から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

オレンジ・イズ・ニュー・ブラック シーズン7 【感想】

2019-07-31 07:00:00 | 海外ドラマ


また1つ、傑作ドラマシリーズが終わりを迎えた。

「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」の最終シーズンである、シーズン7を見終わったので感想を残す。

全13話。有終の美を飾ったと思う。最終話のエンドロールで拍手。

「ハウス・オブ・カード」と並び、ネットフリックスブランドを確立させたドラマシリーズだ。アメリカでは2013年から配信がスタート。女子刑務所からアメリカの「今」を捉えた本作は、トランプによって変化したアメリカの姿も見つめてきた。ネットフリックスが日本でのサービスが開始したのは2015年の秋。自分がソッコー加入したのは本作の存在も大きかった。あれから5年、途中、マンネリを感じるシーズンもあったけど、最終話を見届けて、シリーズを追いかけてきた良かったなぁーと感無量になった。

人種、LGBT、文化、宗教、経済格差、政治、あらゆる多様性と社会問題を孕んだ現代アメリカの縮図。個性的なキャラクターを通して、下ネタと天然のコメディ、そして、恋愛と友情、家族、希望と絶望が交錯する人間ドラマを描いたシリーズだった。最終シーズンはその要素が凝縮されていた。

最終シーズンのため、新たな展開を生むような大きなイベントは用意されない。シーズン6で起きた出来事の続きであり、各キャラクターたちが、その後、どんな時間を過ごし、どんな変化を遂げるのかを丹念に追っていく。なので、途中、惰性感が強い時間も多いが、後半につれて「バッドエンド」の色が濃くなっていくことで引力も強まっていく。いったい、どんなゴールになるのか。。。と。



前シーズンで出所したパイパーは、保護観察のもと、普段の日常生活に戻ることに苦労する。犯罪を犯した過去は拭えず、手助けするはずの父親も彼女に手を差し伸べない。刑務所で「妻と妻」の関係になったアレックスとの婚姻関係にもスレ違いが生じる。塀の中と外の世界はあまりにも違う。そして2人ともまだまだ若い。前シーズンまでサブキャラに過ぎなかった女子刑務官のマカロウが、本シーズンで重要キャラに昇格。アレックスに急接近し、パイパーとの関係に溝を作る。過去の闇を抱え自傷行為がやめられないマカロウと、男気があって色気のあるアレックスのコンビ、かなりのお似合いだ。



終身刑となったテイスティーとダヤは、対照的な道をたどる。テイスティーは濡れ衣を着せられ、無実を晴らすことができなかったことで、自暴自棄に陥る。ダヤは完全に開き直り、クスリに溺れクスリを売りさばき、刑務所内の「悪党」として君臨する。明るく刑務所内のムードメーカーだったテイスティーと、純粋で絵を描くのが大好きだったダヤの、変わり様が切ない。ダヤの母親であるアライダのクズっぷりは継続。彼女の少女期が描かれるエピソードで、犯罪を繰り返す人間のDNAを見る。どう抗おうと血の繋がりは切れない。娘のダヤの人生にも継承されてしまったのだ。



テイスティーが収監される前、親友同士だった女子刑務官のタミカは、まさかの所長に昇進。「ダイバーシティ枠」という、ある種の差別の裏返しだが、「理由は関係ない、どう生きるかが重要だ」と所長になった彼女は、カプートの良心を引き継ぎ、刑罰ではなく、受刑者の更生と復帰に向けた改革を実行する。そんなタミカと、人生に絶望するテイスティーとの友情が清々しくて愛おしい。タミカをサポートするカプートは、本シーズンでも男前。あくまで正直に生きることを選び、その結果「MeToo」運動の餌食となって、仕事も干される。不器用にしか生きられないカプートが本シーズンでもカッコいい。彼と事実婚状態にあり、あんなに冷徹だった元所長ナタリーも知らぬうちに変わっている。彼女が見ず知らずの人間に手を差し伸べるなんて考えられなかったこと。



レッド、ニッキー、ローナのシーズン1から続く「ファミリー」には、かつてない大きな変化が待ち受ける。シリーズを支えてきた彼女たちに容赦ない絶望を浴びせる。髪を真っ赤にして、白人グループのリーダーとして先頭に立っていたレッドの姿が懐かしい。ローナには悲劇のダブルパンチを喰らわす。彼女が収監される経緯にも繋がる、病的妄想癖が笑えないレベルで爆発する。彼女たちに寄り添い、懸命に家族の絆を繋ぎとめようとするニッキーに何度も泣かされてしまった。やっぱり、このドラマの私的MVPはニッキーである。ニッキーの「元相棒」の看守であり、自身のお気に入りキャラであるルスチェックは、これまで見たことのない自己犠牲を払う。



中盤以降、ドラマの大きなウネリを生み出すのは「移民問題」だ。移民取締局(正確には「移民関税執行局」)は、ICEの略称で知られ、甘くて冷たいスイーツな響きとは裏腹に、不法移民を根こそぎ逮捕して、母国に強制送還させる機関である。ニュースや、映画などで見る不法移民のイメージとは異なり、インテリで弁護士事務所に勤めるような女性たちも容赦なく逮捕される。アメリカの市民権を得て、普通に生活することがこれほど大変なのか、と愕然とする。女子移民収容施設のキッチンで働くことになったグロリアたちは、収容者たちの手助けに奔走する。シリーズの中で最も「母性」を感じさせるエピソードがあり、母と子の絆を無慈悲に引き裂く、現トランプ政権に、明確な「No」を突きつけている。

最終話に向け、希望を踏みにじられてきたテイスティーの選択にスポットが当てられる。「どう生きるか」。その姿に、このシリーズの最も大きなテーマが重なる。正しい道を進もうとしても、運命は気まぐれで、幸福にも不幸にも振れてしまう。ベンサタッキーのあまりにも残酷な事件。テイスティーが、希望を見出すきっかけがあまりにも切なく、そして強く心を揺さぶる。

<以下、劇中の朗読シーンの一節>

人は人生の試練を受け止めきれないことがある。多くの場合、その巨大な波に備えることはできない。しかし、自分にとって困難と思える道から逃げてばかりでは、逃げる自分が本当の自分になってしまう。苦しみや不当な扱いを経験しない人生はありえない。なかには、果てしない苦難に見舞われる者もいる。逃げ道は見当たらない。希望もない。味方もいない。そもそも不公平な世の中において、どのように正義をもたらすのか。どうしていいかわからない時には、どうすればいい?諦めても解決しない。解決の道を自らで見つけることは絶対にできないことのように思える。それでも、努力するしか道はない。


人生の道を切り開くのは自分自身であり、絶望を希望に変えることができるのも自分自身だ。自分なんて、自由に甘えた幸福な生活を送っているが、来たるべき絶望の日に、このドラマを思い返すことだろう。

最終話の終盤では、これまでシリーズを彩ってきたメンバーが総出演する。エンドロールでは、各出演者が視聴者に別れを告げるオフショットが流れる。もう堪らなかった。。。おそらく、女優陣は演じたキャラクターと縁遠い環境にいて良識ある人たちだろう。ほぼノーメイクの姿で、時に醜態を晒しながら、人間の愚かしさと強さを全力で表現したキャスト陣に大きな拍手を贈りたい。あと、本シリーズについては日本語吹き替えでずっと見ていたので、日本の声優さんたちのプロの仕事ぶりにもとても感謝している。

【85点】

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トイ・ストーリー4 【感想】

2019-07-27 15:11:11 | 映画


完璧な幕切れであった「3」から、続編を製作する意味はあるのか。。。それが最大の関心事だった。結果、「続編」というより「スピンオフ」な話。「トイ・ストーリー」の世界を大いに楽しんだのだけど、人間と玩具の信頼関係が前提にあった、これまでのシリーズから軸が変わった印象を持ち、良くも悪くも、ピクサーではなく、ディズニーの色を強く感じた。”多様性”の波がここにも来たか。
主人公、ウッディが新たな局面を迎える。アンディとの友情関係は過去の思い出。アンディから引き継がれたボニーとの関係は良好とはいえなくなった。”全ての玩具が人間と相思相愛にはなれない”、これまでのシリーズでも言及されてきたテーマだが、本作では別の方向へ舵を切っていく。人間に愛されることでしか幸福を見いだせない玩具はどう生きるべきか。本作が導き出した答えに、賛否が分かれるのはごもっともであり、むしろ、絶賛一色であった、アメリカ本国での評価が不思議なほどだ。生き方の価値観の違いだろうか。
もちろん、シリーズならではの玩具たちの冒険劇は有無を言わさぬ面白さ。豊かなイマジネーションとユーモアに溢れ、ピクサーがピクサーたる所以を高らかに誇示する。新キャラのなかでも、ダッキーとバニーが楽しい。日本語吹き替えを担当するチョコプラがまさかのファインプレー(笑)、声質が声優向きなのだ。人間に生み出され、愛された瞬間から「玩具」として生まれる、ファーキーの存在がこのシリーズの玩具の在り方を象徴する。スリリングで、笑えて、愛情がたくさん詰まった「トイ・ストーリー」の世界に再び埋没する。
そして、安心のハッピーエンドである。あとはシンプルに好き嫌いの問題だ。本作の結末を自分は受け入れられなかった。人間との友情の中に成立していたドラマが、シリーズの醍醐味と勝手に思っていたからだ。少なくとも「3」で流した涙を受け止める場所は本作にはなかった。
【65点】
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ストレンジャー・シングス シーズン3 【感想】

2019-07-26 07:00:00 | 海外ドラマ


見終わってしばらく経つが、「ストレンジャー・シングス」のシーズン3の感想を残す。

計8話。1年半ぶりの新シーズンだ。

現在のネットフリックスで最も視聴者数が多いキラーコンテンツ。仕事で映画会社の方と打合せをした際、「ストレンジャー・シングスが面白い!」で話が盛り上がってしまうほど、日本での認知も広がっているようだ。シーズン3の製作は、全世界に及ぶNetflixファンの期待を背負っていたと思うが、いやいや、恐れ入った。文句なしのシリーズ最高傑作。80年代がアツい。スリラーがアツい。青春がアツい。

物語は、前作から1年が経過した1985年の夏休みの設定。まず、目を奪われるのは、子役たちの成長である。前作の撮影から2年近く間を置いたせいか、みんなかなり大きくなっている。中でも、主人公のマイクの身長が著しく伸びていた。顔つきも随分と変わった。マッシュルームカットで可愛かったウィルも声変わりを経ている。見た目だけでなく、精神的にも成長していて、マイクとエルはすっかり恋仲になり、ベッドの上で接吻を繰り返している。「アメリカの子は早いんだなー」と呟きながら、彼らの成長を愛でる。仲良しメンバーの友情は変わらず、前シーズンから加わったマックスを含め、わちゃわちゃと騒ぐ様子がとにかく可愛い。彼らが着こなす、ダサい80年代ファッションも堪らない。

80年代文化の再現は、これまでのシーズンにも増して凄まじい力の入れよう。アメリカ人にしか理解しにくい「コーラ」のクダリなど、全てのアイテムにフォローすることはできないが、細かすぎる描写に、制作陣のオタクな遊び心が透ける。昨今の映画の流行りである”80年代”だが、それらとも一線を画す仕上がりといえ、当時、同じ世代であったアラフィフ世代は悶絶すると思われる。サブカルの代表格である、映画ネタの使い方にはテンションが上がった。「ターミネーター」、「ネバ―エンディング・ストーリー」、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」といった伝説的映画のネタが、巧く活かされてニヤニヤする。「ネバ―エンディング・ストーリー」のデュエットシーン、最高にチャーミングだったわ。

今回、物語の舞台として大きく機能するのが、新しくできたショッピングモール「スターコート」である。町の商店街が、ショッピングモール出現により駆逐される時代を反映したものだろう。そのセットの仕上がりが素晴らしい。箱そのものはどこかのショッピングモールを借りているのだろうけど、中の内装は、このドラマのために全て作りこまれている。他にも、地下の巨大研究所、広い遊園地など、美術セットの予算は、間違いなくテレビドラマのサイズではない。

子どもたちが大人に近づいたことで、描けることの幅も広がった。これまでのシーズンにはなかったバイオレンスやグロテスク描写が、しっかり描かれる。戦いのなかで生傷は絶えず、首を絞め上げられ、拷問シーンまである。エルだけが戦いの矢面に立っていて、他の子どもたちは安全圏にいた前シーズンから、フラットな状況に変わり、リアルな感覚がさらなるスリルを醸成する。なので、しっかり怖い。同時に、エルの超能力パワーはこれまで以上に活用される。その度に鼻血が出るシステムのため、彼女の体調が気になってしまう。

回を追うごとに、面白くなる脚本だ。序盤はややルーズな立ち上がりで、ファンがドラマとの再会をかみしめる時間に費やされる。その後、バラバラに分かれて展開していた事件が、ミステリーを孕んで1つの展開に繋がっていく。そして、最高潮でラストを迎える。まさにドラマシリーズの理想形。クライマックスの”花火”を使ったバトルシーンが痛快かつ美しくて秀逸。壮絶な状況下でも、ファンタジーを優先する潔さが本作の魅力だ。また、未解決を次シーズンに持ち越さず、しっかり決着をつけるのがいい。

そして、本シーズンを特別なものにしているのは、登場人物たちのドラマパートである。テーマは「いつまでも子どもじゃいられない」ってとこか。大人になることは何かを捨てていくことでもある。地下室で遊んでいたボードゲームは卒業、それぞれに自我が芽生え、スレ違いが見えてくる。大きな犠牲を伴った今回の事件により、メンバーは新たな旅立ちを迎える。固い友情で結ばれた、ひと夏の最後の思い出。映画「イット」にも通じるノスタルジー。切なさが胸を締め付けるラストに、しばし余韻に浸る。

大満足のシーズンであった。おそらく次のシーズン4も作られると思うが、もはや子どもの成長を見守る親の心境であり、彼らとの再会を楽しみにして待つ。

【80点】
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スマートウォッチを購入した件。

2019-07-25 23:00:00 | 日記



2年近く使っていた腕時計が行方不明になったため、腕時計を新調しようとした。また無くすかもしれないため、安くて程よい腕時計を探していたところ、「スマートウォッチ」という選択肢が新たに出現した。Amazonを覗くと、1万円以下で購入できる代物もある。アナログの腕時計にはない、スマートウォッチの最大の機能は、心拍数、歩数、カロリーなどをリアルタイムで計測して、スマホアプリと連携し、体調管理ができること。最近、体重が気になっていたので、「よし、スマートウォッチを買おう!」と決めた。購入の優先順位は以下のとおり。

(1)2万円以下(2~3年の寿命のため低価格に抑えたい)
(2)デザインがダサくない
(3)12指針の文字盤に変えらる
(4)文字版のデザインが変えられる
(5)バッテリーが長持ち

上記の条件を満たす商品を探すのに苦労した。まず、Amazonで売れ筋の1万円以下のスマートウォッチは、どれもデザインがダサい。あるいは安っぽい。デザインがまあまあだけど、いらぬ中国製メーカーのロゴが入っていたり、12指針の文字盤はなく数字のみのデジタル表示など、気に入るものが本当に見つからなかった。現物を見たいと、大手の家電量販手を回るも、1万円以下のスマートウォッチは扱っておらず、3万円以上の高額商品ばかりで断念する。カッコいいデザインはアップルウォッチに集約されたが、一番安いものでも2万円を超える。それにアップルウォッチは、バッテリーが2日しか持たないらしい。

で、自分が探したなかで唯一、(1)~(5)の条件を満たしていたのが、Huaweiのスマートウォッチだった。今年に入って、Huaweiのスマホを購入し、そのコスパの高さに感動していたところだったので、ブランドに対する信頼度はかなり高かった。Huaweiのスマートウォッチのなかで、一番安いタイプである「HUAWEI WATCH GT スポーツモデル」のブラックが、1万9000円ちょっとで売っていて、Amazonのポイントを2000円分使ったため、17,000円くらいに購入した。

約2週間ほど使ってみて、良かった点と、悪かった点をまとめてみる。

【良かった点】
 ・シンプルだが、安っぽくない
 ・バンドが柔らかくて装着感が良い
 ・表示が明るくて綺麗
 ・スクロール操作がサクサク
 ・バッテリーが長持ち(1日で10%減るレベル)
 ・GPSの精度が高い(走ったルートが精緻で驚く)
 ・スポーツモードの精度が高い(プールでの水泳距離が一致)
 ・睡眠トラッキングと分析力が凄い
 
【悪かった点】
 ・天気予報の機能がない
 ・文字盤の種類が少ない(出回っている文字盤アプリとの連携も不可)
 ・腕を傾けて画面が表示されるまで、ワンテンポ遅い(こんなもんかな??)
 ・文字盤を表示させる時間(秒数)を調整できない
 
良かったことは、まず、運動トラッキングの機能。ウォーキングでも、脈拍数によって「脂肪燃焼モード」を明示してくれるため、ダイエットに効率的な運動ができるようになる。そして、実際に体重が落ちてきている。一番、驚いたのは、睡眠トラッキングの機能だ。レム、浅い睡眠、深い睡眠の推移を詳細に記録、夜中、途中で目覚めた時間も正確だったので精度は高いと思われる。他の家族にも試してもらったが、自分の場合、「深い睡眠」の割合が低いことが判明。どこが問題点なのかも、累積データを基に分析してアドバイスしてくれる。睡眠スコアとして得点化されるのが効果的だ。現在、快眠サプリを購入し、睡眠改善に取り組んでいるところだ。

一方、最もガッカリした点は、天気「予報」がなく、現在地の現在の天気が表示されるだけの天気「情報」だったということ。外を見れば、わかる情報なので不要だと思う。天気や降水確率を気にするので残念だった。あと、文字盤のデザインについては、直近のアップデートで種類を増やしたらしいが、それでも気に入るデザインが少ない。今後のアップデートに期待。

その後、無くした腕時計が見つかったが、今のところ、このスマートウォッチの機能に魅了されているため、当分使い続けると思う。防水のため、自宅に帰ったタイミングで、一緒に手洗いもできるので清潔に管理できるのも良い。これを機会に、減量と睡眠改善を果たしたいと思う。
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天気の子 【感想】

2019-07-21 12:51:34 | 映画


二度目の奇跡を描こうとする新海監督のチャレンジ。世界中の期待を背負うプレッシャーを、驚愕のアニメーションで跳ね返す。ホンの一瞬のシーンですら、どこまでも緻密に描きこまれ、アニメのフィルターを通してみる世界はひたすら美しい。ジブリの後継に相応しい風格を湛えながら、”時間”をを描いた前作から、今回は”天気”というテーマに強い独創性を感じる。まさに”世界を一変させる”スケールで繰り広げられる小さな男女のロマンスに、新海監督の作家性を再認識する。奇しくも、梅雨の長雨が続く現実世界とシンクロする状況と、多くのアニメーターの命が奪われた残忍な事件が起きた直後の公開。特別な想いをもって鑑賞した。

2016年に(ほぼ)無名のアニメ監督が起こした歴史的快挙。前作を観たとき、まだ口コミが出回っていない段階だったが、広い劇場は満席で、エンドロール中も立ち上がる人はおらず、その周りの熱気から大ヒットを予感した。その後、世界でも公開され、ジブリしか知らなかったであろう、映画ファンの間にも「SHINKAI」ブランドは浸透。その次作となる本作だ。映画業界、映画ファンの期待が高まるのは必至。自身が描きたいことの実現と、興行的成功の両立は、ほんの一握りの映画監督にしか成しえない偉業だ。そして、監督は本作でも間違いなく実現させてしまうだろう。

映画館で映画を見る人たちの最大公約数のモチベーションは、夢を見て、美しいものに魅了されることだと思う。いかに嫌みなく、感動を湧き立たせることができるか。その点で本作は特筆した出来栄えになっている。

予告編を見て思ったのは、「君の名は。」とアプローチが同じということ。誰がみても好感度が高く、癖のないキャラクターデザイン(これってかなり重要)。美しい映像。ファンタジーを軸に展開する若いロマンス。感情に突き動かされ、涙ながらに動く主人公。エモーションをさらなる高みに昇華させる歌曲の使い方。。。
で、実際、本編を見ても、そのままだった。

「天気」というテーマを中心に配置する、そこから、監督が描きたい”絵”を実現させるために、脚本をあとから肉付けする。本当は全く違うプロセスを経て脚本が描かれたと思うのだけど、本作を見て自分はそう感じた。時々感じる展開の違和感や、ツッコミどころが多いのは、そのせいだろう。苦笑するシーンも多いけど、イチイチ引っかかっては映画は楽しめない。

特別な能力をもった少女(「天気の子」)が背負いし運命が、クライマックスの鍵となる。その展開はとてもシンプルで捻りもなく予想通りに進む。ここは前作との大きな違いかもしれない。その少女に対して責任を感じて、涙ながらに駆け出す主人公には全く共感できないけれど、とりあえず「感動」へと続く絵を見せるために必要な過程なのだと静観する。

MVと揶揄されても、美しいものは美しい。キャラクターの言動がよくわからなくても、映像と歌曲の融合があまりにもキマっていて見入ってしまう。ここに、成功パターンを掴んだ新海ワールドの醍醐味がありそうだ。前作にように、劇場でススリなく声は聞こえなかったけど、多くの観客のハートを鷲掴みにしたことだろう。

クライマックスだけでなく、全編に渡って緻密な風景描写が激しく印象に残る。監督の世界を実現させるために、大変な労力と情熱を注いだ制作スタッフたちに思いを馳せる。その全てが美しいように描かれている。水滴の一滴一滴に虹色がかかっていたり、曇天に光が差したときの透明感だったりと、汚いものは見せず、観客の目を楽しませることに徹している。これでヒットしないのはおかしい。

劇中感じる既視感は、日本のアニメーションの歴史が豊かな証拠。ジブリ映画や細田映画に似ているシーンやキャラクターが沢山でてくる。無意識にカブってしまった結果か。気になるのは、キャラクターの配置や、主人公の取り巻く環境について「こうしておけば間違いない」既成のものが多く使われていること。主人公に冷たい都会、童貞丸出しの主人公、ウインクが似合う女の子、主人公をサポートする兄貴、小生意気で憎めない男子、不寛容な大人たち。。。ありがち過ぎて稚拙に見える。

俯瞰すると、地球規模で甚大な被害が出てくるのに、呑気に2人のロマンスで片づけてんなよ、とノレない部分も多々あるが、良くも悪くも新海監督の作家性が貫かれた結果と思える。

それにしても、映画の内容とは関係なく「富める者は富める」の資本主義の原理を強く感じる。プロモーションと劇中での他企業とのタイアップがえげつない(笑)。これほど確実にヒットが見込めるコンテンツも希少だ、そりゃ群がるって。東宝を株を買っておけばよかったと今回も後悔。シンプルに映画単体を楽しみたい映画ファンとしては雑音になるシーンもある。本作も前作並みにヒットするだろう。もはや、背負うものが自身の想定を超えて肥大してしまった新海監督。その状況下で次はどんな映画を生み出すのだろう。また、同じ方程式の映画で、置きにいったらつまらないな。

【65点】

君の名は。 【感想】
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2019年下半期注目映画10選

2019-07-14 14:40:53 | 気になる映画
2019年も折り返しに入った。日本では「アラジン」の爆裂ヒットもあって、上半期の日本の映画興行は2010年以降で最高収入をマークしている。「アラジン」はこのままだと120億は行きそうだし。現在公開中の「トイ・ストーリー4」でさらに100億近く、来週からの「天気の子」で100億は軽く超えるだろうし、秋には「アナ雪」がある(笑)。年末には、さらに「スターウォーズ」があるし。2019年最強説がいよいよ現実味を帯びてきた。100円の値上げは興行会社の利益にそのまま転嫁されるのでは?東宝の株、買っとけば良かった。。。
そんななか、ヒットとは関係なさげだが、個人的に下半期に注目している映画を備忘録として10個選んでみた。上から公開順。

ライオン・キング(8/9)

この間、久しぶりにアニメ版をおさらいして見たが、実写化は難しいと思った。ジョン・ファブローの監督作というプラス要素と、超絶リアルという視覚効果は果たして。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(8/30)

タランティーノの新作が、今回も好評レビューを獲得中。ディカプリオとブラピが満を持して共演。

ブラインドスポッティング(8/30)

祝、日本公開決定。昨年、アメリカ本国で絶賛されていた1本。

アス(9/6)

ジョーダン・ピールはコメディに戻らず、再び、ホラーへ。予告編怖い。。。

フリーソロ(9/6)

アカデミー長編ドキュメンタリー受賞作。スリルな体感型映画!?

アド・アストラ(9/20)

今年のSF映画枠。2015年の「オデッセイ」の再来なるか。

宮本から君へ(9/27)

昨年、心臓に鷲掴みにされた深夜ドラマの映画化。ドラマに続き、真利子監督。

ジョーカー(10/4)

ホアキンの激やせが凄い。監督は何とトッド・フィリップス。

アップグレード(10/11)

強くなっちゃう男の話。中二的妄想。愛すべきB級映画の香りがプンプン。

IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。(11/1)

ホラー&青春ドラマの傑作の続編。監督も続投で安心。「ハイ、ジョージ♪」
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新聞記者 【感想】

2019-07-12 07:00:00 | 映画




日本映画からこれほどの野心作が誕生したことに感激する。本作は、日本映画を1つ上のレイヤーに上げる。これまでアメリカや韓国映画でしか見られなかった挑発的ポリティカルサスペンス。権力を疑い、メディアを疑え。試されるのは国民、つまりは観客の眼だ。但し、本作は社会問題を提議するにとどまらない。正義への境界をまたぐ人間たちの葛藤と決断にこそ、本作の神髄がある。その生き様に打ちのめされた。冒頭から最後まで、空気を圧迫する演出がなされ、緊張の糸が切れない。翻弄されるキャラクターの心情を投影した照明・美術が素晴らしく、ドラマに奥行きと深みを与える。予想の斜め上を行く完成度。日本映画史の事件的傑作。

洋画と比べて自身の関心度が低い日本映画。本作も劇場鑑賞をスルーする予定だったが、好みが近しいレビュアーの人の評価をみて2週目にして鑑賞。なぜかシニアなおばちゃんの客層割合が、いつもより多くて新鮮だった。おばちゃんは座高を高くして見ないから、後ろから見づらいことがなくて助かる。。。

本作は完全なフィクションだが、取り上げられる話題から、現政権をイジっていることがわかる。但し、現政権への批難ではなく、どの時代、どの統治国家でも起こりうる権力の暴走を”可能性”として提示する。平たくいうと「信じるか信じないかは、あなた次第です!」的な陰謀説であり、映画ではそれを大真面目に現実味をつけて描いている。テーマをより浮き立たせるための脚色であるため、「あり得ない」などと目くじらを立てるのはナンセンス。映画と現実社会の距離を保てれば、後半にかけて散見される甘さも鑑賞中は全く気にならない。

内閣情報調査室という、普段聞きなれない組織が登場する。報道メディアの対抗措置として、情報操作を一日中やっている組織である。その実体は、現政権にとって不都合な情報を隠蔽するために機能する。ニセの情報を拡散し、誰かに濡れ衣を着させる、あるいは、国民の関心を逸らすために別の情報を流したりする。その過程で無関係な民間人を巻き込むこともしばしば。「政権の安泰こそが国民のため」という大義らしいが、大変な勘違い。国民を欺く政治は民主主義ではない。

政治には疎いのだけれど、選挙前の党首討論は、いつも変わり映えしない光景だ。野党は与党を政権から引きずり下ろすため、与党がしてきた政策を非難する。一方の与党も政権を守るため、野党が掲げる政策を非難する。こっちが聞きたいのは、それぞれが主体となって実行する未来の政策である。相手をディスったほうが、国民の共感を得られやすいと考えているのか、それとも、報道メディアが喧嘩する絵ばかりを流しているのか。いずれにせよ、政策ではなく、政権を握ることへの執着を強く感じる。そんな様子を見ていると、本作のような情報操作もあり得ない話ではないと思える。

「真実を決めるのは国民」。ときに報道メディアも操り、世論を操作する調査室のボスの言い分だ。調査室のなかで、そのボスから一目おかれる男が本作の主人公だ。外務省から出向組で、日々の仕事に罪悪感を持ちつつも与えられた職務を全うする。自宅に帰れば、可愛い奥さんとそのお腹には新しい命が宿る。住まいは高層マンション。つまりは高給のエリート官僚であり、男には何よりも守るべきものがある。

その一方、タイトルのとおり、調査室を睨む「新聞記者」が登場する。始まりは、新聞社にFAXで送信された不可解な文書。身元不明で、手掛かりは目を黒く潰された羊の絵だ。あとで、その絵の意味が明らかになるが、目隠しをされた国民のメタファーにも思える。その文書の謎を解明するミステリーが、調査室の男と新聞記者を運命的に引き合わせる。

新聞記者はアメリカで生まれ育った女子。報道によって父親を殺された過去を持ち、その出来事が彼女を新聞社で働かせるモチベーションになっている。演じるのは、韓国人女優のシム・ウンギョン。非常に面白いキャスティングだが、政治色の強い映画だけに、日本の女優ではキャスティングできなかったという噂がちらほら。いやいや、そんなの関係なしに彼女のキャスティングは英断だった。彼女の回想シーン、悲しみと怒りがせめぎ合い嗚咽する演技に圧倒され、描かれぬキャラクターの背景がみえてくる。あの若さであれだけの演技ができる日本の女優ってどんだけいるのだろう。

自分が本作に強烈に惹かれるのは、女性新聞記者「エリカ」と、調査室の男「杉原」のドラマだ。対立する関係にあった2人が、1つのゴールに向かって共闘する姿と、その背景にあったもの。大きな代償と共に、ジャーナリズムの正義、人間としての正義が振りかざされ、エモーショナルを強く揺さぶる。杉原演じる松坂桃李の名演はいわずもがな、俳優として本当にいいキャリアを歩んでいるなーと感心する。

ありがたいのは、政治モノ、報道モノ、という一見、とっつきにくいテーマを扱いながら、非常にわかりやすい娯楽映画になっていること。善と悪の構図が明白で、ダースベイダーとして君臨する調査室のボスの存在が効いている。冷徹な佇まいで威圧する田中哲司の怖さに何度も凍る。また、照明や美術が、物語の状況や登場人物たちの心象を語るアイテムとして作用しているのも特徴的。悲劇を目前にして杉原の世界が崩れる様子を、枯れ葉で見せるシーンなんて本当に映画的。

政治関係者だけでなく、いろんな方面で敵を作りそうな本作は、その意味でタブーに踏み込んだといえる。お金を払った人しか鑑賞できない「映画」という映像作品だからこそ実現できたと思う。製作陣の情熱に拍手を贈りたい。

【85点】
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僕はイエス様が嫌い 【感想】

2019-07-09 07:00:00 | 映画


柔和な寓話の世界に潜んでいた残酷な物語。いろんな解釈ができる映画だが、外見からは信仰の意味を問う「沈黙」に通じるテーマが見える。雪深い田舎町に越してきた少年が、ミッション系の学校に通い出し、ある日を境に小さな”イエス・キリスト”を見ることができるようになる。主人公の前にイエスが現れるたびに、ちょっとだけ願いゴトを叶えてくれる。かわいい男子と、小さなイエスが戯れる。その微笑ましく愛らしい構図に、ほのぼのファンタジーの様相が濃くなっていくが、後半にかけて映画の色を一変させるショッキングな出来事が発生する。その事件のために学校では主人公を含め、生徒、先生の全員がお祈りをする。しかし、イエスは何もしてくれない。姿を現したと思えば、ただただ主人公に寄りそうだけ。そこである疑いが浮上する。
神に願いゴトを叶えてもらうことは「信仰」ではない。そう考えると、あの小さな願いゴトの成果は、神の仕業とは考えにくい。いや、そもそも、主人公が見たものは本当にイエスだったのか?さらには、ラストの告白で、劇中、主人公が友人と体験した出来事が想像だった可能性が出てくる。では、いったい、主人公は何を見ていたのか。。。
この謎を仮説として結論づけるほど、情報を与えてくれないのでモヤモヤが残る。ただ、ファンタジーを通して理不尽な現実を突きつける脚本は、若干23歳の監督の才能を確信するには十分だ。また、何気ない日常生活における人物描写や、会話のシーンでの息遣いに卓越した演出力を感じる。おかげで、一言一言のセリフが体内に吸収されやすい。心地よいゆえに、描かれるドラマに入りやすい。新鋭監督の今後の活躍に注目する。
【65点】
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インスタント・ファミリー 【感想】

2019-07-06 07:00:00 | 映画


まさかの傑作。安っぽい邦題とパッケージでだいぶ損している映画。今年の劇場未公開映画ベスト候補。

養子を迎えることにした中年夫婦と子どもたちが家族として結ばれるまでを描く。実はありそうでなかった現代劇。アメリカにおける、里親制度のシステムと現状を等身大のキャラクターを通して解説。養子選びのために開かれるお見合いパーティは、まるで子どもたちの見本市のようで、日本ではあり得ない光景。倫理やプライバシーの問題よりも、1人でも多くの子どもたちを里親と引き合わせることを優先しているようだ。自分はその志向に賛同する。

人気があるのは、幼い子どもたちであり、ティーンになると”売れ残り”としてなかなか引き取り手がつかない。動物シェルターと同じで、やはり「家族として迎える」というより「子どもが欲しい」という夫婦の欲求が最も多いモチベーションのようだ。いずれにせよ、子どもたちが家族の愛情を受けて成長することが何よりなこと。

登場する子どもたちの多くが、不遇な家庭環境によって施設に保護されている。彼らには全く罪はないが、”犯罪者の子ども”としてレッテルをつける人たちもいるのも事実。年齢が上がるほど、過酷な経験をしている。賢いティーンたちは、自分たちがそういう目で大人たちから見られていることを自覚していて、同じ年齢の仲間たちとつるむことで孤独をまぎらわす。

主人公夫婦が養子として迎えたのは、お見合いパーティで素気ない態度をとった15歳の女子と、その彼女が親代わりとして面倒をみる、幼い妹と弟の3人。夫婦は白人だが、3人の兄弟はラテン系で肌の色が違う。夫婦は初めて子どもという生物を知り、子どもたちは血縁関係のない他人の夫婦と同居する。慣れない関係にお互い四苦八苦しながらも、新しい家族を迎え、新しい家族として迎えられた喜びによって幸せな時間を過ごす。。。

が、突如として良好な状態が崩れる。全く聞き分けのない妹、極端に憶病で目を離すとすぐにトラブルを起こす弟、心を開かず悪知恵を働かす女子。夫婦2人だけで穏やかだった家庭環境が、養子を迎えたことで破壊される。夫婦が一生懸命に問題に向き合うも、人間対人間、容易に家族になんてならない。予定調和ではない家族形成の過程が、予想がつかずスリリングでもある。夫婦が目指すべき理想形とした里親夫婦の真実が深い。本当の家族の絆というものに触れる。

本作で描かれる子どもたちと過ごす時間は双方にとっての”試用期間”であり、夫婦たちは「送り返そうか」と葛藤する。終始、本作に引きこまれるのは、夫婦、子どもたち、周りの人間たち、それぞれのリアルな心境がエゴを含めて誠実に描かれていることだ。だから、あらゆる立場のキャラクターにもれなく感情移入してしまう。夫婦の愛情を知りながらも彼らを利用し、実母への愛が勝ってしまう女子があまりにも哀しい。綺麗ゴトでは済まされない状況を、ユーモアを絡めて描き、感情を揺さぶる。思い出すだけで目頭が熱くなる。

夫婦演じたマーク・ウォールバーグとローズ・バーンがコメディとシリアスを巧みに演じ分ける。不器用ながら、子どもたちのために奔走する姿に笑みと涙がこぼれる。停滞する家族の関係に、鮮やかに突破口を開く祖母役のマーゴ・マーティンデイルも非常にカッコいい。

子どもたちに初めて「お父さん」「お母さん」と呼ばれるシーンの喜びと感動が伝染する。子どもたちの存在が夫婦を親にしてくれる。助走なしの「即席家族」だけど、普遍的で沢山のハートが詰まった物語だった。

【80点】


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COLD WAR あの歌、2つの心 【感想】

2019-07-05 23:00:00 | 映画


くっついては離れてを繰り返す男女のロマンス。上映時間は約90分と短尺ながら、描かれる時間経過は15年間に及ぶ。2人の男女に起きる事件をスポットで取り上げ、その間にあるプロセスは省かれる。描かれないドラマをどれだけ想像して物語として膨らませるか。。。。同監督の「イーダ」よりもさらに簡略化されていて、自分の場合、巧く余白を埋めることができずやや退屈だった。
アカデミー外国語映画賞において「万引き家族」をさしおき、「ROMA」の対抗馬として上げられた本作。ここまで絶賛されていう理由は、おそらく「音楽」と「時代性」が媒介し、物語に作用している点にあるだろう。硬質なモノクロ映像が美しく、カメラは人物に寄っていく。ダイナミックに風景と人物を捉えた「ROMA」とは対照的だ。
舞台は1949年のポーランドの民族舞踏団。聞き馴染みのないポーランドの歌と踊りで興行する楽団だ。2人は音楽監督、新人歌手という立場で出会う。「オヨヨ~♪」と何度も口ずさみたくなる美しい合唱の音色。「民族音楽しかやらない」という監督のポリシーも、強国によるポーランド支配によって捻じ曲げられる。「オヨヨ~♪」も、いつしかスターリンを賞賛する歌へとアレンジ。最初から強く求め合っていた2人(濃厚なキス!)を引き離したのも、生きづらい時代の流れだ。抑圧された状況下で2人の愛と絆が試される。一方、俯瞰すると女に翻弄される男の絵に見え、いつの時代も女性が恋愛の手綱を握るのだな、としみじみ思う。
観客に判断を委ねたラストは余韻に浸るべき、うってつけのシーンだったものの、終わりドコロに一瞬気づかず、最後まで相性が悪かった。
【60点】
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スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム 【感想】

2019-07-03 07:00:00 | 映画


前作の最大の勝因は、トム・ホランドのチャームにあった。そして、本作でもその魅力が最大限に活かされる。現時点で世界一鼻血が似合う男子だ。「アベンジャーズ」での未曽有の経験を経て、演じるピーター・パーカーの成長を感じさせてくれるのが嬉しい。MCUとの距離感は程よく、予想よりもアベンジャーズの色が薄かった。独立したシリーズとして存在感を示してくれた。

未だにエンドゲーム(EG)の残像が強烈に残っている。EG直後となるスパイダーマンの新作はどんな具合で描かれるのか。で、本作が選んだ方向性は、あくまで第一作の続編を描くことだった。

世界の半分の命を殺した「指パッチン」をイジり倒すところから始まる。あんな悲劇をあっさりコメディにできる逞しさにニヤニヤしてしまう。主人公のピーター・パーカーも、EGでの苦労を引きずる様子もなく、前作に続き、いち高校生として学園生活を謳歌している。これまた世界一セクシーなオバさんも健在で(マリサ・トメイの美貌に萌える)、大好きだったパート1に戻ってきたことを印象付ける。

ピーターが所属するクラブが、アメリカを離れ、ヨーロッパに修学旅行に出る。ベネチアなど、見慣れたヨーロッパの景観を舞台に展開するスパイディーアクションが新鮮。ただ、ピーターにとってヒーロー活動よりも優先すべきは青春である。この旅行に賭けるピーターの狙いは、スパイダーマンシリーズではお馴染みのキャラ、MJへの告白だ。

「あれ、MJっていたっけ?」と、後で調べたら、前作でも登場していたようだ。しかし、前作でピーターと特別な関係にあった記憶がなく、いきなりMJにご執心なピーターを見てすんなり応援することができない。キルスティン・ダンストのイメージが強いキラキラMJと違い、こじらせ不思議系女子として描かれるMJに、ピーターが惹かれる要素もわからないため、2人のロマンスには全くノレなかった。個人的には、MJ演じるゼンデイヤよりも、前作よりも出番が多めになったアンガーリー・ライスに注目したりして。

早々に、ニック・フューリーによって就学旅行がジャックされる(笑)。新たな敵を倒すプロジェクトに、ピーターを巻き込むためだ。そこで新たなスーパーヒーローが登場する。予告編でも流れていたジェイク・ギレンホール演じる「ミステリオ」だ。ミステリオが本作の鍵を握ることは予想通りだったが、その実体にはガッカリした。

<ネタバレなし>

フェイクが飛び交うSNS時代を強く感じさせる仕掛け。所詮ファンタジーといえど、あまりにも物理的根拠を逸脱していて冷める。結局CGで何でも映像化できることを前提にしているのが気に入らない。目には見えない、風圧、熱さ、感触といった感覚をあんな仕掛け1つで実現しようってのが無理。リアリティを持たせる努力をちゃんとしてほしい。また、二重三重、四重のトリックは、面白さよりも混乱をきたす方へ振れていて、もっと見せるべき、スパイディーアクションを侵食してしまっている。「続く」を明示する終わり方も釈然とせず、気分良く終われなかった。

進化やパワーアップは、情報を付け足すことではないと思う。複雑なヴィランの設定をうまく脚本に落とし込めなかった印象。前作のバランスがちょうど良かった。

エンドクレジット後のエピソードで、ある疑念が解消される。MCUはこれからも続いていくようだが、エンドゲームロスからまだ抜け出せない。

【60点】



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2019年上半期 ベスト映画ランキング

2019-07-02 23:00:00 | 勝手に映画ランキング


今年も1年の折り返しに入った。劇場公開、未公開映画(Netflixなど)を含め、上半期映画のベスト10を勝手に決めてみる。なお、実質1位の「ローマ」は、昨年のベストに入れているので除外。

”神”:アベンジャーズ/エンドゲーム

1位:スパイダーマン:スパイダーバース
2位:アメリカン・アニマルズ
3位:グリーンブック
4位:インスタント・ファミリー
5位:WE ARE LITTLE ZOMBIES
6位:女王陛下のお気に入り
7位:サバハ
8位:魂のゆくえ
9位:ゴッズ・オウン・カントリー
10位:オーヴァーロード

「アベンジャーズ/エンドゲーム」は、他の映画と比較するのが、双方にとって申し訳ないので別枠に設定。そのなかで、ダントツの1位は「スパイダーマン:スパイダーバース」。日本でも、もう少し評価されても良い気がする。2位の「アメリカン・アニマルズ」も同様。3位の「グリーンブック」は振り返ると優等生が過ぎる映画だったけど、見終わった余韻の気持ちよさには代えられず。6位以降は、年間のベストでは消えてしまいそうだけど、今のうちに入れておきたい作品群。B級映画だけど「オーヴァーロード」はかなりツボに入った。あと、上半期の最後に観た「スパイダーマンFFH」はちょっと期待ハズレで残念だった。
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ある女流作家の罪と罰 【感想】

2019-07-02 07:00:00 | 映画



才能ある人が成功する世界とそうでない世界。主人公はジャーナリストで伝記作家だ。自らのイマジネーションで物語を生み出す小説作家と異なり、対象となる人物の個性を本人よりも雄弁に語る能力に長けている人といえる。これも凄い才能だ。但し、本作の主人公の場合、”売れた”のは過去の話。今では社会に適合できず、アルコールと猫に依存する生活を送りながら、生活困窮者として底辺を這いつくばっている。見ていてかなりイタいおばさんだ。

あらすじは、その主人公が生活費を稼ぐため、亡くなった有名人になりすまして書いた手紙を偽造し売りさばくという話だ。実話を基にしているようで、邦題から推測できるとおり、主人公はその後逮捕される。

その顛末だけ聞けば、大きな犯罪劇ではない。本作で目を向けるのは、犯罪を通して見えてくる主人公の変化だ。

不本意ながらではない。最初は思わぬ金もうけに浮かれるが、次第に別のモチベーションが沸き立ってくる。故人の個性を的確かつ、ユーモラスに捉えた手紙は、本人の直筆と信じ込ませるのは勿論、彼女が描いた物語に人々は魅了されてしまう。その対価が高額な取引に変わる。人を騙すことへの罪悪感や葛藤はなく、「本人よりも本人」の作品を手掛けた彼女の元に、とうに消えた自尊心が舞い戻ってくる。

そしてもう1つ、偽造に手を染めたタイミングで孤独だった彼女に異性の友人ができる。主人公もその友人もセクシャルマイノリティで純粋な友情関係を育む。そして、初老の友人は彼女に人生を楽しむことを教える。いつしか、友人も彼女の犯罪に加担することになるが、その友情の行く着く先が切ない。

バレるバレないのスリルよりも、かつての輝きを取り戻し、人生の逆転劇を果たした主人公の姿に引き付けられる。演じるメリッサ・マッカーシーの実在感が素晴らしい。「ヴィンセントが教えてくれたこと」でも感じたけど、こうしたシリアスなキャラクターを自然体で演じるのがとても巧い人だ。愛猫とのエピソードでは思わず泣かされた。

法廷で彼女が告白するシーン。罪を犯し、罰を受けながらも、最も充実した人生の時間を過ごした彼女に悔いはなかったはず。才能を持ちながら、生きることに不器用だった主人公の哀愁に、本作を手掛けた監督の優しさが滲んでいるようだった。

【75点】
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