温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

糠平温泉 中村屋 前編(内湯)

2015年06月13日 | 北海道
 
前回記事で取り上げた「山田温泉」でやさしいお湯に癒やされた後は、道道85号線(パールライン)を北上して幌鹿峠を越え、糠平温泉へと向かいました。当地には魅力的なお宿がいくつもありますが、今回は温泉街のほぼ中心に位置する「中村屋」で日帰り入浴を楽しみました。元々は「富士見観光ホテル」という味気のない名称だったらしく、その旧名称が示すように、高度経済成長期の温泉宿らしい外観からはコンサバティヴな印象を受けるのですが…



館内はクラシック音楽が似合いそうなシックな内装に改装されており、民芸調の飾り付けも施されていて、外観のイメージを180度覆してくれる、ものすごく素敵な大人の雰囲気が横溢しています。日帰り入浴をお願いしますと、帳場の方は快く対応して下さいました。日帰り入浴客専用の下足箱に靴を収めてスリッパに履き替え、帳場にて直接料金を支払います。ロビー前の物販コーナーでは、お土産はもちろんのこと、野菜類などの厳選した地元産の食品類も陳列されていました。


 
古民具で飾られている廊下を歩いて浴室へ。途中の棚にはいくつもの酒ビンが置かれていたのですが、これは宿泊客の食前酒なんだそうでして、お好みのものをチョイスできるんだとか。食前酒が味わえるサービスもさることながら、こうしたものを上手い具合に置いて雰囲気を作り出すセンスも良いですね。


 
廊下の突き当たりにある階段を下りて、階下の浴室へ。階段の途中にはダイヤル式の貴重品用ロッカーや冷水のサービスが用意されています。下りきったところを右手へ進めば、次回記事で取り上げる露天風呂へ、まっすぐ進めば今回記事で紹介する内湯です。内湯は2室あり、一方は昭和30年代に造られた花形の湯舟が特徴的なタイル張りの浴室。もう一方は宿ご自慢の木材を多用した手作りのお風呂です。夜10時で男女が入れ替わるので、宿泊すれば両方に入れるのですが、私が訪問した時間帯は木のお風呂に男湯の暖簾が掛かっていました。


 

戸を開けて脱衣室に足を踏み入れた途端、ウッディでぬくもりのあふれた美しい内装、そして照度が抑えられた落ち着いた空間に、思わず溜息が漏れちゃいました。温泉入浴に際しては、もちろんお湯の良さが重要なのですが、その前段階、食事でいえばオードブルに相当する脱衣室の使い勝手や清潔さも、その温泉の印象を大きく左右する重要なファクターであり、これだけ美しい室内ですと、その後に待っているお風呂に対する評価も自ずと上昇するものです。人間もお風呂も、第一印象って大切ですね。
館内履きのスリッパを他のお客さんが間違えて履いて行かないよう、識別するための洗濯バサミが用意されており、お客さんの目線に立った小さな配慮も嬉しいものです。出入口前に置かれた机の上には、館内案内がファイリングされているアルバムが置かれていました。木をふんだんに使ったぬくもりのある洗面台には、化粧水などのアメニティが備え付けられており、赤ちゃん連れのお客さんでも安心して利用できるよう、ベビーベッドも設置されていました。


 
建物自体が建築から相当の年月が経過しているため、浴室も古臭さは否めませんが、適宜修繕されている上に日々のメンテナンスが行き届いているので、古さを払拭する気持ちのよい環境が保たれていました。床はタイル貼りですが、壁や浴槽など各所には脱衣室同様に木材がふんだんに使われています。
洗い場は浴室の奥と手前に分かれて配置されており、計7基のシャワー付きカランが取り付けられていました。水栓は新しいものに交換されており、水圧もバッチリ。シャンプー類が置かれている台にも木材が用いられていて、シャワーを浴びているときでも、木のぬくもりが間近に伝わってきました。


 

浴槽は奥行きの長い台形のような形状をしており、幅は最も狭いところで1.5m、広いところで3m、奥行きは約5.5m。手前側はちょっと浅い造りです。また、窓下の一部には丸太が沈められており、ここに腰を掛けると良い塩梅で半身浴ができました。浴槽の縁には使い込まれて良い味が出ている太い丸太が用いられ、底には歪な碁石みたいな黒い石と白い石が敷き詰められています。槽の手前側で聳え立つ太い柱には湯口の木箱がくくりつけられており、ドバドバとお湯が吐出されていました。そのお湯は無色透明で非常に澄み切っており、上から湯船を覗きこんでいるだけでも心が洗われるかのよう。底を覆う黒と白の石が、その清らかさを際立たせていました。


 
内湯に使われている源泉は含重曹食塩泉で、ほぼ無味無臭なのですが、感性を研ぎ澄ましながらお湯を口の中で転がしてみますと、弱い重曹味に微かな塩味が感じられました。いつもは完全放流式の湯使いですが、私の訪れた夏季には温度調節のために加水することがあり、実際にこの日も「かなり湯温が高いので、5%程加水しております」と掲示されていました。加水用のホースは止められていましたから、湯口の投入時点で既に加水されていたのでしょうね。湯船は万人が気持ち良いと感じる42℃前後の絶妙な湯加減となっていて、癖のないアッサリ&サッパリの優しいお湯に一度浸かると、湯船から出るのが躊躇われるほど、その心地良い浴感に後ろ髪を引かれてしまいました。次回取り上げる露天風呂も素晴らしいのですが、この内湯も極上の湯浴みが堪能出来ました。


(内湯)鉱泉地1号
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 54.1℃ pH7.3 35L/min(自噴) 溶存物質1.081g/kg 成分総計1.113g/kg
Na+:247.6mg(80.55mval%), Ca++:40.4mg(15.11mval%),
Cl-:234.5mg(49.85mval%), SO4--:67.8mg(10.63mval%), HCO3-:311.0mg(38.46mval%),
H2SiO3:118.9mg, HBO2:43.5mg, CO2:31.5mg,

後編「露天風呂」に続く
コメント
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