ド肝を抜かれる。真実しか登場しない戦争映画であり、ドキュメンタリー映画と定義づけるにはあまりにも革新的。ピーター・ジャクソン、しばらく見ていないと思っていたけど、こんな凄い仕事をしていたのか。。。今年の未公開映画ベスト候補に追加。
昨年アメリカで公開され、話題になっていた1本。日本での劇場公開を楽しみにしていたが、シレっと配信のみでリリースされていた。
第一次世界大戦時のモノクロ映像を、現代の技術で高精細なカラー映像にリマスタリングした映画。
よくテレビで見る、画質の粗いモノクロ映像から始まるが、舞台が戦場に移った途端、カラー映像に変わり立体的に浮き上がる。100年前の遠い過去の風景が、手の届くような風景に激変する。最近だと「ダンケルク」とかの記憶が新しいが、まさにそのもの。映画として作られた虚構の世界という先入観があるのだが、実際に映っている光景、登場人物たちはすべて現実である。この感覚は衝撃的だった。
歴史的な価値を感じることは勿論のこと、特筆すべき点は、戦場に向かう若者たちの物語に仕立てていること。そこにピーター・ジャクソンが監督をした意味がありそうだ。退役軍人たちが当時の様子を振り返った膨大なインタビュー音声を繋ぎ合わせて、映像内で起きる出来事にピタリと嚙み合わせていく。100年前の映像は無声だが、そこに映る人たちの口の動きから、言葉を読唇し、収録した音声をアテレコしている。この所業は究極の再現といえ、もたらされる臨場感に圧倒されるのだ。
「戦争で生き延びれば何にでも耐えられる」という言葉が響く。
戦争というものの実体が浸透していない第一次世界大戦のことだ。非日常であるナショナリズムの高揚にほだされ、若者たちが次々と戦いに志願する。待ち受けるのは彼らが想像し得なかった生き地獄だ。吐き気がする戦地の衛生環境、日本の特攻隊を彷彿とさせる自殺的攻撃、死の上に死が積み重なる光景。悲壮感と共に逞しく生きる若者たちの様子も見受けられる。
これまでモノクロ映像でボヤかされていた部分が、鮮明に映し出される。兵士たちの虫歯だらけの歯、爆撃を受け腸が露出する馬、赤黒く染まった肉が露出した負傷兵、人間の死体に這う虫。。。。思わず目を背けたくなるような映像が続く。そうした戦闘の激しさとは裏腹に、青々と茂る草原の美しさが印象に残る。ことごとく生々しい。
戦闘描写だけではない。映画はイギリス兵たちの視点から描かれるが、対戦国であるドイツ兵との知られざるエピソードが映し出される。お互いが命を奪い合うことに疲弊し、戦争の無意味さを理解している。捕虜となったドイツ兵は温和で友好的な人が多かったといい、特にバイエルン人は善良だったとのこと。映像は笑顔で談笑する両国の兵の姿をとらえる。目下の日本では、ラグビー熱が高まっているが、「ノーサイド」の精神が、あんな戦争中に息づいていたとは。
ピーター・ジャクソンのパーソナルなモチベーションが最後に明らかになる。命をかけて戦いながらも 讃えられることのなかった男達への賛歌にも思えた。
【75点】