観る。初日のレイトショーで観たのだが、びっくりするほどガラガラで少し寂しかった。TVCMを大々的に打ってないからかな・・・。

天体物理学者ホーキング博士と、その元奥さんであるジェーンを描いた物語だ。ラブストーリーであるが、主人公の2人をそれぞれ自立したキャラクターとして描いている点が特筆すべきところだろう。ホーキング博士演じたエディ・レッドメインだけでなく、ジェーンを演じたフェリシティ・ジョーンズも主演候補としてアカデミー賞に名を連ねたのも納得だ。

ホーキング博士については、その名前と何者なのか、何となく知っている程度の予備知識。なので、彼がどのように青春期を過ごし、いかに天才ぶりを発揮させ、何を成し得たのか、それを知るだけでも新鮮だった。ただし、本作はホーキング博士の伝記ドラマではない。愛し、愛された男女の愛の軌跡、その行く末を描く。
2人の感情の向かうところは丁寧かつリアルに描かれる一方で、ALSという難病に冒された人物の実生活は、あえてリアリティを避けて描かれる。悪くいえば「綺麗ゴト」ばかりなのだが、その複雑さ、恥部といったリアリティーを追っては、本作が目指すべきゴールには辿り着かなかったはずだ。

なので、本作は終始美しい光景に包まれる。2人が若かりし日にダンスを踊った野外舞踏会が印象に残る。不確かだった2人の愛情が確信に変わったシーンで、打ち上げられた花火がそれを歓迎する。その後、2人の人生を映し出すカットは柔らかい陽光に照らされる。カメラは2人を見守るような視点を崩さない。彼らを取り巻く家族、友人から発せられるのは善意と良心だ。闇や悪意が取り除かれ世界で、2人の感情の移ろいが色濃く浮かび上がってくる。

本作でオスカー俳優となったエディ・レッドメイン。自由である肉体を、不自由に扱うことの負荷は相当なものだったろう。そして、声を発することも、表情を変えることもできなくなってからの感情表現は、「なりきり」を通り越し、キャラクターの真と同化する。そして大好きなフェリシティ・ジョーンズ。素晴らしかった~。相変わらず出っ歯がチャーミング。若い女子から成熟した女性まで見事に演じきり、ときに力強く、ときに脆い、複雑な感情の機微を表現してくれた。彼女のおかげで物語をグッと近くに感じることができた。

物語は1960年代~1990年代までの2人を描く。夫はALSで天才。ストレートに人生は進まない。様々な転機を迎えることになるのだが、それを本作はあえて明確に提示しない。この点については想像力の足りない自分にはやや物足りなかった。釈然としないまま進んで「結局どうだったの?」と素直に感情移入できないシーンもあった。

万物には始まりがあり、終わりがある。ただし、宇宙は別。ホーキングが追い求めたものだ。では2人はどうだったのだろうか?その起源を示したラストシーンが、また美しかった。

【65点】
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シェフ 三ツ星フードトラック始めました 【感想】

2015-03-08 08:00:00 | 映画


主人公のシェフは誰からも慕われている。職場の部下、関係をもった同僚、別れた妻、1人息子。それは彼が作るすべての料理が人を魅了し、彼自身もその料理が人を幸せにすると実直に信じているからだ。この映画は反則である。美味しい料理を目の前にしては降参するしかないのだ。

「フォックスキャッチャー」に続いて、今年の私的ホームラン2号はこの映画だ。
「大好き!」と声を張って言いたくなるほど好きだ。
監督ジョン・ファブローの良心と情熱にあっぱれ。

オーナーと料理の方向性で喧嘩をしてレストランをクビなった男(カール)が、心機一転、フードトラックを始め、アメリカを横断するという話だ。料理人は表現者である。自分の 持てる思想と技量を駆使して、食材を調理し、一皿の上に料理という形で表現する。芸術家と呼ばれる人たちと違う点は、食べる人を選ばず、感動を与えるという使命を帯びているところか。本作の主人公もそうだ。オーナーとの喧嘩の火種となった「新しい料理を提供したい」という想いは、自身への評価もあっただろうが、結局のところ、食べる人に新しい感動を与えたいという信念に基づくものだ。但し、本作はその彼の信念を無条件に肯定はしない。「定番料理」もまた人に感動を与えるものだとする。カールが1人息子を市場の買い出しに連れていくシーン、ジャンクなお菓子(ポップコーン?)を食べたいとねだる子どもに対して「あんな添加物てんこ盛りな食べ物よりフルーツを食べろ」と言いながらも 、次のシーンでは、間髪入れずにカールも美味しそうにそのお菓子を頬張っているではないか(笑)。そう、美味しい食べ物には理屈なんてなく、「美味しいものは美味しい!」それだけなのだ。

広く開かれた食への扉。差別なき食への愛。そこに出現する美味なる料理の数々。そのシズル感がハンパない。「カシューーーっ」と、鉄板でカリカリに焼いたホットサンドの心地よい歯触りに、パンの香ばしさが香る。そして、パンに挟まれ溢れ出したチーズが「ビヨーン」と伸びるのを見て、濃厚なチーズの味わいが口の中に広がる。こっちの涎があふれ出す。本作はこうした料理たちの映像描写に留まらず、それを食らった登場キャラたちのリアクションが実に素晴らしく、それらの料理たちを 歓迎する。日本のテレビ番組の食レポには味の感想コメントが必須になっているが、あれはあくまで情報を伝えるという役目ありき。本作では美味しいものを食べた時の、真の人間のリアクションを堪能できる。料理を口に含んだ瞬間、思わず目を閉じ、その喜びに浸る、そして発せずに入られない一言が口からこぼれてしまう。「あぁ、超ウマ」と。あれは演技か、マジで旨い料理が出されたのか、自分は後者を信じたい。

食をテーマにした映画は数多くあれど、本作の特異な点はそこに時代性を強く取り入れたことか。カールは息子の手ほどきもあって、twitterを使うようになる。SNSは個人と多くの人を簡易に結びつけることができるツールだ。その危険性と有用性の両面を取り入れ、物語 の脚本に巧く活かしている。フードトラックによる快進撃とともに、食べた人の評判が拡散する様子を、twitterのアイコンである青い小鳥が一斉に羽ばたく描写で表す。とてもユニークで爽快だ。
また、本作は主人公カールと息子の親子愛を描いたドラマでもある。というか、これが一番大きなテーマかもしれない。普段、別れた元妻と一緒に暮らす息子が、夏休み(?)の期間、父であるカールとフードトラックに乗って、たくさんの人に料理を提供しながら、アメリカを横断する。カメラはその親子の関係を主人公のカールの視点だけではなく、息子の視点からも映し出す。その様子を俯瞰してみると、こんなサブストーリーが頭に浮かんだ。この映画の主人公は実は息子の方で、この旅は大人になった息 子の回想録であり、彼が父と同様に一流シェフにまで成長する、その原点になった思い出だった。。。みたいな。父からの教え、父からの愛によって、息子はシェフを目指した、そんなクダリを思い浮かべるほど、親子の関係が丁寧に描きこまれている。おかげで、クライマックスで用意される「プレゼント」に、いろんな想いがこみ上げてしまった。

監督のジョン・ファブローは本作で製作、監督、脚本、主演の4役を担う。「アイアンマン」をはじめ、大作映画のイメージが強いが、彼が選んだのは誰にも口出しをされないインディーズ系映画(本作)。自分の好きな脚本、演出、キャスティングがそのまま実現するギリギリの予算で製作されたとのこと。低予算ながらキャスト陣は豪華で、 その多くが友情出演によるものだと思う。ジョン・ファブローの人徳があってのこと。スカーレット・ヨハンソン(肩の★のタトゥーがセクシー!)とソフィア・ベルガラという夢のようなセクシー美女に囲まれながらも、無駄なラブシーンを一切排除し、女性の包容力を強く押し出すあたりとかも彼の人間性がみてとれる。カールの部下を演じたジョン・レグイザモのリズムとテンポも最高。アドリブも許容し、気のおけない仲間たちとワイワイ楽しく作った、そんな現場の明るい雰囲気が伝わってくる。

ジョン・ファブローの本作に懸けた想い。それは、劇中で彼自身が演じた主人公の「フードトラックで勝負する」という選択にそのまま重なる。そんな映画人としての情熱が、本作の完成度 に結実した。その達成に拍手を贈りたい。

【85点】

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ジュピター 【感想】

2015-03-07 07:46:14 | 映画


「映画界の一発屋」。で、思い浮かべる監督の1人(2人)、ウォシャウスキー兄弟の新作「ジュピター」を試写で観た。あっ、兄弟じゃなくて「姉弟」か。。。

家政婦をやっている平凡な女子が、ある日突然、銀河系を巡る壮大な兄弟喧嘩に巻き込まれるという話。宇宙規模でみると、地球は小さな1惑星に過ぎず、宇宙を支配する王族兄弟(宇宙人?)の支配下にあったという設定だ。「ザ・SF」な設定に対して、必然性を求めるのは野暮なことだろう。主人公の女子が、宇宙の世界と繋がることになる動機も実に強引だけど、まあ許容できる範囲だ。
本作は「マトリックス」以来のウォシャウスキーの完全オリジナルストーリーとのこと。仮想世界を舞台にして無現と有限の世界を同 居させてしまった「マトリックス」。その想像性には遠く及ばないものの、劇中の映像からはウォシャウスキーの気合いが漲っている。

スタイリッシュなデザインで統一された世界観。ハイテンション&ハイスピードなアクションの連打。3Dを意識した壮大で奥行き感たっぷりな映像描写。人物のアクションまでもコテコテに作られた視覚効果の嵐。印象的なのはレザービームによるフラッシュの凄まじさで、テレビで放送したら「フラッシュに気をつけてください」というテロップが間違いなく入りそうだ。目まぐるしく変わる展開とアクションだけでもかなりの満腹感である。
「マトリックス」で魅せた海老ぞりに対抗するのは、重力から解放されたエアースケート。空中を自由自在にスケートできる代物で、既視感は否めないものの、地球の高層ビル群から宇宙まで飛び回るシーンは観ていてテンションが上がる。欲をいえば「Mr.インクレディブル」のフロゾンばりのスピード感が欲しかったか。

「マトリックス」のアクションの秀逸さは、スローを多用した緩急にあり、世界観の秀逸さは「行き止まり感」のある空間の中にあった。それらによって観る者の興奮とスリルが醸成されたと思うが、時は流れ、できることが大きく広がり、本作では「無制限」な世界が作られた。
同じ監督が手掛けたことを裏付けるのはビジュアルセンスのみで、演出面にはあまりセンスは感じられず。個人的にかなり期待していた映画だっただけに、この点は残念だった。多種多様な宇宙キャラは目に楽しく、時に人間、時にモンスター、時にロボットと言った具合。遺伝子操作によってオオカミ人間として生まれた、主人公のボディーガードの背景がもう少し描かれてたら面白かったはずだ。

主演にミラ・クニス、チャイニング・テイタムという今を輝く2人を据える。しかし、その2人を喰っていたのが、王族の長男で敵役を演じたエディ・レッドメインだろうか。あっちゅう間にオスカー俳優に上りつめた彼だが、悪役でありがちな「カッコいい」ではなく「ヘタレ」っぷりが実に楽しい(本人の狙いじゃないかも)。大味な色調の映画にあって、彼の厚ぼったい上唇が妙に安っぽくて似合う。低いバリトンボイスも手伝い、発する言葉に凄みがあるのだが、やることなすことがショボくて、そのギャップに笑いがこみ上げる。これをユーモアとして織り交ぜたならウォシャウスキーを見直す。

大スクリーンで楽しむSF大作としては次第点。ただ「マトリックス」の幻影を追うと落胆は隠せない。その前作の「バウンド」といい、ウォシャウスキーは絶対にセンスがある映画人だと思うんだけどな。

【65点】

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