温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

昭和町 ホテル昭和

2015年06月29日 | 山梨県
 
多摩丘陵にある我が家からですと、山梨県はたっぷり遊んでも余裕で日帰りできてしまう近距離にあり、当地へ出かけてもその日のうちに帰ってしまうことがほとんどなのですが、昨年12月の某日、別段仕事や所用があるわけでもないのに、わざわざ甲府近郊へと出かけて1泊宿泊してまいりました。その目的とは宿泊客しか利用できない温泉に入ること。往来の激しい国道20号甲府バイパス沿いに建つ、ちょっと古びたビジネスホテル「ホテル昭和」がその宿泊先であります。温泉ファンの間では夙におなじみのホテルであり、ネット上にも多くのレポートが上がっていますが、入浴のみの利用が不可であるため、いままで私は訪れる機会が無かったのでした。
正直なところ、時代遅れな外観からはホテルとしてあまり期待できそうにないのですが、中央道の甲府昭和インター至近にある上、料金設定が低く、しかも後述する素晴らしい温泉に入れるため、車で移動する出張族や工事関係者から篤い支持を受けており、この日も駐車場には東北から関西に及ぶ広範囲のナンバープレートがたくさん並んでいました。口コミによる評判が広がっているのか、これと言ったイベント等の無い平日なのに、満室となる日も多く、この時も空室がある日に合わせて行動予定を立てたのでした。


 
フロントでは程よく力の抜けた石川さゆり似の方が朗らかに対応してくださいました。今回案内されたお部屋は3階のシングルルーム。建物は3階建てなのですが、エレベーターはありません。安いホテルですからその点は割り切って考えないといけませんね。客室が並ぶ廊下には、自由に使える電子レンジが用意されていますので、コンビニでお弁当を買ってくるのも良いのですが、バイパス沿いには飲食店がたくさんありますから、食事に困ることはないかと思います。
なお宿泊料金には軽い朝食が付いており、1階の小部屋にてパンとドリンクの無料サービスをいただけます。朝食用の部屋が狭いため、パンなどは部屋に持ち帰ってもOK。別途料金で定食も用意してくれるようです。


 
シングルルームの様子。建物自体はかなり草臥れているのですが、清掃も行き届いていますし、ひと通りのアメニティ、ポットやお茶関係、テレビや冷蔵庫、そして空調(ファンコイル)も完備、有線LANもWifiも使えますから、ビジネスホテルとして十分に合格点。料金を考えればむしろコストパフォーマンスに優れたホテルと言えるでしょう。後述するように男性客がメインであるためか、テレビではエッチなチャンネルが無料で視聴できるサービスもありますから、出張族のお父さんにはささやかなご褒美となるに違いありません。


 
室内にはユニットバスも備え付けられているのですが、私は晩も朝も大浴場を利用したので、部屋のシャワーは使いませんでした。内線電話は今どき珍しいダイヤル式。


 
さて本題の温泉へと話題を移しましょう。ホテル玄関の左手に浴場入口があるのですが、そこには「カアナパリ」という謎の文字が記されていました。どうやら浴場名のようですが、この5文字にはどんな意味があるのでしょうか。

ところで、ホテルご自慢の大浴場はひとつしかなく、多くの時間帯は男湯として設定されているため、女性は午後11時以降(土日は午後10時以降)という限られた時間帯しか利用できないのが残念なところです。バイパス沿いのビジネスホテルという性質上、かつて男性客がほぼ全てだったのでしょうし、私が宿泊した日も男性客しか見かけませんでしたが、営業のメインであるホテル棟を古い建物を修繕しながら使い続けているわけですから、いまさら浴場を改造したり増設するような可能性は低いかと思われ、今後もこのスタイルは続いていくのでしょう。深夜0時以降は貸切利用できるので(フロントにて要予約)、ちょっと夜更かししないといけませんが、ご夫婦やカップルなどで宿泊の際は、思いっきり貸し切っちゃうのも一つの手ですね。


 
数年前にアップされたネット上のレポートを拝見すると、館内はまさに「男のためのサウナ」といった地味で実用的な佇まいだったようですが、時代の流れを意識するようになったのか、脱衣室まわりの内装はリニューアルされており、「あれ?ここってエステ?」と勘違いしてしまうようなエスニック調の飾り付けなどが施されて、全体的に小奇麗になっていました。普段からオシャレとは無縁な生活を送る野暮な野郎であっても、綺麗に装飾を目にすれば自ずと気分も高揚するものです。


 
温泉施設ならどこにでもありそうな洗面台であっても、このように手前にストリングカーテンを垂らすことによって、趣きが全く変わってしまうのですね。大規模な工事ではなく、ちょっとした創意工夫でもイメージを変える大きな効果をもたらすようです。脱衣用の棚&籠は2ヶ所に分かれて設置されているのですが、混んでいなければ最奥の浴場入口直前にある棚の方が便利かと思います。なおロッカーが無いため、ルームキーはフロントに預けることになります。


 
お風呂は内湯のみ。真ん中の小浴槽や奥の主浴槽へ勢いよく注がれるお湯の音が室内に木霊していました。右手にはシャワーが並び、左手にはサウナなどが配置されています。床にはベージュ色の小さな丸タイルが敷き詰められているのですが、浴槽のオーバーフローが流れる箇所は赤茶色に染まっていました。


 
洗い場のシャワーは9基設置されており、カランから出てくるお湯は温泉です。ボディーソープ・シャンプー・コンディショナーも完備。客室からタオル1枚持参するだけで利用できますね。


 
 
このお風呂で大変ユニークなのが、室内に設けられた冷凍室です。はじめこの札を目にした時には「ウソだろ」と呟いてしまったのですが、総ステンレスの躯体はまさに業務用冷凍庫そのものであり、戸を開けて中に入ってみますと、サンデン製の冷凍ユニットが稼働してキンキンに冷えており、本当に冷凍室なのでした。室内にはベンチが2脚置かれているので、人間様のために設置されていることに相違ないのですが、戸を閉めて強い冷気に当たっていると、肥えた自分が食肉加工場で冷蔵保存されている豚肉と同等に思え、図らずも風呂場で家畜達の気持ちが少しだけ理解できたような気がしました。温度計は-38℃を差していましたが、さすがにこれはウソだろ…。
お風呂に設置されている冷凍室なんて生まれて初めてお目にかかったわけですが、湯船に浸かり火照った状態で入室すると、意外にも気持ち良いんです。水風呂の冷たさは慣れないとかなり身に堪えますが、この冷凍室でしたら水風呂の緊張感とは無縁で気軽にクールダウンができ、実際に私も何度かこのステンレスの小部屋に出入りしてクールダウンと温泉の温浴を繰り返しました。


 
屋外の駐車場からホテルを眺めますと、バイパス側に向かって平屋の建物が大きく出っ張っているのですが、この出っ張りこそ浴場部分であり、その出っ張っている一番先っちょ(浴室内から見れば最奥)に2つの浴槽が並んでいます。左側の小さな方は水風呂です。浴槽の側面を見ますと、後述する大きな主浴槽はタイルが赤茶色に染まっているのに対し、水風呂はその気配が全く無く、その違いは一目瞭然です。


 
一方、その右側にある主浴槽には、配管から大音響を轟かせながら温泉がドバドバ吐出されており、並行して設けられている塩ビ管から温度調整のための加水も行われていました。お湯と水の双方を合計すると、果たしてどのくらいの量になるんだろう…。とにかくもの凄い量に圧倒されます。浴槽の大きさは目測で7m×3mほどで、10人かそれ以上は同時に入れそうな容量がありますが、投入量があまりに多いものですから、槽内のあちこちで対流が発生しており、また窓下の排水口だけでは排水が間に合わず、洗い場側へもドバドバと溢れ出ていました。温泉成分の付着に寄って浴槽のタイルは全体的にドス黒い感じの赤茶色に染まり、上述の水風呂と同じ色のタイルを使っているとは信じられず、実際にはレンガではないかと勘違いしてしまうほどです。
底面には泡風呂と思しき装置が埋め込まれており、また側面にはジェットバスの噴出口らしきものも設置されていたのですが、いずれも稼働していませんでした。加水により長湯したくなるような、ややぬるめの湯加減に設定されており、湯船に浸かった途端、微睡みそうになりました。


 
凄いのは投入量だけではありません。湯口付近では気泡が大量発生しており、そのあまりの多さゆえ、広範囲にわたって湯船が白濁して見えるのです。実際に目にした時には驚きました。


 
もちろんこのすさまじい気泡は入浴中の体にも付着します。湯船に入って肩まで浸かると、あっという間に全身が泡だらけになりました。泡付きの量も多ければスピードも凄まじく、アワアワな温泉が大好きな私は、湯船に浸かった瞬間の微睡みを忘れ、その様子に大興奮して湯中で腕を何度も擦り、泡が繰り返し付着する様子を楽しんでしまいました。甲府盆地に湧く温泉ではしばしば気泡の付着が見られますが、この激しい泡付きは韮崎旭温泉や山口温泉などといった当地の名湯に匹敵するほどであり、個人的にはこの2湯とともに「甲州の泡湯三羽烏」という称号を差し上げたい!


 

洗い場の前にセッティングされた2人サイズの小浴槽には、加水の無い100%源泉そのままのお湯が注がれています。湯船にお湯を吐出しているカランには、ベージュや茶色の成分付着が見られ、そのまわりの浴槽も黒く染まっています。主浴槽ほどではありませんが、こちらでも槽内に勢いの良い流れを生み出すほどの量が投入されており、湯口と反対側の槽内では、壁に当たった流れが対流を起こして部分的に白濁していました。加水が無いので主浴槽よりもやや熱めの43℃前後の湯加減。惜しげも無くドバドバと溢れ出ており、槽の側面はそのお湯によって赤茶色に染まっています。

お湯は薄い琥珀色を帯びており、両浴槽においても底がはっきり目視できる透明度を有しています。明瞭な金気味とほろ苦い重曹味、そして金気臭を伴うモール泉の匂いがしっかりと伝わってきます。端的に表現すれば、金気の主張が強いモール泉といった感じでしょうか。ヌルヌルやトロミを伴うはっきりとしたツルスベ浴感が大変気持ち良く、しかも夥しい泡付きによるエアリーな感触も加わって、実に滑らかで軽やかな、夢心地の湯浴みが堪能できました。お湯から上がった後の肌はいつまでもサッパリ&サラサラで爽快感が持続。なかなかの名湯です。一晩で3回もこの大浴場を利用してしまいました。



残念なことに館内には温泉分析表の掲示が無く、フロントの方にも伺ったのですが、その手のものはわからないとのことでした(ま、実際にはどこかにあるのでしょうけどね)。主浴槽の上に掲示されている上画像のプレートが、泉質を知る唯一の手掛り。昭和60年に単純温泉として分析されたらしく、私の体感では確かに現在でも単純泉かと思われるのですが、おそらくナトリウムイオンと炭酸水素イオンの含有量が大きい、すなわち重曹を多く含む温泉ではないかと推測されます。
正直なところ、地味な外観と怪しげなネオンサインを目にしたときには、期待よりも不安感の方が優っていたのですが、実際に入浴してみて、あまりの浴感の良さ、そして泡付きの激しさにすっかり感動し、昨年末の拙ブログにおける「2014年の温泉十傑」で、そのひとつに選ばせていただきました。長閑な田園地域でも、人里離れた山間部でもなく、車やトラックがひっきりなしに行き交う国道のバイパス沿いで、まさかこんな素晴らしいお湯に出会えるとは! さすが甲府盆地の温泉は素晴らしいですね。


分析表掲示なし(単純温泉)

山梨県中巨摩郡昭和町西条3682-1  地図
055-226-1521
ホームページ

日帰り入浴不可

私の好み:★★★
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする