から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールド 【感想】

2019-10-26 07:00:00 | 映画


ド肝を抜かれる。真実しか登場しない戦争映画であり、ドキュメンタリー映画と定義づけるにはあまりにも革新的。ピーター・ジャクソン、しばらく見ていないと思っていたけど、こんな凄い仕事をしていたのか。。。今年の未公開映画ベスト候補に追加。

昨年アメリカで公開され、話題になっていた1本。日本での劇場公開を楽しみにしていたが、シレっと配信のみでリリースされていた。

第一次世界大戦時のモノクロ映像を、現代の技術で高精細なカラー映像にリマスタリングした映画。

よくテレビで見る、画質の粗いモノクロ映像から始まるが、舞台が戦場に移った途端、カラー映像に変わり立体的に浮き上がる。100年前の遠い過去の風景が、手の届くような風景に激変する。最近だと「ダンケルク」とかの記憶が新しいが、まさにそのもの。映画として作られた虚構の世界という先入観があるのだが、実際に映っている光景、登場人物たちはすべて現実である。この感覚は衝撃的だった。

歴史的な価値を感じることは勿論のこと、特筆すべき点は、戦場に向かう若者たちの物語に仕立てていること。そこにピーター・ジャクソンが監督をした意味がありそうだ。退役軍人たちが当時の様子を振り返った膨大なインタビュー音声を繋ぎ合わせて、映像内で起きる出来事にピタリと嚙み合わせていく。100年前の映像は無声だが、そこに映る人たちの口の動きから、言葉を読唇し、収録した音声をアテレコしている。この所業は究極の再現といえ、もたらされる臨場感に圧倒されるのだ。

「戦争で生き延びれば何にでも耐えられる」という言葉が響く。
戦争というものの実体が浸透していない第一次世界大戦のことだ。非日常であるナショナリズムの高揚にほだされ、若者たちが次々と戦いに志願する。待ち受けるのは彼らが想像し得なかった生き地獄だ。吐き気がする戦地の衛生環境、日本の特攻隊を彷彿とさせる自殺的攻撃、死の上に死が積み重なる光景。悲壮感と共に逞しく生きる若者たちの様子も見受けられる。

これまでモノクロ映像でボヤかされていた部分が、鮮明に映し出される。兵士たちの虫歯だらけの歯、爆撃を受け腸が露出する馬、赤黒く染まった肉が露出した負傷兵、人間の死体に這う虫。。。。思わず目を背けたくなるような映像が続く。そうした戦闘の激しさとは裏腹に、青々と茂る草原の美しさが印象に残る。ことごとく生々しい。

戦闘描写だけではない。映画はイギリス兵たちの視点から描かれるが、対戦国であるドイツ兵との知られざるエピソードが映し出される。お互いが命を奪い合うことに疲弊し、戦争の無意味さを理解している。捕虜となったドイツ兵は温和で友好的な人が多かったといい、特にバイエルン人は善良だったとのこと。映像は笑顔で談笑する両国の兵の姿をとらえる。目下の日本では、ラグビー熱が高まっているが、「ノーサイド」の精神が、あんな戦争中に息づいていたとは。

ピーター・ジャクソンのパーソナルなモチベーションが最後に明らかになる。命をかけて戦いながらも 讃えられることのなかった男達への賛歌にも思えた。

【75点】

クロール -凶暴領域- 【感想】

2019-10-19 07:00:00 | 映画


B級感丸出しな副題とは裏腹に、作り込まれたワンシチュエーションスリラー。ゴールかと思いきや、お代わりタイムに突入(笑)。ワニ&ハリケーンがもたらす絶望感と、それを打破する強く美しいヒロイン。ヒロインの魅力が牽引する映画としては、2016年の「ロスト・バケーション」と双璧をなす秀作。公開初日の金曜日の夜、日本では未曽有の台風が接近するなか、空き空きの映画館で劇中世界と外の世界が地続きに感じられた。とても得難い感覚。
水泳選手として伸び悩む女子大生が、父親を捜しに実家に戻ったところ、ワニの襲来に遭うという話。部隊はフロリダの湿地帯。「暑くて、湿って、蚊が多い」、ヒロインがボヤく言葉に不快体感指数が上がる。それ以上に、恐ろしいのはハリケーンの存在だ。大量の雨は、市街地を水没させる。主人公の実家の近くには、運悪くワニ園があり(笑)、人間にとっては災難、ワニにとっては行動域が広がる快適な環境に変わる。
映画はワニを凶暴な捕食者として固定する。出くわしたら最後、人間は必ず襲われる設定になっている。海のヴィランがサメだったら、淡水の場合はワニになるのか。ワニの強みは水陸両用。家屋の地下で始まるワニとの戦い方が、ハリケーンによる水没レベルによって変化していく。水かさが増すほど、人間には不利になり、ワニには有利に働く。主人公の身体能力、ワニの習性、限られた空間、アイテムの使い方、ワニと戦いながらハリケーンにサバイブするための創意工夫がなされている。アイデア勝利に留まらない脚本力を見せつけられる。主人公のダメージはもっとリアルに描いてもよかったが、そうするとアクションにスピード感がなくなるので判断は難しいところ。水の透明度は目を瞑ろう。
サバイバルと合わせて主人公と父親の絆が描かれる。ワニとの死闘のなかで、主人公が、かつての栄光を取り戻すシーンがかっこいい(まさに”クロール”!)。カヤ・スコデラーリオの熱演が美しいこと。恐怖の余り、一筋の涙を流すシーンとか絵になってしまう。脚本×キャラクターがばっちりハマった、疾走感たっぷりのスリラーだった。
【70点】



真実 【感想】

2019-10-16 07:00:00 | 映画
フランス映画の見た目で、味はしっかり是枝作品、とても不思議な感覚で映画を観ていた。無駄なようで無駄でない細かい生活描写と、1つの事件をきっかけに家族というコミュニティを考察していく語り口。ガチで大女優なカトリーヌ・ドヌーヴを中心に配置、キャリアを映画界で積み重ねてきた女の生態は演技か素なのか判別しづらく面白い。脚本に書いた役柄に演者を嵌め込むでなく、演者の個性を活かす是枝演出もついにここまで来たか。カトリーヌ・ドヌーヴの髪の毛量もスゴい。
幸にも不幸にもその子どもとして生まれた娘との確執、明らかになる過去の記憶、忘れがたき故人の幻影、進行形で撮影が続くSF映画が希望の結末へと導いていく。是枝監督の作家力に改めて感心する。その一方で、サスペンスなくゆったりと流れる人物描写、「歩いても歩いても」の既視感、入口の自伝本から軸がズレていく展開など、序盤から集中力が失せ、睡魔が襲ってきた。あと、字幕版で見たのだが、是枝監督ならではの細かい言葉のニュアンスが消えてしまっているのが勿体ないと思えた。テレビで放送されたばかりの「海よりも~」で、家族間で「あれがあれだろ」みたいな言葉が頻発する感じとか。意外と吹き替えで見たほうが良かったかも。
大好きな日本人監督の海外進出は本当に嬉しいけれど、まずはとりあえず1発目。次は、もっと冒険した物語で是枝監督作の外国語映画を観てみたいと思った。
【60点】

エルカミーノ: ブレイキング・バッド THE MOVIE 【感想】

2019-10-12 03:00:48 | 海外ドラマ


海外ドラマの歴史は、2つに分けられる。「ブレイキング・バッド」の前か、後か。それほど、ブレイキング・バッドがテレビドラマ界に与えた影響は計り知れない。その功績を挙げたらいくつあるだろう。少なくとも、昨今の映画並みの完成度を誇る海外ドラマの礎を築いたのは紛れもなくブレイキング・バッドだ。2013年のブレイキング・バッド終了以降、映画と同じ熱量で海外ドラマを見るようになったが、ブレイキング・バッドを超える、いや、並ぶことができる作品は現れなかったし、今後も現れることはないと思う。もはや自分の中では神格化された作品である。

で、今年の夏、ビッグニュースが飛び込んできた。ブレイキング・バッドのその後を描いたドラマが、2時間の映画版としてNetflixで配信されるとのこと。ブレイキング・バッドのスピンオフとしてベター・コール・ソウルがあるが、新たな物語として作られたスピンオフだ。製作、脚本、監督は勿論、ヴィンス・ギリガン。正統な血を引く続編とあって、配信日となる今日の日を指折り数えて待っていた。そして、さっき見終わった。

感想を一言でいうと、あっという間に終わってしまった。やはり別格。

映画の冒頭、ブレイキング・バッドの総集編が5分くらい流れる。当時の興奮が一気によみがえる。本作は、ウォルター・ホワイトの相棒(?)であったジェシー・ピンクマンの物語で、彼が最終話でウォルターに救出された直後からドラマが描かれる。完璧な幕切れであった最終話であるが、確かにジェシーの行く末については気がかりな終わり方でもあった。

ドラマの最終話で起きた事件は、犯罪組織内の抗争劇として警察に扱われる。そこで容疑者として警察から追われる身となったジェシーの逃走劇が描かれる。違法薬物を製造したこと自体は罪に問われて然るべきだが、卑劣なギャングに監禁され、拷問を受け、恐怖の支配のもとに”飼われていた”経緯を考えれば、彼は守られるべき被害者だ。ただし、ウォルターと組み、暗黒社会と関わってしまった以上、平和な社会に二度と戻ることはできなかったのかもしれない。

本作では、ジェシーが逃走するために必要な準備、プロセスを追いかける。警察の目をかいくぐることは勿論のこと、思わぬ障害が立ちはだかり、その行く手を阻んでいく。

6年ぶりにドラマを思い出すファンに向けて、複雑な回想は避けられており、差し込まれる回想シーンは新たに追加されたエピソードばかりだ。ドラマを知らない層はまったくわからない作りだが、久しぶりの再会となるファンにはとても親切な設計になっている。

ジェシーが愛すべきキャラであったことを本作を通して思い返す。悪になれない善人だ。困っている人を放っておけない。ひらたくいえば、お人良し。ヨミが浅く抜けているところがあって憎めない。ウォルターがジェシーとの絆を最後まで切れなかった理由の一端がそこにある(もちろんジェシーに対する贖罪が最も大きい)。しかし、その個性が仇となり、様々な苦難を招き入れてしまうのも確か。善人が救われず、悪しきものが栄える、これもブレイキング・バッドの作品性の1つ。本作でもジェシーの個性は変わっていなかったが、地獄の監禁生活を経て大きく成長し強くなった姿をみせる。演じるアーロン・ポールの演技力はいわずもがな素晴らしい。

ドラマを見て大化けすると思っていたジェシー・プレモンスは、今や映画界でも活躍する若き名バイプレイヤーだ。本作でも重要なキャラとして登場する。当時からかなり体型が肥えてしまったため、画を繋げてしまうとかなり苦しいが、”ノーマルに見えるサイコ”トッドの姿が非常に懐かしかった。他にも、新たに撮り下ろしたキャラクターショットもあってファンには堪らなかった。

ヴィンス・ギリガンによる脚本、演出は、「ブレイキング・バッド」の頃から全く錆びついておらず研ぎ澄まされている。視聴者の予想の裏の裏をかく仕掛け、翻弄するだけでなく、納得の必然性で綺麗に着地させる。ユーモアも冴える。カメラワークと連動する演出は、キャラクターを心情を深堀り、スリリングな展開を醸成する。その打つ手、打つ手があまりにも見事で「これがブレイキング・バッドなんだ!」と勝手に歓喜する。

ファンとしては続編を作ってくれただけで御の字であり、ジェシーの行く末を見届けたことで悔いは残らない。まだ終わらないで欲しいという感情が常に先行したため、幕切れが早く来てしまった印象だ。ブレイキング・バッドはやっぱ凄かった。

【80点】

ジョン・ウィック:パラベラム 【感想】

2019-10-11 23:00:00 | 映画


もはやアート。いかに前作を超えるアクションを見せるか、執着ともいえる製作陣の情熱が映画に焼き付けられる。やりすぎを通り越して、ここまで多彩で凄みのあるものを見せられると感動の域に達する。勿論、キアヌあってのシリーズであるが、それ以上にアクションコーディネーターや、受け手であるスタントマンたちの仕事ぶりに目を見張ってしまう。黒子に徹する彼らの才能や技術があってこそ、演者のアクションが華やぐ。本、ナイフ、馬、犬、バイク・・・銃と併用されるアイテム数は大幅に増加。リアリティから離れ、視覚効果に頼るシーンも多くなったが、よくここまで考えられたもの。空間の使い方を含めて、イマジネーションに圧倒される。
あらすじはパート2とほぼ変わらず。誰よりも人を殺しているのに、ジョン・ウィックが生きることに固執するモチベーションはよくわからないが、壮絶なバトルを見せてくれる前提なのでスルーできる。ジョン・ウィックが不死身であることもだ。
ブレない犬愛と、後付け感満載な裏世界の作りこみがめちゃ楽しい。管制室のお姉さんたちは相変わらずゴリゴリのタトゥーを入れている。前作で”抹消”扱いとなったジョン・ウィック、孤独な闘いを強いられるなか、自身の人脈をフルに使って共闘する展開へとなだれ込む。ジョン・ウィックは裏世界のアイドルであり、みんなから羨望を集める存在。”伝説の男”のイメージがどんどん肥大する。表情に迫力がないキアヌとのギャップが広がる一方で笑えてくる。ジョン・ウィックは、凄腕のヒットマンであると同時に、とにかく銃が大好きなオタク。「同情するなら銃をくれ」みたいな。
おそらく次のパート4も作られるだろう。ただ、本作で高い壁を建てすぎたため、それを超えるのは至難の業に違いない。
【70点】

翔んで埼玉【感想】

2019-10-11 07:00:00 | 映画


当初、劇場で見る予定だったが、埼玉県民としてあまりのヒットが寒かったのでレンタル待ちにした。埼玉県民がここぞとばかりに劇場の殺到した現象がダサい。で、今月よりレンタルが開始されたので見てみた。
ラジオで偶然流れてきた”都市伝説”を映像で振り返るという構成で、その都市伝説というのが、「埼玉」というだけで差別され、虐げられる世界で起きる騒動だ。原作は未読だが、埼玉県民としてその内容は以前からよく知っていた。
「埼玉が感染する」「埼玉は何もなければ胸もない」・・・序盤、笑いのツボを押さえたセリフが連発する。自虐の裏にあるのが県民の劣等感。ただ「それでいいんじゃね」という無関心が同居する。
「ダサイたま」と言われることを意識したのは中学生の頃。他県の人間から言われたのではなく、同級生が「さいたま市」のひらかな表記のダサさに言及した時に出た言葉だったと思う。県民から見る埼玉と、他県民から見る埼玉に乖離はなく、その点は個性といえるかもしれない。他県にはない個性だったり、誇るべきものが何もないので、県民の愛着度も低い。都内に戸建を持てない中流階級世帯のベッドタウンであり、ただ人口だけが多い県だ。
他県民からも興味を持たれることはなく、認知すらされていない可能性もある。その視点を虐げられる対象とし、関東県民の意識を可視化した階級社会をギャグ漫画に仕立てる。映画は漫画の世界を再現する。キャスティングも漫画の世界観を優先し、浮いたセリフに説得力を持たせることに成功。ただ、漫画を実写に変換することしかできないのは相変わらず。映画の魅力ということよりも原作の魅力と思われる。
この手のギャグ漫画の実写映画化でいつも思うのは、後半の盛り上がりを作るための脚色がつまらなくて、クライマックスになればなるほど盛り下がってしまうこと。本作もしかりで、大人数のスケールで押し切る展開が冗長だ。
「ほどほどによいところ」を埼玉の魅力として捉える本作。人口が多いので商圏として様々な店舗が出店している。全国にある一通りのチェーン店が手の届くところにある。競争市場のため、物価も安い。家賃も安い。坂もない。不便なのは、JRが止まる、本数少ない、混むくらい。一度住んでしまうと、その住み心地の良さから離れられなくなる。
実際、本作のヒットを支えたのは紛れもなく埼玉県民。普段、全く相手にされない埼玉県にスポットを当てたことにテンションが上がったのだろう。一方で、関東の図式を知らない関西地方の人たちはどの程度見て、どんな感想を持ったのかが気になった。
【60点】

ジョーカー 【感想】

2019-10-08 07:00:00 | 映画


これはヴィランの誕生を描いた映画か、それともヒーローの誕生を描いた映画か。
善良な小市民だった男の覚醒は、「無秩序」なジョーカー像を覆し、善悪の概念すらひっくり返す。世界がジョーカーを生み出し、世界がジョーカーを求めた必然を、繊細かつパワフルな筆致で炙り出していく。悲しい運命を背負った男。人生は喜劇と悟り、一線を次々と超え、その凶行を生きる糧としていく。矛先は善人の仮面をかぶった悪人たち。流麗なダンスは「ジョーカー」へと近づく”脱皮”のようで美しく目に焼き付く。
分断の時代、社会性を孕んだ映画として捉えることできるけど、そもそもイチ映画として完成度が極めて高い。脚本、演出、撮影、衣装、音楽、そしてホアキン・フェニックス。最初から最後まで彼のワンマンショー。彼の肉体、表情、動きに釘付けになる。世界を笑うことに決めたラストに鳥肌が立った。その光景に痛快さが勝り、その感覚に言いようのない恐怖を感じた。
印象的なシーンがある。心優しいピエロの同僚が殺害現場から逃げようとしたシーン、手が届かず施錠を外すことができない。滑稽であり、無慈悲な現実を突きつける残酷な描写でもあった。作品の象徴的な場面でもあり、そこに監督トッド・フィリップスの作家性が透けた。
独立完結した単体ドラマとして見ることができるし、ここから、さらなる変化を遂げてバットマンの宿敵になる未来も想像できる。マーベルが築いたユニバースの正解から離れ、アメコミ映画の新たな完成形を提示した。
アーサーはあの時、泣いていたのか、笑っていたのか。次回見た時、同じ感想を持てる自信があまりない。
【75点】

宮本から君へ 【感想】

2019-10-06 07:00:00 | 映画


未体験の人間賛歌。期待値メーターが振り切れた。
昨年、自身を最もテレビに釘付けにした深夜ドラマの映画化。その熱量は、対”愛”へと向かった本作でさらに増大。共感、常識、効率、コスパといった時代の風潮は無視。既成を超越した人間ドラマが心臓を鷲掴んで離さない。鋭利な言葉と罵声の大音量。突き刺さって、殴打され、宮本の生き様を追体験するかの如く、心身をすり減らされる思い。しかし、同時にそれを補って余りあるエネルギーを注入される。息が上がり、鼓動が高鳴り、涙がこみ上げる。”生き切る”宮本は、バラ色の人生を掴み取る。あぁ自分はこれから本作を何度見ることになるだろう。

昨年の深夜ドラマの続き。主人公の宮本が、新人営業マンとして奮闘する姿を描いたテレビドラマだったが、その本質は「お仕事」モノではない。「人間の意地や誇りをないがしろにするのがプロの仕事ですか」なんてセリフに象徴されるように、仕事に生きる男たちを通して、人間と人間の繋がり、愚直に全力で戦うことの強さを描いたドラマだった。原作がバブル期ゆえ、時代錯誤な内容だったが、その生き様にひたすら魅了された。また、演じる池松壮亮のイメージを刷新する新境地と感じた。

映画版の本作では、テレビ版の後半で少し顔を出した年上女子「靖子」が、いよいよ、宮本とイイ仲になっているところから始まる。テレビ版では完全な脇役だったので、蒼井優のキャスティングに「勿体なー」と思っていたが、この映画版への布石だったようだ。ドラマ版の「サラリーマン編」からの流れを汲むも、映画版の本作は、宮本、そして靖子の2人に焦点を絞った濃密なドラマになっていた。テレビ版で登場した宮本の職場仲間は魅力的な人ばかりだったので、映画版での露出の少なさを残念に思っていたが、いやいや、こんな物語が待ち受けていたなんて。

宮本と靖子の間に訪れる愛の試練は、かなり重く衝撃的だった。約束を守れなかった自責と加害者への怒り。宮本の顔から血の気が引き、その後、頭に血が上っていく様子がよく見える。靖子は宮本を攻め、宮本はその想いを真正面に受け止めようとする。警察に通報する??、そんな常識的な考えを挟む隙はなく、2人の激情の波にただただのまれていく。宮本の決断は、紛れもなく身勝手なもの。靖子も全く望んでいない。だけど、絶対的な正義だと信じてしまう。

加害者は殺人事件も犯しかねないサイコな悪漢だ。剛力の大男であり、宮本の決意は命も落としかねないリスクを背負う。怒り狂った敵意も、カウンターパンチであっさり返され、前歯の3本が折れるほどに顔面殴打を喰らう。痛みと恐怖が伝染する。逃げてほしい。逃げたほうがいい。が、宮本には逃げるという選択肢はない。そしてクライマックスの再戦は、捨て身の体当たり。痛快よりも恐怖。命をかけた人間の刺し違える覚悟。久しく経験のなかったボルテージに全身が震えた。

宮本の生き様に引き込まれる一方、それと並んで靖子というキャラクターが強い女性として描かれていることに注目する。事件の直後、泣き寝入りすることなく、包丁を待ちだして追いかける。無力だった宮本を容赦なく攻め、罵倒する。勝気ではない、誰に頼ることなく、自身で運命を切り開いていく勇気を持った人だ。パンフ情報によると靖子の個性は原作のままだという。連載当時のバブル期、かなり先進的なジャンダー観をもった作品だったようだ。

宮本と靖子は、本能に思った言葉を、最短距離でぶつけ合う。ボクシングの打ち合いに近い印象だが、自分は他のイメージを思い浮かべた。野球の一幕、ピッチャーが剛速球のストレートを真ん中に放り投げる、バッターはピッチャーライナーで顔面で打球を受ける。ピッチャーは血みどろになりながらもピッチングを続ける。異常な光景で滑稽にも見えるし、何より痛い。真利子監督の痛みを感じさせる演出が、本作ではとても重要になっている。

2人を演じた池松壮亮と蒼井優を通して、役者という仕事の業に触れる。”熱演”なんていう表現ではヌルすぎる。魂をぶつけ合い、その摩擦によって生じた熱波を観客に浴びせる。演じるでなく、全身全霊で生きる姿を見せる。それが共感から離れた生き様であっても、観る者の心情を確かに揺さぶる。それにしても蒼井優、こんな女優さんになっていたんだな。南海の山ちゃん、凄い人と結婚したもんだ。オンオフが切り替えられる能力をもった人なのかもしれないけど。ほかに、2人をかき回し、口から泡吹いて卒倒する井浦新、死ぬ気で役作りに挑み、恐怖の源泉となった一ノ瀬ワタル(「サ道」に出ていた人!)、映画界に必要と認識したピエール瀧、監督によって新たな魅力が引き出された佐藤二郎、他の役者陣も素晴らしかった。

ここまで2人の生き様に惹かれるのは、丸出しの本性が羨ましく見えるから。見終わって何かに飛び込んでみたくなる。宮本の一点突破の爽快感と、その先にある穏やかな希望。光刺す結末は「Do you remember?」込みでパーフェクト。バラ色の人生は、力づくでないと掴めないということ。

【95点】


サウナしきじに行ってきた件。

2019-10-03 07:00:00 | サウナ



先日、サウナ―の聖地と言われる「サウナしきじ」に行ってきたので記録を残す。

残っていた会社の夏季休暇を利用し、平日の月曜日に行ってきた。しきじの最寄り駅は静岡駅。少しでも交通費を浮かせるために、行きは高速バス、帰りは新幹線を使うことにした。自宅の最寄り駅を始発で出発し、新宿発静岡駅行きの始発バスに乗る(7時15分発)。初めてバスタ新宿を利用、外国人旅行者多し。若い学生くらいの女子も多く、ジャニーズ系アイドルのライブ後、一泊して帰る人たちのようだ。静岡駅行きの始発バスは空いていて、自分の隣には誰もいなくてゆったり過ごす。さすがに、しきじ目当てに始発バスに乗る人はいなさそうだ。

10時半到着予定のところ、15分遅れて10時45分に静岡駅に到着。駅から走って、しきじに向かう予定だったが、食べログでチェックしていた「焼津港 みなみ」の開店時間11時にちょうど間に合うタイミングだったので、ダメ元で行ってみることにした。駅から3分ほどの場所、行列ができているのですぐにわかる。10時50分頃に店の前に到着、行列の先頭から15人目くらいの位置についた。11時開店のタイミングで、店に入れなかったら諦めようと思っていたが、狭い店内ながら結構なキャパがあり、1巡目で入ることができた。10分で店内に入れたのでラッキーだろうか。ただ、席についても注文するのが店内に入店した順のため、注文を受けてもらうまでさらに10分くらい待つことになる。お店のスタッフの人は行列に慣れているようで、テキパキ無駄なくオペレーションしている。「ごめんなさいねー」と、丁寧な接客も忘れない。



手書きっぽいお品書きに期待が高まる。せっかくだからと一番高い「生本鮪丼」1580円を頼むことにした。これが失敗だった。さらに10分ほど待って、まぐろ丼が到着。見たところ赤身中心だが、本マグロの赤身が大好きなので問題なし。食べる。しかし、う~ん、本マグロならではのコクだったり旨みが感じられない。。。回転寿司とかで食べているメバチやキハダの赤身とそんなに変わらないのでは。切り身も意外と薄く、お得感は全くなかった。一方、隣の席の人が頼んだ「鮪三昧丼」(1380円)は中トロの刺身が豪勢に盛られており、解凍モノでも絶対にあっちのほうが良かったと後悔した。5分ほどで食べ終え、店を出る。11時半を回っていたが、店の前は凄い行列ができていた。

いざ、しきじへ。スマホで場所を調べると、そこから4キロほど離れている。食べた直後のため、途中、歩きながら走って向かう。ほぼ駅からまっすぐの道なので、ジョギングにはうってつけだ。38分かけて、しきじに到着。秋晴れの天気、湿度は低かったが、さすがに汗だく。見上げたしきじの看板が眩しく映る。



到着した12時過ぎ、駐車場は満車状態。聞きしに勝る盛況ぶり。1400円の入場券を券売機に購入し、受付スタッフの方から説明を受ける。自分のような「お初」組は最近多いみたいで、対応に慣れている模様。「お水汲んでもいいんですか?」と念のため確認すると「ご自由にどうぞ」。汲む場所は浴場内だが、名物の「滝」の横にある水飲み場よりも、浴場の右際にあるホースからの方が汲みやすいとのことだ。とても親切に対応してくれる。フロント横がすぐに脱衣ロッカーで、思いのほか狭い。後でわかったが、ドライヤーで髪を乾かすスペースが全くない。

ツイッターとかで、最近急増した一見客に、常連客の悲鳴が上がっていたので、くれぐれも迷惑をかけないように緊張の面持ちで浴場内に入る。これまたあるあるで、テレビで見たより狭い。薬湯とバブル風呂の浴槽が2つ、サウナが2つ、水風呂が1つ。中央に休憩スペースがあり、9つの椅子と、2つの長椅子が配置されている。人は多いが、思ったほどではない。やはりまず目に入るのが、水風呂の滝だ。見事にかけ流されている。高まる期待を抑えながら、汗だくとなった体をしっかり洗う。シャワーが凄い水圧、設備費をケチっていないのがわかる。洗体後、バブルバスで体を温め、いざ、サウナへ。

まず、高温低湿度のフィンランドサウナへ。100度超え、かなり熱いが、草加健康センターほどではない。6分我慢して、お目当ての水風呂へ。頭から水を何度もかぶり、いざ入水。おお、柔らかい。包まれるような冷たさ。まさに新感覚、これは病みつきになる。水風呂に入っていたのは自分ともう1人だけで、かなりゆっくりできる。しかし、周りに気を使って1分くらいで出る。続いて、薬草サウナに入る。

温度は70度くらいで低温だが、アツアツの蒸気により体感は圧倒的に熱い。それほど多くのサウナを経験していないけど、発汗作用は自分史上1位だ。1分くらいで汗が流れる。薬草の匂いと熱蒸気により、全身が猛烈に蒸される。「これだよ、これ」とテンションが上がりながらも次第に息する喉元が苦しくなる。周りの人がタオルで口を塞いでいるのは、このためなのか。3分ほどで汗だくになり、再びの水風呂へ。あーーー気持ちいい。1人になったタイミングで滝に打たれる。これは堪らない。喉がカラカラのため、横からかけ流されている水をペットボトルに入れ、体内に水分を入れる。こんな美味しい水があっただろうか。贅沢の極み。

中央のスペースで休憩。体外から、そして体内から冷やされた自身の肉体はあっとういう間に「整い」の境地に達する。ただ、あまりにも水風呂が気持ちよいため、「整い」よりも、サウナと水風呂の反復を優先してしまう。限られた時間が勿体ないと、薬草サウナと水風呂、ときどき、薬草風呂、そして水風呂。。。。12時から1時半まで、サウナや水風呂を貸し切りにできる時間もあって、ノンストレスで満喫することができた。他の利用客の方も、しきじを利用するだけあって、マナーをしっかり守っているようだ。水風呂に潜水する人もいたが、羨ましく思いながら自分は我慢。絶対気持ちいいに決まっているが、マナーマナーと自制。



13時半に一旦休憩するために浴場を出る。休憩スペースは「サ道」で見たより、かなり暗がり。鮪丼を食べたばかりのため、軽食として、イカのゲソ揚げと唐揚げを単品で頼む。味は普通だけど、この手のイートインにしては美味しいほうかも。周りの人は、定食を頼んでいる人が多そうだ。「ご飯が柔らかめ」とネットで見ていたので(苦手)、隣のおじさんに「ご飯は柔らかいほうですかね?」と聞くと、「そんなことないよ、結構固めかも」とのこと。無理してでも頼めば良かったかな。

14時に再び浴場へ戻る。少し人が増えている。サウナ→水風呂と2周したのち、気づけば、人が増えている。若い学生らしき集団が入ってきていて、サウナの満室状態が続く。当然、水風呂も渋滞気味。少しでも良い場所を確保しようと、入浴客同士で少しピリつく場面も見られた。平日、昼間の14時半の段階でこの状態だから夕方になったら入館行列ができるのも頷ける。ちょっとゆっくりできないなーと思い、後半は3セットで終了。2リットルのペットボトルに水を汲み、ドライヤーで髪を乾かせない不自由さを少し感じながら、15時前にチェックアウトする(後日、2階にドライヤースペースがあったことを知る)。帰り際、しきじのタオルを購入、300円なので良心的な価格だ。帰りのバス停までの行き方を、受付のおばさんが丁寧に教えてくれる。さらば、しきじ。

帰りはバスと新幹線で楽に帰宅。ただ、さすがに往復で新幹線はないなーと思う。何かの旅行のついでか、今回みたいに午後の混雑を避けて、宿泊するか、になると思われる。サウナしきじが静岡にしかないことが悔やまれる。「最高!」のサウナ体験だが、いかんせん人が多い。天然水のかけ流しで水風呂を売りにしたサウナ施設がもっと作られても良いと思う。設備費や人件費(清掃要員)にコストをかけても、しきじのように、これだけ集客ができたら、事業として普通に成功すると思うのだけど。他に水風呂が天然水のサウナがないか、探してみよう。

サウナ  :★★★★★
水風呂  :★★★★★+★
お風呂  :★★★☆☆
アメニティ:★★☆☆☆
アクセス :★★☆☆☆
ドライヤー:☆☆☆☆☆(2階にあったそうです)

第92回(2020年)アカデミー賞ノミネーション勝手に予想 【第一弾】

2019-10-02 23:00:00 | 映画

10月に入り、今年も残り3ヶ月。早っ。
オスカー狙いの映画はこれから北米で本格的に公開が始まる。
映画祭の評価を中心に10月1日時点までの情報をもとに第92回アカデミー賞の主要部門の予想をしてみる。
上から候補入りの確率が高い順。

【作品賞】
ジョジョ・ラビット
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
マリッジ・ストーリー
アイリッシュマン
1917
パサライト 半地下の家族
フォードvsフェラーリ
ジョーカー

フロントランナーは、今やオスカーとの親和性が最も高い映画祭となったトロントを制した「ジョジョ・ラビット」だろう。NETFLIXからは2本が当確とみる。「マリッジ・ストーリー」と「アイリッシュマン」だ。もし「2人のローマ教皇」も入ったとしたら3本を占める快挙(さすがにそこまではいかないか)。個人的に注目するのは2本。1つは「パサライト」で、韓国映画、いやアジア映画として初の候補入りなるか。10月1日時点のロッテンスコアは110のレビュー数でナント100%のフレッシュを獲得。次点に終わったトロント映画祭だが、公開順が早ければ最高賞をとっていたとかいないとか。もう1つは「ジョーカー」で北米での評価はそれほど伸びでおらず、好き嫌いが分かれている模様だが、ベネチア制覇がオスカーにも影響すると思われる。

【監督賞】
ノア・バームバック(マリッジ・ストーリー)
マーティン・スコセッシ(アイリッシュマン)
クエンティン・タランティーノ(ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド)
サム・メンデス(1917)
ポン・ジュノ(パサライト 半地下の家族)

上位3人は当確ライン。ここでも大穴は「パサライト」のポン・ジュノ。作品の絶賛ぶりを見れば、大穴ではなく、本命といっても良いかもしれない。思えば、昨年受賞したキュアロンも外国語映画(「ローマ」)であり、トロントでは次点の結果だった。

【主演男優賞】
アダム・ドライヴァー(マリッジ・ストーリー)
ジョナサン・プライス(2人のローマ教皇)
レオナルド・ディカプリオ(ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド)
ホアキン・フェニックス(ジョーカー)
ロバート・デ・ニーロ(アイリッシュマン)

毎年、強豪がひしめく主演男優賞。もはや候補入りするだけで受賞に等しい栄誉といえる。今年の顔ぶれは、順当に上位3人、「パラサイト」の勢いによっては、ソン・ガンホがアジア人俳優として初の候補入りになる可能性あり。また、ホアキン・フェニックスは作品賞よりも候補入りの可能性が高いと思うが、作品賞に無視された場合、ハズれる可能性もあると思われる。

【主演女優賞】
スカーレット・ヨハンソン(マリッジ・ストーリー)
レニー・ゼルウィガー(Judy)
シンシア・エリヴォ(Harriet)
オークワフィナ(The Farewell)
メリル・ストリープ(ザ・ランドロマット パナマ文書流出)

上位2人は当確ライン。アジア系女優としてオークワフィナの候補入りも可能性が高いとみる。「ダーク・クリスタル」での彼女の声優ぶりも面白かったな。NETFLIX映画かつソダーバーグ映画、初出演となるメリル・ストリープが最多ノミネート記録を更新するか。

【助演男優賞】
ブラッド・ピット(ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド)
アンソニー・ホプキンス(2人のローマ教皇)
クリスチャン・ベール(フォードvsフェラーリ)
サム・ロックウェル(ジョジョ・ラビット)
ジョー・ペシ(アイリッシュマン)

個人的に受賞を望むブラッド・ピット。他は、常連組が固く候補入りされると思われる。9年ぶりのカムバックとなるジョー・ペシが、会員からのリスペクトも手伝って候補入りするかも。

【助演女優賞】
ジャネール・モネイ(Harriet)
ジェニファー・ロペス(Huslers)
アネット・ベニング(The Report)
ローラ・ダーン(マリッジ・ストーリー)
マーゴット・ロビー(ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド)

まだまだ、ヨめないこの部門。これからだな。。。

以上

ホテル・ムンバイ 【感想】

2019-10-02 07:00:00 | 映画


この世の地獄。一切の慈悲を与えない殺戮の光景に言葉を失う。戦時中ではない、たった10年ほど前に起きた事件だ。戦慄の臨場感に震え、テロリストの犯行に怒りが増幅する。「あの人は最後まで生き残りそう」なんて予定調和とは無縁、無差別かつ一瞬で命を奪っていくテロの真実を突きつける。

2008年、インドのムンバイで起きた同時多発テロ事件。処刑場と化したタージマハル・ホテルでの宿泊客、ホテル従業員たちの悲劇を描く。

テロが起きた背景には触れられず、テロの発生から終結までの長い長い道のりを追っていく。人間を救うはずの信仰を、他宗教の排斥思想と履き違えるテロリストたち。実行犯の多くは少年であり、半ば洗脳に近い形で指導者の命令に従っていく。目の前にいる人間を、憎むべき、殺すべき人間として疑わない。クールに淡々と銃撃による虐殺が行われ、その過程に障害があれば、鬼の形相になって取り払おうとする。ホテルという隠れ場所が点在する空間で、いかに一人残らず見つけ、殺すことができるか。途中、卑劣な罠を仕掛ける様子に怒りを抑えきれない。

襲われる宿泊客と、ホテルの従業員たち。実行犯は6人程度だが、銃が持つ圧倒的な武力差により、彼らが抵抗する状況は全く生まれない。「特殊部隊が到着するまで10時間以上かかります!」という甘すぎる当時のインドの危機管理にも驚かされるが、一般市民をターゲットにした武力テロの現実がそのまま描かれているようだ。声高にヒロイズムを掲げることなく、唯一の盾は、ホテルの従業員たちの宿泊客を守るというプライドだ。ホテルマンたちの勇気と犠牲に想いを馳せる。

映画なので、話の展開に多少の美化や脚色は行われているように思えるが、融和と団結の尊さがしっかり抑えられている。インド人の主人公が恐怖する白人おばさんに、自身のルーツ、信仰について丁寧に説明するシーンが印象的だ。多様性を受け入れ、理解すること。相反するテロリズムとのコントラストが鮮明だ。

一瞬の決断が生死を分かつ、サバイバルスリラーとしても見ごたえがあった。自分がもしあの場にいたら、希望を見出すことなんてできなかっただろう。サイコロで決められるような運命。テロを根絶することの意味を考えた。

【65点】