のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

法隆寺行

2014-12-31 | Weblog
ふと思い立って法隆寺へ行ってまいりました。

この年末年始は北宋末期に浸ってやろうと、図書館で駒田信二訳『水滸伝』と『清明上河図をよむ』を借りて来ております。駒田訳『水滸伝』は何せ120巻本の全訳、A5版2段組み500ページの上中下巻という大部で、一生懸命に読まないと返却日までに読み終わりませんので、この度の小旅行にも中巻を携えて行きました。みちみち読んでおりますと、途中でのろさんお気に入りの登場人物、義侠心溢れる大旦那の柴進が、権力をかさに着た知府のせいで生死の境をさまようばかりのひどい目に会わされるじゃございませんか。ええいこのゲス野郎許せねえお前なんか李逵の兄貴にぎったんぎったんにやられちめえ糞役人めっていうかもとはといえばこれ李逵のせいじゃねいかチキショーさっさと助けに来やがれぃ!と頭の中はすっかり任侠気分で大騒ぎであったことはさておき、最寄り駅からごとごと揺られて約2時間弱でJR法隆寺駅に無事到着しました。

寒風がひょうひょうと吹きすさぶも日差しは暖かで、青空には白雲がダイナミックにたなびき、古寺散策にはなかなかの日和となりました。
案内に従っててくてく歩くこと約20分。


あちこち修復されている門柱。
南大門から奥を覗けば、はや五重塔が見えております。



年の瀬ともなればさすがに観光客もまばらでございます。


仁王様に守られた、堂々とした中門。上部が細まったエンタシスっぽい柱や高欄の紋様(卍くずしと言うらしい)が、大陸の風を感じさせますな。


どこから見てもサマになる五重塔。垂木の先の装飾も美しい。


風が強い。薬師三尊像を納めた大講堂の中までも遠慮なく吹き付けます。金堂を守るドラゴンも飛ばされまいと必死でございます。


そんな時でも、わんこは元気。

と思ったけど狛犬じゃなくて獅子かしらん。だったらネコ科だなあ。

金堂の中には美術の教科書でお目にかかったことのあるかたがたがずらりと。アルカイックな微笑みの釈迦三尊像も結構でしたが、眉に憂いを含み森々とした佇まいの四天王像の素晴らしいこと。ワタクシは信心がないのでつい美術館の展示品感覚で見てしまいがちなんですけれども、すぐ横で中国か台湾から家族旅行で来ているらしい高校生くらいの男の子が、当たり前のように三礼しているのを見て、ちょっぴり我が身を恥じました。

ドラマチックに光る空。塔もお堂もシルエットが美しいので、逆光もまた良し。


ひょうきんな表情にも見える鬼瓦さんたち。ハスの葉型の飾り瓦なんか始めて見ました。



五重塔との別れを惜しみつつ西院伽藍を後にして、大宝蔵院へと向かいます。百済観音さんにはどうしても会わねばなりませんから。
といって、かの百済観音さんについてのろごときが言えることは一つもありません。あのような美の前ではどんな言葉も陳腐になってしまう。
我ながら嫌なんですけれども、像を目の当たりにして、右から左から正面からじっくりと見させていただきながら、しきりと思い出されたのは三島由紀夫の『金閣寺』でございました。美の象徴として金閣寺を選ぶなんてバカだ、狙うならこれだ、これこそひとたび失われたら絶対に取り返しがつかない究極的な美ではないか溝口バーカバーカ、って何でこんなことしか考えられんのだろう。ワタクシ煩悩の幅はたぶん狭い方なので部門で数えたら百八つもないと思うんですけれども、部門内でこじれているものがたくさんありますので、総合的には百八十くらいにはなりそうな。

さておき。心洗われ半分乱され半分で夢殿へ向かいます。
何せ師走も30日。戸口という戸口にお正月飾りが下がっております。



だいぶ日も傾いて来ました。夕日に映える甍も趣深い。



南大門へ戻ってもう一度外から五重塔を眺めて帰ろうかとも思いましたが、寒くなって来たので駅に直行することにしました。
帰路の電車の中ではやっとこさ水滸伝随一の美男子、燕青が登場。お気に入りの柴進はいわゆる豪傑ではないので、梁山泊の仲間に加わってからは出番が全然ないのじゃないかと心配しておりましたけれども、度胸のある大旦那ならではの役割をしっかりとこなしていらっして安心しました。そして軍師の呉用先生は相変わらず人でなし。


というわけで今年も暮れて行くわけです。
体調を崩したことも含めて地味に色々と大変な年でした。
急に忙しくなったために書きかけで放置してしまったブログ記事も多数。不毛と知りながら続けなければならない作業もありました。
しかし今年中に片付けねばならないことはそれなりに片付き、頭髪を3分の1あまり失わしめた抜毛症も秋にはおさまり、激悪化したアトピーやウイルス性皮膚炎もおおむね収束し、もう一生このままかと思われたクレーターと山脈だらけの肌は少しずつなだらかになって「きめ」も戻って来ました。それに、とりあえず今年中は解雇はされなかった。
あまりいい展覧会に恵まれたとは言えませんけれども、いい映画にはたくさん出会えましたし、今年の締めに観た『インターステラー』もとてもよかった。CDはチャリティーもの以外では1年を通してたったひとつしか買わなかったものの、そのひとつ(『ジャック・タチ・ソノラマ!』2枚組)は間違いなく一生もののお宝。そしてNHK-FMではこの年末年始に思いがけずフリードリヒ・グルダの特集番組をやるときた。

終わりよければ何とやらで、個人的にはいい一年であったと思いたい。
世の中を見渡すと吐き気がするような一年だったしこれからのことを考えるとますます早く死にたくなりますけれど。



それでもたぶん来年もそれなりに生きて行かなければならない。
「命は生きる定めなの」ってアントニアが言ってた。
たぶんスピノザもそう言うだろう。


クリスマス動画

2014-12-24 | Weblog
クリスマスのお気に入り動画その1

Die Nationalelf feiert Weihnachten 2007


サッカーワールドカップのドイツ代表メンバーをクレイアニメーションで再現?したシリーズのクリスマス版。
この中で代表に残っているのはシュバとポルディだけになってしまったのだなあ。あと、レーヴ監督と。
ラームなきあと、キャプテンはシュバイニーが引き継ぐのかしらん。
ラームやクローゼが若手として代表入りしていた時からの代表ファンとしては、寂しくもあり、感慨深くもあり。

クリスマスのお気に入り動画その2

Christmas with the Joker - Jingle Bells


もはやクラシックでございます。
そうそう、ジョーカーさんを含むDCの悪役たちが活躍する『スーサイド・スクワッド』が映画化の運びとなったようですが、わりと強硬なハーレイいらない派であるワタクシはあんまり興味が持てません。『Li'l Gotham』のハーレイは可愛いと思いますけれども、あれはあの世界観とDustin Nguyen氏の素晴らしいアートあってこその可愛さです。むしろフラッシュの映画が楽しみな所。まあ順調に行っても3年後ですけれども。鬼笑いまくり。

クリスマスのお気に入り動画その3
1988年の映画『三人のゴースト』のエンディング。

Scrooged Christmas Miracle Speech - Get It -

続き↓
Scrooged! The Movie - Put a Little Love in your Heart - End Scene


大好きな映画でございます。残念ながら映画館ではなく家のテレビで観たのですが、この最後のシーンには本当に心温まりました。こういうものを観ますと、ねじけた心もまっすぐになりますね。

そうは言っても今年も実家に帰らないのろさん。
もう18年くらい帰っていないからもはや”帰る”という感覚もないけれど。

『セブン・チャンス』と『酔拳2』(追記あり)

2014-12-14 | 映画
昨日のことですが、京都ヒストリカ映画祭でバスター・キートンの『セブン・チャンス』とジャッキー・チェンの『酔拳2』を観てまいりました。

キートンのセブンチャンス | HISTORICA
↑紹介文の中で「道化が基本のキートンが、珍しくエレガントでカッコイイ役で登場する珍しい作品」と書かれておりますが、これには異を唱えたい所です。長編デヴュー作『馬鹿息子』でも『海底王』でも『拳闘屋』でも、そして数々の短編作品においても、キートンはエレガントでカッコ良く、しかもなお道化なのです。

10月に京都国立近代美術館で『キートンの探偵額入門』が上映された時は、音声はもちろんのこと(サイレント映画ですから)伴奏も何もない全くの無音上映といういささか異様なものでございましたが、一転して今回は何と弁士さんによるナマ活弁、そしてギターのナマ演奏付きという贅沢さ。『セブン・チャンス』は、キートンの長編作品の中ではワタクシそれほど好きな方ではございません。前半に女性たちからフラれまくりバカにされまくるキートンが不憫すぎる上に、最終盤にならないとキートンの走りも転びも見られないからです。しかし、ただでさえ上映されることの稀なキートン作品、こんな機会を逃す手はない!ということで、同僚に休日を交代してもらって行ってまいりました。
え、有給?いっぱい余ってますけど人数かつかつなんでどうせ取れませんのですよあっはっは。

さておき。
弁士さんが意外にお若い方で、実を言いますと始まる前は少し不安だったのでございます。ところがいざ語りが始まりますと、奥手で実直な青年キートンや、可愛いヒロイン、弁護士のおっさんにボーッとした下男、そしてウバ桜もいいとこの花嫁候補たちなどなどのキャラクターをしっかり演じ分けつつ、ナレーションでは字幕や台詞にはない独自の語りを加えて笑わせる、全くお見事な職人芸を聞かせていただきました。
そして時には一気に盛り上げ、時にはじわじわと緊張感を高め、群衆の動作や足並みもギター一本で描き出す、細やかな伴奏も誠に素晴らしいものでございました。ワタクシはキートンが走っている姿だけでもうグッと来てしまうのですが、今回はその上に、熱のこもった活弁と伴奏が加わるわけでございますよ。700人の”花嫁候補”たちに追いかけられるキートンが爆走しながら、友人に向かって「彼女の家で牧師と待っててくれ、7時までに必ず行くから」と言うシーンでは本当に涙が出そうになりました。弁士さんの熱演、熱い伴奏、そしてキートンのあの走り、その全てがあんまり美しくて。

それから他の観客と一緒にキートン作品を観るというのも新鮮な体験でございました。意外な所が意外に受けたり、逆に笑いどころのはずなのに反応がなかったり、また凄いアクションには思わずという感じでおお!と声が上がったり。特にラスト近くの有名な、「階段落ち」ならぬ「坂転がり落ち」シーンでは、笑いと驚愕と感嘆と若干の不安(あれ大丈夫なの?!という)が入り交じったどよめきで場内が満たされ、なんとも幸福な気分になりました。

Buster Keaton chase scene


臨場感溢れる活弁を聞かせてくださったのは2000年から活弁士としてご活躍中の坂本頼光さん、素晴らしい伴奏をしてくださったのはギタリストの坂ノ下典正さんということです。本当にありがとうございました。
イベント・ゲスト | HISTORICA

さて、午前中の上映だった『セブン・チャンス』が終わり、いったん家に帰って不在者投票などなどを済ませた後、夕方にまた文博へ。自由席券だから満員で入れなかったらどうしよう!と思って早めに参じたのですが、全然混んではおりませんでした。ちと複雑な気分。

酔拳2 | HISTORICA

『酔拳2』を観るのはおそらくこれで4回目でしたが、最後に鑑賞してからもう少なくとも10年以上は経っております。久しぶりに観たらまあ、ええ、もう、震えが来るほど面白かったです。
反目と友情、怒りと正義感、まばたきするのも勿体ない見せ場の連続に、一度はのされた主人公がとことん悪い悪党どもを死闘のすえ叩きのめすという熱い展開、そしていつまでも古びない王道ギャグ。まあアクションの凄さは言わずもがなとして、故アニタ・ムイのコメディエンヌっぷりが本当に素晴らしく、ほとんど彼女が何かするたびに客席から笑い声が上がっておりました。

(追記)エンドクレジットが終わり、場内が明るくなると同時に、客席からは嘆息とともに自然と拍手がわき起こりました。こんな経験は『エルヴィス・オン・ステージ』以来でございます。素晴らしい映画と出演者に対する敬意をその場にいる見知らぬ人たちと共有できた、貴重な瞬間でございました。
エルヴィス忌 - のろや

『セブン・チャンス』も『酔拳2』も、上映後には『るろうに剣心』シリーズでアクション監督を勤められた谷垣健治氏によるトークイベントがございました。ワタクシは『るろうに剣心』を観ておりませんので、そのへんのお話は分からなかったのですが、とにかく『酔拳2』はアクション映画の最高傑作である、というお説には諸手を上げて賛成いたしたく。
トークの中でも話に上がっておりましたけれど、これを機会にバスター・キートンや昔の香港映画に興味を持つ人が増えてくれたらいいなァと、しみじみ思ったことでございました。