シビれた。シビれにシビれた。久々に正座してテレビに見入ってしまった。
ベター・コール・ソウルのシーズン5、えげつない面白さ。その完成度、脚本、演出の切れ味に酔いしれ、そのテーマの深淵に圧倒された。文句なしのシーズン最高傑作であり、本家「ブレイキング・バッド」のスピンオフとしての域を完全に脱した。いよいよソウルの世界と、マイクの世界が完全に交わり、1つの世界へと広がる。あらゆる意味で決定的なシーズンでもあり、「ブレイキング・バッド」ファンであれば必見と断言できる。
計10話。配信はNetflixだが、本国での放送はAMC。なので全話配信ではなくて、毎週1話ずつの配信。2話目まで先に見てしまったが、3話目以降は最終の10話が配信されたタイミングまで我慢、そして今週イッキ見した。もう止まんなかった(笑)。8話目と9話目については、あまりにも美しい出来栄えだったのでリピートで視聴。
前シーズンのラストで、「ジミー」から「ソウル」へ変貌を遂げた。スマートで抜け目なく、常勝の自信に満ち溢れる。これまでのジミーに感じられた迷いが全くない。「ブレイキング・バッド」で魅了した「ソウル・グッドマン」が完全に仕上がった。ド派手なスーツもキマっていて、その軽快な動きが楽しい。
ソウルのパートナーであり、彼を支え続けたキムとの関係も順調。キムは弁護士キャリアの絶頂期を迎えていて、前シーズンに続き、大手弁護士事務所で地元の有力銀行をクライアントに持つ。すべては彼女の才能と努力で築いたもの。他方で、自身の能力を「人助け」に使うことにも生きがいが見出し、空いた時間は無料弁護に費やす。仕事モードのカールしたポニーテールも可愛いし、オフのときの髪を下ろした姿も可愛い。ジミーを一途に愛し、誰にでも思いやりをもち、そして勇敢で強い。彼女への愛が深まるシーズンであり、それ自体が次のシーズンに向けたフリになっているみたいで複雑な心境でもある。こんなに素敵な女性がソウルの傍にいたのに、なんで「ブレイキング・バッド」では彼女の存在が消えていたのかと。。。お願い、彼女を殺さないでください。
ソウルの流儀は、誰も傷つけることなく結果が成功すれば、プロセスは問わない。嘘はバレなければ嘘にならない。シーズン1から描かれてきた、兄チャックとの確執の背景にあったジミーの人間性が、ソウルとして再誕したことでより肥大し洗練されたものへと進化する。その手並みは鮮やかな一方で、欺かれた人間の信用を奪うリスクをはらみ、本シーズンでは、最も信頼しているキムを巻き込む事態へと発展する。「後ろから刺したのは、私を守るためだとでも言うの?」。キムはいつでも正しく、だからこそ、ソウルの個性が際立つ。
ソウルは「チョコミント」のアイスを食べられなくなった。落としたアイスに大量の蟻が群がり、そして消える。ソウルに忍び寄る、裏の世界の闇が彼の欲望を嗅ぎ付け、飲み込もうとする前兆。こうした暗喩の使い方が本作では随所に差し込まれる。大胆で緻密なカメラワーク、影と光を操る照明効果は、キャラクターたちの心情をつぶさに拾う。映像作品としての芸術性もさることながら、徹底したキャラクターへの洞察が本作の真骨頂といえる。
キャラクターを舐めていないのだ。サブキャラを含めて馬鹿がいない。誰でも人間を見通す力を持っている。こっちが考える向こう側にキャラクターの心理、思考を配置する。気づかされ、驚き、必然の内に着地する感覚。セリフの応酬のなかに、人物間のスリリングなマウントの取り合いが見えたり、その言動の背景にあるキャラクターの感情を読み解く想像力を刺激する。このドラマのベースにあるのが、ソウルとキムの愛情であることも非常に大きい。
とりわけ、8話目の「運び屋」と9話目の「悪い選択がもたらす道」が秀逸だ。この2つのエピソードは、ブレイキングバッドを含めたエピソードを含めても10本の指に入るのではないか。700万ドルという法外な保釈金(払えるんかい!ww)を前に、ソウルがソウルたらしめる金欲がうずく。
「Justice Matters Most」から「Just Make Money」への誘い。。。。
あの「10万」でドアの前で立ち止まるシーン、ブレイキングバッドで、ウォルターがソウルを呼び止めたシーンを彷彿とさせる。ソウルは「カルテルの友人」になることに恐怖よりも興味をおぼえるが、ほんの少し足をつけた世界の、底なしの凶悪性を身をもって知ることになる。初めて見るソウルの表情が印象的だ。これまで、両輪で描かれていたソウルの世界とマイクの世界が繋がった瞬間でもあった。恐怖という新たなスパイス、そして、生死を分かつ戦いの中で発生するダイナミズムがこのドラマの引力を増幅させる。
ソウルの身におきた一連の事件。運命を共にしたマイクが決定的な言葉をソウルに返す。
『人は皆、選択をする。その選択が道を決める。
どんな小さな選択でも道が決まる。
道を降りたと思っても結局は元の道に戻る。
俺たちの道は荒野の出来事に続いていた。
そして今のこの場所へと繋がっていた。
それはどうすることもできない』
信じた道が、必ずしも正しい道ではない。ブレイキングバッドでウォルターが辿った道のりでもあり、本作のソウルがこれから辿る道のりでもある。
次のシーズンがファイナルになるということ。その台風の目となるのはおそらく「ラロ」である。本作で初登場となった「ナチョ」と同じく、「ラロ」のキャラクター造形も実に素晴らしい。悪党は悪党でも「ガス」とは異質の悪党であり、物事の正否をかぎ分ける鋭い嗅覚と、冷酷さの合間に見える人間性のバランスが見事で、これまでのどのキャラクターにもない魅力がある。長身でスタイルがいいため、シャツインのGパン姿のシルエットがカッコいい。次のシーズンに続くラストシーンでは完全にラロに感情移入してしまった。
ほかに、ブレイキングバッドでウォルターの義兄であったハンクが登場するなど、懐かしい場面があったりしたけど、それが添え物に映るほど、このドラマで新しく描かれた物語に夢中になった。これだけのドラマを作ってしまったら、次のファイナルシーズンは期待しかない。決して「ハウス・オブ・カード」の二の舞にならぬことを祈って。
【95点】
<↓去年に11月に訪れたソウルの事務所(まさかの大雪)>