
森は土の匂いと、 澄みきった緑の匂いがして 素直になれる場所だ。 沼の午後は肌寒い。 きのう、 半袖で102歳の義母を迎えたのが嘘のようである。
冷気を胸いっぱいに吸い込んだ。
花すぎて花の冷えある昨日けふ 上村占魚
丹(ニ)の欄にさへづる鳥も惜春譜 杉田久女
水面は謐かだが、 ときおり漣が立つ。 若草がそよいで、大樹の芽がいっせいに暮れがたの曲を奏でるころ、 噴水も青白い息をしている。
空が翳る… 飛沫は霧になって風にのった。 粉糠の雨の降るごとく、やがてジャケットを湿らせた。
わたしがすこし冷えてゐるのは
糠雨のなかにたつたひとりで
歩きまはつてゐたせゐだ
わたしの掌テは 額ヒタイは 湿つたまま
いつかしらわたしは暗くなり
ここにかうして凭れてゐると
あかりのつくのが待たれます
-略-
知らなかつたし望みもしなかつた
一日のことをわたしに教へながら
静かさのことを 暑い昼間のことを
雨のかすかなつぶやきは かうして
不意にいろいろとかはります
わたしはそれを聞きながら
いつかいつものやうに眠ります
(「雨の言葉」抜粋 立原道造)

あれから 翡翠カワセミ に逢わない。 椋鳥が群れるそばで、 大きな眉のつぐみが、 しきりと向きを変えながら警戒している。
-☆-
巷に雨の降るごとく
わが心にも涙ふる。
かくも心ににじみ入る
このかなしみは何やらん?
(巷に雨の… ポール・ヴェルレーヌ) 堀口大學 訳
そろそろ帰ろう…
噴水の霧は 麻の上着をちょっぴり重くした