Netflixにて。
海外ドラマ「ビリオンズ」(「Billions」)のシーズン1を観終わったので感想を残す。
全12話。1話あたり、みっちり60分近くなのでかなりの見応え。
もうだいぶ前にNetflixで配信がスタートしていたが、面白いという評判も聞いていなかったため、触手が伸びなかった。現在、アメリカでも放送中であるシーズン3のロッテントマトスコアが非常に高かったため、見ることにした。映画同様、テレビドラマのロッテントマトスコアも、かなり信用性が高いことが最近わかってきた。
見終わった結果、「中毒」とまでは行かないもののかなり楽しめた。
終盤のエピソードから急激に面白くなる。
製作は別会社の「SHOWTIME」、日本でのリリースはNetflixのみ。
「ジ・アメリカンズ」と同じ形態だ。
ヘッジファンドの社長で大金を稼ぐ男「ボビー」と、彼の不正に目をつけ、逮捕しようとするニューヨーク州の検事「チャック」の対立を描いたドラマ。
ヘッジファンドを経営する主人公のボビーは、インサイダー取引や贈収賄という犯罪に手を染める。犯罪は犯罪であるが、誰かに実害を与えるものではなく、処罰されるべき悪党には見えない。自ら築いた財産を寄付や基金などの社会貢献に積極的に投下しており、社会活動家としても知られる。それも、カモフラージュではなく、純粋な善意からだ。贈収賄についても、あらゆるリスクを回避するために対応する。一代で会社を築いた苦労人であり、驚異的な頭脳を持つ天才だったりする。
ボビーは「ハウス・オブ・カード」のフランシスと重なる。どちらも凄まじい豪腕で周りの人間をかきまわす。フランシスが持つ力の源泉は「権力」であり、ボビーは「カネ」だ。馴染みの店があることも共通していて、フランシスがスペアリブ屋で、ボビーはビザ屋だ。ボビーは資本主義の鬼である。職場では部下を鋭い言葉で鼓舞し、ときに罵倒し、他社のライバルには牙を剥いて挑発する。徹底的な能力主義者で、気に入らない部下がいれば即クビ。それでも周りの人間たちはボビーについていく。金儲けという才覚に秀でたカリスマだからだ。
億万長者の財力を武器に、面倒なことはすべて金でねじ伏せ、金の力で物事を有利に進める。あれだけの大金をもらえるのであれば、周りの人間は誰でも喜んで力を貸すだろう。不正と知りながら、警察組織も潤沢な賄賂によって彼に様々な便宜をはかる。「世の中、結局、カネなのね」と切なくなる一方、大金が次々と動くダイナミズムに引き付けられる。ボビーにはビジネス、プライベートの両面で強力なパートナーがいる。ボビーの右腕である会社のCOO「ワグス」と、裏仕事も請け負う2人の弁護士。家庭では、ボビーの良き理解者であり、ときにビジネスの面でも協力する妻「ララ」がいる。ボビーのキャリアと財力によって築かれた磐石の王国だ。
その揺るぎない王国に戦いを挑むのが、連邦検察官のチャックだ。ニューヨーク南地区の検察部隊のトップ。ボビーと違って、代々法曹界で活躍してきた家系のエリート。「正義」を心情としており、どんな不正も見逃せない男だ。彼の個性を説明する、公園での犬のウンコ処理を巡るシークエンスが面白い。標的にされるボビーは悪事の印象は薄いため、彼がボビーを追い詰める様子にはあまり力が入らない。ところが、次第に引き込まれていく。本作は正義VS悪の戦いではなく、対立する立場であって、異なる力をもった2人の攻防戦を楽しむドラマなのだ。
この2人の戦いの間に、中立的な立場として登場するのが、チャックの妻「ウェンディ」の存在だ。ウェンディは絵に描いたようなキャリアウーマンで、ボビーの会社で人材能力コーチとして活躍している。チャックと結婚する前、ボビーが現在の会社を創業した当時から、ボビーを支えており、ボビーからも絶大な信頼を得ている。実質的に会社の幹部に近い立場といえる。ボビーは信頼するビジネスパートナーが、自分を追い込もうとする検察官の妻であることを認識しているし、ボビーもまた、自身の妻が逮捕すべき悪徳社長のビジネスパートナーであることを知っている。ウェンディの仕事ぶりはあくまでクリーンであり、公私を完全に切り離しているが、ボビーとチャックの対立が深まるにつれ、簡単に線を引くことができなくなる。そして後半の大きなターニングポイントを作ることになる。なお、ウェンディとチャックの夫婦は、美女と野獣といったビジュアル。そんな2人が結ばれるに至った、もう1つの隠れた絆が「SMプレイ」ww。
本作の魅力の1つは、馬鹿が登場しないということ。登場する主要キャラが、ことごとくキレ者であり、ドジを踏むようなシチュエーションがほとんど出てこない。能力の高い者しか生きられない世界を舞台にしているからだ。高性能キャラたちのヨミ合いと駆け引きが本作のスリルの源泉だ。金融や司法のルールなど、専門用語が飛び交うため、十分に状況を理解できないこともあるが、逐一知らない情報を調べて学んでいくと、エピソードを追っていくうちに状況が次第に明るく見えてくる。なので、慣れるまでには少々時間がかかる。
登場キャラが魅力的という海外ドラマの必須条件も見事にクリア。
まず、ボビーを演じるのはデミアン・ルイス。「ホーム・ランド」での忘れがたい名演のあと、本作への出演していたのだ。物語は常に彼を中心に回っており、大きな存在感を示す。ビジネスではとことん冷徹であるが、プライベートでは家族思いの父親としての一面をみせる。その妻のララを演じるのは、マリン・アッカーマン。映画「ランペイジ」では酷い扱いを受けていたが、本作ではしっかりまともな役を任されていて、公私に渡りボビーのバランスをとる役割として機能する。チャック演じるポール・ジアマッティは映画俳優としての印象が強いため、ドラマでの出演が新鮮。バイプレイヤーちして確かな演技力をみせるが、対抗馬のボビーと比べるとやはり地味で存在感が薄い。チャック以上に目立つのがドラマのキーマンであるウェンディ役のマギー・シフだ。本作で初めて見た人だが、「サン・オブ・アナーキー」など、テレビドラマで活躍している人らしい。彼女の品性と強さと美しさに一目ぼれ。劇中同様、彼女のカウンセリングを受けたいと欲する。「ブレイキングバッド」や「スーツ」で馴染みのデビッド・コスタビルは、クセ者のワグスを妙演。彼から発せられる下品で猥褻な例えトークが毎回ツボだ。
ボビーとチャックの攻防が一段落した第10話以降から、急激に面白くなってなった。最終話のフィナーレで、シーズン2への期待が高まる。引き続き、シーズン2に突入する。
【65点】