のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『フィラデルフィア美術館展』2

2007-07-28 | 展覧会
7/23の続きでございます。

展覧会でマネの作品を見るたびに
数年前に奈良で開催された『マネ展』へ行きそびれたことを後悔しておりますのろ。
本展でも、この後悔をいっそう強からしめる作品と出会ってしまいましたとも。


キアサージ号とアラバマ号の海戦

右手前に広く海面を描き、主要なモチーフを左隅と上に寄せたなかなかに大胆な構図。
鑑賞者の視線は手前から画面の奥へと向う小舟に誘導されて、
黒煙を上げて傾き、今しも沈まんとする戦艦に行き当たります。
下界の事件とは無関係に、青く晴れ渡る空。人物はほとんど点景として扱われ
降り注ぐ光はあくまでも自然に描かれております。

アメリカ独立戦争の一場面を描いた本作。
ドラマチックすぎるほどの場面設定でありながらも嫌味な感じが全く無いのは、
ある光景を、倫理的あるいは感情的判断を抜きにして
純粋に「ある光景」として扱おうとするマネの姿勢ゆえでございましょうか。

この作品が描かれたのは1864年、スキャンダルを巻き起こした 『草上の昼食』発表の翌年でございます。
すでに新しい絵画表現の旗手として戦いを始めていたマネの気概が
自信に満ちた筆遣いからも伝わってくるようでございました。

次のセクションは『印象派とポスト印象派』。

「広がる緑に太陽さんさん」イメージのカミーユ・ピサロが、水墨画のような霧の中の風景を描いており
ワタクシにはちと意外でございました。
(リンク先↑下の方の絵も本展で見られます。)
朝もやがたれこめる中、水面に影を落としながら白い風景に溶け込んでゆく木々や建物。
シルエットと化したものものが、微妙な色彩のドットで表現されております。
温厚で画家仲間にもよく慕われたというピサロの性格を思い起こさせる、穏やかな美しさに満ちた作品でございますね。

本展のポスターに使われております『ルグラン嬢の肖像』も、もちろんこのセクションで見られます。
洗練された色使いで描かれ、子供ながらに上品な雰囲気を漂わせろお嬢さんの肖像は
ポスターという劣化コピーで流布してしまうのが惜しいほどに瑞々しい魅力を放っておりました。



どうもすらすら書けませんで申し訳ございません。
あと1回か2回続きます。

『フィラデルフィア美術館展』1

2007-07-24 | 展覧会
両足の裏にびっしりガラスの破片が突き刺さった夢を見たんですが
「夢の中では痛くない」ってのはありゃ嘘ですね。

それはさておき
フィラデルフィア美術館展 印象派と20世紀の美術  京都市美術館 へ行ってまいりました。

うーむ これはようございましたよ。
質・量ともに充実した、夏休み企画として申しぶんの無い展覧会でございました。
まんべんなく良作が揃っております一方、例えば「青いターバンの少女」のような
誰でも知ってる超有名作品は来ていないので、一カ所に人だかりができてしまうことはなく
人は多くともゆっくりじっくり快適に観る事ができました。(土日祝はこのほどではないかもしれませんが)

展覧会場ではペンを使ってはいけないというのは常識でございますが
京都市美術館ではシャーペンも禁止のようでございます。
いつも ついついシャーペンでメモ書き→注意のうえクリップペンシルを渡される というパターンを演じてしまうので
今回はあらかじめクリップペンシルをお借りしようと、スタッフの方に声をかけました。
そうしたら



おおっ
選択権があったとは・・・。
新事実の発見にちょっぴり感動しつつも
思わずいつものクリップペンシルを選んでしまったのろ。
一度きりの人生、もっと冒険的に生きられないものか。

それはさておき
最初のセクションは「写実主義と近代市民生活」。
のっけから、コローのすばらしい人物画泉のそばのジプシー嬢が迎えてくれます。

叙情的な風景画の名手として知られたコローですが、人物画は生前たった4枚しか発表しなかったとのこと。
これはのろにとっては驚きであり、また甚だ合点のゆかぬことでございます。
以前にも申しましたように
ワタクシはかの銀灰色にけぶる風景画よりも、内省的なおもざしの人物画のほうが
よりいっそう素晴らしいと思うからでございます。

コローの風景画は現実の風景に即しているとはいえ、桃源郷の日常を遠くから眺めているような雰囲気を発しております。
それが、かの豊かな詩情にもつながっているのではございましょうが
なにかこう、平和な、牧歌的な、ワタクシとは全然何の関係もないウツクシイ世界が描かれている、という印象を
のろは持ってしまうんでございます。
人物画においては、目の前の事物を深く見据えようとする画家のまなざしが、より顕著に率直に感じられますし
もの思いに沈んでいるような表情、なにげないポーズ、
抑制された色づかいの中に置かれたきっぱりと鮮やかな色彩は
銀色のベールに包まれたような、詩あるいは牧歌のなかの世界ではなく、19世紀のヨーロッパという枠さえも超えて
今生きている私自身にもつながっているような親和性を発しているからでございます。

色彩と言えば本展で見られる作品も、背景にごく淡い、くすんだ緑が広がる中
娘の着物の鮮やかな赤が実に印象的でございました。



次回に続きます。





『シュレック3』

2007-07-11 | 映画
『シュレック3』を観てまいりました。
前2作に比べて他の映画のパロディシーンが減りましたので
元ネタがわからなくても楽しめる部分が多くなっております。多分。
また、1・2に比べるとアクがないと申しましょうか、悪ノリ感が少ないように思われました。
これまでは「大人も子供も楽しめる、どっちかというと大人寄りアニメ」だったのが、
「大人もそこそこ楽しめる子供向けアニメ」になったような。
まあぶっちゃけて申しますと
前2作ほど面白くはなかったんでございます、のろ的には。

シリーズ物コメディの常として
キャラ頼みなつくりになるのはある程度仕方がないとしても(見る方もそれを期待している部分がありますし)
このシリーズの大きな魅力であった「毒気」が薄れてしまったのは、甚だいただけません。

今回のお話は、シュレックが「遠い遠い国」の王位を押し付けるべく、
王家の縁戚である若者アーサー(ダニエル・ラドクリフにしか見えなかったのですが笑)を捜しにいっている間に
前作で王位継承者の座をつかみそこねたチャーミング王子が国に攻め入って来る、というもの。
チャーミング王子が率いている軍団というのが、魔女や一つ目巨人やフック船長といった、おとぎ話の「負け組」たち。
「俺たちは不当な目にあっている!勝ち組人生を手に入れようじゃないか!」という
王子の言葉に焚き付けられての決起でございます。
となれば当然、Long Long Time Ago から今に至るまでずーっと虐げられて来た悪役たちの
ナイスな外道っぷり炸裂が期待される所ではございませんか。

こんな話において「アクがない」というのは、なかなかに致命的なマイナス点でございました。
残念でございます、キャラの表情や細部へのこだわりは相変わらず素晴らしかっただけに。

しかーし
そんな中でひとり輝いていたのは 白雪姫 でございます。
憎々しい表情といいワガママ全開な言動といい
まー ほっぺたつかんでぶん回したくなるほどのみごとなクソガキっぷり

ぶうーん。




しかも明らかに「ディズニーにおける白雪姫」のパロディなのです。
腕を上げると必ず小鳥がとまりに来てしまうとか。
森の動物たちを総動員しての攻撃もなかなか堂に入っておりましたし。さすがは魔女の娘でございます。
もしも次回作が作られるなら彼女はぜひ悪役として登場していただきたい。

そう、本作で何といっても残念だったのは、悪役がいまひとつ魅力に欠けていたことでございます。

一作目ではちんちくりんの頭でっかちファークアード卿が


二作目では溺愛マミーのフェアリー・ゴッドマザーが


それぞれステキなワルモノぶりを見せてくれたのですが
今回のチャーミング王子には、この大役はちと荷が重かったようでございます。
よい悪役の条件をそこそこ満たしてはいたものの
そこそこ止まりと申しましょうか、物足りないと申しましょうか、不完全燃焼と申しましょうか
要するにパンチがきいておりませんでした。

悪役たるもの、ただ単に性格が悪いというだけではつとまりません。
人を人とも思わず、自分の事だけがひたすら大好きで
目的達成のためには手段を選ばず、あらゆる手を尽くして善玉たちを苦しめ
主人公を人生最大の危機に陥れねばなりません。
残忍で、冷酷で、頭のネジが数本ふっ飛んでいながらも狡智にたけ
なおかつ、どこかしらお茶目でなくてはなりません。

チャーミング王子は個々のイベントにおいて、あまりにもあっさりと成功してしまうので
「あの手この手で追いつめる」感がございませんでしたし
お茶目度においても大いに不足していたと言わざるを得ません。
もっとマザコンでナルシストな性格を前面に押し出してくれたらよかったのですがねえ。
例の「サラサラヘアーのぉ~~~っ!」をしつこいくらい繰り返すとか。
ママンの写真を肌身離さず持ち歩き、何かあるというと所かまわず取り出してママンとボクの世界にトリップしてしまうとか。

フック船長にも、もっと際立った活躍をしていただきたかったのですが
最後までチャーミング王子の使いっ走りの域を出ませんでした。
せめて長靴を履いたバンデラス猫と ちゃんちゃんばらばら でもして
クライマックスをもう少し盛り上げていただきたかった。
前作では、ハッピーエンドとわかっていても、大詰めのシーンではハラハラドキドキ手に汗握って観たものです。
(特に兵士がシュレックたちを追いかけて来た時、長靴猫が一人残って「Go! She needs you!」という所にはグッと来ましたね)
本作では悪役による破壊活動も、主人公サイドによる秩序回復も
あっさりさっぱりうまく運びすぎで、しかも所々に小クライマックスが散在しているので
肝心かなめの大詰めシーンは印象の薄いものになってしまっておりました。


不満ばかり並べてしまいましたが、むしろこちらの期待が高すぎたということかもしれません。
実際、「シリーズの中で一番面白かった」という感想をお持ちのかたもいらっしゃるようですし。

ここでぶーぶー申しておりましても
もし4作目が作られたなら、のろはまた観に行ってしまうことでしょう。
あのひねたおとぎ話キャラたちが大好きでございますので。
そうそう、チョイ役ながら今回初めて登場した
ざあます言葉で喋りそうな宮廷スタイリストのおっちゃん、なかなかのろごのみの変人でよろしうございました。
次回作があるならば、ぜひとも出演していただきたいものでございます。




ジョンストン記者解放

2007-07-06 | Weblog
うーむ
アラン・ジョンストン記者解放についての記事を書いていたのですが
ぐだぐだしているうちにすっかり時宜を逸してしまいました。
その上時間が経つにつれて、記事内容にもだんだん自信がなくなってきたので
ボツ。

氏の解放を伝えるBBCのサイトだけご紹介しておきます。
BBC NEWS | Special Reports | alan_johnston

中東からは悲惨なニュースばかりが聞こえてまいりますが
暴力的手段が介在することなく実現したジョンストン氏解放のニュースは、まことに喜ばしいものでございます。
これを機に、今回重要な役割を果たした(らしい)ハマスと、欧米およびファタハが仲良くなることができたら
なおいっそう喜ばしいのですがね。

『舞台芸術の世界』展

2007-07-03 | 展覧会
舞台芸術の世界 ディアギレフのロシアバレエと舞台デザイン 京都国立近代美術館へ行ってまいりました。

衣装、写真、絵画、デザイン画、再演映像、さらにはマイセン人形といったさまざまなメディアから
20世紀初頭、西洋美術界にセンセーショナルを巻き起こしたロシア・バレエとその周辺を概観する展示でございます。
印象としては衣装デザイン関連のものが7~8割といった所でございましたが
上に挙げました通り展示品が多岐に渡っておりましたので、いろいろなものが見られて面白うございましたねえ。



それぞれの時代の傾向が表れた多数の衣装デザイン画の他、実物の衣装も展示されておりました。
中でも印象深かったのはオペラ『ボリス・ゴドゥノフ』の衣装でございます。



黒を基調とした重厚なデザインでございます。裏地にはつややかで鮮烈な赤い布地が使われております。
袖口と、頭を囲う城壁のように高くそびえ立つハイカラーには、ずっしりと大振りな装飾がぐるぐる渦巻いております。
猜疑心が強く、皇子暗殺という罪の記憶にさいなまれ
苦悩のすえに発狂する帝位簒奪者の衣装にふさわしいではございませんか。

平面作品ではバルビエによる版画集『ワツラフ・ニジンスキー』がよろしうございましたねえ。
アール・デコの寵児バルビエの、画中のあらゆるものに対する平面的・デザイン的処理が
ワタクシは好きなんでございます。
風にあおられる噴水を、弧を描いて空中を流れるドットの集まりで表現するなんざ
実によろしいではございませんか。(「アルミードの館」リンク先上から2番目)

優美な線、平面的な表現、東洋趣味、エロチシズムなどなどは
時代的に少し先行するビアズリーにおいても特徴的でございますが
バルビエにはビアズリーのような病的でグロテスクな雰囲気はございませんね。
むしろ古代ギリシアの壷絵のように、あまりに端正であるが故に
かえって幻想的な雰囲気をかもし出している感がございます。

ギリシアの壷絵といえば、会場内でビデオ上映されている『牧神の午後』(再演)は
緊張感とおおらかな(あるいは、あからさまな)エロチシズムにみちみちて
まさに壷絵の人物が3Dで動き出したかのようでございました。
ニジンスキー自身が振り付けをしたというこの作品、
バレエというよりはパントマイムといった方がしっくりくるナとワタクシは思いました。
他に類を見ない静的で性的な振り付けゆえに
当時の観客や批評家から、賞賛とともに困惑と避難の声が大いに上がったとのこと。
さもありなんでございます。

ビデオ上映はこの『牧神の午後』(15分)の他、『薔薇の精』(15分)と『ペトルーシュカ』(35分)がございました。
のろはこの日は予定が入っておりましたので、残念ながら『ペトルーシュカ』鑑賞は途中で切り上げねばなりませんでした。
もっと早い時間に出かけておくんだったと後悔する事しきり。
これから行くご予定の皆様は、通常の鑑賞時間プラス1時間の余裕をもって行かれることをお薦めいたします。