曖昧批評

調べないで書く適当な感想など

BS-TBS「Nのために」再放送最終回の考察と感想

2023-12-14 12:31:00 | テレビ・映画
最終回の記事が、話の流れだけで長くなってしまったので、感想や考察はこちらに書く。

▪️考察

事件の最大の原因は、やはり安藤が外側のドアチェーンをかけてしまったことだろう。ドアチェーンが掛かっていなければ、西崎と杉下は野口邸を脱出できたし、脱出できれば警察に通報して野口を抑えることができた。

では、なぜ安藤がドアチェーンをかけたかというと、成瀬に対する嫉妬、敵対心と、N作戦2から外されていて、誰も何も教えてくれない疎外感からだろう。その感情は以前からちょいちょい刺激されていたが、エレベーターの中で西崎から、成瀬が作戦に参加していることと、成瀬が杉下の究極の愛の相手だと知らされて行動に出てしまった。

だが、予定通りなら西崎と安藤が鉢合わせするはずがなかった。作戦は安藤が来る前に終わるはずだった。少なくとも、西崎は安藤よりかなり早く到着するはずだった。

到着が遅れた原因は、花屋が混んでいたことだ。女に花を贈ろうとする男性達がレジ前に長い列を作っていた。西崎は店員に、クリスマスイブだから当然、みたいなことを言われている。予測が甘かったといわざるを得ない。結局、西崎の到着は20分以上も遅れ、安藤とばったり会ってしまった。



安藤も、取引先との打ち合わせがキャンセルになって到着が早まり、到着後も仕事の電話が入って少し立ち止まったりして、西崎と遭遇するように状況が流れていったところもあるが、それは5:50頃のこと。予定通りなら5:30に着くはずだった西崎が大幅に遅れたのが一番悪い。

花屋が混んでるのを予測できなかったことについては、仕上げの打ち合わせをしなかったからかもしれない。なぜしなかったかというと、シャルティエ広田氏が成瀬に安藤のプロポーズ計画を知らせたからだ。あれで成瀬は、杉下の女友達だと思っていた安藤望が男だと知り、杉下に対して消極的になってしまい、仕事を理由に追加の打ち合わせを断ってしまった。西崎と成瀬はそういうことに疎そうだが、杉下がいるので、もう一度打ち合わせをしていたら、イブで混んでるかもしれないから花屋には早めに行こうとなったかもしれない。やや飛躍した読みだが。



もうひとつ重大なやつ。奈央子が西崎個人に「花屋の振りをしてきて連れ出してほしい」と頼んだことだ。当初の計画通り、西崎がシャルティエ広田のスタッフに化けて、成瀬と一緒に突入していれば、すんなり終わっていたかもしれない。到着が6時になるので安藤と遭遇する可能性もあったが、チェーンをかけられたとしても、男二人なので野口を取り押さえられたかもしれない。



本作は、僕のテレビドラマ視聴史上最高傑作だと思っているが、ひとつ弱点があるとも思っていた。奈央子の行動理由だ。

夫のDVから守るために連れ出そうとしたら、私ではなく希美ちゃん(杉下)を連れ出して欲しいと言いう。野口と杉下がこそこそ会っているのは将棋の作戦会議だったのだが、いつも奈央子から見えない部屋に籠ってやってたので、杉下に嫉妬していたと思われる。

でもそれなら、希美ちゃんがうちに来ないようにしてくれと、もっと前から頼むのが自然だ。クリスマスイブのパーティーの前に、その場で連れ出してくれ、というのは不可解すぎる。

これだけの作品に不可解なんてない。「理由としては弱い」と言ったところか、なんて擁護していたのだが、今回の視聴でこの件について、別の解釈の余地に気づいた。

奈央子は絶命する直前に「彼と一緒にここを出ていく。酷いことをしてごめん」と言っている。この「彼」は西崎のことではないのか? この時、奈央子は西崎の腕の中にいるので、「彼」が野口という可能性も微粒子レベルで存在するが、まあ西崎だろう。奈央子は野口のことを「夫」「この人」と呼ぶことが多いし、意識がなくなる寸前の朦朧とした状態の譫言でもあるし。「ごめん」も、西崎に対しての口調としては不自然で、夫に対してだろう。

とすれはだ。やはり「西崎とここを出ていく。酷いこと(出ていくor燭台で殴る)をしてごめん」が自然な解釈ではなかろうか。西崎への電話は、自分をここから連れ出すために花屋に化けて来てくれと。花屋は通すように私がエントランスに言うから、という、そのままの意味だったのではないか。「ごめん」は奈央子の夫に対する口調としては違和感があるが、西崎母のセリフと一致させたかったのだろう。

野口が言うには、奈央子は流産してから精神的に不安定になり、裸足でふらふら道路に飛び出したりしたらしい。流産の真偽と理由(野口は転倒と言ってる)はさておき、精神的に不安定だったのは確かだろう。軽い統合失調症というか、分裂症というか、軽い二重人格というか、状況に応じて意識が入れ替わる状態だったのではないかと僕は考えている。

夫に虐待されたり、家に閉じ込められたり、携帯電話を解約されたりしたときは、西崎とここから出たいと思い、夫が他の女と隠れて何かやってたりすると、独占欲や夫への依存心が出てくるわけだ。「連れ出してくれ」の電話をしておいて、いざ西崎が来たら自分ではなく杉下を連れ出せという。そのときの状況はといえば、夫と杉下が書斎に篭って何かしている。

事件当日にわざわざ来てもらって、やはりわざわざ来ている杉下を連れて帰れ、という意味不明の行動は、こういうことなんじゃないかと。



奈央子が野口を殴り殺した件については、単に暴れる夫を止めようとしたのと、止められるのは自分しかいない(「この人を止められるのは私だけなの!」)の2点が動機かな。夫の暴力を受ける権利は私だけのもの、という意見もどこかで見たが、どうだろう。

▪️感想

安藤が「俺のせいだ」とつぶやいたとき、西崎、杉下、成瀬が安藤を見る。皆も安藤のせいだと思ってるのだが、黙っている。あれが罪になるかは分からないが、バレれば二人の死についての責任は生じるわけで。皆はその罪?が明るみに出ないように、最後まで安藤を作戦の外に出しておこうとする。それが安藤には疎外感なわけだが、そもそも安藤だけ異質なんだよね。

西崎、杉下、成瀬は親に絡んで辛い過去があるが、安藤にはない。長崎の離島出身で、親は公務員という情報しか作中には出てこないが、普通に明るく前向きで、影のない青年である。その明るい安藤が、一番暗い行動をとってしまうのが皮肉だ。



恋にも敗れた安藤だが、安藤役の賀来賢人は、ご存知の通り杉下役の榮倉奈々とリアルで結婚。このドラマがきっかけらしい。安藤の杉下への視線とか表情は、演技じゃなかった可能性が高い。

火が怖いとか、顔以外の体中に火傷の跡がたくさんあって半袖を着られないとか、虐待された体験を小説化するとか、かなり病んでいる西崎が、奈央子の罪を引き受けることで「現実を生きて」いけるようになる(と本人は考えている)。そのことを杉下に語る時や、成瀬に「杉下を守ってやってくれ」と頼む時に、ちょっと目を潤ませていい顔をする。巻き込んですまないけど、俺はスッキリしている。あとは頼む、みたいな。西崎役の小出恵介、素晴らしい演技力だったんだけどな…。

最終回は人物の後ろから手持ちで撮影したカットが多い。一人称視点なような効果があった。

久々に原作を読み返して、諸々の解釈の確認をしようと思ったのだが、ドラマと違いすぎて参考にならなかった。例えば、奈央子が野口を殴り殺した動機は、杉下に殺される前に自分が殺して、自分だけのものにする、というものだった。西崎をボコボコにしている野口の気をそらせるために、杉下が花瓶を割ろうとして振り上げたのを誤解したのだった。

再放送の最終回を見てから、この作品と事件のことばかり考えていた。考えすぎて頭が痛くなった。これを書き終わらないと次に進めないと、勝手に重圧を感じていた。ようやく終わったみたいなので、西崎のように、これからは現実を生きていこうと思う。



毎話執拗に挿入される事件当日フラッシュの中でも、この成瀬の部屋捜索シーンが印象的。毎回これを見て心拍数が上がっていた。





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