から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

彼女の人生は間違いじゃない 【感想】

2018-02-28 09:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。
東日本の震災に遭い、仮設住宅で暮らす女性の、役所勤めと風俗勤めの二束わらじの生活を描く。原作は本作の監督である廣木隆一の処女作。被災者に対する誠実さが強く感じられる映画。実際に被災に遭われた方たちから生の声を拾って書き上げた物語と察する。大切な人を亡くし、生活の糧にしていた仕事を亡くし、住む場所を失くした人たち。深い喪失と望郷の想いを抱えながらも前を向いて生きなければならない。本作の主人公が選んだ生き方は、経済的な問題を解消するために風俗で働くというもの。仮設住宅で暮らしながらも役場で働く主人公は、生活が困窮しているようには見えないが、同居し仕事を全くしなくなった父との今後の将来を考えてのことだろうか。危険にも晒されるデリヘルの仕事だが、高良健吾演じる風俗店の店長との交流が主人公に生きる希望を見出させる。人と人はどこで繋がるかわからない。また、主人公の物語と平行で描かれる、同じ境遇で役所に勤める青年の生き様が印象に残る。大学の卒論ネタを取材するために、ズケズケと当時の様子を聞きだそうとする女子大生を前にしてつい言葉を失ってしまう。彼は悲しい過去を乗り越え、今を生きようとしているだけであり、安易な同情や上辺の理解は返って相手を傷つけるだけだ。普段の生活を送っている自分たちにはとうてい計り知れない状況に違いない。今もなお続く、原発によって故郷を追われた被災者の方たちが、安全に故郷に戻れる日を願う。

【65点】
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忍びの国 【感想】

2018-02-28 08:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。
キネ旬の読者選出で2位になっていたので少しは面白いと思っていたが、つまらない。薄い脚本と薄い演出。人ならざる忍者の非情性に着目した点は面白かったが、いつになっても画がシリアスに見えない。アクションが苦手な日本映画の典型のように、迫力を捉えることができず、ひたすらコメディに走るのみ。忍者アクションを描く以上、リアル路線でないのは同意だが、開き直るかのような大袈裟なCGにシラける。主演の大野君、やっぱ自分はダメだ。ヒロインの石原さとみも同様。期待していない主要キャストのパフォーマンスはそのまんまで、演じるキャラクターが魅力的に見えないのが致命的。大野君を中心に都合よく回るアクションは、まるで「嵐」ファンへの接待映画の趣きあり。クライマックスの一騎打ちシーンでようやくスタントの本気度が見えるものの、本当はもっと面白い映画になったのではと残念に思う。終盤に訪れる、愛に目覚めるドラマ展開も全く響かなかった。「るろうに剣心~」で時代劇アクションを成功させた大友啓史監督あたりがメガホンをとっていたら面白かったかも。

【55点】
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東京喰種 トーキョーグール 【感想】

2018-02-28 07:00:00 | 映画


新作DVDレンタルにて。
漫画原作未読。吸血鬼に似ているようで似ていない「人肉」を食べることでしか生きられない種族の話だ。人間にとって脅威であるため駆逐される対象とされるが、本作で描かれる種族は人間と平和的に共存することを望む。人間を傷つけることなく、食料として生成させる方法は結構思いつく内容だ。主人公は人間からトーキョーグールに変わってしまう特異なキャラだが、空腹なのに普通に食べていた料理が全く受け付けられなくなる描写が面白い。おそらく、撮影用にお菓子か何かで出来ている人肉フードが美味しそうに見える。彼らを執拗に追う政府の男が、一方的に彼らを排斥するモチベーションがよくわからず違和感を感じたりするが、途中から深いことは考えず、人間(悪)VSグールー(正義)のバトルアクションとして割り切って見ることにした。そのアクションは視覚効果ありきとなるが、そのクオリティは悪い意味で日本品質。実写にアニメを切り貼りしたような雑な仕上がりで、なかなかレベルアップしないこの状況に日本の技術力の限界を感じてしまう。漫画の世界を実写で再現するのではなく、漫画をリアルな世界で描いてほしい。「この世界は間違っているー!!」といった主人公の絶叫は空回りしていて、キャラクターの熱量に対してドラマがついていけてない。最後に主人公が対戦する相手の武器が、削られる前のケバブのようだったが、あれがなぜ強いのか説明がほしい。

【55点】


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第90回アカデミー賞受賞予想。

2018-02-27 22:00:00 | 映画

いよいよ第90回アカデミー賞授賞式まで1週間を切った。今年は例年以上に前哨戦の結果が偏っていて、主要部門の結果予想は鉄板でつまらない。注目は、技術部門でいかに自分が好きな映画が受賞するかだ。予想を下記にまとめてみる。

作品賞:スリー・ビルボード
監督賞:ギレルモ・デル・トロ(シェイプ・オブ・ウォーター)
主演男優賞:ゲイリー・オールドマン(ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男)
主演女優賞:フランシス・マクドーマンド(スリー・ビルボード)
助演男優賞:サム・ロックウェル(スリー・ビルボード)
助演女優賞:アリソン・ジャニー(アイ,トーニャ/史上最大のスキャンダル)

脚本賞:スリー・ビルボード
脚色賞:君の名前で僕を呼んで
撮影賞:ロジャー・ディーキンス(ブレードランナー 2049)
編集賞:ベイビー・ドライバー

美術賞:シェイプ・オブ・ウォーター
衣装デザイン賞:ファントム・スレッド
メイキャップ&ヘアスタイリング賞:ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男
視覚効果賞:ブレードランナー2049
録音賞:シェイプ・オブ・ウォーター
音響効果賞:シェイプ・オブ・ウォーター
作曲賞:シェイプ・オブ・ウォーター
主題歌賞:「This Is Me」(グレイテスト・ショーマン)
アニメーション映画賞:リメンバー・ミー

主要部門の主役になるのは「スリー・ビルボード」。作品の性質もさることながら、端役に至るまで出演するキャスト陣がもれなく素晴らしい演技を披露しているため、俳優系アカデミー会員の票が集中すると予想される。撮影賞はロジャー・ディーキンスが悲願の受賞となるか注目。「ブレードランナー2049」支持者としても是非受賞してほしい。編集賞は強豪作品がズラリと並ぶ。昨今、作品賞とは分離して評価される傾向があるため、「ベイビー・ドライバー」が受賞する可能性も大いにありだ。その対抗馬としては時間軸を操った「ダンケルク」だろうか。他、SF世界で陶酔させた「ブレードランナー2049」は視覚効果賞を受賞してほしいし、作品賞は無理でも、技術部門で「シェイプ・オブ・ウォーター」が最多で受賞してほしい(まだ観てないけど)。メイキャップ~賞や、主題歌賞、アニメーション映画賞は一強の様相。

授賞式の司会は、昨年に続きジミー・キンメルだ。去年から彼がホストを勤めるトークショー番組のYoutbeチャンネルを頻繁に見ているが、いかに彼がハリウッドの映画人と顔なじみであることがよくわかる。日本のテレビバラエティ同様、新作映画の番宣みたいに、こぞって映画のキャスト陣が彼の番組に出演し、彼と軽妙な会話を交わす。もう自身のテレビ番組で散々絡んでいるので、授賞式でも遠慮なくイジり放題なのだ。前回のマット・デイモンとの絡みも最高だった。ハリウッドスターの意外な一面を引き出してくれるし、エレンおばさんにみたいに自分中心にならず、あくまで映画人を一番美味しくしようとしているのがよい。唯一の気がかりは昨今「セクハラ問題」の勢いに押され、彼のパフォーマンスが萎縮してしまうことだ。とりあえず楽しみにして待つ。
コメント (4)
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犬猿 【感想】

2018-02-24 13:58:50 | 映画


予想以上。素晴らしい。兄弟ゲンカで思いつく展開を余裕で超えてきた。主な登場人物はたったの4人だけで、これほどの脚本をオリジナルで描いた吉田監督に拍手。一番身近な家族のなかで微妙に力関係が異なる「兄弟」の特異性を掘り下げ、エモーショナルで共感性の高いドラマに仕立てる。笑いとシリアス、緊張と緩和の波が途切れない。描かれる兄弟の愛憎劇から浮上するのは、血と時間で繋がれた宿命みたいなもの。本作の場合、対極にある個性を兄弟に配したことで持たざる者の人生の悲哀にまで言及する。正直、全く期待していなかったキャスティングだったが、4人がそれぞれの持ち味を見事に発揮。役者を活かすも殺すも監督次第であることがよくわかる。クライマックスにはまんまと泣かされてしまった。

外見も内面も全く異なる、2組の兄弟と姉妹の間で起きる騒動を描く。

最初から面白い。
映画の本編が始まったと思いきや、引き続き、新作映画の予告編が流れている。それも昨今アリがちな少女漫画系の恋愛映画である。登場するキャストは無名だが、あまりの完成度の高さに新作映画の予告編とすっかり信じ込む。その後、映画を見た観客の絶賛リアクションが流れる。ここで筧美和子が登場し、本編のワンシーンであることに気づかされる。一般の鑑賞客に扮した彼女は興奮気味にカメラの前でこう発する。「共感、共感、共感の嵐です!!」(って普通言わないからw)。昨今の映画の流行りを完全にイジっている。感動する観客の反応を予告編で流す映画って、面白かった試しはない。冒頭から一泡吹かされる。オープニングで観客を驚かせる仕掛けは前作の「ヒメアノ〜ル」に通じる。

2組の兄弟姉妹は仕事上で付き合いがある。中堅企業と思われる印刷(あるいは広告代理店)に勤める兄弟の弟が主人公。彼が何かと頼りにする下請けの小さな印刷会社があって、その会社を切り盛りするのが姉妹の姉だ。下請会社の事務員として手伝っているのが、冒頭の予告編で顔を出した姉妹の妹。弟はクライアントから無理を押し付けられ、それを姉妹の下請会社側の努力でカバーしてもらう。本作でよく見る発注側と下請会社の構図は、自身にも身に覚えがあって何とも生々しかった。「~さんにはいつもお世話になっているから」と引き受けてくれる下請会社には、仕事を切られることへの危機感があるのだが、本作の場合、その間に個人的な色恋が挟まれる。

仕事もヒト対ヒトの関係だ。下請会社の姉は、弟に恋をしている。恋する人に少しでも気に入られたいと思い、弟からの仕事に普段以上のエネルギーで取り組む。但しその恋が成就することは難しい。弟はイケメンだが、恋する姉は5頭身くらいのドラム缶体型で、顔立ちも不細工。傍から見て明らかに釣り合わないし、弟が彼女を好きになるとは思えない。姉の不幸はもう1つある。同じ職場で働く妹の存在だ。同じ血を引いているとは思えないほど、スタイル抜群で可愛い顔立ちであり、出会う男たちはみんな彼女を気に留める。既に顔なじみの関係だが、妹が弟にアプローチをすれば簡単に落ちる可能性大だ。

弟にも姉妹と同様に、似ても似つかない兄がいる。地味で真面目な弟に対して、暴力的でワルとして地元で恐れられる存在だ。そんな兄が強盗で捕まり、出所して戻ってきたことから物語が大きく動き出す。弟は兄を「お兄ちゃん」と呼ぶ。おそらく子どもの頃からの関係性が変わっていないと思われる。弟は兄へは親しみよりも、厄介者として距離を置きたいようだ。何かとトラブルを持ち込み、口答えすれば暴力で封じ込めるパターンがいつまでも変わらない。一見、不協和な兄弟関係と思われたが、そうでもなくて、兄は弟を大切な存在として想っているし、弟も奥底で兄に依存している部分がある。兄が弟に絡んだチンピラに報復で出た場面で「白々しい。俺に言えばどうなるか、わかってただろ?」と言い放つ。吉田監督の隙のない視線にゾクっとする。

2組の兄弟姉妹は個性が異なるだけでなく、互いが持っていないものを持っている。地道に仕事に励む弟、その働きぶりを馬鹿にして大きなビジネスにかける兄。結果、薄い昇給に甘んじる弟と、成功する兄。目立たぬように平穏に生きる弟と、地元で顔が知れ渡り多くの敵を作っている兄。仕事が抜群にできる姉と、何をやってもできない妹。容姿に恵まれず男たちにスルーされる姉と、男にモテて夢を追うことができる妹。仲の良い兄弟として素直に相手を支持することはできず、双方が羨み、嫉妬する。その嫉妬がついに攻撃に変わる。「同じ兄弟なのに」という焦燥感が事態をさらに悪化させるように見える。本作ではとりわけ、姉妹側の戦いが鮮烈だ。ヤラれたらヤリ返すのマウントの取り合いがスリリング。

姉妹を演じた、ニッチェ江上と筧美和子のキャスティングの妙が光る。江上はブサイクでダサくて何をやってもキマらない姉をナチュラルに演じる。遊園地での悪意たっぷりな「ブヒブヒ」や、恋に浮かれたヘンテコダンスなどのユーモア描写が最高にキマっている。そうしたコミカルな一面だけでなく、恋に破れ、妹への嫉妬に狂い、自身の人生を呪う姿が切なく残酷にも映る。妹役の筧美和子はまるでセルフパロディのようだ。男を虜にするグラマラスボディに「胸だけの女」とイジられがちなタレントだ。演じる妹は芸能界で目が出ず、枕営業を欠かさず、グラビアから着エロというルートを辿っていく。本来の筧美和子をそんなことはないと思うが、彼女への偏見みたいなものが、役柄に説得力をもたせているのは確かだ。

兄弟の兄を演じた新井浩文は予想通りの巧さだったが、本作の主人公である窪田正孝は「こんな芝居ができる人だったんだ」と僭越ながら本作で見直した。パッと見、スタイルも良くて普通にイケメンなんだけれど、泳ぎ気味な視線からは小市民感が滲む。彼が仕事で奔走する様子は、どこにでもいるサラリーマンそのものだ。クライマックスでは難しい感情の変化をとらえ、エモーションが爆発する兄への秘められた告白シーンに胸を掴まされてしまった。この間、DVDで見たばかりの「東京喰種」ではただ叫ぶばかりだったのだが、演出をする人が変わるとこんなに輝く逸材だったのだなと感心した。

自分にも兄弟がいて、本作をみると今の関係をつい振り返ってしまう。兄弟は物心ついた頃から知っていて、昔は普通に仲が良かったはず。それが大人になるにつれ、多くのモノが身につき、多くのモノが失われていくなかで、変わらずにいられなくなったりする。ただ、本作は兄弟を悲観的に描いている映画ではなく、兄弟の絆を描いた映画といえ、兄弟がいる人もそうだが、いない人にとっても刺さる人間ドラマだと感じた。

「グレイテスト・ショーマン」を見終わった直後に立て続けに見たが、期待ハズレによる消化不良を一気に本作が解消した。吉田恵輔監督映画のなかでも最も好きな映画となった。

【75点】
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グレイテスト・ショーマン 【感想】

2018-02-17 13:16:57 | 映画


実在した興行師、P・T・バーナムの設定を借りたゴージャスでライトなミュージカル。キャスト陣の芸達者ぶりと、眼福感たっぷりのミュージカルシーンに見入る。一方、映画は「実話」モノではなく、万人ウケを狙ったファンタジーだ。嫌悪感を排除し、綺麗に気持ちよく魅せることに終始する。ユニークな体型をもった人たちも、多様性の言葉だけでくくり「団結」「家族」といった話にまとめる。彼らを演じるのは、仮装した一流のシンガーやダンサーたちだ。加速の一途を辿る美化に途中からついていけなくなる。レベッカ・ファーガソンの堂々たる吹き替え歌唱パファーマンスなど、偽物が透けるシーンには高揚しない。ザック・エフロンの久々のミュージカルが見られたのは良かった。

「フリークス」という映画がある。見たことはないが、今から80年近く前に製作された映画で、身体的な奇形や障害をもって生まれてきた人たちが多く出演している。人権上の問題から公開禁止となっている映画らしい。その映画の存在を知って、調べていくうちに当たったのが、本作の主人公のモデルとなっているP・T・バーナムだ。

日本のマーケットはミュージカルと相性がいい。「レ・ミゼラブル」「アナ雪」、そして、去年の興行収入1位となった「美女と野獣」。配給会社が鼻息が荒くなるのも当然で、異例ともいえる大量のプロモーションをメディアに投下していた。ずいぶんと前から劇場での予告編も流れていたし。「ラ・ラ・ランドの製作陣が贈る!」と声高に言うが、作曲家が同じというだけで全く関係ないし、映画のレベルも比較できるものではない。

予告編で流れているとおり、本作は良くも悪くも夢物語だ。P・T・バーナムがサーカスの興業で成功を収めた背景にあるのは、身体的に奇形のある人たちを起用したことだ。ストレートな言い方をすると「見世物」であり、笑われ、怖がられてもお金をもらえればよい。その人たちの当時の写真をみると、昨今何かと叫ばれる「多様性」なんて言葉では括れないほどのインパクトを受ける。今よりももっと不寛容だった時代のこと、表舞台に立つことの怖さは計り知れなったと思う。

自分が思うよりも彼らは逞しかったかもしれないし、バーナムや観客からも敬意や親しみをもって接せられていたもかもしれない。働き口のない彼らにとっては救われる仕事だったのかもしれない。。。それにしても本作には違和感を覚える。リクルートしてすぐに採用され、舞台に登場すると最初は観客が戸惑うも、すぐに喝采を浴びる。心ない観客から「フリークス!」と排斥の暴力を浴びるが、屈せず、バーナム「家族」として一致団結する。。。美談。

娯楽ミュージカルに仕立てる以上、醜いものを捨てなければならないのはわかる。バーナムを8頭身イケメンのヒュー・ジャックマンが演じる。「バーナム効果」という言葉にあるとおり「騙し屋」として側面は削がれ、誠実な善人としてしか描かないのも仕方ないか。サーカスのメンバーは、身体のハンデをモノともせず華麗に踊り、歌う。美しい絵を描くためには、「ネバー♪ネバー♪」と歌声を別人のものに入れ替えてもOKとする。P・T・バーナムはもはや関係ない。その時代に実在した負の価値観が無視されて勿体なさを感じる。

ヒュー・ジャックマンはやはり本作のような歌って踊るミュージカルが良く似合う。長い手足から繰り出されるキレのあるダンスと抜群の歌唱力。まさにブロードウェイ仕込み。久々のミュージカル出演となったザック・エフロンとの競演シーンが最大の見所だった。酒場の空間を活かし踊り、あらゆる小道具で音楽を奏で、2人が気持ちよく歌い上げる。ヒュー・ジャックマンにはもう1回、アカデミー賞のホストを務めてもらって華麗なパフォーマンスを披露してほしい。伝説の歌手を演じたレベッカ・ファーガソンは見事な口パク演技を披露(彼女は悪くない)。彼女のなんちゃって熱唱シーンを見るにつけ、痩せて筋張った首回りがずっと気になる。ローグネーションで初めて見たときは、もっと肉感的でカッコよかったのに。

ミュージカルは一流だが、ドラマに共感することはない。良さげな音楽で、映画自体が素晴らしいと思えてしまう可能性あり。これもある種のバーナム効果か。

【60点】
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我は神なり 【感想】

2018-02-17 08:40:14 | 映画


新作DVDレンタルにて。引き続き、ヨン・サンホのアニメ映画。本作を見ると、ヨン・サンホが実写映画と撮ることは必然だったと思える。
ダム建設によって水没する村を舞台に、宗教を悪用した詐欺師集団と村人たちとの交流を描く。物語の主要人物は3人で、とことん悪魔である村の厄介者、善人の顔をした詐欺師、善人である牧師が登場する。閉鎖的で希望を見いだせない村人たちに救いの手を差し伸べる宗教。救いの対価として支払うお布施は、詐欺師の懐に入っていく。その状況を唯一見抜くのは、周りを傷つける村の乱暴者であったが、その男が正義に向かうことはない。詐欺師に利用される牧師は純粋で善良なる人間であり、理不尽な世界に苦悩する。実写の韓国映画にも通じる強烈なバイオレンス描写もありつつ、濃密な人間ドラマが交わる。宗教への考察が鋭く、宗教が人間を支配してしまう恐ろしさだけでなく、それが偽物であったとしても人間の救う糧である事実を突きつける。まさに圧巻だった。村の厄介者を演じたヤン・イクチュンの熱演も光る。「ソウル・ステーション~」でも感じたことだが、本作はまさに実写化志向のアニメ映画。というより、実写化が叶わないから、アニメ映画にしたとすら思えるほど。この映画、韓国の実力派俳優でもって実写化したら、とんでもない傑作になりそう。

【75点】
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ソウル・ステーション パンデミック 【感想】

2018-02-17 08:37:22 | 映画


新作DVDレンタルにて。
昨年「新感染」で、映画秘宝系映画ファンをアツくさせたヨン・サンホのアニメ映画。「新感染」の前日譚みたいなフレコミだったが、ゾンビが誕生した経緯は描かれることなく、「新感染」のアナザーストーリーとして見るのが自然だ。「新感染」と設定はほとんど同じで、「ゾンビ」という概念を知らない人たちが、その恐怖と特性を知るところから始まり、ゾンビと初めて対峙した人間のリアクションが入念に描かれる。大勢のゾンビが一塊になって猛スピードで追いかける様子は、「新感染」と共通するゾンビ描写で相変わらずのスリル。そもそも韓国のアニメ映画というもの自体が新鮮なのだが、本作の特徴はアニメ描写に頼ることのなく、そのまま実写化できるような脚本になっていることだ。ホームレスの存在を物語に絡ませていることから、韓国が抱える社会問題の一端が見えたりする。「新感染」と同様、描かれるのは「ゾンビ」よりも「人間」であり、「新感染」が人間愛を描いたのに対して、本作は人間の恐怖を描く(「新感染」もその側面があったけれど)。結末のオチは後味が悪いものの、ホラー映画としては綺麗にまとまっていて面白かった。
ヨン・サンホの新作の予告編が最近公開されていて、どうやら超能力者を描いた映画のようだ。日本公開が待たれる。

【65点】
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スリー・ビルボード 【感想】

2018-02-10 08:00:00 | 映画


3枚のビルボードを巡る、怒りと愛の物語だ。クライムサスペンスのような立ち上がりから、徐々に重厚な人間ドラマがせり出してくる。人が見ている多くの部分は相手の表側に過ぎず、裏にある本質を見通すことは難しい。本作で描かれる人間の本質は愛であり正義だ。怒りを抱えた主人公の痛快劇に躍らされることなく、その本質に気づかされる瞬間を見逃さない。希望というより勇気も与えられた感覚に近く、心を強く揺さぶられる。犯罪捜査の限界、南部の土着性、カトリック教会の闇、移り気なメディア、中東戦争の汚点など、劇中さりげなく浮上する社会問題は現代アメリカを映し出す。ユーモアとシリアスを両立させる脚本は監督らしい味つけだ。同時に、戯曲のようなフィクションが入り混じる脚本でもあり、あざとく見えるシーンも少なくないが、超一流の役者陣のパフォーマンスが普遍的な物語に昇華させている。役者陣の演技はもれなく素晴らしく、群像劇としての見応えは近年屈指のレベルだ。あらゆる意味で、オスカー作品賞をとっても異論ナシの映画だった。傑作。

6年前に愛娘を殺された母親が行きづまる捜査に腹を立て、地元の警察署長を名指しする3つの看板を出してことで起きる人間模様を描く。「まさか、こんな話に転じていくとは・・・」と、先の読めない展開にグイグイと引き込まれた。

舞台はミズーリ州にある架空の田舎町。原題には「ミズーリ州」の「エビング(町名)」とわざわざ地名が付けられている。パンフ情報によれば、ミズーリ州は「住みたくない町」としてアメリカでは知られており、本作でも良くも悪くもその閉鎖的な地域性が物語の前提になっている。住民の多くは白人で、低所得な労働者階級の人たちだ。南部の名残で人種差別主義者も多いようだ。去年、ドナルド・トランプを大統領にしたのも、こういうアメリカの人たちだったんだろうと勝手に想像する。

主人公は怒っていた。殺された娘はレイプされて、道端に捨てられ、焼かれていた。彼女の場合、後悔や悲しみの念をすべて怒りのパワーに転換させる。完全に停止した犯人探しの捜査にしびれを切らせ、町外れにある通行料の少ないロードサイドの立て看板に「署長なぜ?」のメッセージを出す。法的な問題はないため取り外すことはできず、署長へのバッシングともとれる看板が話題を呼び、テレビにも取り上げられる。主人公の狙い通りだ。

ところが町の反応は冷ややかであり、観客の予想も覆す。彼女に同情する味方よりも、署長に同情する人が多いのだ。人情派として多くの町民から慕われる署長のようで、しかもガンを患い死を目前にしているタイミングが後押しする。主人公の家族であり姉を亡くした格好の息子までも「暗い過去を思い出すから」と母がとった行動を非難する。小さな町、ボスを慕う警官や署長の友人たちから嫌がらせを受ける。助ける人はおらず、まさに四面楚歌状態。しかし、そこで「主人公が不憫」とは容易にならない。なぜなら、警察側も全力で捜査にあたっていたからだ。

正義はどちら側にもある。頑張っていた警察側にムチを打つ主人公にも見えるし、それでも捜査に固執する主人公を応援する目もある。「自分はガンだ」と署長が主人公へ告白するも「だから意味がある」と一蹴する。主人公は降りかかる非難を浴びても折れず、それどころか反撃を食らわす。「怒りは怒りを来す」。目的であった捜査の問題から離れて場外乱闘の様相を呈する。そんな状況のなかで、大きな転換点となる事件が起きる。

事件をきっかけに、もう1つの「怒り」が発生。怒れる男は「暴力」へと突き進む。その怒りが爆発する長回しのシーンに鳥肌が立つ。怒りによってもたらされた盲目の狂気は、恐ろしくもあり悲しくも見える。その後、男は贖罪のもと正義に突き進む。相手を知り、自身を知ることになるからだ。相手の本質はなかなか見えないし、自分が思う以上に愛が深かったりする。そして自身の人生を変えるほどの強い影響力を持つ。病院での「オレンジジュース」が本作の象徴的なシーンであり、胸に突き刺さった。

架空の町「エビング」は、どこにでも手が届くよう小さな町であり、人と人の距離感もとても近い。そのサイズ感は舞台劇のようでもある。暴力が野放しにされる状況や、すぐ近くでコトが起きる現象など、実社会に置き換えられるドラマとは趣が異なる脚本だ。演劇舞台を多く手がける監督らしい戯曲のようでもある。悪くいえば、描こうとするテーマのために展開を操っているようにも見える。しかし、そこを補って余りある役者陣のパフォーマンスの力が、生々しい質感を物語に与えている。

登場するのは個性豊かなキャラクターたちであり、それを体現する実力派キャストの演技がぶつかり合う。怒りのフランシス・マクドーマンド、慈愛のウディ・ハレルソン、激情のサム・ロックウェル、非道のジョン・ホークス、悲恋のピーター・ディンクレイジ、赦しのケイレブ・ランドリー・ジョーンズ。もれなくもれなく素晴らしい。本作を見て「この映画に自分も出演したかった」と嫉妬する俳優も多いのではと感じる。

主人公演じるフランシス・マクドーマンドは一見、攻め続ける役柄のように見えるが、周りの変化を受け止める役割も果たしており、周りの感情の変化が彼女へしっかり伝染する様子がみてとれる。一方、彼女以上に強いインパクトを残すのが、主人公と敵対関係にある暴力警官を演じたサム・ロックウェルだ。本作の演技によって彼が賞レースを総ナメにしている理由がよくわかった。変わり者キャラの具現化に留まらず、人間が持つ崇高な感情の変化を繊細に演じており、その生き様が本作のテーマに直結しているのだ。忘れ難い名演だった。ほかに、昨今アクの強いキャラを演じまくるケイレブ・ランドリー・ジョーンズの多才ぶりや、もはや演技派として定着した感のあるピーター・ディンクレイジのエモーショナルな演技にも唸らされた。

随所に挟まれるブラックユーモアは、全く毛色の違う映画だけど前作の「セブンサイコパス」と共通するところ。ドライなコメディと、人間の本質に迫るドラマが両立する。善悪では分けられない人間の複雑さと、その先に見えた希望。多くの社会問題が巧く脚本に生かされており、アメリカの今を捉えた映画でもある。オスカー賞レースでは、監督賞の候補から外れる波乱があったものの、全く問題なく作品賞を取るだろうし、作品賞をとるに相応しいと思えた。

【80点】

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ジェーン・ドウの解剖 【感想】

2018-02-06 08:00:00 | 映画


DVDレンタルにて。
近くのツタヤで準新作扱いになって久しいが、行く度にレンタル中で5回目のトライでようやくレンタルできた。
変死体で見つかった女性の体を解剖する検死官が、怪奇現象に襲われる様を描く。監督は新作が待たれていたアンドレ・ウーヴレダル(日本人では発音しにくい北欧の名前)。傑作のUMA映画であった「トロール・ハンター」で、男子ゴコロを熱くさせた監督。ハリウッドは才能を見逃すことなく彼にとってアメリカ進出一発目の映画となったが、相変わらず面白い映画を撮る人だ。今回はド直球のホラー映画。久々の恐怖を味わった。
とある一家が自宅で全員惨殺される事件が起きる。侵入者の痕跡はないが、その自宅の地下に身元不明の女性の死体が見つかる。その死体には外傷がなく綺麗な肉体を保ったままだ。この不可解な事件の糸口を見つけるべく、警察は民間の検視官に遺体女性の解剖を依頼する。解剖とは多くの可能性から1つの死因を突き止める作業だ。「どのように死んだのか」は検視官の仕事であり、そこから「なぜ殺されたのか」は警察の仕事。事件捜査にとっていかに必要不可欠なものであるかがわかる。解剖は、いくつかのプロセスに分かれていて、解剖の「お仕事映画」としても旨みがある。遺体を切り刻む解剖シーンは、作り物とわかっていても生々しくて見る人を選びそうだ。解剖室は兼遺体保管所でもあり、解剖後の他の遺体も安置されている。死体に囲まれた場所で死体と向き合う密室空間、その特異すぎる設定を活かした脚本が面白い。遺体の謎の解明はかなり強引な妄想とも思えるが種明かしがよく練られている。美しい女性の裸体とおぞましい現象のコントラストも効いている。死(死体)と対峙した恐怖、正体が見えない恐怖、希望が暗転する恐怖、などホラー映画として普通に怖くて楽しめた。
【65点】
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デトロイト 【感想】

2018-02-01 08:00:00 | 映画


本作の事件を初めて知った。先入観としてあった、白人たちが一様にアフリカ系の人たちを虐げる構図は避けられていて、白人側、黒人側ではなく、中立的な立場で事件の全容を冷静かつフェアに見極めようとする視点が貫かれている。加害者側の変容と葛藤も注視されているのが印象的で、「人種差別を描いた映画」という表現だけでは括れない。暴力的なシーンに留まらず、確かに存在していた当時の音楽シーンなど、豊かな文化的側面もしっかり抑えられていて、当時のデトロイト、そして悲劇が起きた現場に観客を引き込んでいく。濃密な臨場感によって、他人ゴトでは済まされなくなる。極限状態に置かれた人間ドラマは、もはやビグロー監督の作家性ともいえ「女性監督なのに」は死語となった。若い役者たちを先導し、大勢のエキストラをまとめあげ、時代の熱気を蘇らせた監督の手腕に唸らされる。尋問のシーンでどうしても腑に落ちない「なぜ話さなかったのか」という疑問は、不確実な事実だったからだろうか。

「デトロイト」と聞いて思い浮かべるのは、かつて自動車産業で栄えたものの、今やゴーストタウンとして没落した町の風景だ。本作で描かれるのは、そんなデトロイトでベトナム戦争中の1967年に起きた事件だ。映画の冒頭シーンで、自分のような当時のデトロイトの様子を知らない人間に向けて、奴隷制度以降、南北戦争の変遷を経て、事件の火種となった暴動に至るまでの背景が説明される。その字幕では「暴動は不可避だった」と早々に結論づける。

当時のデトロイトが白人優位であったことは間違いはないと思うが、あからさまに黒人側が差別され虐げられる様子はあまり見えてこない。暴動のきっかけとなった、黒人が経営する違法酒場の摘発も、しごく正当なものだろう。その摘発現場で白人警官たちの指揮をとっていた人は同じアフリカ系の人だ。キレたのは、その逮捕劇を眺めていた周りに住む黒人たちで「逮捕は不当だ!」と警官たちに投石をはじめる。黒人の群集に襲われ、恐怖に慄く白人警官たち。その時点だけ見れば正義は白人警官側にあった。

彼らは暴動のきっかけが欲しかったとも取れる。白人優位の社会に対し、不満が爆発する寸前にまで達していて、発火のボタンを誰が押すかの状態。「みんながやれば怖くない」の群集心理なのか、暴動は瞬く間に広がる。破壊と略奪により町は無法地帯となるが、略奪の対象は白人が経営する店に限らず。「兄弟の店」と掲げた黒人が経営する店にまで無差別に及ぶ。あくまで一部の黒人たちによるもので、劇中の様子からは暴動に参加しない人たちも多かったようだ。

暴動を抑えることは、市民の安全を守る警察の当然の役割だ。問題はそのやり方。「人権」というセリフが劇中で何度も出てくるように、肌の色に関係なく、人権を尊重しなければならないという価値観が根付いている。ただ、自然な意識ではなく「黒人にも人権がある」という差別意識が元にある言い方だ。のちに事件の中心人物となる若き白人警官が、店から商品を盗んで逃げる黒人青年を制止しようとする。「止まれ!」でも走り続ける逃走犯に対して、背後から容赦なく発砲。警官として純粋な正義感があったはずだが、逃走犯が同じ白人でも同じことをしたのかは不明だ。

事件は暴動の現場から離れたモーテルで起きる。発砲による問題を起こしたばかりの白人警官、レコード契約を目指すミュージシャン、夜勤明けにも関わらず仕事に向かう警備員、同じデトロイトの住人ながら、一夜の不幸な偶然によって、全く接点のなかった人間たちが事件の当事者になっていく。その道筋が明らかになるにつれ、怖さが増していく。暴動は白人警官にとっても恐怖であり、緊張感が膨れ上がる状況下で、とある黒人が起こした「悪戯」が取り返しのつかない事態に発展させる。

終盤、長い時間をかけて描かれるのは戦慄の尋問だ。犯人を存在を確信する白人警官と、罪のないモーテルの宿泊者たち。恐怖を取り除く、あるいは見せしめのためか、白人警官たちは躍起になって犯人を見つけ出そうとする。若い白人警官による黒人への強い差別意識がついに露出する。激しい尋問によって引き返すことができなくなったことへの焦りが、火に油を注ぐかのように暴力を加速させていく。過ちを自覚するものと自覚できないものが現れ、現場はある種のトランス状態に陥ったようにも見える。殺すか殺されるかの戦時下の空気にも近い。加害者と被害者という構図だけでなく、白人警官たちの異常性を見極める第三者が登場するなど、当時の事実関係を誠実に描こうとする脚本の意図が透ける。恐怖、怒り、焦り、保身、良心など、様々な感情が交錯するシーンでもあった。

緊迫感がみなぎる尋問シーンのなか「早いとこ、正直に言ってしまえばいいのに」という疑問がずっと頭を巡る。警官の目的はあくまで犯人を見つけることであるが、相応の事情についても十分に聞く耳を持っていたと思えた。ところが、尋問を受ける宿泊者たちは「銃はない」「わからない」の一点張りで必死で無実を訴え続ける。その疑問は、エンドロール前の事件の裁判結果を説明する字幕で少し解消された。真実に忠実でありたい映画だったからこそ、明らかにされていない真相は描けなかったのかもしれない。あくまで勝手な想像であるが、それでも映画として劇中世界に集中できるよう、何かしらの意味づけを加えるなどフォローが欲しかった。

加害者の中心人物を演じるのはウィル・ポールターだ。強い曲線の眉毛が相変わらず個性的。卑劣で憎たらしい白人警官役であり、必死に自身の過ちから逃れようとする堕ちた人間を説得力たっぷりに演じる。監督のキャスリン・ビグローの視点は、事件の再現に留まらず、思わぬ悲劇に見舞われた被害者たちのドラマにも重きを置く。とりわけ印象的だったのは、ミュージシャンとして成功を目指す黒人青年の存在だ。彼が初めて登場するライブシアターの熱気に魅了される。彼の抜群の歌唱力と眩いほどの情熱が丁寧に描かれるからこそ、事件の罪がなおさら深く響く。

【65点】

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