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森羅万象 ~ 歩く印象派

女性専用車両 坂東眞理子氏、阿川尚之氏  (金曜討論)

2009年06月08日 19時59分03秒 | 歩く印象派
2009.5.15 08:07産経新聞

 痴漢被害防止を目的に、鉄道各社が相次いで通勤ラッシュ時間帯などに設置した「女性専用車両」。確かに女性には便利だが、男性からは「性差別ではないか」「一般車両ばかりが混雑する」といった不満も聞こえてくる。公共交通機関で専用車両を設ける功罪は何か。「現時点では必要」とする坂東眞理子・昭和女子大学長と、懐疑的な立場をとる阿川尚之・慶応大教授に聞いた。(津川綾子)

 ■坂東眞理子氏 「セカンドベスト」の選択

 〇男女双方にメリット

 --女性専用車両の役割は

 「女性が痴漢の被害に遭わないということはもちろん、男性が痴漢と疑われてしまう冤罪(えんざい)の防止になり、男女双方にとってメリットがある。ただ、女性の多数は支持しているが、男性からも『必要だ』との声がもっと高まるのだと思っていた。もちろん理想的なことを言えば、女性専用車両はないほうがいい。男性も女性も互いにマナーを心得て、譲り合って満員電車に乗車するというのが望ましい姿。しかし現実に痴漢被害はなくならない。女性専用車両の導入だけでなく、警察庁や検察庁の努力もあって、痴漢行為への世間の認識が、『反社会的な行為』として重大視され、しっかりしたルールができてきたようにも感じる」

 --「性差別だ」との声も男性を中心に上がっているが…

 「男性の側には『たまたま満員電車で手が触れたくらいで怖い顔をしないでほしい』という意識があり、女性優遇ととらえる向きもいるのではないか。もちろん大多数の男性は痴漢のような卑劣な行為に手を染めることはない。痴漢をする人は一種の『病気』だ。(一般の男性から)『女性だけが優遇されているように見える』という意見が出るのは、男性心理としては当然のことだと思う。変化に抵抗感を持つ人々がいるのかもしれない」

〇過酷な通勤実態改善を

 --女性専用車両では、「男性の目」がない分、女性が化粧したりするなど“マナーの乱れ”がより目立つという意見もある

 「それは女性専用車両に限った話ではない。電車の中は公共交通機関であって、どの車両、どんな席でも私的空間ではない。これは女性専用車両を利用する女性に限らず、その他の車両の乗客、もちろん男性にもぜひ、伝えたい点だ。二日酔いでヨレヨレになり居眠りをして隣席の乗客にもたれかかってしまうのもマナー違反。言うまでもなく、痴漢行為を行う男性たちは、公をわきまえていないということになる」

 --女性専用車両が必要とされなくなる日は来るか

 「ほとんどの場合、女性専用車両の運用は朝の通勤の時間帯だけ。この時間の電車が特に混雑することから、痴漢被害を恐れる人だけでなく、かつて痴漢に遭いトラウマを抱える人が安心して利用できるように、『セカンドベスト』としての女性専用車両が登場した。アメリカ人女性の知人がかつて、『日本ではぎゅうぎゅう詰めの電車で異性でも体をくっつけあって、おかしい』と話したことがある。そもそも荷物のように運ばれるような通勤の実態を根本から変える必要があるのではないか。通勤の状況は、豊かさの一つのインジケーター(計測器)だと思う」

■阿川尚之氏 差別・平等の議論置き去り 

 ●誤乗車にも寛容さなし

 --誤って女性専用車両に乗ってしまい、怒られたとか

 「年配の女性に『あなたここにいちゃいけないのよ』とかなり大きな声で注意された。びっくりして『申し訳ない』と謝り、あわてて満員の車内をかき分け、隣の車両に移ったが、少し落ち着いてみると、女性の口調や態度は私が悪いと決めつけている。『寛容さのかけらもない』と感じた」

 --その経験から反対派に?

 「いや、何がなんでも女性専用車両に反対というわけではない。痴漢は破廉恥かつ悪質な犯罪であり、女性だけで乗ればその心配をせずにすむという気持ちは分かる。ただ、その対策として当然のように女性専用車両が導入され、いつの間にか男性の立ち入りは決して許されないという風潮になったことに、違和感を持つ」

 --違和感とは

 「女性専用車両導入は平等や差別といった、かなり重い問題を含むのに、それがあまり議論されていない。人を何らかの基準にしたがって分類し、それを公的な空間で強制するのは、なかなか難しい。正当化するだけの十分な理由が必要だ。女性専用車両導入の経緯を顧みると、どこかの社が始めたから横並び式ですぐ広がったという印象がある。痴漢の害を未然に防ぐための手段として、女性専用車両が最適だったのか、他に手段がなかったのか、疑問だ」

 ●男すべて「痴漢」の前提

 --安易な分け方に異議がある

 「女性専用車両の前提に、男性がすべて『痴漢かもしれない』という強い疑いと、女性はおしなべて『弱者』だとする決めつけがある。分け方として少々乱暴だ。それは肌の色や人種で人を判断するのにも通じるし、いわれなき女性差別に反対する人たちがもっとも嫌った考え方で、それでいいのですか、と尋ねたくなる」

 「女性専用車両の登場で思い出したのは、『鉄道車両を白人用と黒人用に分離するのは憲法が保障する法の下の平等原則を侵害せず差別にあたらない』という、1896年のアメリカ最高裁判例だ。のちに間違った憲法解釈だとされた。そういう意味では女性専用車両の考え方は、合憲かどうかはさておいても、ずいぶん古めかしい考え方だ」

--痴漢冤罪(えんざい)を恐れた男性の一部から「男性専用車両を」との声もあるが

 「女性専用車両に対抗して男性専用車両をというのは、発想が貧しい。仲間だけでいれば安心ということなら、次は××県人専用車両、外国人専用車両、鉄道ファン専用車両など、キリがないだろう。異質なもの危険なものには近づかない、近づけない、リスクは取らない、取らせないという、近ごろ見られるわが国のひ弱傾向の表れかもしれない」

                   ◇

【プロフィル】坂東眞理子

 ばんどう・まりこ 昭和女子大学学長。昭和21年、富山県生まれ。富山中部高、東京大卒。44年に総理府(現・内閣府)入省。男女共同参画室長、埼玉県副知事などを経て、平成16年、昭和女子大学大学院教授に。18年に上梓した「女性の品格」が310万部のベストセラーとなった。

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【プロフィル】阿川尚之

 あがわ・なおゆき 慶応大教授。昭和26年、東京都生まれ。慶応高、米ジョージタウン大ロースクール卒。専門は米国憲法史、日米関係史。平成14年、在米日本大使館公使。その後、慶応大に復職し、現在、同大総合政策学部長。父は作家の阿川弘之氏、妹にエッセイストの阿川佐和子氏。

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