唐辛子
数え切れないほどの京名物の中で、軽くて日持ちがして土産としても最適なのが七味唐辛子である。まずは清水寺へ至る坂道と三年坂が交わるところに店を構えている「七味屋」。大勢の観光客や修学旅行の学生達が訪れて賑わっている界隈、いつも繁盛している。小袋から清水焼の小さな薬味入れに入ったもの、最近は七味を使ったドレッシングやチーズなども販売していて選ぶのが楽しい。
明暦年間(1655-1659)に暖簾をかけた時の屋号は河内屋で、当時は茶店であった。清水詣りの参拝客や境内にある音羽の滝で修業する行者の体がぬくもるようにと無償でふるまっていた「からし湯」(白湯に唐辛子の粉をふりかけたもの)が評判を呼び、いつしか唐辛子に山椒、黒ゴマ、白ゴマ、紫蘇、青海苔、麻の実をブレンドした七味唐辛子を商いの中心とするようになったという。京料理に合う繊細な風味を持ち、浅草寺門前の「やげん掘」、長野善行寺門前「八幡屋磯五郎」と共に日本三大七味と言われているそうだ。
もう一つが祇園にある「原了郭」の黒七味。こちらは創業元禄16年(1703年)、赤穂義士・原惣右衛門の一子が得度し、漢方名医の指導を仰いで作った香煎の店。香煎とは白湯に入れる香りの粉で、茶席の待合などによく用いられる。大葉と焼き塩を合わせた青紫蘇香煎が有名。香煎の技術を生かした黒七味は唐辛子、山椒粉、白ゴマ、黒ゴマ、麻の実、芥子の実、青海苔を炒った後に手でもみこんで香りを引き出しているのが特徴で、その名の通り普通よりも少し黒ずんだ色を持ち山椒と黒胡麻の香りが際立つ。どちらの七味も京都ならではの歴史と伝統を持つ老舗の味、うどんや蕎麦だけでなく、どんな料理にかけてもワンランクアップするような気がする。
木枯らしの吹く寒い日が増えてきた。江戸時代に清水を参拝した人々が体をあたためた「からし湯」を飲みながら、凛とした冬の京に佇む寺の伽藍や静まり返った本堂の仏像に思いを馳せてみたい。(さ)
参考:七味家・原了郭HP・『京の老舗をたずねて』 松村茂 サンブライト出版