のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

ヤン・エーゲランを讃える歌

2012-10-26 | 音楽
ノルウェー赤十字国際部の事務局長をつとめたのち、2003年から2006年に渡って国連の人道問題担当事務次長、兼人道援助調整官として活躍し、現在はアムネスティ・インターナショナル・ノルウェー支部代表およびヒューマン・ライツ・ウォッチ代表代理として活動中のヤン・エーゲラン氏を讃える歌。

Ylvis - Jan Egeland [official music video HD]


ご覧いただければお分かりのように、一種のコミックソングでございます。
2:57の「エーゲラーン!(観客:エーゲラーン!)」がツボ。バカバカしいことを大真面目にやるって大事なことです。とっても。
パフォーマーはイルヴィス兄弟というノルウェーのコメディアン2人組。ミュージシャンとしての才能もおありのようで、作詞作曲も演奏も彼ら自身のものであり、普通のロックの楽曲としてもなかなか聴ける代物でございます。PVで使われているライヴ風景も実際に25000人の観客の前で演奏した折の映像なのだそうで。もっとも観客はみんな他のバンドのライヴに集まったファンたちで、そこにサポートバンドとして参加していたイルヴィス兄弟が、前座としてちゃっかりこの曲を演奏して、PV用の映像を撮らせてもらったのだとか。

歌詞や映像に見られる過剰なマチズモは、もちろんハードロックの楽曲に見受けられるマチズモのパロディなのであって、額面通りに受け取るべきものではございません。
訳すまでもないような歌詞ではございますが、一応日本語訳してみますとこんな感じになります。

*******

グレーの頭髪、眼鏡にスーツケース 謙虚で賢明で
いつだって平和のために働いている
ウガンダ、コンゴ、それにオスロ合意のプランのためにも 
ああ、素晴らしいあのプラン

ガール・ストーレ(外相)ほど有名じゃないし
イェンス(首相)みたいにファザコンでもない
だが手榴弾が飛び交っている時、頼れる男はただ一人

戦争が起きて何もかもめちゃくちゃなら
ヤン・エーゲランを送り込め
国連のスーパーヒーローを

狂った独裁者が銃をかまえてるなら
ヤン・エーゲランを送り込め
ああ、俺がヤン・エーゲランだったらなあ

青い目、力強い手、カッコいい脚
きれいに剃り上げた身体
プロテイン・シェークを飲み
日焼けスプレーにスキンクリーム
おまけに18歳みたいないいお尻
あいつはピースキーピング(平和維持)・マシーン

そしてあいつは見つめる、鏡の中の自分を
夜中に力こぶを作ってみながらひとりごちる
「よし、いいぞ。人権を守る戦いの準備は万端だ」と

戦争が起きて何もかもめちゃくちゃなら
ヤン・エーゲランを送り込め
国連のスーパーヒーローを

コフィ・アナンとゴルフをやり
ジョージ・クルーニーと一緒に地図を覗き込む
ああ、俺がヤン・エーゲランだったらなあ

悲しい時には葬式に行く
激しい雨の降る中を
大量の水がその顔を覆っても
その悲しみを隠すことはできない

ホモ野郎のように取り乱し
女のように泣き出しもする
だがたとえ涙を流しても、男でいることはできるさ
世界を救うことが君の仕事なら

あいつは筋トレを欠かさないマッチョ
神に向かって叫ぶ

信じられる男がたった一人いるとしたら
そいつはジャニー・ボーイ(我らがヤン君)さ
ああ、俺がヤン・エーゲランだったらなあ

*******

イルヴィス兄弟いわく「彼はすごいヒーローなのに、ノルウェーの街中を歩いていても誰も彼のことに気づかない。少なくとも僕らの世代の若者は気づかないだろう。それで、彼に脚光を当てるのはクールなことだと思ったんだ、それに値する人だからね」と。
イーゲラン氏ご自身はこの曲に対して「とても驚いた。おかしな歌詞に素晴らしいメロディ、すごく面白いね」とコメントなさったとのこと。冗談の分かる人って好きさ。

この曲のおかげで、ワタクシもエーゲラン氏がどういうかたなのか、ちょっと調べてみる気になりました。
といっても主にWikipedia英語版を見ただけですが。日本語版にはエーゲラン氏のページはございません。イェンス・ストルテンベルグ首相のはありますのにね。

経歴をざっと見ますと、アムネスティ・インターナショナル国際執行委員会の副委員長に、史上最年少の23歳で就任という点にまずもってたまげてしまうわけですが、そののちは冒頭に列挙した様々な肩書きの他、ノルウェー外務省政務次官、国連事務総長コロンビア問題特別顧問、アンリ・デュナン(←赤十字を設立した人)協会の開発研究部長、おまけにノルウェーの公共放送NRKの記者などもつとめておいでとのこと。

で、そのキャリアの中で実際にどんなことをなさって来たのかというと...

・中東和平
1992年、イスラエルとPLOの対話チャンネルを共同で開き、交渉を組織。
この交渉により’93年、イスラエルとPLOがお互いを承認し、パレスチナの暫定自治、およびイスラエルによる占領地の去就をめぐる交渉の枠組みを定めた、要するに紛争の平和的解決を目指した歴史的な「オスロ合意」が実現。
ちなみに前年のマドリード中東和平会議では、双方の代表団が顔を合わせるのは一日のうち数時間に限られていたのに対し、オスロでは双方が同じ建物で寝起きし、三度の食事も同じテーブルで行った結果、お互いに敬意と親愛の情が育まれたということです。セキュリティを含めた諸々の費用を負担し、交渉が外野の監視にさらされないよう配慮したのは、ノルウェー政府でございました。

2006年、イスラエルによるレバノン侵攻を受け、人道支援のための72時間の停戦双方に提案。イスラエルは一旦は拒否するも、のちに48時間の空爆停止に応じる。
レバノンの難民支援や破壊された地域の再建のため、1億5000万ドルの緊急支援金アピールを行う。
エーゲラン氏はイスラエルに批判的であったものの、この時は人道的見地から、それまで国連の誰もがあえてしなかったほど厳しい言葉でヒズボラを非難しました。
「ヒズボラは女性や子供たちの間に身を隠すという卑怯なことをやめるべきだ。攻撃の矛先が市民に向けられたおかげで、兵士たちの犠牲が少なくて済んだことを、彼ら(ヒズボラ)は誇っているというが、何者であれ、武装した男たちよりも女性や子供が多く死んだことを誇ったりすべきではない。戦闘をやめるべきだ。この戦いで犠牲になっているのは民間人なのだから」

・中米和平
国連主導によるグアテマラ政府と反政府ゲリラURNG(グァテマラ民族革命連合)の和平交渉において、ノルウェーによる交渉促進活動を指揮。’96年オスロでの停戦合意が実現し、36年に渡る内戦に終止符が打たれる。

・対人地雷禁止条約
条約の起草会議が行われた1996年のオスロ国際会議では、ホスト国ノルウェーの代表団長をつとめる。「地雷を使うのも、持つのも、作るのも、人にあげるのもやめようじゃん。今持ってるのも捨てようじゃん」という目標を明記した「オタワ条約」は同年12月にめでたく採択。

・災害援助
2004年のインド洋大津波の際は国連の緊急援助調整官として各国に支援を要請し、全OECD加盟国は支援金としてGDPの0.7%を拠出すべきだと提案。その流れでの「クリスマスの期間、我々はいかに西欧諸国が裕福であるかに思いを致すべきだ。多くの国が国民総所得の0.1~0.2%しか拠出していないというのは出し惜しみではないか」という発言は、当初1500万ドルしか提供していなかった米政府の不興を買ったものの、結果的には米国をはじめ各国からより多くの寄付金を引き出すことに繋がった。
そのあたりのことはこちら↓のブログさんが詳しく書いてらっしゃいます。
アメリカはケチか? - 海外のニュースより

前年2003年の米GDPは約11兆ドルであり、ワタクシの計算が間違っていないとすると、1500万ドルというのはその0.002パーセントにも満たない額ということに。うむ、ケチです。

のちに『タイム』誌はエーゲラン氏のことを「世界の良心」と呼んで讃えました。

・そのほか
ノルウェー外務省政務次官に就いていた折に2つのノルウェー緊急事態対応システムを発足し、国際機関に2000人以上の専門家と人道支援活動要因を派遣。
ウガンダ、スーダン、コンゴなどの内戦で住む場所を追われた難民や国内避難民など、緊急に支援を要する人々の困窮を軽減することに尽力するかたわら、津波やハリケーンといった大規模自然災害の被災者のためのキャンペーンも行う。
ジェンダー平等に向けた啓発や、性搾取・性暴力問題への意識喚起、紛争解決や人権・人道問題に関するレポートや記事を発表する他、環境問題に関する提言も行っている。


おおっ
かっこいいぞエーゲラーン!(エーゲラーン!)
ちょっと回顧録も読みたくなってきましたよ!
これまた、日本語版は出なさそうですけれど。

まことに、こういう人こそスポットライトを浴びてしかるべきでございましょう。
日本でメディアのスポットライトを浴びている人のことを思うと...
いや、やめよう。虚しくなります。
(追記:この記事を書いた頃は、某大阪市市長の言動が毎日のようにメディアに取り上げられていました)

実際のエーゲラン氏はこんな人。

Coping with climate change


Assad's licence to kill? Syria interview with Jan Egeland


Go!Go!ピースキーピン・マシーン!

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イルヴィス兄弟 - のろや

『アイアン・スカイ』

2012-10-14 | 映画
近所の幼稚園で、運動会のBGMに「ルパン三世テーマ(’78)」が使われておりました。
何だか納得がいきません。
とても。

それはさておき
米共和党を全力でコケにした映画『アイアン・スカイ』を観てまいりました。

映画『アイアン・スカイ』オフィシャルサイト

SFアクションという位置づけで売り出されているようでございますが、本作をジャンル分けするならむしろ「風刺コメディ」でございましょう。風刺の対象はアメリカのみに留まらず、国連を通じて地球上の全大国(と、大国のフリをしたい国)におよび、映画的お約束が惜しげもなくつぎ込まれてはこれまたコケにされ、『博士の異常な愛情』的にある意味爽快なエンディングを迎えるのでございました。
原案はフィンランド発ながら、出来上がったものはフィンランド、ドイツ、そしてなぜかオーストラリア(オーストリアではなく)の合同制作。こういう作品に協力してしまうドイツ、懐が深いですね。

映画『アイアン・スカイ』予告編


予告編↑では単にナチが月から攻めて来るというトンデモSFとしか見えないのが残念でございます。
まあ実際、トンデモSFアクションとして見ても、なかなかに楽しめる作品ではございました。
ハイテクとローテクの入り交じった月ナチスのメカデザインは無駄にカッコよくて、見ているだけでもワクワクしますし、完成はしたものの稼働できずにいた超巨大要塞(その名も”神々の黄昏”)が偶然手に入ったiphonひとつで動き出すというバカバカしさもいい。また宇宙での戦闘シーンは、インディペンデント映画でよくぞここまで、と思うほど迫力がございました。
その戦闘シーンでは観客の期待を裏切ることなく「ワルキューレの騎行」が高らかに鳴り響き、どさくさに紛れてドイツ国歌の一節が飛び出したりと、サントラの悪ノリっぷりにも気合いが入っております。

しかし本作はやはり風刺映画としての側面がもっと推されてしかるべきではないかと。
地球に派遣された月ナチス(称して”第四帝国”)の先遣隊が、その高いプロパガンダ能力を買われてアメリカ大統領選の広報担当に抜擢されるのなんて、なかなか気の利いた皮肉ではございませんか。
爆撃されるニューヨークの映像を見ながら「やった!戦時の大統領は再選確実よ!」と喜ぶ米大統領(どうみてもサラ・ペイリン)とか、宇宙の平和利用協定を実はどの国も守っていないことですとか、月に資源があるとわかったとたんに始まる国連会議での大乱闘など、風刺がストレートすぎてひねりがない、とお思いの方もいらっしゃいましょう。しかしワタクシはハリウッド的紋切り型への風刺も含めたこの映画のわざとらしさ、「いかにも感」が、いっそ清々しく感じられました。所々テンポの悪い部分もあるものの、全体としては「真剣に馬鹿やってる」感がみなぎっておりまして、何もかもひっくるめていとおしくなってしまう類いの作品でございました。



サラ・ペイリンの物真似で食べて行けそうな米大統領役の方(ステファニー・ポール)も、調子に乗って軍司令官へと怒濤の大出世をとげるセクシーな選挙公報係(ペータ・サージェント)も、型通りの「重大事件に巻き込まれる気のいい黒人」を演じきるヒーロー?(クリストファー・カービイ)も、なぜか出ているウド・キアーも、あらゆるシーンで可愛かったナチス娘、レナーテ(ユリア・ディーツェ)も、みな素晴らしかった。しかし最大の拍手はクラウス・キンスキーを長身にしたような、つまり「こわくて悪いドイツ人」を絵に描いたような風貌のアドラー総統を演じていたゲッツ・オットーさんに送りたいと思います。
ようやった。いろんな意味で。

『誰も知らない基地のこと』

2012-10-01 | 映画
沖縄では10万人以上のひとびとによる反対の声を無視して配備された噂のオスプレイさんですが
アメリカ本国での飛行訓練は、地元民1600人の反対意見を受けて、めでたく無期延期になったのだそうで。
へえ。

米でオスプレイ訓練延期 地元住民が反対運動 - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース


映画『誰も知らない基地のこと』予告編


あえてリンクはいたしませんけれども、youtubeには約75分の作品全編がupされております。
”Standing Army - The American Empire”で検索するとヒットします。日本語字幕はございませんが、比較的平易な英語で聞き取りやすいです。ナレーション部分は英語字幕つき。沖縄も舞台となっておりますので、日本語で語られている箇所も少なからずございます。

土地を徴用され、60年以上に渡って基地への抗議を続ける島袋善祐さん
「米軍基地というのは、土地だけ奪ったんじゃなくして、人の命も奪って、文化も歴史もみんな奪ってる。これは許してはならん。世界の平和のために基地を使う、とか言うけれども、朝鮮戦争、ベトナム戦争、あるいはイラク、そこらへんをよく見ると、必ず人を殺している。人を殺すために自分たちの土地が使われるのは非常に心が痛い。コックに『私は料理するから包丁を貸してくれんか』と言われたら貸してもいいけれども、『人を殺すから包丁を貸して』と言われたら...」

元CIA顧問の国際政治学者チャルマーズ・ジョンソン
「ソ連のことは脅威だと思っていた。実際、脅威だったろう。我々は確かに、ソ連に対して自国を防衛する権利を持っていたと思う。考えが変わったのは1991年のソ連崩壊後だ。アメリカは何よりもまず、新たな敵を探し出した。軍産複合体がそのままうまく機能して行くために、そして冷戦構造において最大限の利益を上げるために、敵が必要だったのだ。驚いたよ。ソ連が崩壊したからには、世界中にある米軍基地は解体されるべきだと思っていた。もう基地の存在意義はないのだから。それどころか、彼らはすぐさま新たな敵を求めた。中国、テロ、麻薬...何でもよかったのだ」
「1961年にアイゼンハワー大統領はこう警告した。『軍産複合体は議会の監督を受けない、隠れた権力だ。国益よりも私的な利益を優先し、制御不能になる恐れがある』。残念ながら我々アメリカ人はこの警告に耳を傾けなかった。そして今や軍産複合体は制御不能になりつつある。アメリカはもはや製造業における強国ではなくなった。この国がまだ優勢を保っている部門とは、兵器の製造だ。兵器の供給に関して言えば、アメリカは他のあらゆる国を楽々と凌駕している」


人類学者キャサリン・ラッツ
「ほとんどの米軍基地は戦争の産物、戦利品のようなものです。戦時中に奪われ、決して返還されない。屈強な男たちがやって来て、いやとは言えないようにしてしまう。そうして基地の出来上がりです」
「軍産複合体を考える時、基地がその一部であることを忘れてはいけません。...基地を建設し、運用し、武器を供給することによって利益を上げる企業が非常にたくさんあるのです」


歴史家ウィリアム・ブラム
「アメリカが世界のあちこちでこんなにも多くの軍事的介入をする主な理由は、基地を増やすためだ。例えば1991年のイラク爆撃後、アメリカはサウジ、クウェート、バーレーン、カタール、オマーン、アラブ首長国連邦に基地を置いた。99年のユーゴ爆撃の後はコソボ、アルバニア、ブルガリア、マケドニア、ハンガリー、ボスニア、クロアチア。アフガン爆撃後はアフガニスタン、パキスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスタン、グルジア、イエメン、ジブチ。イラク侵攻後は、イラクに」

政治地理学者ゾルタン・グロスマン
「こうしたことの背後には究極の目的があると思います。これまでは戦争をするために基地が作られる、と考えられて来ました。しかしむしろ、戦争は基地を作り、そこに駐屯し続けるための絶好の機会なのです」

ベトナム退役軍人、平和活動家アレン・ネルソン
「(海兵隊に入隊すると)ステロイド注射を受けたみたいなものさ。毎日筋トレをして、銃やら何やらを持たされて、いい気分だ。誰にも負けないタフガイになったような気がする。そんな気分で街に出て、酔っぱらう。誰かと目が合いでもしたら「何見てんだ、俺は海兵隊だぞ」とケンカを売りたくなる。軍隊が求めるのは、そういう奴だ。法を守るとか、地元民との摩擦を起こさない、なんてことは、軍にとってはどうでもいいんだ」
「僕らアメリカ人は知るべきなんだ。他の国に基地を作るというのが、どういうことなのか。基地の存在が問題を解決するのか、あるいはむしろ、問題を生み出すのか。こう言ったらみんな怒るだろう、『我々は世界を警備しているのだ。どこに基地を置こうが我々の勝手だ』ってね。アメリカには外国軍の基地はない。アメリカにある基地は、米軍のものだけだ。それならいいさ。騒音だって何だって僕ら自身のものだからね。でも他の国の人たちにとって、これは大問題だ」


沖縄でヘリパッド増設に抗議活動をする男性
(ゲートを開けろと指示する作業班の人々に対して)
「俺たちが体はって止める理由わかる?こんな気持ちあなたにわかる?こんなに日本政府やアメリカ政府ににいじめられて来ても、俺たち沖縄の人が、アメリカ人をこの歴史の中で殺したことがあるか。あやめたことがあるか。婦女暴行され、ジェット機を落とされ、ヘリコプターを落とされ...この基地はそういう基地でしょう。この60年の苦しみを耐えて来てるんだ、僕らは。あなたは任務かもしれない。我々はここでの歴史的な任務だよ。次の世代にこのような歴史を与えない」

ワタクシは別にアメリカ人に個人的な恨みは何もございませんし、アメリカという国全体を嫌っているわけでもございません。そもそも、ある国や国民全体を嫌うなんて馬鹿げたことでございます。しかし、米軍基地拡張への大規模な反対運動が起きたイタリアの都市ヴィチェンツァをあげつらって、「ヴィチェンツァなんてどうでもいいんだよ。住人の4分の3は90歳以上だろう。たいした基地でもないし、煙も騒音も戦闘機もない。反対運動してるのは極左の奴らだろう。要するに騒ぎたいだけなんだ。あそこには戦車もないし、ヘリが落ちたこともないんだからな」とカメラに向かってのたまう米国防総省顧問の傲慢さには、ほとほとあきれるばかりです。

「土地を取り返したら、そこに大根を植えたい。そして収穫した大根を、沖縄のみんなに配ろうと思う」とは、引用の最初に挙げた島袋さんの言葉でございます。自分の土地に大根を植えることすらままならない。近づくことさえ許されない。これはいったい何なのでしょうか。
自国で反対の声が上がったために飛ばすことのできない航空機を、その何倍もの規模で反対されている他人の土地では「いやいや安全だから」と言って配備する。これはいったい何なのでしょうか。


ちなみに
本作の出演のなかで、元海兵隊員で沖縄での訓練後にベトナムに派兵されたアレン・ネルソンさんのお話を、ワタクシは数年前に講演でじかにお聞きしたことがございます。
聴衆に質問を投げかけながらのお話は、ごく穏やかな口調でありながらも、壮絶でもあり、痛ましくもあり、何となく分かったような気になっていた知識に対して平手打ちを食らわせるような厳しいものでもございました。
「軍隊は何をする所だと思いますか?軍隊に入ったら、まず何を学ぶと思いますか?自分を守ること?人々を守ること?...いいえ、軍隊というのは、人間が人間を簡単に殺せるよう調教する場所なのです」

退役後の激しいPTSDや自殺企図に次ぐホームレス生活から起ち上がり、平和活動家として執筆や講演を行ってこられたネルソンさんは2009年、枯葉剤の後遺症と見られる多発性骨髄腫で亡くなりました。
ご冥福をお祈りいたします。