舞台は久しぶりに土佐・坂本家に戻って来た、縁側で龍馬の兄・権平が趣味のサボテン盆栽をいじっちょった、そこへ嫁ぎ先・岡上のDVが元で出戻りしていた乙女姉やが『来た~~!来た~~!』と金切り声を上げながら手紙を持って飛び込んできた、『龍馬から手紙が来たぞね!ほれ!』、「えっ!」権平の妻の千野もビックリして喜んだ、『はよう!こっちへ!』、『龍馬さんから手紙が!』、「何ぞえ!?お~!早よう読みや!」、『待ちや!』心を落ち着かせて乙女は読み始めた・・・
“兄上!姉上!乙女ねえやん!元気にしちょられますろうか?わしは今!最後の大仕事に取りかかろうとしゆう!”、『最後の仕事!?』、“何んとしてでも!わしはやり遂げんといかんがぜよ!”、乙女が続きを読む『しくじったら日本中で戦が起こってしまうかも知れん!』、千野が口を挟む「何をしゆうがろ?龍馬さんは!?」、権平が答える「いや~~!わしにも!もう!よう分からん!」・・・
“それからのう!伝えるがが遅おうなったけんど!わしは嫁をもろうたがぜよ!”、『嫁!?』、「何んじゃと!」家長としての権平が驚いた!勿論、乙女も千野もがじゃ、“名はわしと同じ字を書いて!“龍(りょう)”言うがじゃ!”、『乙女姉やみたいに気が強おうて!ピストルの腕前もたいし大したもんぜよ!』、「ピストルじゃと!?」権平も舌を巻いた、“まっこと面白きオナゴじゃ!”、お龍が間借りしている豪商・伊藤九三邸の庭には多くのがきどもが、よくお龍の射的を見物に来ていた、おばちゃん!凄い!、にお龍がすかさず反応して言った「おばちゃん違がわあ!」、河内か・・・
土佐の坂本家に戻ろう、「龍馬さんに嫁!?」、「ピストルを撃ちまくるような恐ろしいオナゴを嫁として認められるかえ?」と権平は消極的じゃった、すると千野が言った「わたしもピストルを撃ってみたい!」、「何!?」、乙女も千野の考えに同調した『女がピストルを撃ったらイカンやろか?私は兄上に剣術を教わったがやき!』、「剣術は良うて!ピストルはイカンがかえ?」、権平はウロタエながら答えた「否!龍馬の嫁はしかるべき家の娘じゃないと困るろう!龍馬以外に坂本家のあと取りは居らんがじゃがぞ!」、千野が言う「龍馬さんは世の中のために日本中を駆け巡っちゅうがやけ!それを分かった上で!女房になってくれたお龍さんは偉いがじゃ!」、『うん!おお!偉い!』乙女もうなずいた・・・
海援隊本部は大量のミニA銃入荷に沸いていた!そこに龍馬等と弥太郎が立ち会うて居った、よ~~し!これでしまいぜよ!、『最新式のミニA銃1000丁じゃ!』、惣之丞がそれを構えて言った「50間(約90m)先の的にも命中するがじゃ!」、『この銃の使い道は二つある!分かるかえ!徳川に大政奉還を迫る時の脅しの道具に使う!』、二つ目を惣之丞が述べた「万が一!戦になったとしても!これで土佐を守るがじゃ!」、『わしゃ!この銃を長州のもん等にも見せに行くき!薩摩!長州!土佐!この三つの足並みがバラバラでは徳川には勝てん!わし等は一心同体じゃと!木戸さんに訴えて来るがぜよ!』、はい!「正念場じゃのう!龍馬!」・・・
その時、弥太郎がでしゃばって来た「何が正念場じゃ!おまん等は自分等がこの国を動かしゆう積りかえ!?この1000丁は手切れ金じゃ!わしゃ!もう!おまん等の面倒は見んけ!」と言い残し去って行った、『おい!弥太郎!』、龍馬はあの雨の日に弥太郎が吐いた言葉が脳裏を駆け巡った、“おまんは疫病神ぜよ!わしの前から消えてくれや!もう消えてしまえや!”・・・
弥太郎は海援隊本部から土佐商会に戻って来た『何が大政奉還じゃ!日本は必ず戦になる!その時こそが!わしのビジネスチャンスじゃ!』、溝渕が弥太郎の姿を見て慌てだした、何故なら主任室には弥太郎の私物は取り払われ、もう弥太郎の居場所がなかったがじゃ!『あっ!佐々木様!』、そこには新しく主任に着任した佐々木高行と言う上士が弥太郎の席に納まっておったではないか!「ああ!わしがのう!今日から土佐商会の主任じゃ!」・・・
早速、佐々木は帳簿を指摘しながら弥太郎に訊ねてきた、「ここにはミニA銃1000丁仕入れたと書いちゅうけんど!こっちには1万丁と書いちゅう!」、『それは!』弥太郎が返答に躊躇した、佐々木の突込みが入った「土佐商会の金を勝手に使こうたがかえ?」、溝渕が助け舟を出した「佐々木様!弥太郎がそんなこと!」、『黙っちょれ!溝渕!』、「けんど!」、弥太郎は開き直って言った『そうじゃ!わしは勝手に金を使こうてしまいました!けんど!その9000丁は他に売って儲けるための銃ですけ!』、「儲けるために!?」・・・
『幕府と薩長が戦になったら!銃と大砲の値段が一気に跳ね上がりますろう!?』、商売人ではない素人の佐々木がコメントした「おまんはそんな危ない取引をしゆうがか!?」、『先を読んで商売をすることが!何がイカンがですろう?』、追い詰められた佐々木は上士等が執務する事務室を隔てる窓を開け放ち聞こえるように言った「所詮!地下浪人じゃのう!やることに品が無い!」と弥太郎を貶(けな)した・・・
弥太郎は佐々木に噛み付いた『地下浪人!?商売いうもんは!金を儲ける力があるか!ないか!それだけですろう!身分ら!何じゃ係わり無いがじゃ!』、「何じゃとう!」と佐々木がほざくと、弥太郎は仕切りを乗り越え、事務所を横切って、外へ出ようとした、溝渕が追ってきて言った「弥太郎!佐々木さんに謝りや!弥太郎!土佐商会に居れんようになるぜよ!」・・・
すると弥太郎は上士に向かって言った『上士の皆さん!わしは!たった今!主任を降ろされたがです!もう下士の下で文句を言いながら働くことは無いがじゃけ!良かったですのう!』と言い残し外へ出ようとしたが、戻ってきて言い足りなかったことを吐き切った『けんど!これから日本は!生き馬の目を抜く世の中になりますろう!上士!下士!身分に拘(こだわ)り続けるもんは!間違いのう!負けてしまうけ!覚悟を決めて商売が出来るもんだけが!出来るもんだけが!勝つがです!』と教えた・・・
ほんで、海援隊本部では龍馬が長州・下関へ旅立つ日が来たがじゃ!『ほんなら!後のことは頼む!』、「シッカリ!やって来きいや!龍馬!」、『おお!』、「戦!戦!言うてる木戸さんの頭を冷やしてやって下さい!」、『分っちゅう!そいたら!行って来るけえのう!』、はい!そこへ弥太郎がやって来た、『弥太郎!?見送りに来てくれたがかえ?』、「この目録を渡しに来ただけじゃ!」弥太郎がその目録を龍馬の前に投げた・・・
『弥太郎!おまんが用意してくれた!ミニA銃1000丁!決して無駄にせんけ!』、「わしに指図すな!」、『ほんなら行って来るけのう!』、行っていらっしゃい!船にゃ気をつけて!数人の仲間等と長州に渡す銃を荷車に積んで船着場に向かった、『行って来るき!』、弥太郎は出て行く龍馬の背中を見詰めながら己の決意を新たにした「おまんは金にならんことを必死にやっちょる!わしは!おまんとは正反対の道を歩むがじゃ!」・・・
長州・下関に着いた龍馬は直ぐに木戸貫治を訪ねたがじゃ、木戸に見せるミニA銃を水夫に運ばせ、三吉の案内で木戸の屋敷に通されて行った、「坂本さん!お元気そうでなりよりです!」、『三吉さんの方こそ!』、「坂本さんがいらっしゃいました!」、「お~~!坂本君!よく来てくれた!」、『ご無沙汰しとりました!木戸さん!』、そこには、“相棒”とは打って変わった仏頂面の大久保利通が来ちょった、二人の前に何やら地図が広げられちょった、小生の推測では土佐を無視して倒幕の策を講じて居ったようだ、この卑怯者めが!、『まさか!薩摩の大久保さんも居られるとは!』、大久保はパイプタバコを吹かしておった・・・
「この箱は!?」と木戸が訊いてきた、『おお!これは最新式のミニA銃じゃ!土佐に運ぶ前にこれを是非とも木戸さんに見て頂きたいと思いましてのう!』、『大久保さん!大久保さんにも是非!観てつかわさい!』、「土佐に運ぶとは?」、『藩の力を強め!幕府に大政奉還を迫るぜよ!』、木戸が口を挟んできた「嘘はイケんのう!坂本君!山内容堂公には大政奉還の考えなど無いそうじゃないか!?」、「土佐に挙兵する考えなどなかとなら!薩摩と土佐の盟約も破棄しもんそう!」・・・
『戦がは最後の手段ながじゃ!木戸さん!幕府も揺らいじゅう!大政奉還は必ず!必ず!成し遂げられますき!』、「徳川の力を残したまんまでは!何時また政権を取りに来るかも分かりもはん!」、「大久保さん!参りましょうか!」、二人は何処かへ出かけようとしていた、『ちょっと!木戸さん!木戸さん!待ってつかわさい!木戸さん!』、木戸がそっと龍馬に耳打ちした「坂本君!もうこれ以上!うろちょろと動き回らんほうがええ!これは友としての最後の忠告じゃ!三吉!坂本君を送ってあげなさい!」、『木戸さん!』、庭には薩摩の兵士が数人来ておったがじゃ・・・
伊藤九三邸ではお龍が子供達と相撲を取っておった、まるで託児所の保母さんのようだった、そこへ三吉が「ゆめくま!」と息子を迎えにやって来た、そしてサプライズ!お龍の目の前に龍馬が現れたがじゃ!「龍馬さん!」、『お龍!元気にしとったかえ!』、お龍は龍馬に飛びつき!二人は熱い抱擁を交わした、『あっははは~~!汚れちゅう!ははは~~!』、跣でがって来たお龍の足は土まみれであった・・・
昼食にお龍は龍馬と三吉に愛情たっぷりのおにぎりを振舞った、『美味い!美味いぜよ!』、「三吉さんには、ほんまに!ようして貰っています!この三月(みつき)退屈したありまへんどした!」、『そうかえ!まっこと!ありがとう御座いました!三吉さん!』、「礼には及ばんです!」、「それから木戸さんにも色々お気遣いして頂いて!心遣いが細やかで!ほんまにええお方どすなあ!」、『そりゃそうじゃ!ははは~~!実はのう!お龍!わしは明日!土佐に出航するがじゃき!』、「明日!?龍馬さんの兄上や姉上にようやくご挨拶出来ますわ!」・・・
『お龍!おまんを連れて行くわけにはいかんじゃけ!土佐には、この次に連れて行ってやるけ!』、「どうして!?一人で待つのは!もう嫌(いや)や!うちも龍馬さんについて行きます!」、『お龍!わしはのう!今ちっくと険しい道を歩きゆうがじゃ!この道はオナゴを連れて行くわけにはイカン!頼む!もうちっくと!ここで待っちょってくれ!頼むき!』、お龍は珍しく三吉に頼んだ「三吉さん!席を外しておくれやす!」、『お龍!』、「龍馬さんと一緒に居られるのは今日だけなのです!お願いします!」とお龍は三吉に頭を下げた・・・
「これは気がきかんかった!夫婦水入らずの処に!何で居るんかのう!ゆめくま!行くぞ!」、「はい!父上!」、「では!ごゆっくり!」三吉は子供達を連れて出て行った、そこには、二人きりになったラブラブの龍馬とお龍が残された、しかし、またもや邪魔が入った、「坂本様!」そこに家主の伊藤九三が現われた「ご無沙汰しとりました!坂本様!」、三吉が慌てて九三に手招きした、『いやいや!お龍がお世話になって!』、「お龍さんをお預かりするくらい!もう喜んで!」、「ありがとう御座います!」お龍も九三に頭を下げた・・・
三吉が九三に割り込もうとした「伊藤さん!もう二人きりにしてやって!」、九三には聞く耳を持っちょらんかった、「実は坂本様がいらっしゃったと聞きつけた奇兵隊の方々が今、押しかけて来られまして!」、『奇兵隊!?』、「是非!坂本様と酒を酌み交わしたいと!」、「イケん!イケん!坂本さんは!やっとお龍殿と二人っきりになったんじゃ!邪魔するな!」と三吉は強い口調で言った、「いや!そう言ったんですが!坂本様は長州を助けてくれた恩人じゃから!なんとしても!歓迎したいと!」と九三は引かなかった・・・
『それは有り難い事じゃけんど!』龍馬も引き気味じゃった、「坂本さん!長州の田舎もんは何も分かっちょりませんで!もう!」、『けんど!』、「もうよろしおす!」とお龍は声を荒げて諦めた「どうぞ!皆さんをお呼びしておくれやして!おくれやっしゃ~~!」、『お龍!』、「奇兵隊の皆さんにお帰り頂くわけにはいけまへん!」、「本当にいいんですよ!」三吉も遠慮して言った、「龍馬さんを慕とうて来て下さる方々を無下(むげ)には出来まへんさかいな!どうぞ!」、「はい!」九三は喜んだ、「ごめんねぎもした!(趣旨は分かるが長州弁じゃろ)」三吉は深深頭を下げた・・・
「ほれ!ほれ!中へ!中へ!」九三は皆んなを招きいれた、お許しが出たぞぉ~~!坂本様~~!坂本様~~!ヨン様のペ・ヨンジュン並みの人気じゃった、男もオナゴも酒桶やら手料理を携えて雪崩れ込んできた、龍馬はお龍の耳元で囁いた『お龍!ほんなら今夜は一緒に風呂に入るがぞ!』、「何言うたはるん!」お龍の顔が紅色に染まった・・・
『待たせたのう!さあ!皆んな!一緒に酒を飲むぜよ!』、坂本さん!ありがとう御座います!、龍馬が何を色めき立ったかお龍の元に戻って来て耳打ちした『風呂は熱い湯にしてくれや!ぬるいがはいかんぞ!ぬるいがは!』、お龍は龍馬と二人っきりで風呂に入ることを想像してしもうて舞い上がっちょった(子作りの絶好のチャンスぜよ!ウシウシ)・・・
あっはははは~~~!夕暮れが訪れ宴は次第に盛り上がって行った、龍馬は得意のギターならぬ三味線を機用に奏でながら唄った、♪ どっこいやれ!どっこいやれ!どっこいやれしょう!岩に松さえ!生(は)えるじゃないか!はあ!どっこい!どっこい!添うて!添われて!どっこいやれさ!ああ!どっこいやれさ!どっこいやれ!どっこいやれ!どっこいやれさ!心ばかりを酔わせておいて!やれそ~~れ!どっこいやれさ!どっこいやれ!どっこいやれ!どっこいやれさ!♪・・・
「お龍殿!一つ如何ですか?」三吉が酒を勧めた、『ありがとう御座います!さっき龍馬さんが言うてた!険しい道て何んやろか?』、「人の心を一つに纏(まと)めるのは難しいことです!坂本さんには坂本さんの正義がある!じゃが!長州や薩摩にもそれぞれの正義があるのさ!」と三吉が答える、『龍馬さんに味方はいたはらへんのどすか?三吉さんはお味方でしょう?』、「わしは!坂本さんが大好きです!じゃが!その前にわしは長州の者です!じゃが!お龍殿だけは別です!どうか!坂本さんを支えてあげてつかわさい!坂本さんが帰る場所はお龍殿ですから!」・・・
その頃、宴もたけなわを過ぎ、そろそろ誰かが二次会を勧める段取りとなった、「坂本さん!わし等の行きつけの店で飲み直しましょう!」と来た、『いや!いや!皆んな!わしはもうそろそろ!』、「いいや!行きましょう!坂本さん!行きましょう!」、お龍の龍馬を観る目付きが厳しくなっちょったがや、坂本さん!さあ!さあ!行きましょう!そうじゃ!そうじゃ!「こら!こら!調子に乗んな!馬鹿たれ!」三吉が停めた、するとお龍が言った「どうぞ!行っておいやす!龍馬さん!お風呂沸かして待ってますさかい!」、こうゆう話は比較的速くまとまる・・・
お龍の許しが出た!よっしゃ~~!さあ!行くぞ~~!『ほんなら!お龍!すっぐに!戻って来るき!』、幹事を九三が引き受け龍馬も三吉も奇兵隊の男どもは一斉に花街へくり出して行ったがじゃ、一人取り残されたお龍は二階の寝室にダブルベットサイズの愛の巣を敷いたが落ち着かず、煌煌と降り注ぐ月光を眺めながら龍馬の帰りを待った、久しぶりに龍馬さんとお風呂に入れる想いにお龍の身体も自然に熱(ほて)ってくる・・・
その頃、料亭での二次会は盛り上がるだけ盛り上がっておった、三吉が槍ならぬ棒切れを振り回して何やら怪しげな腰つきで馬鹿踊りに酔いしれていた、若いピチピチの芸子達がお酌しながら寄り添って、おもてなししてくれていた、どの子もどの子もベッピンぞろいじゃった☆わざと三吉の棒がブスッ!と襖を突き抜いた、『三吉さん!何ちゅうことを!ははは~~!』龍馬も呆れていた・・・
お龍が生け花をしながら龍馬を待つ、鏡を手にして“うみ”の笑顔を作って龍馬を待つ、鶴もいっぱい折った、紅葉を一枚一枚、畳の上に並べていく、宴の席は夜通し続いて行った、龍馬も飲みに飲んだ、三吉は酔いつぶれて眠っていた、龍馬が抜け出そうとするとピチピチギャルズから「龍馬さ~~ん!」の猫撫で声が飛んできて!連れ戻される(小生までもが色めき立って、たまりましぇ~~ん)、以前とお龍は起きていて紅葉を並べる、しかし、待ちくたびれたお龍の顔にも、そろそろ、諦めのモードが忍び寄る、やがて睡魔がお龍を包み込み夢の中へ漂っていく・・・
『すっぐに!帰るぜよ!』龍馬が一人抜け出し急ぐ、数人の刺客が見え隠れして忍び寄る、一人の侍がうずくまっている、『どういた!』龍馬が声をかけると、いきなり斬り付けられる、背後からも袈裟に斬られて龍馬が倒れる、「はっ!」お龍がその悪夢から目覚めると畳み中、紅葉だらけになっていた、お龍は胸騒ぎに慄(おのの)いていた・・・
夜が明け、朝の光が龍馬の顔の上に注がれた、薄目を開けると直ぐ横で若い芸子がスヤスヤと眠っていた、『はあ~~!これは遺憾!あ!あ!』服装の乱れを慌てて整える、『こりゃあ!遺憾!遺憾がじゃ!』、隣の部屋には三吉が壁にもたれて眠っていた、『こりゃあ!こりゃ!遺憾!』龍馬は急いでその場を抜け出して行った(自慢じゃないが小生69歳になるまで一度たりとも朝帰りなど経験したことが無い!こう言うことは自慢にはならないのだろうか?あっ!お呼びじゃない、これまたシッツレイこきました)・・・
お龍が縁側に座り龍馬の帰りを待っていた、黙々と紅葉の葉っぱを千切っては投げ、千切っては投げを繰り返していた、すでにお龍の我慢も限界を越え爆発寸前だった、そこへ龍馬が駆け込んできた!縁側に座るお龍の姿に気付き、そこに立ちすくんだ!お龍の形相(ぎょうそう)は鬼のように険しかったが、氷のように冷静じゃった、龍馬が吸い寄せられるようにお龍に近づいて言った『すまん!ちっくと!飲み過ぎてしもうた!』、お龍は目を合わせようとせず、目線を下に向けたままじゃった・・・
お龍が立ち上がった、『はっ!』、何時の間に!お龍の手にピストルがあった、ピストルは龍馬の顔面を狙っていた、お龍は更に距離を縮め龍馬の鼻先にピストルを突きつけた、お龍の目付きが険しさを増した、「お風呂がすっかり冷めてしもうたわ!」陰(いん)に篭って口に出た、『わしが!すっぐに温めなおすけ!』、お龍の顔が少し和らいだように見えた、『はっ!笑ろうてくれたがかえ!?』、その瞬間、お龍の顔が般若(はんにゃ)になり、きっつ~~い!平手打ちがバッチ~~ん!龍馬の顔面を捉えた!もう一発おまけがバッチ~~ん!・・・
「どうして!帰ってくれはらへんかったん!?うちは!もう!龍馬さんと会えへんや無いかて!」、『すまん!これは!これは!わしの一生の不覚ぜよ!もう二度と!二度と!おまんに!こんな思いをさせんき!約束する!約束するき!』、「唄とうて!」、『えっ!?』、「昨夜(ゆうべ)は芸子と唄って!踊って!遊びはったんやろ!申し訳ないと思うんやったら!今ここで!うちの為に唄とうて!」、『お!お!ほんで許してくれるんやったら!わしゃ喜んで唄うがぜよ!ちょっと待ちや!』・・・
龍馬は三味線を持って出てきた、「早よう!」、ああ~~あ!ああ~~あ!・・・、度忘れしたか歌詞がなかなか出てこんようじゃった、ああ~~あ!あ~~!・・・なかなか先に進まん!『どういて!どういて!こう言う時に限って!出てこんがじゃ!』、そこへ三吉がやって来て「お龍殿!」と言って土下座した、「お龍殿!ゆうべは、ほんに申し訳ない!わしが着いちょりながら!酔い潰れてしもうて!」、「もうよろしおす!」、『三吉さん!蒸し返さんといてつかわさい!』・・・
「その代わり!お龍殿に!ええ知らせじゃ!今日は波が高こうて船が出せんそうです!」、「えっ!」、『そりゃ!ほんまかえ!?』、「もう一日!旦那様と一緒に居られますよ!」、お龍の顔に笑顔が戻った!龍馬もお龍が機嫌を取戻してくれて元気が出てきた、『それは!仕方ないねや!船の遅れは海で取り返せるき!今日は一日ゆっくり!おまんと過ごすぜよ!』、お龍の顔に満面の笑みが広がった!すると龍馬の三味線も軽やかに鳴り響いた!・・・
その時、三吉の息子のゆめくまが大勢の子供達を連れてやって来た、「ゆめくま!お二人の邪魔をすな!」と怒鳴った、じゃが、お龍が龍馬を促して言った「このおじさんが相撲して下さるて!」、ヤッタ~~!ヤッタ~~!『否!否!けんど!お龍!』、子供たちは龍馬にひつこく相撲をねだってきた、『分かった!分かった!ちょっと待ちや!よし!最初は誰じゃ?』・・・
三吉が縁側にお龍のピストルを見付けて言った「お龍殿!こんな物騒(ぶっそう)なものは!わしが預かっておきます!」、懐から手紙を出して「その代わり!これを!」三吉はそれをお龍に渡した、“おりょうさま”の宛名になっていた、裏を返せば“坂本乙”の差出人の名前になっていた、「坂本!?」、「坂本さんの姉上です!」、お龍は大事そうに、それを自分の部屋に持って上がって張り出し窓に座って読み始めた・・・
“お龍さん!龍馬と夫婦になってくれて!ありがとう!わたしは毎日!お龍さんは、どんな人やろ?言うて思い巡らせちょります!龍馬はお龍さんを困らせるようなことは!しとらんかえ?あの子は昔は泣き虫で!どうしょうもない子じゃったき!今でも甘ったれのところがあるがです!遠慮のう!ひっぱ叩いてやって下さい!”、「もう!やってしまいました!」、“お龍さん!龍馬をよろしゅうお願いしますね!土佐で逢える日を待っちょります!”お龍は読み終わって言った「おおきに!」、庭では子供達に囲まれて龍馬がはしゃいで居った・・・
思いがけない休日に心踊り、龍馬とお龍は弁当持参で下関の浜にピクニックを楽しんでいた、『気持ちがええのう!』、「ほんまですなあ!」、そこには九三幼稚園の園児たちも一緒じゃった、一人の子が目隠しして“鬼さん!こちら!手のなる方へ!”と鬼ごっこをしておった、坂本さんも遊ぼう!『わしもかえ!分かった!ほんなら!おじちゃんが鬼じゃ!目隠しを結んでくれ!結んでくれ!痛い!痛い!』、『よ~~し!行くぜよ!何処じゃ!何処じゃ!』、『ほれ!捕まえた!オッ!また!おまんかえ!』、お龍がニコニコ目を細めて観ちょったがや、そのあと、お龍が作ってくれた“海苔おにぎり”を皆んなで美味そうに頬張っていたがじゃ・・・
その夜、お龍が心ときめかして待った☆誰~~にも邪魔されない二人っきりの愛の営(いとな)みの時が来た☆ソワソワ☆愛の巣に龍馬が奥で、お龍が窓側に横たわり静かに仲の好(い)い夫婦の会話を交わしていた、『お龍!わし等も子を作るかえ!』(来た~~!)、「えっ!」(しらばっくれて、このこの!)、『子供が出来たら名前はどうするがぜ?』、「うち等二人の“龍”と言う字を入れて欲しいのどす!」、『そうするかえ!』(そう来なくっちゃ)『わし等の子は誰よりも元気がええぜよ!』・・・
「今日、土佐から手紙を貰いました!」お龍が龍馬に明かした、『えっ!?』、「乙女姉や!」、『はあ!』、「子供の頃!龍馬さんは泣き虫やったて!」、『はあ~~!』、「今でも甘えたやて!」、『もう!やめてくれや~~!ははは~~!』龍馬は手で顔を覆い恥ずかしがった『乙女姉やんは!ま~~だ!わしのことを子供じゃち思うちゅう!』、「会いたい!龍馬さんの、おうちの人に!」、『もう直ぐじゃ!もうじき!おまんを土佐に連れて行くき!』、「はい!」・・・
突然、『お龍!』龍馬がガバッと身を起こして言った(いよいよ覆い被るか!?)『土佐にはのう!桂浜いう雄大な浜があるがじゃ!その浜に時々鯨が来るき!』、「くじら!?」、『お~~!ほんで土佐の大殿様は!鯨のように!鯨が海の水を飲むように!酒を呑まれるそうじゃ!』、「まあ~~!」、『わしはのう!お龍!その大殿様を説得に行くがじゃ!』これが龍馬の険しい道じゃった、「大丈夫!龍馬さんなら出来ます!志しを成し遂げて!早よう!うちの元へ戻って来て下さい!」・・・
お龍の温かい言葉に龍馬は感極まった『わしを信じてくれちゅうがかえ!』、「当たり前や!うちは坂本龍馬の奥さんどす!」、『ありがとう!』、そして龍馬はお龍を抱き寄せた!『ありがとう!お龍!』(いよいよじゃ、いい種を残してくれ、行け、龍馬!、このあと、二人は確実に子作りに励んだだろうが、そのことは小生の想像の中に置いておこう)、営みに疲れ、寝息をたてて眠るお龍の顔を見詰めながら、龍馬はそっと掛け布団を肩までかけてやった、そして張り出し窓に座り、月明かりに照らされながら、自分の行く末に想いを寄せていた・・・
翌朝、龍馬は旅の身支度を整えてながら、お龍との別れを惜しんでいた、三吉も見送りに来ていた、いつものように、お龍は竹の皮に包んだ握り飯を龍馬に持たした、『お龍!ありがとう!』、『三吉さん!お龍のことは!よろしゅうお願いいたします!』、「はい!途中ご無事で!」、そして龍馬は下関を出航して土佐へ向かった、『待っちょれよ!お龍!』、「はい!」、『すんぐに戻って来るき!あっはははは~~~!』、これが龍馬とお龍の最後の別れになるとは!知らずに!時代の流れは!龍馬を最後の激流へと!押し流しちょったがじゃ!・・・
京・薩摩藩邸では重役会議が行なわれておった、小松、西郷、大久保等が何やら不穏な動きをしていた、「倒幕の勅命じゃっと!?」と家老・小松帯刀が叫んだ、大久保利通が答える「御門にお願いし!幕府を討てとの勅命を出して頂くっちゅうことおす!」、西郷吉之助も続く『そげんすれば!おい達は堂々と幕府を討つことが出来るごあんどなあ!』、そうじゃ!そうじゃ!小松さあ!そう言うこつじゃ!小松さあ!小松さあ!・・・
一方、二条城を訪れて勘定奉行・小栗忠順(ただまさ)が慶喜に報告した「フランス政府はもはや金を出せぬと!申しております!」、『何に~~!フランスは我等が薩長に負けると思うておるのか!あ゛~~~!』追い詰められた慶喜が吼(ほ)えた・・・
弥太郎が商談のため小曾根邸を訪ねた、そこにはお慶も同席していた、「9000丁のミニA銃ですと!?」お慶が驚いた、『そうじゃ!買い取ってくれんかえ!』、「わたし達がですか!?」乾堂も不思議に思った、『その9000丁は!いずれ!わしが高値で売るがじゃ!おまん等には利子を着けて返しちゃる!それまでおまん等の蔵に置かせてくれ!』・・・
乾堂が言った「岩崎様は土佐商会の主任ぱ降ろされたとか!」、お慶も納得できず言った「そげん勝手なことば!してよかとですか!?」、『わしは!いよいよ!腹をくくったけ!自分のカンパニーを創って商売をするがぜよ!』、突然そこにあった小さな鳥篭をバラバラに押しつぶしてしまった!昔、鳥篭の行商人をしていた“ちっぽけな弥太郎”が蘇り、その嫌な過去から決別する決意の現われじったのだろか?それにしても、人の物を無下に壊しても善いのだろうか・・・
慶応三年九月二十三日、龍馬は遂に土佐に戻んて来たがぜよ!龍馬がタイトル画面を走る桂浜に立った!直ちに土佐・後藤邸に象二郎を訪ねた、『ただいま!戻んて参りました!ほんで!ミニA銃1000丁!運んで参りました!』、「坂本!大殿様が考えを変えて下さらん!徳川を攻める気も!政権を返上させる気も!無いがじゃ!」、『薩長は今にも武力倒幕に向けて挙兵しようとしゆうがです!後藤様!わたくしを大殿様に会わせてつかわさい!』、象二郎は全てを龍馬に託して言った「おぬし!やるかえ!」、『はあ!』・・・龍馬暗殺まであと二月(ふたつき)!・・・