ドイツの環境を知る旅から(2)
前川協子
3.HOTELKURのビオトープ
翌朝、ATRIUMホテルクアで目覚めた私達は、爽快な秋晴れに心が弾んだ。
このホテルは郊外の保養タイプらし<、実に瀟洒な感じて変化に富んでいた。庭園の風情に誘われて暫し散策し、ドイツて見た最初のビオトープに遭遇したのである。小川のせせらぎに橋があり、小さな池に流れが注ぐようになっていた汀には小石を敷きつめ、水草や羊歯類が生え、すすきや萩などの豊かな植栽が施されていた。それはまるで日本の昔の水辺風景のように思え、こんなに明るく近代的なホテルで、かくもさりげない和風のビオトープが存在することに深い意義を覚えた。所を変えた洋風のガーデニングも素晴らしい。ばらなどの色彩豊かな花々が咲き揃う植え込みと、木組みに白壁のコントラストが美しいテラスハウス風の建物がよくマッチして、洗練された風景を醸し出していた。
窓越しに、朝の8時から会議を開いているスーツ姿のビジネスマン達が見えて、ドイツ人の勤勉性がうかがえた。
このホテルはバイキングの朝食も豪華だったし、おすすめの宿であった。
ホテルの通りを隔てた街区には戸建の住宅が並んでいたが、その門前には日本より大型のゴミ容器が2種類置かれていて、いずれも木棚などで目隠しされていた。当日は分別ゴミのうち、何の収集日に当たっていたのだろう。透明なビニール袋に包まれたゴミ(多分、残類であった)が無造作に道端に置かれていた。
垣間見たこの辺りでは、まだ余り厳しいゴミ規制が行われていないように見受けられて意外だった。
4.マインツ市の廃棄物処理センター
さて、私達は、いよいよマインツ市における本命のゴミ処理場を見学するために、清掃局(?)を訪れた。タクシーを降りて見ると、入り口にはチューダー風のしゃれた洋館が建ち、大樹がそぴえ立っていて、足許には栗のように大きくて艶のある実がころころ落ちて転がっていた。案内して下さる市の職員を待つ間、私達は珍しい栃の実を拾い、辺りを眺め回していたが、とても役所とは思えない優しい雰囲気だった。
やがてすてきな眼鏡の紳士が現れて、清掃車の車両置き場を見せて下さった。
ガレージのゴミ収集車群は、いずれもびっくりする程大きくてカラフルなのだ。まるで戦車のように頑丈そうで、ベンツのマーク入りに圧倒される。とても日本の清掃車の比ではない。それらの作業車がそれぞれの用途別に、特殊な装置が施されており、その機能性と役割について説明して下さった。たとえば、バイオゴミ車。これは街路の落ち葉を吸い込むように、太いバキューム管が据え付けてあり、なる程、これでは積もる葉っぱも一呑みと納得した。
それからジープに乗せて下さり、少し離れたディスポーザー場(ゴミ処分場)に案内して下さった。そこは少し小高い山になっていて、意外なことに住宅群が結構近いところにあった。私は、つい日本の現状を思って、「こんな民家に近いところで建設や操業に関して、住民とのトラブルはありませんか」と聞いてみた。でも彼の返事は「全く無い」とのこと。何故なら、徹底した同意行政が取られてており、建設計画に際しては住民にきちんと説明し、対策をとり、安全性を確かめて納得して貰ってからの建設になるからだそうだ。それに汚染については、技術的に何の心配も無いということであった。
私達は先ず事務所につき、レクチュアを受ける。何と、そこには日本からの訪問客が多いらしくて、扇子や日本人形、「マインツ市役所さん江」という大漁旗が飾ってあったりしたので驚いた。親切な職員の御厚志でお茶をよばれたり、市が作って売っている布製の買い物袋やゴミ袋のミニチュア、分別用のシール等を頂く。このように視察に対応するグッズが用意されているということは、それだけ環境都市としての先進的な取り組みが評価されているという誇りであろう。
いよいよ処分場を廻る。分別されて集められたゴミは大別して、
- 一般廃棄物は埋め立てへ、
- 植木等のバイオゴミは再生され、
- その他の分別ゴミは、それそれのボックスヘ集められて相応な処理をされる、ということであった。
さすがに緑豊かなドイツでも、処分場は荒涼たる風景であった。でも、入口部の見事な石積み擁壁には工夫と創造のこだわり精神+技術が感じられた。
再びジープに乗って、てっぺんの埋立場へ。そこは元の谷地形だったのではないだろうか。もう、かなり埋立が進んでいて、周辺に立つ目印の木の抗迄と、高さ制限が加えられている。日本の処分地では、ともすると、てんこ盛りのゴミの山になるところを、程良くセーブされている。とはいうものの、やはり、そのうちには限界が来て焼却施設がいることになるのではないだろうか。
その時点で不思議だったのは、山なのに沢山のユリカモメ(?)が群れをなしてエサを漁っていたこと。
ひっきりなしに大型の収集車がゴミを捨てにやってくるので、改めて汚染のこと等聞いてみる。でも「底には遮水シートが敷いてあるので、100%地下水汚染無し」ということであった。
そこから少し下がってバイオの処理場がある。二基の大きな鋼鉄製BOXが設置されていて、そこヘバイオゴミを入れた収集車がやってくる。橙色のカラフルな制服を着た陽気で豪快な作業員達が私達の撮るビテオに関心を寄せてはじゃいていた。体格の良い男の人達の倍の高さはあろうという大型車両を操り、BOXを機械で開閉し、散らかった木屑等のゴミをきれいに掃除する等、彼らは忙しい。
更に下を眺めると、ビルの廃材等を洗って再生している現場があり、凄い轟音と埃であった。ベルトコンベアが忙しく動いていたが、総て野ざらしの状態なので、ふと、これで良いのかなと思ってしまう。いずこの国にとっても文明の恥部であり、これからの社会的な課題であろう。
それから思いがけなく処分場の裏に案内されてみると、そこは40mからの崖になっており、地下水の湧水池があった。職員の方はそこのことをライムストーンと言い、レイクと説明されていたが、成程、それで白い水鳥が棲息していたのかと合点がいった。遙かに仰ぎ見る処分場に続く斜面にはメタンガスパイプが埋めてる由で、所々、そのパイプが見える。
付近には8mの穴を掘ったダーティウォーターの検査所があり、開けて見せて下さったのは、真っ黒な水のサンプルだった。問題のメタンガスを利用した発電所がある、と、そこへも親切に案内して頂き、若干の見学をした。
凄い騒音なので、まずヘッドホンをつけるように指示される。それでも凄い騒音なのだ、殆ど機械装置ばかりだったが、中で働く職員の方達の聴音障害が懸念されるほどだった。そこの標識にガステクニックとあったのが印象的で、このガスエネルギーは、付近の住宅地に供給されて役立っているということだった。
最後に元の事務所近くに戻り、沢山の分別BOXが並ぶコーナーを見学して歩いた。
そのグリーンBOXを種類別に幾つかあげてみると、自動車ガラス、自転車タイヤ、ブリキ、家電製品、植木、セラミック、アスベスト、古着、本箱、家具、紙、プラスチック類で、それそれに番号がつき、一般市民も直に車で廃棄物を捨てにきていた。これは良いアイデアだと思う。このような処理センターまで、めいめい市民が運び、分別して捨てることが出来れば、行政の収集の手間や労力、量がずい分省けるのではないだろうか。基本的に収集は市が行い、リサイクルは民間会社に委託しているという話だった。たとえばアスベストは最終的にセメントになるそうだ。
ともあれ、私たちの町でもゴミ処理の問題はまだ試行錯誤の時期だが、多種類の分別方式やバイオゴミ、持ち込み処分の方式等はできるだけ早い時期に実現して欲しいと思った。
又、リサイクルや、エネルギー化の問題はまたまだ学ばねばならないことを実感した。
親切な職員の方に元の事務所まで連れて帰って頂き、預かって頂いたトランクを受け取って、遂に駅まで見送って下さることになった。何のお礼も受け取らず爽やかな笑顔て写真におさまって下さった彼に深<感謝したい。