日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

“離党改革派”渡部喜美、“小泉流改革派”に比べて足りないもの

2009-01-13 | マーケティング
自民党の渡辺喜美元行政改革担当相が、予定通り13日午後離党届を提出したそうです。この問題については前回も触れているので、今日は彼の戦略と成否の可能性を多少マーケティング的に勝手な分析をしてみます。

彼の今回の一連の動きを見ていて気がついたのは、彼の今回の戦略は小泉元首相を手本にしているのではないかなということです。改革派の彼が今回「敵」としているのは、改革路線に待ったをかけた麻生総理をトップとした「党内旧勢力」です。まさに「急進的改革派」として「郵政民営化」を旗印に、「打倒旧勢力」を叫んだ小泉氏とイメージがダブるところです。

今回、喜美氏がまず鋒先として分かりやすい改革テーマとしたのが「定額給付金」のストップですが、同時に掲げているのが「官僚の天下り緩和許すまじ」という平易な問題であります。この後者すなわち「官僚制度改革」こそが、これから先々の“首相取り”を目指す長期的展望煮立った上での、小泉戦略の「郵政民営化」あたるものとして自身の“旗印”にしたいテーマなのではないでしょうか。

対マス戦略をマーケティング手法的に見たとき、大衆受けするための手段としての主張の「分かりやすさ」はとても大切です。その意味で「官僚制度改革」は“国の無駄遣い”の根源的問題であり、とても分かりやすく万人受けする恰好のテーマではないでしょうか。とここまではひとまず合格です。

彼の戦略は、まず入口で国民的関心事の「定額給付問題」を取り上げ、続いて「官僚制度改革」をぶちあげる、こうして連続的に話題性を保つことで「国民の味方」を演じ、一躍人気者に躍り出ようということなのでしょう。テーマの取り方はいいとしても、小泉路線での「国民の味方」的人気者への格上げについては果たしてどうでしょう。小泉路線のようなやり方で行く場合、テーマが平易であるだけに「政策通」として国民の信頼を勝ち得ることは難しく、「イメージ戦略」が重要な位置を占めてきます。この点で見ると、小泉元首相にあって彼に欠けているものが多いように思えます。

「イメージ戦略」を支える重要なものに「コピー能力(“写す”方ではなく、コピーライトの方です)」があります。「反対勢力」とか「自民党をぶっ壊す!」とか、小泉元首相の「コピー能力」は、人並み外れたものがあったと思います。貴乃花が優勝した時の「痛みに耐えてよく頑張った!感動した!」という、過去の総理にはない歯切れのよい物言はまさに「改革」をしてくてくれそうな印象を抱かせるに十分すぎる発言でした。そういった魅力的な言葉がアドリブ的に出てくるという「コピー能力」は持って生まれたもの。渡辺氏の話を聞いている限りその能力は全く感じられません。

もうひとつは「印象」「ルックス」の問題。古い人間から見れば、彼は一政治家である前に誰もが知る故渡辺美智雄氏の子息です。渡辺美智雄氏と言えばミッチーの愛称で広く知られ一時期は大派閥の長として総理のイスを目指したものの、相次ぐ自身の失言や失策で届かず、晩年は国民はもとより党内の信頼も失いつつ失意の中無念の病死をした政治家でした。アクの強いパーソナリティで、個性的故良くも悪くもインパクトが強く、ルックスが良く似た喜美氏にはどうしても父の印象がぬぐえず、この点はマイナスに働くように思います。しかも父が急速に求心力を失ったきっかけは、社会党との連立に反旗を翻した今回と同じ「離党騒ぎ」であったと記憶しています。

およそイケメンでない決して良いとは言えない生前の父にそっくりなルックス、強面なイメージ、父も同じ離党騒ぎ…。今回の行動にイメージ的にプラスに働くモノは、何ひとつとしてないのです。ちなみに小泉元首相も二世議員ですが、父純也氏は大臣経験こそあるものの派閥の長になるほど目立った活動がなかった分、良くも悪くも親の印象は薄く(二世議員であることすら忘れられているケースもあります)、その分自身で好きにイメージづくりができるメリットにも恵まれていたように思います。

イメージ戦略を決定づける重要な要素である「聴覚要素」=「発言のインパクト」と「視覚要素」=「ルックス」、いずれの面からもプラス要因が見当たらない今の渡辺氏。戦略的に思い切った策を打って出るにはいささか時期尚早ではないかと思われるのです。自身にストロング・ポイントが乏しいなら、まずは有能な参謀づくりかもしれません。田中角栄における早坂茂三、小泉純一郎における飯島勲、政策でなくイメージ戦略を巧みに使って首相の座を射止めた政治家には有能な参謀が傍らにいました。

渡辺喜美氏の今回の離党が何の企みもないものであるならこれらは全く余計なお世話ですが、もしも本当に戦略的に先を狙っての行動であるなら、まだまだ足りないものだらけで分析力不足の“若気の至り”と結論づけざるを得ないと思った次第です。

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