月の明るい晩でした。 ガマさんが雨戸を閉めようと手を掛けたとたんに ポトリ 床に何か落ちました。 みると、 顔見知りの尻尾のないトカゲくんでした。 ガマさんはそっとつまんで外に出してやろうと思いました。
「あっ、そっちへいったらだめ!」。
トカゲ君は静止も聞かず机の下のほうへ、 スルスルッと隠れてしまいました。
ここは中二階です。 青いセージの花が、まるで鴉のくちばしのように大きく口を開けて、 伸びをしながら戸袋の辺りまできていました。 どうやら、それを辿ってやってきたらしいのです。網戸の桟にもたれて、お月見としゃれていたのでしょう。
とんだ災難です。
大きな声がしたので、かえるさんもかけつけました。 いっしょにトカゲ君を呼びましたが返事がありません。 ますます奥へ迷い込んで、 きっと驚いているだろうな。 草の匂いなんかこれっぽっちもしないもの。 コードやらカセットやら、 雑誌やら、初めて眼にする物ばかりだ。
ガマさんは懐中電灯で照らして、 TVの周りやその蔭のほうをさがしました。 どうしても見つからなくて、 かえるさんは今日も一日中、 トカゲ君のことばかり考えていました。
夕べ、 網戸を少し開けっぱなしにして寝ました。 月明かりに誘われて、 無事に外へ出られたでしょうか。 今宵十五夜、 セージの花かげでトカゲ君が見ていることを祈ります。
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