のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

日展レポート

2006-01-07 | 展覧会
のろは京都市美術館友の会会員です。
年会費4500円で、市美術館で開かれる展覧会を無料や割引料金で見られます。
美術館ホリックの のろには、けっこうお得です。
先日は日展に行って参りました。
印象的な作品はいろいろございましたが、とりわけのろの心に残った作品(日本画)をご紹介します。
美術館の回し者ではございませんが
お読みになって「へー 行ってみようかな」と思ってくださったなら幸いなり。

『双』倉元 敏見 日本画
描かれているのは、2枚の鉄の扉。
白い塗装が 所々はげ落ち めくれ上がり 赤さびに浸食された 鉄の肌をさらしています。
この絵の前に立った時、のろは「何だこれは!?」と、頭の中で叫びました。
圧倒的な存在感に打ちのめされて。
絵が伝達するものは視覚情報でしかないはずなのに、のろはその絵を前にして
鼻孔には 赤さびの匂いを、舌には 血液のようなざらざらした味を、頬には 鉄板から伝わるひんやりとした空気を、感じました。 
写実 とは「本物そっくりに描かれている」ということでもありますが
「本物そっくり」に描かれていても、ちっとも心に響いて来ない絵はございますね。
この作品の迫力を、単に「写実的」という言葉で片付けることはできません。
この迫力、心に迫ってくる感じは何なのか?
願わくは、お読みになっている貴方ご自身で体感されたし。

『寺町の姉妹』 堀 泰明 日本画
お庭を背景にした座敷で、着付けをする 姉と妹。
一人は型染めの着物姿。もう一人は黒いジーンズ、黒い靴下、肩の出るデザインの上衣も黒。
一方の着付けを、ジーンズの娘さんが立ち膝になって手伝っています。
2人して、画面の左手にあるであろう鏡に目をやりながら、ちょいと帯を持ち上げる、一瞬の所作。
くすんだ背景に、目にも鮮やかなかんざし柄の着物と、漆黒のすらりとしたシルエットが パリッ と際立っています。
和装・洋装の2人が2人ながらに美しく、はっとさせられました。

『WATER』 岩田 壮平 日本画
1人の人物が、椅子に腰掛けて、大儀そうに足を組み 机上の水槽に両腕をもたせかけています。
水槽の中には 水草も無く 砂利も無く ただ紅色の 金魚の群れがいるだけです。
金魚に餌をやっているのです。
ほとんどモノクロームの画面の中、ぎらりと光る水面と、餌に集まる紅色の金魚だけが鮮やかです。
顔の定かに見えない、性別も判然としない人物。 水槽のへりを掴む手。 やぶけたズボンの膝頭。
この絵に 孤独感を見て取る人もいれば、生命感を見る人もいるでしょう。
あるいは、言い知れぬ倦怠感を。あるいは、ささやかなものに対する愛情の念を。
絵の中の人物は饒舌ではありません。
それだけに、見る者の心を反映するような作品です。

日展ではいつも日本画セクションに時間とエネルギーを使いすぎて、他の部門は比較的駆け足の鑑賞になってしまいます。
それでも、閉館時間の迫った彫刻部門室で ふと足が止まりました。 

リラックスした様子で 両腕を上に伸ばした 柔らかに白い青年像。
青年像といえば、筋肉隆々とした若者が、希望溢るる面持ちで風に向かってすっくと立つ、とか
やはり筋肉隆々の青年が眉根を寄せ、懊悩して身体を引きつらせている
といったポーズがどうも多いように思うのですが、
この作品はそういったphallus的な、押し出して来るような感じがなく
なにやら すっとした 気負いのない 引き込まれるような美しさを持っていました。
タイトルを見て、納得しました。
『白樺』 牧田 典子
宮沢賢治の『土神と狐』の影響もあってか、白樺という樹には女性のイメージを抱いていました。
しかし より本質的には、そのイメージは「男性的」とか「女性的」というものではなく
なにか すっきりとした美しさ、瑞々しい、若々しい美しさと いうことに帰せられるのだ ということに思い至りました。
白樺は寿命の短い樹です。焼け跡などの更地に真っ先に根を下ろし、林をつくり、大地の栄養をどんどん吸収して沢山の葉を茂らし、散らし、80年から100年ほどで生命を終えます。彼らの落ち葉でよく肥えた土壌には、より寿命の長い木々が根付きます。これらの樹は何百年と生きて巨木の森を形成してゆきますが、白樺には、いわゆる「巨木」や「老木」は存在しないのです。

かすかな微笑みを浮かべて 身体を伸ばす 白い青年の姿 に託された
まさに若さの象徴であるかのような白樺のイメージは、とても清々しく 
かつ 親しみをこめて挨拶したくなるような
懐かしさを持っていました。

最後になりましたが
皆川泰三さんがお亡くなりとは存じませんでした・・・。
遺作でしょうか、チベットの寺院を描いた(染めた)小品が 黒いリボンに沿われて 展示されておりました。

ご冥福をお祈りいたします。