のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

2012.11.24 広瀬隆講演会@愛媛(3)

2012-11-30 | Weblog
2012.11.24 広瀬隆講演会@愛媛(2)の書き起しの続きでございます。

2012.11.24広瀬隆講演会part1


以下、1:03:50より書き起し開始。

*******

今、我々東日本に住んでいる人間にとって最大の恐怖は、4号機です。この4号機については、一昨日、衆議院の院内集会で東京電力を呼びまして、早く対策をとれということをみんなで要求しました。この4号機のプールは大量の燃料を抱えているので、これを取り出さないで放っておくと、(大きな)余震が来たら燃えだすという、最悪の事態になるわけです。



つまり水素爆発が起こって、大事なプールの水が抜けるということが怖いわけです。福島第一(原発)は今、爆発して、日本がなくなるという可能性が非常に高いんです。「万が一」だったら、こんなことは言いません。そのことを、先ほどの本の中にガンダーセンさんが書いていたので、ガンダーセンさんが来日したところへ私は急いで飛んで行って、いったいどういうことが起こるんですか、ということを聞きました。そうしたらあのジルコニウムのパイプが燃えます、と説明してくれたので、私も納得しました。

要するに燃料棒の、燃料が燃えるんじゃないんです。燃料というのは二酸化ウランといって酸化物ですから、陶磁器と同じ、茶碗や何かと同じ、コチコチのものです。そんなものは、酸化物だから燃えるはずがないのに、何で燃えるんですかと言ったら、「いやそうじゃない、周りでそれを包んでいるパイプが燃えだすんだ」と。
それでわかったわけですが、ガンダーセンさんはジルカロイの燃焼実験もやっています。だから、間違いなく起こります。4号機はどんな状態かというと、これが去年の9月、これが今年の1月。こんな状態です。爆発してぶっ飛びましたから。



このプールに、恐ろしいことに、とてつもない量の死の灰が、放射性物質が、今も入っているんです。だからガンダーセンさんは本の中では非常に遠回しな言い方で、「日本が分断されるようなことになるだろう」とおっしゃっていますが、分断じゃないですよね。日本はなくなります。もちろん四国の皆さんも、急いで逃げる準備をしなければならないんですが、まず福島原発に近い所に住んでいるのは我々東日本の人間です。さっき言ったように首都圏だけで4千万人、どうやって逃げられます?逃げられないんです。

ともかくフクイチの内部の人が私にくれた資料によると、(4号機は)不等沈下している。傾いている。これを東京電力は今、否定しているわけです。こんな状態ですよ。今から 丁度40年前、1972年に建設が始まった原発ですから、もう老朽化しています。鉄骨むき出しで、今こんな状態。プールがある最上階も今、こんな状態です。

もし4号機ががさっと崩れるようなことになれば、作業員の人たちは---毎日2千人ぐらい被爆をしていますけれど---、その人たち全員が逃げ出します。この福島第一(原発)のすぐ南、12キロの所に福島第二原発があって、ここにもっと大型のものが4基並んでいます。これも去年、爆発する直前まで行ったんですけれども、福島第一の横に5号、6号と大型のものがある、だから最悪の事態、10基が全部爆発する。時間の問題です。どういう経路を辿るかわかりませんけれど、そういうことになると思います。

そのニュースを聞いたときに日本は終わるわけですけれど、四国の人たちだったら少し時間に余裕があるから、どっかへ逃げなさい。だけど、どういう手があるかはよく考えておいた方がいいです。これは「万が一」じゃないんです。今、50/50ぐらいの確率です。だから私はこういう会場で、皆さんにこういうマスクだけは持っていなさい、ということを言っています。3M-8233N100というプロフェッショナル用のもので、プルトニウムの粉塵もみんなシャットアウトできるものです。だから我が家ではみんな家族一つずつ持っています。必ず外出の時は持つようにしています。
それから若い人たちは、必ずビザを取っておいた方がいいです。私の可愛い孫娘はもう、日本を出ることをきちんと考えています。今、中学1年ですけれど、悲しいかな。だから今年の夏はオーストラリアへホームステイに行って、まあ訓練をしています。

どこへ逃げるかっていうことになると、もし事故が起こった時は、もう日本へは戻れませんからね。今度は一桁上の放射能が出ますから。一桁も二桁も上になるかもしれませんから。そう言う時には我々ちょっと絶望的になりますけれども、とりあえず家の中にしばらく閉じこもって。
ともかく首都圏の4千万の人間は一斉にこちらへ、名古屋や大阪に向かって新幹線に乗ろうとするけれども、さっきの福島の状態と同じで、誰も逃げられません。東名高速も渋滞で動かない。羽田や成田に行ったって、飛行機が飛ばない。そういう状態になるわけですから、とにかくマスクを持って、何日か耐えながら、どこかへ逃げる算段をするということだけを考えています。これは冗談で言ってるわけでも何でもないんです。去年の3月11日に事故が起こって、その2週間後の3月25日に、原子力委員会のあの、悪い委員長の近藤俊介が、菅直人に、250キロ範囲の(住人の)移転を考えなさいということを言ったのは、これなんです。

去年はこのことを押さえ込んだのです。250キロというのは、さっき言った東京です、私の(家の)近くが230キロですからね。だからもう、近藤俊介にもわかっているわけです。これは原子力の世界だったら、誰でもわかっている。こういうことを、今になって隠しているだけなんです。もうすでに6万人の日本人が海外に脱出している。私が今20代だったら、絶対にこの国にいません。こんな恐ろしい国に。
日本人が みんなで、これをやめよう、ということだったら留まりますけれど、こんな恐ろしい政治家連中が、安倍晋三また再稼働するんだとか、そういう国にいる神経が、我々はわかんないんですよ。私は69歳だから今いますけれど、若かったら絶対こんな国にはいません。津波による電源喪失、あるいはコンクリート亀裂が起これば、終わるわけですからね。大爆発をどこでも起こす。

だって、いいですか、これを見てください。これは全世界で起こった、地震の主な発生地点です。黒い点で塗って行くと、だいたいプレート境界を中心に発生しています。非常にこの辺(日本周辺)に集中している。日本地図が見えなくなっていますね。ここに、別の点を置きます。何の点かというと、これは原子力発電所のある所です。



アメリカにもヨーロッパにも、原発はあります。ロシアにもあります。だけど見てください、地震帯じゃないでしょう。で、原子力発電を作った技術者というのは、日本人じゃないんです。アメリカ人、ロシア人、ヨーロッパ人なんです。この人たちは地震が起こらない所で設計した。だから、耐震思想というのがもともとないんです。だいたい、大地震が来たら終わるってことは、彼らは知ってるんです。それをに日本に輸出したのが彼らの間違いです。こんなことは起こるに決まっている、地震が直撃したら日本の原発は全部終わるってことは、わかってるわけです。

日本という国は、地球上の陸度のうち0.25%しかない、狭い国です。我々から見たら本当に広い日本に感じますけれど、0.25%しかないんです。世界中で発生した地震のほぼ20%は日本で起こっているわけですから、地球平均の100倍ですよ。こんな国は、他にはないんです。プレート4枚がぶつかりあっているから、しょうがないんです。阪神大震災の後、去年の東日本大震災。わずか16年の間に大震災を2度も体験した国なんて、他にありますか?ないですよ。こんな恐ろしい国は。

だから、私が何で4号機が怖いかというと、次の地震なんです。次の余震がもうすぐ迫っているわけです。ここにバッテンがあって、震源と書いてありますが、こんなもんじゃない。ここは割れ始めた所であって、実際は(もっと)広大なんです。震源域と呼ばれる広大な難易が、亀裂が入っているプレート境界です。

地震の後、日本列島はひん曲がってしまった。この矢印は、自動車のナビと同じように、地殻変動が起こったら宇宙から正確に分かるようになっています。昔は基準地点というのを置いておいて、その間を実測してやったものですが、今は宇宙から全部わかるようになっています。その移動した動きを誇張して描くとこういうふうになって、太平洋側にぐーっと入っていますね。太平洋の海底側です。だから日本列島は、この三陸沖を中心にして、ひん曲がっちゃった。



で、広大な面積が減りました。これは津波で減ったんじゃないんです。日本がひん曲がって減っちゃった。だから、宮城県の女川原発の所、あのへんで基準点が5mも超えています。それぐらい動いたんです。恐ろしいことに、ロシアまでこの地殻変動が起こっている。なぜかというと、地球は全部繋がっていますから、1枚のプレートだけが動くということはない。全て重なり合っていますから。だから、ロシアまでひん曲がりました。

ということは、今度は西日本が怖いわけです。私が今怖いのは、西日本です。今年の1月、山梨県東部が動いて、その後富士五湖周辺で(地震が発生しました)。なぜこういうことを言うかというと、富士山で異常が起こってるんですね。富士山の異常は、非常に怖いんです。なぜかというと、江戸時代の宝永地震のとき、同時に富士山の大噴火が起こっていますから。今度はその順序が逆になるかもしれません。ともかく、去年はここ(三陸沖)で大地震があって、すぐに長野県の栄村で大地震が起きて、今度は富士山の直下で、記録上最大の地震が起こりました。この線は糸魚川-静岡構造線、つまり皆さんの目の前にある中央構造線と並んで、日本で最大の活断層です。これが動き出しているんですね。この力が今、どんどん西日本に迫って来ています。広島でも激震が続いています。



これは4枚のプレートの境界を上から見た所です。(実際は)こういうふうになっているんではなく、お互いに組み合っているんです。重なり合って、お餅を重ねたようになっている。だからここの太平洋プレートが動き出して、もう2009年からずっと激動していましたが、それが動き出して、下の方へどんどんエネルギーを与えています。だから、今こちらで地震が起こっていないから安心なのではない、これからです。岩石が今、エネルギーをどんどん溜め込んでいます。岩石が耐えられるエネルギーは決まっていますから、一定量になった時にバリッと割れます。その時に心配なのが、活断層が動くことです。それがだんだん身近に迫って来ているはずです。

鹿児島でも激震が続いていますが、鹿児島の地震は非常に恐い、なぜなら、桜島がずっと爆発的な噴火を続けて来たのが、2009年からとてつもない数になったんです。そして去年、大地震を伴ってやって来たんですが、今年も桜島の爆発的噴火回数は一昨年、昨年とほぼ同じペースで来ています。もう800回を超えています。



この余震は間違いなく、数十年続きます。去年、私が信頼している北海道大学の平岡一臣先生にあって、この余震は何年くらい続くでしょう、と言ったら「まあ最低30年は続くね」と言っていました。まあ地震学者の常識ですと、数十年これが続きます。



ということで、今、この去年1月から10月までに起こった地震の分布を見ると、このあたりがプレート境界です。それから皆さんの所、四国を襲うのは、ご存知の東海地震と南海地震です。南海トラフというのがここにあります。よく見てください。この点々が、日本の陸上にたくさんありますね。内陸直下地震がかなりあるんです。その地震の映像を詳しく解析して、わかりやすく我々に教えてくれた人がいる、それを皆さんにみていただきます。左上に日付が入っています。



4月7日に最大余震が起こっています。それから11日にはいわきで、恐ろしいことに、双葉断層を動かす地震が起こりました。今ご覧になっていて、私が何を怖がっているか、わかるでしょう。福島の周りで、ずっと地震が起こっています。4号機をずっと揺らし続けているんです。あの建物がもつだろうか。普通に考えたら、機械工学的に考えたらもう中は疲労の限界に達して要るんじゃないかと、私は想像していて、非常に怖いわけですが、一昨日、東京電力にそのことを言っても、全然わかんないで、のんびりしている。で、下から積み上げるような考えで、ともかく来年、燃料棒を取り出すようなことを言っているので、もう、急いでやれ、国際チームを作ってやれとみんなで要求したんですが、なかなか動きそうにない。そこへ原子力規制委員会の連中も来ていました。資源エネルギー省の人間も来ていましたが、国も、もう本当にのんびりしているんです。とにかく早くあの4号機の燃料棒を取り出させないと、我々は本当に不安でしょうがない状態です。

で、富士山が動き出すと恐いのは、かつて、貞観地震のような、南海地震に繋がるようなことがたくさんあった。それから江戸時代、東海地震と南海地震という超巨大地震の時に、富士山の、宝永の大噴火が起こっています。



わたしがこの福島の事故が起こる前から心配していたのは、豊後水道(大分と愛媛の間)あたりです。このへんが2009年から、スロースリップといって、ゆっくり動き出している地殻変動がある。これがずっと怖かった。伊方の方も怖かったんです。これ(スロースリップ)がちょうど、東北でもやっぱり起こっていたんです、大震災の前に。だからひょっとしたら、今度は四国辺りで(大地震が)起こるかもしれません。

今、どこから大地震が起こるか、もちろん誰もわかりません。先に首都圏大地震が起こるのではないかということも考えて行きますと、もうタイムリミットを13年ぐらいは越えてますから、起こりうる。それは相模湾であろうと。その次にはもちろん、東海地震を起こす駿河湾が動くかどうかですね。これも150年がタイムリミットなのに、もう8年越えています。どちらが先に来るかはわからないんですけれども、今そんな状態です。

ひとつだけ言っておきたいのは、私が一昨年『原子炉時限爆弾』を書いた時、もう間違いなく太平洋プレートが動いてるから、太平洋岸が危ないということを、学習会で茨城県、宮城県、青森県、福島県を回って叫びましたが、誰も信じてくれませんでした。広瀬さん頭がおかしくなった、と言われましたけれど、(今は)あの時よりもっと危険なんです。私が『原子炉時限爆弾』を書いた半年後に福島の事故が起こってしまいました、書いたとおりに。だけれども、今はもっと怖いんですよ。去年の3月10日よりもっと危険な状態、日本列島がひん曲がっているんです。余震がずっと続いている状態です。だから私は大声を出すんです。

これから起こる地震では、原理的に言いますと、プレート境界か、プレート内の活断層か、どちらが動くかわかりませんが、さっき言ったように岩石というのは一定のエネルギーしか蓄えられませんから、今どんどんエネルギーが溜まっています。皆さんの身近な四国で、今地震を感じなかったら、それはどんどん大きなエネルギーが溜まっているということだと考えてください。それが地球物理の基本です。「今地震が起こってないから安心」なんて、とんでもないことです。逆なんです。だからむしろ、余震が起こっている方がよくわかるんです。エネルギーを少しずつでも解放してくれた方が楽なんですけれども、動かなくなるとだんだん不安になって来ます。

*******

この後休憩を挟んで、講演の後半が続きます。part2では、日本で今までに起き、またこれからも起きるであろう津波の、想像を絶する巨大さや、放射能が人体に与える激烈な害、イギリスや旧ソ連における放射能被害の実態など、戦慄を新たにするようなお話が語られております。本質的に怠惰なのろさんはここまで来て力尽きましたので、書き起しは以上とさせていただきますが、お時間のあるかたは、いや、お時間のあんまりないかたは片手間でも結構ですので、実際に動画を見ていただけたらと思います。

2012.11.24 広瀬隆講演会part2.



2012.11.24 広瀬隆講演会@愛媛(2)

2012-11-29 | Weblog
2012.11.24 広瀬隆講演会@愛媛(1)の書き起しの続きでございます。画像が多いので読み込みが遅いかもしれません。ご了承くださいませ。

2012.11.24広瀬隆講演会part1


以下、42:30より書き起し開始。

*******

今、福島の人たちがどうなっているかと言いますと、これが今年3月10日、事故があってからちょうど1年後の、福島の地元の人たちが、今の避難先は何カ所目ということを県民に聞いたアンケート。「5カ所目」が35%、「4カ所目」が17%。今年の3月時点でですよ。(今では)もっと多くなっていると思います。お分かりでしょう。転々としているんです、



今も。要するに、生活できないんですよ。放射能によって家も何もかも失って、家族はずたずた、そういう状態。こんなことを誰も知らないんです、日本中の人は。特に西日本の人たちはぼーっとしてて何も知らないから、私は怒鳴りつけるんですけれども。

一番心配な18歳未満の子供たちは、今年4月1日までにもう2万人近くが(福島)県外に逃げ出しています。最初は逃げてくれなかった。私も学習会で県内を回って、早く子供たちをに逃がせ、逃がせ、と叫んで、ようやく2万人ぐらいの人々が、櫛の歯が抜けるように県外に逃げ出してくれていますけれど、まだ30万人の子供たちが(県内に)いるんです。いろんなニュースを見てると、心配でなりません。高校生たちが、あそこでマラソンをやってるんですよ。やめてくださいと言いに行きたいんですけれど、今もこんな状態でいます。

そして1号機に続いて起こったのが3号機の爆発。3号機はもっと怖い、プルサーマルをやってました。伊方も同じですけれど、ウランの代わりに地上最強の猛毒物プルトニウムを大量に使っていて、絶対にやるなと言って我々も反対して来ました。
このプルサーマルをやっていた3号機が、同じようにメルトダウンして爆発したわけですが、これが爆発した後の空の、空から見た写真です。



よく見ていただくと、二筋の白い煙が立っていますね。これは水蒸気のように見えるかもしれませんが、水蒸気じゃないんです。放射性物質のかたまりです。どーっと出ていますね。ここ(煙が流れている、画面左側)は太平洋です。私たちが食べる魚が泳いでいる太平洋です。これで何も起こらないはずはないですよね。

さて、先ほど3月の汚染のことをちょっと申し上げましたが、(画面では)4月、まだ放射能がもうもうと出ていた時の放射能の流れを見ていただいています。このとおり沖縄から韓国、それから四国もずっと舐めながら行きまして、4月の6日から7日は凄まじい勢いで北海道まで汚染して行きました。



(45:00からの画面では「ドイツ中央気象観測所」という表示がでていますが、これはオーストリア気象地球力学中央研究所(ZAMG)のシミュレーションかと。)

これは空気の流れです。空気の汚染です。だからもちろん四国でも汚染しています。どこかに降り積もっているはずです。
海の方を今から見て行きたいと思います。四国の人たちは、全部海に囲まれています。こんなに魚介類の豊かな海はないと思いますけれど、ともかく、この凄まじい海洋汚染が起こっていることを知っておいてください。
先週私は北海道の網走に行きました。網走というのは北海道のこちら側(北東)です。知床の北側です。ここで、先週私は、聞いて非常にショックを受けたんですが、魚から高い数値のセシウムが出て来た。そう聞いて、「そっちまで回ったのか」と思って本当にショックを受けました。
これは海洋汚染の測定シミュレーションです。3月18日、事故の一週間後から始めますから、見てください。



これが8月5日です。釧路のこのへんまで来ました。私の読み違いはこれでした。親潮の寒流が下りて来るから、まず千葉県の銚子あたりが最大の汚染になると思ったんですが、こちらの方向(北海道~千島列島方面)ですね。何でこんなふうになったかといいうと、台風はこう流れますでしょう、日本では。要するに地球の自転の流れに沿って、主にこちら(北東)の方向に行くわけです。だから伊方で事故が起こったら、日本は壊滅します。(汚染が)日本列島をずっと縦断して行きますから。だから、伊方だけの問題じゃないんです。皆さんが、我々日本の全ての人の命を握っているということをお伝えしておきます。さっき言った釧路、網走はここです。ここまで(汚染が)来ているんです、悲しいかな。

これが8月15日、31日、9月15日...そして10月。この解析は11月11日をもって一旦終わったんですが、この時点で、地球全体で見ますと、ここまで来ています。ここはハワイですね。観光、海でもつ島です。そこに今年の2月にもう、到達しています。もう一回シミュレーションを始めまして、12月、今年の元旦、2月。事故から1年で、地球をもう舐め尽くすような形で太平洋に広がっている。今11月ですから、それから8ヶ月も経っていますから、どんなになっているかと寒気がします。



皆さんもニュースでお聞きのように、カナダや北米大陸に津波の漂流船や瓦礫が流れついてますから、放射能も到達しています。アメリカ沖のマグロにもセシウムが出て来た。魚はどこへでも泳いで行きますから。10年後にいったい地球はどうなっているかということを、我々は感じるわけです。それが先ほどの写真(爆発した3号機から海に流れて行く放射性物質)の意味です。

さて、皆さんの所でどうなるか、考えたくはないでしょうけれど、瀬戸内海で事故が起きると、(今回の事故で)太平洋に流れていたあの放射能が、全部ここへ出るわけです。出口がないでしょう。四国だけじゃなく、九州からこの沿岸、全部壊滅します。こういうことが起こるのが伊方の事故です。海も陸も全て壊滅する、ということを申し上げておきます。

アメリカの原子炉の実際の現場に携わって来たアーニー・ガンダーセンというかたが、今年の2月に『福島第一原発の深層と展望』という本を書いて、我々日本人に本当に大事なことを教えてくれました。彼が言った一番重要なポイントは、3号機の爆発は1号機とは違うんだということです。それをインターネットを通じて、去年の4月から、我々に教えてくれていました。そのインターネットの映像の、爆発の所だけ、今ちょっと見ていただきます。



ボンと赤い炎が出ました。これ、3号機です。(煙が)ぐーっと上がって行って、よく見てください、黒いかたまりがいっぱい落ちて来ていますね。
こちらが1号機の爆発です。1号機も凄まじいけれど、(煙は)白いでしょう。それに比べて(3号機は)違いますね、黒い煙がずーっと上がっている。だからガンダーセンさんは、この爆発は違うものだということを教えています。そのことが我々日本人にとって非常に重大な意味を持っていますので、簡単にお話します。



どういうことが3号機で起こったかといいますと、これが原子炉、圧力容器、その周りに格納容器があって、ここのフロア、オペレーションフロアで水素爆発が起こったわけですけれども、この同じフロアに、使用済みの核燃料プールがあります。原発の建屋の中の、一番高い所にあるんです。1年に1回、燃料棒を取り出して沈めておく所です。(燃料棒は)ここで最低5年ほど冷やしてから、青森県六ヶ所村に持って行くというつもりで入れてあるんですが、水素爆発が起こりましたから、プールが静かにしてるはずがないんです。

一番怖いのは水が抜けちゃうことなんですが、このプール、底の方に並んでいるこれが燃料棒で、きちっと一定の距離で離してあります。これをラックといいます。ガンダーセンさんは実際にこのラックの設計もやった、現場のエキスパートです。だからこのことを詳しく見ています。このラック、格子、が外れるようなことがあると、(つまり)この燃料棒というのは一定の距離で離しておかないと、(プールの)中が原子炉に変わってしまう。核暴走、チェルノブイリのような。一瞬で爆発を起こすということになるわけです。



そもそも原子力発電というのは、ウランやプルトニウムに中性子がぶつかるから始まるんです。中性子がぶつかると、核分裂します。この時大事なのは、中性子は2個以上飛び出します。2個以上飛び出して、それが近くのウランや何かにぶつかると、これがまた核分裂をする。そして連鎖反応を起こして進行していく。
これが、90%以上の高濃度にしておきますと、100万分の1秒単位でだーっと行きます。それが何か。原子爆弾です。この原子爆弾の原理を使っているのが、原発なんです。「原爆と原発は違う」と言いますが、同じなんです。原子力発電所はこれを一定の比率でコントロールしながらやるだけなんです。これがこっち側に行ったら(コントロールされた状態から連鎖反応へと移行したら)、原爆に変わる。それが3号機で起こった。だけれども、原爆のように凄まじいものではなかった。ここで起こったのは臨海爆発なんですが、原爆と通常の原子力発電の中間状態で起こったのが3号機の爆発。だから大爆発として(煙が)真上に行った。これは水素爆発というよりは、コンクリートで固めているので横に行かずに真上に行った。

そうして、この写真を見てください。福島大に原発の近くから逃げた森田さんというかたとお会いしましたら、「我々はね、福島の、あの爆発した建物を見ると、原爆ドームを思い出すんだよ」と言いました。まさに的を射た言葉だと思いますが、原発と原爆、これを違うものだと考えてはいけません。ガンダーセンさんがこう言っています。3号機でいっぱい降って来た黒いものは、核燃料であると。それにはプルトニウムが大量に入っている。それが海に落ちているわけです。それが今、どんどん海水に溶けて来ている、そんな状態です。

そうなると、今は日本全土で原発の運転を止めていて、動いているのは大飯の2機だけですけれども、停止している全土の原発は大丈夫なのかということが心配になってくるわけです。というのは、日本の原発はみんな、出て来た「死の灰」を、青森県の六ヶ所村めがけてずっと今日まで運び続けて来ました。だから六ヶ所はたいへんな量の「死の灰」を抱えて、世界一危険な工場になっているわけですが、ここを運営している日本電連の連中は何の能力もないので、4年前の2008年から完全にストップしたまま、ただ「死の灰」だけを受け入れている。だから今、六ヶ所村の燃料プールは今、満杯なんです。

ということは、伊方で万が一、再稼働なんか始めたら、これから(燃料を六ヶ所に)持って行けないんです。青森県はもう満杯なんですから。日本中の原子力発電所は今、そういう状態なんです。そういう時に起こったのが、福島の事故なんです。
今、日本中の原発がどうしているか。燃料を取り出したらプールの中に入れて、(燃料同士の)距離をどんどん縮めるという、一番危ないことをやり始めたんです。九州の玄界原発とか、そういう所でですね。もう、打つ手がない。だから、運転なんかできないんですよ、日本の原発というのは。それほど大変な状態なんです。

日本中の原発が今どれほど燃料棒を抱えているかというのを、事故直後の数値で示しますと、一番満杯だったのは福島第一。皆さんの所の伊方も、もう63%ですから、再稼働すればどんどん(量が)上がって行って、もう危なくなっていく。しかもラックをはずして、リラッキングと言って、どんどんぎゅう詰めにしている。それしか手がないんです。
ただ、量だけじゃないんです。伊方の場合は、今年1月まで運転していました。(止まったのは)嬉しかったですけれど、今年の1月のことですから、まだ原子炉の中に熱い燃料を抱えています。今、伊方の燃料棒がどういう状態にあるか、我々はわかりませんけれど、これは四国電力に追求すべきだと思います。ともかくあの燃料棒を、キャスクというがっちりした容器に急いで移し替えるように、皆さんもどんどん声を上げていってください。運転が止まっていてもダメなんです、原子力発電所というのは。本当に大事故を起こしますから。

去年の3月11日からの出来事をもう一回ざっと申し上げます。14:46に大地震が起こりました。そしてこの日の夜にもう、危ないということはわかっていました。私は個人的に、これはもうメルトダウンに突入しているということを確信していました。それで、枝野がTVに出て来て住民に避難を呼びかけたとき、こいつは全部ウソをついている、ということを読み取りました。それで、TV局が電話をかけて来たので、すぐに福島原発の100キロ圏内の全員に避難を始めさせろ、ということを言いました。それを早く伝えなさい、と。そうしたらTV局の人たちはワーとかキャーとか言って電話を切る、そういうレベルなんです。
私は夜、ずっとTVを見ながら(過ごして)、朝すぐに被爆労働問題を追って来た樋口健二さんに電話しまして、「樋口さん、すぐ福島へ行ってくれ。あなたが行けば福島の人たちも受け入れて、信用して、逃げてくれるだろう」と言ったんですが、樋口さんは車両制限のために行けませんでした。

午後になって 新聞記者たちが山のように電話をかけて来るんで、「いったいあなたたちは何をしてるんだ、保安員があんなデタラメの記者会見をやって、水素爆発がすぐ起こるからすぐにそのことを追求しろ」と言ったんですが、その直後に、爆発してしまいました。
私が何でそのことを言うかというと、私は原子力の専門家ではありません。技術者ですから、半導体とかそういうことをやっていた人間で、原子力とは関係ないんです。しかし1979年に起こったスリーマイル島の事故で、もうすでにあの時水素爆発が起こって、あと1%あれば大爆発を起こすという時に、アメリカ人は食い止めました。あいつらは悪いやつらですけど、非常に頭はいい。私はあの時、(アメリカの)原子力規制委員会の、計算ができる人間たちのことを、こいつらは本当に頭いいなあ、と思いました。そうして水素をどうやって取り除くかということをやって、爆発を食い止めたんです。そういうことを知っていましたから、水素爆発に対してどうしてやろうかと思って...。

伊方にヘリコプターが墜落した事故がありましたね。あの時に〇〇さん(聞き取れません)と一緒に墜落事故の現場を歩きました。その時〇〇さんの言った言葉をお伝えしておきます。原発というのは本当に危ないんだ、と。なぜかというと、天井が薄っぺらに作ってあるの。地震が恐いから、重いものを乗せないようにしている。だからヘリコプターなんかが墜落したら、原発なんかもう一撃なんだよ、と。そういう話を聞きました。

福島の事故が起こった後、すぐに頭にひらめいたのは、そのことでした。だから私はもう、鉄の玉をあの原発の上から落としたかったんです。穴あけちゃえばいいんです、爆発しないですから。そういうことを一人で悶々と考えていたのに、東京電力の、あの福島第一原発の吉田昌郎という所長は、一時ヒーローになりましたね。あの吉田所長が、「水素爆発は頭になかった」と言うんですよ。信じられますか。原子力発電所の所長ですよ。トップの人間が、水素爆発を想像しなかったというんです。で、爆発させちゃうんです。こういうレベルの人間が、日本中の原子力発電所を運転してるんです。
日本中の、原発を持っている電力会社の中で、最高の技術を持っていたのが東京電力なんです。関電なんか、それより遥かにひどいと言われています。四電なんか、それよりずっとひどいです。その東京電力でさえ、このレベルなんです。原発ってのはそんなものなんです。

私は今、事故現場で働いている人たちを非難する気はありません。当時の記録を読み返しますと、特に電力会社の社員よりも、下請けの人たちが、本当に機転を利かせて、いろんなことをやったというのを見て、この人たちは凄いなあ、と思いました。私たちが想像もできないような苦労をして、バッテリーを集めるとか、いろんなことをやりまして、どれも(結果的には)何の役にも立たなかったんですけれども、あの人たちは本当によくやったと思います。でも総体として、原子力発電所の最悪の事故を避けるということは、この人たちにはできないんです。

だって12日に1号機が水素爆発して、2日後には3号機を爆発させちゃうんですよ。その翌日もっと怖いことがあって、今度は2号機の格納容器の底が抜ける爆発が起こっている。そして最悪の4号機ですね。今度は運転もしていない、燃料は原子炉に入っていない、そのプールで、爆発が起きた。判るでしょう。運転を止めていても、何の安全もない。地震が起きてから4日後には爆発してしまうんです。電源がなくなったら終わりなんです。

*******

次回に続きます。

2012.11.24 広瀬隆講演会@愛媛(1)

2012-11-27 | Weblog
80年代から原発の危険性を訴えて来られたノンフィクション作家、広瀬隆氏の講演会です。
四国での講演なので伊方原発の話がよく出てまいりますが、伊方のみにフォーカスしているわけではなく、東京の放射能汚染度、発表される数値のウソ、原発の構造とその脆弱性、福島第1原発3号機の爆発をめぐる検証など、内容は幅広くかつ濃いです。

2012.11.24広瀬隆講演会part1



前置き部分を省略して、11:30以降の内容を書き起してみました。
動画そのものをご覧頂くのがなによりですが、時間のないかたは以下の書き起しにざっとでも目を通していただけたら幸いです。読みやすさを優先するため、語順を変えたり言葉を補う・省略するなど若干編集した部分がありますが、文意はそのままです。

以下、書き起し開始
*****

皆さんの知人、親戚のかたも大勢、東京、首都圏におられると思います。首都圏全体で4千万人の人が住んでいます。東京の汚染のことをお話しますと、文部科学省がつくったこの東京の汚染分布図を見ると、千葉県に近い海側の方の葛飾や、山梨県に近い山の方の多摩地区、このあたりだけが高い汚染の数値が出ておりますが、これはウソです。
このあたりは確かに高濃度です。高濃度なんですが、中央部の、例えば新宿、渋谷、そしてすぐ隣の杉並。ここ(杉並)に私は住んでおります。で、毎晩可愛い孫娘と一緒に夕飯を食べているんですが、心配でならない。このへんは汚染していないことになっていますが、これ、ウソなんです。文部科学省が勝手にヘリコプターで、300メートルくらいの高い所を飛んで空間線量を測っているだけなんです。空間線量なんかでは、汚染なんかぜんぜん分かりません。

(杉並区は)福島原発から230キロも離れています。この距離をちょっと頭に入れておいてください。今、30キロだ何だって馬鹿らしい数値を出しておりますけれど、(杉並区の)我が家の庭の土を取って測ったんです。誰も測らないから。(2011年10月に)測ったら、いくらあると思います?1平方m、畳半分くらいの中に、1万7千ベクレルですよ。近くの公園では9万ですよ。
この9万ベクレルの公園の隣に畑がありまして、私の娘が近くに住んでいるんですが、そこに幼稚園の先生が子供たちをいっぱい連れて来て、畑をいろいろ掘ってるんで、娘が何をしてるんですかと聞いたら、芋を掘ってるんだと言うんですね。芋掘ってどうするんですかと言ったら、「落ち葉で焼き芋を作る」と。やめてくださいと。落ち葉にはもう、最高のセシウムが降り積もってるんですよ。そういう先生たちですよ。で、去年の事故の後、爆発したと聞いてすぐに私の娘は学校へ行って、娘を連れ帰って家の中に閉じ込めたんです。その時ずっと先生たちは、子供たちを校庭に野放しですよ。だから娘は先生に、何をしてるんだと怒鳴りつけたんだけれども、先生は(ことの深刻さが)分からないんです。今そんな状態で、東京では大変な被害が出ると私は予想しています。

東京の汚染がチェルノブイリ並みだという意味をちょっとお話しておきますと、...(図を示しながら)...爆発したチェルノブイリ原発が矢印の先、ここですね。今こう、チョウチョのような形になって汚染しております。この外側のピンクの所が、一番この中で濃度の低い所です。その低い所でさえ1平方kmあたり、1キロ四方ですね、広大な面積あたり、1キュリー以上あったら人間が生活しちゃいけない所です。こんな広大な範囲が。東京駅と富士山の間の距離が100キロ、ここに書いてありますね。分かるでしょう、どれほど広大な範囲が汚染されたか。



そして当時のソ連がロシア、ベラルーシ、ウクライナ三国に分割されてこういうふうになっているわけですが、このピンクの所、もう人間が生活できない所に、たくさんの人がいて移住させられないので、まだここに人が住んでいます。このオレンジの区域はもっと危険です。かなり危険です。私だったら、絶対に入るなと怒鳴りつけるような所。赤い所ももちろん完全に居住禁止区域で、強制的に住民を避難させて来た所ですが、こういうふうにまだら模様になります。伊方で事故がありましたらどういうことになるか、まあざっと距離を書きましたけれど、こんな感じですから、要するに四国全体はなくなるというふうに、皆さんに知っておいていただきたいと思います。

「1平方kmあたり1キュリー」というのは、キュリーとベクレルを換算しますと「1平方kmあたり3万7千ベクレル」になります。さっき申し上げた近くの公園は、一平米あたり9万なんですよ。東京のど真ん中の、私の家のすぐ近くがこんな状態です。こんな所にいま4千万人が住んでいるのです。放射線防護服を着なければいけない区域ですよ、こんな数値は。

それで、自治体の測定値、私はこれを信頼できる数値と思っております。なぜかというと、自治体というのは汚染を隠したがります。それが、数値を(わざわざ)出してるんですね。セシウムだけで見ますと、東京は岩手県盛岡の6倍です。みんな東北が汚染されてると思ってるですが、実を言うと東京はその6倍です、セシウムだけで見ますと。で、ここに宮城県があって、「測定していないので不明」となっていますが、宮城県知事はとんでもない奴で、放射能の測定をさせないんです。

ヨウ素、これは甲状腺がんを起こす一番怖いものですけれども、ヨウ素の出た量は、新宿は盛岡の100倍ですよ。
どうしてそんなことが起こったかというと、こうなんです。これは日本地図を横に寝かせたもので、ここに福島4基があって爆発したわけで、こちらの方に大量の放射能が流れて飯館村なんかを大汚染したことは皆さんご存知と思いますが、このブルーになっているあたりが阿武隈山地なんですが、美しい所です。今年も福島県内を連続集会で回りまして、そのときも雪がしんしんと降り積もって、きれいでした。私は外へ出て、もう涙がぼろぼろと止まりませんでした。いったい何をしてくれたんだと思ってね。雪の中で叫んでました。



そこが今、要するにここから出た放射能が、みんなこの山地にぶつかったわけです。ところがここには、東京に向かって、遮る山がないんです。関東のだだっ広い平野ですから。それで東京や神奈川、千葉、埼玉へと(放射能が)直進して行ったわけです。
これは昨日高知へ行って、あなたたち何をぼんやりしてるんだと言って来たんですが、伊方原発から出た(放射能がどうなるか)、ここは高地がないんですよね。山がないから(放射能は)ずっと通って、四万十やなんかみんな汚染されますよということを昨日お話してきました。
去年はこうして(福島原発から)放射能がずうっと流れて、最初は海の方に流れてくれたんですが、爆発2日後の(3月)14日になりますとぐっと巻き込んできて、関東地方をパニックに陥れて、静岡県の浜松、浜名湖のあたり、名古屋直前の豊橋、豊川までずっと流れて行って、こういう汚染が続いた(3月)下旬には今度は回り込んで千葉県側から大汚染が広がりました。

今、私たちの身体の中がいったいどうなっているかというと、日本人があんまりバカでぼーっとしてるから、アメリカ人やヨーロッパ人が駆けつけてくれまして、去年の事故の翌月、4月に走り回ってくれました。彼らは頭いいんで、自動車で走ったんですね。自動車が何で測定ができるかというと、自動車はガソリンでもディーゼルでも、空気を取り込んで、それを使って爆発をさせてシリンダーを動かすわけですから、自動車っていうのは人間と同じで呼吸しながら走っています。で、エアフィルターというのが入っていて、それを取り出すとどれぐらい被爆しているかが判ります。皆さんも自動車に入っているフィルターを取り出して、レントゲン写真のあのフィルムの上に置けば感光します。それがこれです。



これがアメリカのシアトル。シアトルは野球のイチローがいた、西海岸の北の方ですね。これがシアトル、これが東京。全く違いますね。東京の人間の肺の中は今、こういうふうになっているんです。全ての人間が。(それなのに)もうみんな、平気でいます。私は自宅から外へ出て、自分の頭がおかしいのかと思うぐらい、みんな平気で生活していました。本当にこの人たちは何もわかってない、だって事故が起こっている最中ですよ、3月の。そして県庁所在地の福島市、海岸から60キロくらい内陸の、あの東北新幹線が郡山も福島も通るわけですが、この福島市を見てください。こんなになって、写真がぼけるぐらいです。こんな状態です。

今、ヨーロッパの人たちは予測を立てています。この、ぼーっとしている無意識の日本人、少なくともこの100キロ圏内では、(向こう)10年間に20万人ががんになるだろうと。それからさらに100キロから200キロのこの範囲、ここでも12万人ぐらいががんになるだろうと。これは人口密度をきちんと解析してやったもので、私もこのレポートを読みましたが、まず間違いないだろうと思います。



そして今問題になっているグレーゾーン。ここに山脈があります。ですから太平洋側から出て陸にむかった放射能は、みんな山に当たって、去年の秋から落ち葉となって山林に降り積もって、そこに今年は豪雪でしたから、1月2月にいっぱい雪が降ったんです。そのあと3月から雪解けです。東北地方の雪解けというのは、毎年ほんとうに嬉しい出来事なんですが、今年は違います。(放射能が)どんどん水に入って来ている。
ここにあるのが東京...(グレーゾーン圏内)...。さっき言ったチェルノブイリ並みの汚染のある所です。多摩川べりやなんかの土の出ている所を測ってみると、もうみんな、人間の住める所じゃないと言っています、正確に分析している人たちは。そんな状態のまま(首都圏在住の)4千万人は、のんびり今まで生活をしてきました。ところが、そんなもんじゃないということが分かりまして、それがあの首相官邸前(のデモ)に来てるわけです。分かるんですよ。
今何を叫んでいるか。今、本当に深刻なんです。食べ物を考えても。

そういう状態ですので、皆さんそのことを頭に入れていただいて、本当に、のんびりしていると殺されるということをハッキリ言っておきます。もうすぐ、これから日本で大変なことが起こります。もうおそらく身体の中では、大変なことが進行しています。それは見えない。絶対に見えません。病院に入るまで分かりませんが、そういうことをきちっと皆さんも理解していただいて、周のかたと一緒に、ここに来ない人たちにも広めて行って、お互いに(健康被害を)止めるということを心がけていただきたいと思います。

放射性物質は、今農作物にどんどん入り込んで来ています、誰も捨てていませんから。この範囲、これだけで350キロですよ。これ...(示している新聞記事)...は日本農業新聞ですから、さすがに除染が必要だってことを真剣に考えて、ついにJAも今年10月、脱原発を言ってくれました。嬉しい出来事でした。
だけど見てください、その深刻さを。あとで福島の本当の深刻さをお話しますが、皆さんも多くの人にきちっと伝えていただきたいと思いますが、宮崎県、栃木、群馬、茨城、千葉ももう、たくさんのホットスポットが見つかって、東京が今のような状況です。

さてこの事故がどうして起こったかを簡単にお話しします。去年の12月にバカ総理が「事故収束」なんてことを言いましたけれど、とんでもないですね。世界中の笑いものになっています。この地元紙が書いているとおり、収束なんてほど遠い状況です。



さて、福島の事故がどのように起こってどのように放射能を振りまいたのかを簡単に申し上げます。これは伊方と違って沸騰水型といいます。沸騰水型でも何でも同じですが、この赤く塗った所、ここがウランの核分裂をする所、放射性物質が生産される所で、熱が出ます。熱が水に浸かって蒸気になって、この蒸気がタービン(発電機)を回して発電するんですが、ここで生まれた熱エネルギーの、3分の1しか電気になりません。じゃあ3分の2はどうしてるのか、これが大事なんですが、3分の2は海水を引き込んで、伊方の場合なら瀬戸内海の水を引き込んで冷やして、つまり熱を大量に捨てながら、発電をしております。だからこれは水の流れであると同時に、熱の流れです。
この、熱の流れ。みんな原子力発電所の耐震性を議論する時はこっち側...(格納容器)...のことばっかりになりますが、そうじゃないんです。こっち側...(タービンや給水ポンプ)...が壊れたって、水が抜けて行ったら同じことなんです。どこが壊れても、この流れが遮断されますと(原子炉の)熱が奪えなくなるので、結局福島と同じ、メルトダウンを起こして行くわけです。

それが地震のときどういうふうになるかというと、具体的には、原子炉建屋とタービン建屋とは分かれています。基礎工事から全部違います。そこへ大地震が来ますと、(原子炉建屋とタービン建屋は)全く別の揺れ方をします。一番怖いのは配管が折れることで、バーンと折れたらもう終わりですね。こういうことが一番起こりやすいわけです。

では原子炉の中にどれくらいの熱量があるかということなんですが、伊方では1、2号が56万kw、3号機が89万kwなんですが、100万kwが今、日本の(原発の)標準ぐらいになっています。あたらしいものはもう130万kwを狙うという時代に入って来て、そういう中で福島の事故が起こって来たんですが、10トンの水を沸騰させる、つまり液体を蒸気に変えるのに、どれくらいの時間がかかると思いますか?10トンというと、1立方m、のさいころを10個並べた量、大量の水です。どれくらいかかると思います?たった1秒です。それくらいの大変な熱量で運転されているのが、原子力発電所です。
ですから伊方の1、2号だったら大体2秒で、これ(10トンの水)をボーンと蒸気にする、それくらい大変な熱量を抱えているのが原発です。去年は3月11日に、地震でまず配管に亀裂が入りました。これはもう間違いないので断言しておきますが、今年の確か7月5日に出された、田中三彦さんら国会事故調の報告では、その「可能性」と書いてありますけれども、田中さんは知っています。間違いなく、配管に亀裂が入って事故が始まったんです。そうして水から燃料棒が顔を出す、そうすると大量の水素ガスが発生する。

こういうふうに事故が始まりまして、放射能がどうなったかと言いますと、福島県の南にあるのが茨城県、茨城県のつくばという所があります。ここの気象研究所に、何と沸点が5000近いテクネチウムのガスが飛んできました。これを聞いたとき、私はもう本当に震え上がりました。5000度という温度は、私はエンジニアとして工場で働いていたから知っていますけれど、こんな温度は体験したこともありません。鉄鋼会社だって、鉄の温度なんて1500度くらいまでしか、みんな知らないです。5000度ですよ。それぐらいのとてつもないものがガス化して出て行ったわけです。ですからテクネチウムよりも沸点が低いものは、ここに書き出した主に危険なものを囲っておきますけれど、こういうものは全部、ガス化したんです、原子炉の中で。



東京にもウランが降っているんです。霞ヶ関あたりの公園の土をアメリカ人たちが分析してくれて、(その結果)ウランが出て来ている。(日本では)誰も分析していないだけなんです。アメリカまでもプルトニウムが飛んで行った。最初私は、それは間違いだろうと思ったんですが、事実でした。アメリカのロッキー山脈の西側にも、放射性物質が降り積もっている。こんな大変な規模です。
今、国やTVや新聞に出ている放射能に関する危険性の記事、あれは全部デタラメです。本当に恐ろしい国だと思いますが、特に危険なのがクリプトンやキセノン、このことは誰も言っていないでしょう。クリプトンやキセノンはマイナスでもガス化するものですから、こんな状態では爆発で全部外へ出てしまいまして、地球全土を包みまして、そういうことからヨーロッパの人たちはこの福島からどれくらいの放射性物質が放出されたかということを推定して、ああいう計算結果が出ているわけです。これは非常に大事なことで、皆さんは何も言っていないけれども、クリプトンやキセノンについて何も言わないのは、おかしいんです。これはもう、直接、大量の被爆をしています。

私はこのことは事故があってからずっと、黙っていました。あまりにも取り返しがつかないので。けれど今年の2月に、福島に人たちが立ち上がって訴訟を起こすというので、涙ながらに福島へ行ってお話ししました。あなたたちは大変な被爆でこれから被害が出て来るんだから、そのことを知っておいてくださいと。で、クリプトンやキセノンによる直接の被害のことをお話してきました。ヨウ素もセシウムもストロンチウムもコバルトも全部ガス化して、こういう中で事故が進行したんです。

福島の事故は放射性物質が水素ガスや何かと噴出して行きまして、格納容器が壊れてしまいました。これは柔い、ただ閉じ込めるための容器ですから、こんなものはぶっ壊れちゃう。それで当時、菅直人と東京電力はどうしようかっていうんで、急いでここの弁を開けた。恐ろしいことで、これは絶対にやってはいけないことなんですが、これ(格納容器)が壊れたらもう大事故になります。格納容器は放射能を閉じ込める壁ですから、これがぶっ壊れたら大変だからっていうんで。



これ、酷いでしょう。構造を見てください。こんな所へ、(放射性物質を)閉じ込める容器にですよ、パイプを突っ込んでバルブをつけてあって、バルブを開いたら外へ出るような構造になっている。
原子力発電所ってのは、何の壁もないんです。事故があったら放射能を全部外へ出す。ここ(外)は福島県の空ですよ。我々の吸っている空気ですよ、日本中繋がっている。そこへ全部わーっと出し始めた。

こうして事故は始まったんですが、具体的に言いますとこういうふうになっています。最初にどこかに亀裂が入りました。どこかはわかりません、誰ももう覗けませんから。ともかく亀裂が入りまして、高温になって放射性物質と水蒸気と水素ガスが噴出して行って、この格納容器が壊れそうになる時に、(容器内の圧力が、容器の)耐圧の2倍になりました。(容器の)一番上の所は二重になっていますが、そこをぐっと下から押し上げたんですね。こうしてガスが出て行った。立体的に見るとこんな感じです。



このオペレーションフロアってのは検査の時に作業者のかたが働く場所ですから、ここは空気です。空気中に水素が出て行ったら、ちょとした刺激で爆発を起こします。こうして始まったのが福島の事故です。
これがちょうど爆発した時の映像なんですが、伊方原発では福島原発のようにはなりません。運転条件が違うんです。沸騰水型は原子炉の中で沸騰しますが、加圧水型は(沸騰水型の)2倍の圧力を加えることによって、水が沸騰できないんですね。気圧が薄くなると沸騰しやすい、富士山の頂上ななは沸騰しやすいでしょう。それと逆です。高い圧力にして、沸騰しないようにしてあるのが加圧水型で、圧力も高い、温度も高いですから、亀裂がちょっと入っただけで、メルトダウンへと至る速度は加速度的に早くなります。福島の比じゃないですね。

もう一つ、もっと怖いのは、福島では格納容器の中に窒素を入れてあるんです、爆発しないように。ところが伊方原発の加圧水型は、格納容器の中は空気なんです。ということはメルトダウンが始まった、水素がばーっと出て来たという時点でもう爆発するんです。福島では格納容器は今、形だけは残って、一応閉じ込めた形になっているんですが、伊方の場合は格納容器ごと飛んじゃうんです。建屋ごと全部吹っ飛びます。

そうしてこういった汚染が始まったわけですが、特に現地の皆さんに知っておいていただきたいのは、この時福島の人たちはどういう体験をしたかということを、皆さんの周りのかたがたに伝えていただきたいわけです。去年の3月10日まで福島県の中で誰一人、こんなことが起こるとは思っていませんでした。今この愛媛県の人たちも大部分がそう思っていると思いますが、だからこそ私は大声を出して、「起こるんですよ」ということを言っているわけです。必ず起こります、このまま行ったら。国に、あるいは電力会社に、皆さんの命を預けたら。



まず可哀想だったのが子供たちです。今かわいい子がこう手を上げていますけれど、この子をよく見てください。測っている人はマスクをしてるでしょう。この子はしてないじゃないですか。逆じゃないですか。私が心配なのは、この子が身体に取り込んだ放射性物質なんです。肺の中はどうなってるのか。それが心配なんです。
こうして福島の人たちはみんな放射線量を測ってもらって、みんな不安で。(3月)15日にはもう全部爆発しましたから。郡山と言えば大都市です。東京駅からガイガーカウンターを持って、新幹線に乗って行けば、郡山に入るとぐっと(ガイガーの数値が)上がります。福島でも上がります。福島の駅からタクシーに乗って、ずっと歩いてご覧なさい。タクシーで走ってご覧なさい。途中でぐっと(数値が)上がります。ぞっとするような数値が出ます。タクシーの運転手さんに、どうしてこのへんで上がるんだと聞いたら「あの山だよ、あの山に全部積もってるんだ」と。みんな知ってます。そういうような大都市が、大汚染しています。多くの人は隣の山形へ向けて、行列を作って逃げ出しました。新潟へも逃げ出しました。
ずらっとこう、行列を作って。

これが、事故があった時に自治体に起きる出来事です。私は伊方の現地へ連れて行ってもらった時にも、いろいろ自動車で通りましたけれども、ああここで事故があったら、ここの人たちは絶対に逃げられない、ということを体感しました。皆さんの方がよくご存知のはずですが、こんな所で事故がありましたら、ほとんどの人は身動きができなくなります。
そのことをちょっとお話します。4月、地震があった直後ですね。福島で異常があったことも、大事故に突入していることも、みんな知っていました。東京でも、もちろん。だけれども、住民にはなにもその危険性は知らされなかったんです。だから皆さん、想像したくはないけれど、万が一のことが伊方で起こった時には、国やTVは絶対に信用しちゃだめですよ。教えませんから。そういう時は四電(四国電力)の社員の人を捕まえて、家族はどうしてるかってことを聞くことです。その人たちは一番早く、社内で事故を知って伝え合うはずですから、まず四電の社員を捕まえて聞く、それしかないですね。皆さんが事故にあった時に一番取るべき行動はそれです。

今ほとんどのかたは携帯電話を持っていますが、(事故時には)何の役にも立ちません。全部パンクしますから。それで福島の人たちはどうしたかというと、爆発したってことを聞いたらすぐに家を飛び出して、ハンドルを握って逃げ出したわけです。逃げ出したのはいいんですが、外はこうですから。大地震ですから、道路はもうめちゃくちゃです。



地震のため道路はあちこち陥没してる、津波をかぶって通れない。どこの道を探しても、だいたいみんな一本道ですから、郡山方面に逃げろったって、(車が)数珠つなぎで動かないんです。必ずそうなります。このことは今までこの事故が起こる前、私も浜岡やら、現地の人たちに何度も言ったんですけれど、みんな聞きたくないんですね。でも、起こったでしょう。
2007年の柏崎の地震の時もそうでした。ずっとあの新潟の国道が渋滞していました。みんな一方向へ向かって行きます。結局、動けない。じゃあどうするのかっていうと、みんな渋滞している所から、これじゃ危ないと気がついた人は自宅へ戻って、目張りをして、閉じこもってどうするか考えた。そういうことをやって、かろうじてみんな、何とか1日、2日と過ごして来て、こういう時はガソリンや何かは非常に大事なんですが、もうガソリンもない、日本中から助けに来るはずの人も、誰も来ません。放射能と聞いて、誰も来ません。そこに、静かに、音もなく匂いもなく、放射能の雲が襲いかかって来る。これが副島で起こった出来事です。

*****

次回に続きます。

『紙でつくった物語展』

2012-11-22 | 展覧会
京都のギャラリーで来週、知人が個展を開きます。



Hedgehog Books and Gallery:ヘッジホッグ ブックス アンド ギャラリー

11月26日(月)~12月2日(日) 12:00~19:00 木曜定休 

オブジェと本の中間のような作品を作る人で、今回は物語を主題に10点余りを出品するとのこと。手に取って見られるものもあるそうです。
会場はギャラリー兼アート系書店をやってらっしゃるようで、ワタクシもまだ行ったことはございませんが、HPの写真を見ると恵文社ぽい雰囲気の、落ち着いたお店のようです。照明といい内装といい、いかにも彼女の作品が似合いそうな空間であり、どんなふうに展示されるかたいへん楽しみでございます。

『山口晃展 ~山口晃と申します 老若男女ご覧あれ~』

2012-11-20 | 展覧会
世界を損ない生を蝕むこの多大なる面倒くささよ。
すぐ目の前の課題に取り組むことすらすでに面倒くさく、
時間的空間的に遠くのことについて考えるのはなおさら面倒くさく、
問題が重大であったり深刻であったりするとさらに輪をかけて面倒くさい、
そんな罰当たりが世界の悲惨をよそに今日もだらだら緩慢に生きているからには、
やっぱり神様なんていやしないのですよ。そうは言っても今か今かと天罰を期待する日々。

それはさておき

2009年に開催された個展『さて、大山崎』以来、遅ればせながらの山口晃ファンとなったのろさん。美術館「えき」KYOTOで開催中の平等院養林庵書院 襖絵奉納記念 山口 晃展 ~山口晃と申します 老若男女ご覧あれ~へ行ってまいりました。

あっはっは。
やりたい放題万歳。

いえいえ、遊んでいるだけじゃないか、などと申したいのではございません。
いとも愉快な発想に彩られ、漫画的な様相を呈してはおりますが、氏の作品は高度な描写力と優れた構成力、鋭い世の中観察眼とおおらかな諧謔精神(そして旺盛な妄想力)に支えられた芸術であり、描線ひとつを取り出して見てもムムと唸らずにはいられぬ見事さでございます。

しかし、しかしですよ。
神社仏閣とハイパーメカ要塞が合体したような姿の大阪ドームですとか、乗用車やトラックに混じってさりげなく高速道路を走っている飛脚ですとか、レポート風に”電柱の美”を論じた連作『柱華道』などなど、氏がしれっとして紡ぎだす「ウソみたいなウソ」を目の当たりにしますと、技術よりも何よりも、そのやりたい放題かげんに、ワタクシはすっかり嬉しくなってしまうのでございますよ。
『柱華道』なんて、あまりにまことしやかで、完全に騙されているお客さんもおりましたよ。立派な屋根やら演台やら提灯やらが装備された電柱の図を前に、しみじみと「昔はこんなんやったんやねえ...」と。

ことほど左様に氏の作品はモチーフの面白さや描線の巧みさが秀逸であり、そうした細部に引き寄せられて、ついついずずいと近寄って細かい所ばかりを見てしまいがちなのでございますが、大きい作品に見られる端正な色彩感覚も、まことに結構なものでございます。本展の展示作品中ではとりわけ『當世おばか合戦 』が実にきれいでございまして、細部の鑑賞へと突入する前に、少し離れた所から全体を眺め渡し、その色彩のバランスに長らくほれぼれと見入りました。

大山崎での個展においても、可笑しさのあまり思わず吹き出してしまう作品がございましたが、本展で傑作だったのは2001年制作の『何かを造ル圖』でございます。

全体(拡大できないのが残念)
中間部分
左端

タイトルどおり、人々がより集まって「何か」を造る、その計画段階から完成に至るまでをひとつの画面に描いた、絵巻風の作品でございます。測量棒の赤白に始まり落成セレモニーの紅白幕に終わる、全体に渋めの配色もこれまたたいへん結構でございますね。実物はもっともっときれいなのですよ。

宇宙船のようでもあり、神社かなにかのようでもあり、結局のところ何なのかわからない「何か」を造るため、ある人は測量をし、ある人は力仕事をし、オタクは完成模型をつくり(たぶん)、現場監督は指示を出し、近隣の商店は小景気に沸き、どさくさに紛れてグラフィティ描きのワカモノまで現れたりして、なんだかんだあったすえ、いささかゲテモノ感漂う「何か」はめでたく完成...したらしいのですが、完成品を前にした、プロジェクトの出資者(たぶん)や現場監督の「どうしてこうなった」感の濃厚な表情がもう可笑しくて可笑しくて、ワタクシは一人で笑いをこらえるのに必死でございました。でもこういうものって、また吹き出しちゃうからよしなさい、という理性からの警告を遠くに聞きつつも、ついつい何度も見てしまうのですな。

展示の後半には新聞小説などの挿絵作品が並んでおりまして、いろいろなモチーフがいろいろな画風で展開されるさまを堪能できます。メカや人間はもちろん動物から建物から風景から、劇画風の表現やSF漫画っぽい絵まで、ほんとに何でもよく描ける人だなァと改めて感服いたしました。

そんなわけで

ぱっと見は何の違和感もない端正な絵でありながら、じっくり見て行くとあれよあれよとヘンな世界へ連れ去られてしまう山口晃ワールドにどっぷり浸ったのち、娑婆の空気を吸いながら京都タワーなぞ見上げますと、ゴゴゴゴという轟音とともにタワービルが整然と解体していつしかそこにはタワーを尖塔に頂いた和洋折衷巨大メカ要塞が出現

するかのような錯覚にふと見舞われたのでございました。


活断層のこと

2012-11-13 | Weblog
つぎの休日こそは
絶対に休むんだ。
そして山口晃展に行くんだ。

それはさておき

大飯原発破砕帯調査団のお一人であり、最近とみにお名前を耳にすることが多くなった渡辺満久東洋大教授、当のろやでも以前の記事でご紹介いたしましたが、大飯の破砕帯調査を受けて行われた、インターネット報道メディアIWJによる本日のインタビューもまことに分かりやすく、かつ興味深いものでございました。

渡辺満久教授 インタビュー

まあ、興味深いと言うか何というか。
いろいろ酷い話ではあります。
あまりに酷い話ではあります。
原発を建てたいがために、活断層は存在しなかったことにされるという、「は?」としか言いようのない事例の数々。
何かあったら北半球壊滅とも言われる六ヶ所の再処理場なんか、よりによってこんな所にぶっ建てちゃってどうするんでしょうか。いや、そもそもこんな地震列島のどこに建てようとおおむね危ないのかもしれませんが。

というわけで怒りとともに暗澹たる思いに見舞われること必至ではございますが、お話自体はとても面白いので、ながら見で荒れ何であれ、ぜひご覧いただければと思います。

マーク・ストロングばなし色々

2012-11-06 | 映画
なんだかくたびれておりまして
冬布団をひっかぶるや10時間も寝てしまいました。
さらに夢の中でも同じ布団をもそもそとひっかぶって、眠りについておりました。
そこでまた夢を見たかどうかは覚えておりません。

夢の中でさらに夢を見たとなると、話がいささか『インセプション』じみてまいります。しかし遠路はるばる無意識の深層まで目を覚まさせに来てくれるなら、刑事プリオよりジョゼフ・ゴードン・レヴィットでお願いしたい所ですな。刑事プリオさんに起こされても、その後さらに一悶着ありそうで安心できません。ジョゼフ・ゴードン・レヴィットなら孤軍奮闘に慣れてらっしゃいますから、何かあっても任せておけば一人で何とかしてくれるでしょう。レヴィットさんが一人で頑張ってもどうにもならないようなら、どこからともなくコウモリの格好をしたタフガイが現れるでしょうから、すかさず「アルフィー泣かすな馬鹿やろー」と怒声を浴びせつつ、石の詰まったカバン、あるいはそこらの角材でタフガイの後頭部をぶん殴るわけです。そしてマーク・ハミル声で高笑いするわけです。

ぐへははははははははははは。


何の話でしたっけ。
そうそう、クリストファー・ノーランですよ。
ノーラン監督がマーク・ストロングと組んで映画撮ってくれないかと、ワタクシもう久しく期待しているんでございますがね。堅実な演技力としゅっとした風貌の持ち主であるソーターさん、割とノーラン好みの俳優だと思うのですよ。

そのソーターさんといえば、ウサマ・ビン・ラディン暗殺を題材とした、キャスリーン・ビグロー監督による新作『Zero Dark Thirty』の北米公開が来月に迫ってまいりました。

ZERO DARK THIRTY - Official Trailer - In Theaters 12/19


Zero Dark Thirty - Official Trailer #2 (HD)


今回はまともな↓髪型のようです。よかったよかった。

From his command post inside the CIA, Mark Strong directs the fight against the world's most dangerous man in Columbia Pictures' revealing new thriller directed by Kathryn Bigelow, ZERO DARK THIRTY. | Rope of Silicon

ソーターさんはCIAの作戦司令官という役どころのようで。題材からして悪役というポジションではなさそうではございますが、トレーラーの苛立ちもあらわなセリフ回しから鑑みるに、なかなかイヤな奴のような予感がいたします。

公開が待たれる『Welcome to the Punch』や刑事ドラマ『Blood』でも悪役ではなさそうですし、ドラマ『The Long Firm』に始まり『シリアナ』『トリスタン+ イゾルデ』『サンシャイン2057』『スターダスト』『バビロンAD』『ヴィクトリア女王 世紀の愛』『シャーロック・ホームズ』『キックアス』『ロビン・フッド』『グリーン・ランタン』『ジョン・カーター』『ザ・ガード』と6年に渡る怒濤の悪役道からもそろそろ降りられるかに見えるソーターさんではございます。しかしファッション雑誌が悪役俳優特集をするとなれば、この人を外すという手はございません。

Bad Guys: The GQ Villains Portfolio featuring Benicio Del Toro, Malcolm McDowell, and Others: Movies + TV: GQ

唇から安全ピン。よくお似合いです。
動画では1分の枠内で「スーツケースに何かを押し込んでいる所」を演じるソーターさん、無駄に怖い。しかし去り際が何ともカッコいいですなあ。一方インタヴューでは温和で地に足の着いたお人柄が伺われます。悪役としてはシェイクスピアのリチャード三世がお気に入りとのこと。

インタヴューは一部を動画で見ることができます。こちらで。左側にある点線矢印をクリックすると質問の項目が切り替わります。とりわけ、前から三番目の「役から抜け出すのは大変じゃありませんか?」への受け答えはマーク・ストロング好きなら必見のステキ動画でございます。「悪役を演じて帰ったからって、家で奥さんや子供たちを怖がらせるようなことはないよ」、「よく言われるんだけど、僕が初めて悪人(The Long Firmのハリー)を演じることになった時、僕なんかじゃ、あの役が持つ悪の深みを表現できやしないだろう、とみんな思ったらしい。僕は”いい人すぎる”から、だってさ。実際、いい人でありたいと思うよ」とおっしゃる時の表情なんて、実によろしうございますね。

最後の「”お~、いい天気だなあ”という台詞をまずは普段の自分として、次に悪役として、言ってみてください」という項目もたいへん面白い。しかし何故マルコム・マクダウェルだけBGMつきなんでしょうか笑。
ソーターさんはといえば、このリクエストに対してあえて「自分/悪役」の演じ分けをすることなく、こう答えてらっしゃいます。
「文脈から切り離されたかたちでは演じられないと思う。演じるとしても、普段の僕と同じ喋り方をになるだろう、(善人役も悪人役も)演じ方自体に違いはないから。善玉たちは、自分が正しいと信じていることをやっているわけだし、悪役たちだって、自分のことを必ずしも悪人と思っているわけじゃない。それに、本当に悪い奴なら、自分が悪人だと気付かれないように気をつけるだろうから、あえて邪悪そうな喋り方をしたりはしないんじゃないかな」

全体に「役から抜け出すのが大変だから、ホテルの部屋はいつも緩衝剤を張り巡らせた精神病院仕様にしてるんだ」とか「自分の邪悪度?47.6998%かな」といったジョークを交えながらのベニチオ・デル・トロや、「夢にまで出て来るほど怖い悪党」の例として家主や国税庁の役人を挙げるロン・パールマンと比べますと、わざわざ「こういう言い方が許されるとして...」という留保をつけながら”悪役を演じる楽しさ”について語ったり、今あなたが一番怖いものは何かという質問に対して「他の人に対してきちんと振る舞わない人とか、市民を殺す独裁者とか」と言うソーターさんの受け答えはたいへん生真面目であり、生真面目すぎる感さえございます。

いいのです。
何度でも申しましょう、ギャングや殺し屋や冷血漢や卑劣漢やおっかない独裁者の役どころに引っ張りだこである一方、実際は謙虚で人当たりのいいナイスガイとしてよく知られているソーターさんでございますもの。それはもう、テレビ、映画、小説、漫画などの創作作品をテーマとした用語集サイト「TV Tropes」も”super nice and humble(謙虚だし超いい人)”と太鼓判を押すほどのナイスっぷりでございます。
Mark Strong - Television Tropes & Idioms

↑の見出し画像に使われているのは『ロックンローラ』のアーチーおじさんでございますが、『ロックンローラ』といえば続編の話はどうなったんでございましょうか。ガイ・リッチーは続編の脚本をもう書き上げたというようなことを随分前に言っていたようですが、果たして制作のめどはついているのやら。アーチーおじさんことマーク・ストロングも、ハンサム・ボブことトム・ハーディも、この5年の間にすっかり売れっ子になったことですし、この忙しい二人を招集するだけでも大変そうです。といいますか、トム・ハーディはもはや別人としか思えないほど筋肉隆々になってしまいましたから、もし再びなよっとしたハンサム・ボブを演じるとあれば、『マシニスト』前のクリスチャン・ベール並みの苛酷なダイエットをせねばなりますまい。
そうこうしているうちに、ソーターさんにはさらなる新作のお声がかかったりしておりますし。
 
Mark Strong set for 'Sleep' - Entertainment News, Film News, Media - Variety

ニコール・キッドマンとの共演ですって。
バットマンやスーパーマンがそろい踏むアメコミ『ジャスティス・リーグ』の実写映画化企画も進んでいるとのことで、ソーターさんが『グリーン・ランタン』に続いて悪役シネストロとして出演なさるのかどうかも気になる所です。ワタクシとしてはソーターさんには、全身黄色タイツのおっさんシネストロよりも、黒いスーツをビシッと着込んで、スーパーマンの宿敵レックス・ルーサーを演じていただきたいのです。まず実現しないキャスティングだとは分かっておりますけどね。何せルーサー役には、ケヴィン・スペイシーというこの上なく強力で魅力的な先任者がいるわけですから。
しかし、もし、もしもですよ、マーク・ストロング演じる仏頂面ルーサーのハゲ頭を、ジュード・ロウ演じるジョーカーさんがニヤニヤスマイル全開でおちょくるといったシーンが、もしも実現したなら!
おお、ワタクシは2秒かそこらのそのシーンを見るためだけにでも、喜んで劇場に足を運びますとも。