曖昧批評

調べないで書く適当な感想など

西澤保彦「七回死んだ男」の感想

2021-11-05 18:52:03 | 
西澤保彦の「七回死んだ男」を読んだのでその感想。ネタバレはしませんので、最後まで読んでも大丈夫です。多分。



本格推理小説の作家、西澤保彦の名前は知っていたが、手に取ったのは初めて。なぜか竹本健治とごっちゃになっていて、「匣の中の失楽」の作者でしょ、と思っていた。なら難しいのを書く人ではないかと。でも全然違った。本書はものすごく読みやすい。あっという間に読了してしまった。

主人公の大庭久太郎(おおばひさたろう)は、その字面からキュータロー、あるいはキューちゃんと呼ばれている。もちろんオバQを意識してのことだ。この時点でユーモア小説である。話はキュータローの一人称視点で語られるのだが、彼の思考、脳内のボヤキが面白い。

キュータローは突発的に同じ日を9回繰り返すという特異体質を持っている。9回目が決定版となり、ループを抜けて翌日に進む。この体質を利用して、祖父殺害事件を回避しようと奮闘する話である。要するにループものである。

毎回ちょっとずつ自分の行動を変えて、祖父を殺そうとする人物を足止めする。それでもなぜか毎回違う人物が祖父を殺してしまう。初回は事件がなかったのにどうして。オリジナル周の「日程」に収束しようとするはずなのに。キュータローは困惑するが、あまり深刻にはならない。8周目までは毎回リセットされて無かったことになるから。9周目の決定版までに祖父の死を回避する行動を見つければいいのだ。というか、初回は死んでないのだから、初回の通りに動けばいいだけだ。という安心感がキュータローの中に常にあるため、この小説は論理的な本格推理で、かつ、大抵は悲劇も伴うタイムリープものなのに、緊張感とか悲壮感がない。

伏線やヒントが非常にフェアで、あれ?これ変じゃない?と感じた点は、たいてい謎解きの重要なポイントになる。解答にたどり着けなくても、きちんと読めば解決編で「こことここは俺の推理通りだ」などと部分的に嬉しくなれる。読み甲斐のある作品である。

意外な結末にはもちろん驚けたのだが、友理さんがいい。ちょっとキュンとしました。

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