のろや

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マーク・ストロング映画勝手にガイドその1

2018-01-19 | 映画
日曜からずうっと『カントリー・ロード』の脳内再生が止まらないのろでございます。
もともと好きな曲ではありましたが。

それはさておき
『キングスマン2 ゴールデン・サークル』シリーズでマーリンを演じたソーターさん、もといマーク・ストロングが毎度のことながらとってもいかしておりましたので、ふと思ったのでございますよ。ひょっとして、このシリーズをきっかけにソーターさんが気になりだした人もいるかもしれないと。
というわけで、そんな慧眼なあなたのために僭越ながらマーク・ストロング出演作お薦めガイドをしてみようかと思い立った次第。
全ての出演作を観ているわけではございませんが、メジャーどころはだいたい押さえているつもりです。


さて、マーク・ストロングかっこいい、でもどの作品から見たらいいか迷っている、という方に真っ先に観ていただきたいのが『ワールド・オブ ライズ』(2008)でございます。

Body of Lies (5/10) Movie CLIP - Be a Good Muslim (2008) HD


ほら、『キングスマン』とは違って頭ふさふさの、そしてすらりとした長身にビシッとスーツを着込んだ、エレガントで渋い諜報局長が出てきますでしょう。それがマーク・ストロングですよ。ちなみに頭はカツラ。
ハニ・サラームという役名が示すとおり、アラブ人(ヨルダン人)の役でございます。アラブなまりの英語があまりに自然なので、ヨルダンの観客も自国の俳優かと勘違いしたんだとか。
中東を舞台として虚々実々の情報戦を描いたこの作品、表看板を務めるのはディカプリオとラッセル・クロウでございますが、まあ御覧なさい、ハニの存在感の前に何もかも吹っ飛びますから。監督はリドリー・スコット。手堅い作りで最後まで観客を飽きさせません。ロンドン映画批評家協会で助演男優賞にノミネート。


そりゃハニは男前である、しかし登場シーンが少なすぎる!もっとマーク・ストロングを出せ!という方には『ロックンローラ』(2008)と『スターダスト』(2007)がお薦めでございます。

Mark Strong as Archy [RocknRolla] → I'm a man.


『ロックンローラ』はガイ・リッチー監督の軽快なクライム・コメディ。お話がなかなかよくできておりますし、癖のあるキャラクターたちのやりとりも楽しい。ソーターさんが演じるアーチーは準主役、割と出ずっぱりでございます。時には非情で時にはお茶目、ヤクザのボスの有能な右腕でありつつ、愛情深い父親のような顔も見せるアーチーおじさんはとっても魅力的でございます。
またマーク・ストロングは大仰な身振りや大げさな表情なしでコミカルな演技ができる人で、例えば終始ぴりぴりとした緊張感の漂う悲劇『橋からの眺め』(ナショナル・シアター・ライヴ 2016)ですら、所々で客席の笑いを取ることに成功しております。本作ではその技量が遺憾無く発揮されており、何度見ても楽しい。同じくマーク・ストロングが出演するガイ・リッチー作品『シャーロック・ホームズ』に比べるとマイナーな作品ではございますが、ワタクシはこっちの方が面白いと思いますよ。
共演俳優も豪華で、なよっとして可愛いらしかった頃のトム・ハーディや、近年はえらいひとを演じることの多いイドリス・エルバのチンピラ姿も見ることができます。おまけにDVDのコメンタリーは何と監督とソーターさんの対談形式!役名もなく1シーンしか登場しないチョイ役の演技もきちんと褒める一方、自分が褒められた時はあくまで謙虚なソーターさん、時々危ういことを言うガイ・リッチーに対する見事なフォローっぷりをもご堪能いただけます。以前にも書きましたがマーク・ストロングのナイスガイっぷりは有名で、このコメンタリーでも言葉の端々からいい人オーラがにじみ出るようでございます。いやあ眼福ならぬ、耳福、耳福。

『スターダスト』はニール・ゲイマン原作のファンタジー映画。監督はマシュー・ヴォーンでございます。

Stardust (1/8) Movie CLIP - The Matter of Succession (2007) HD


ちなみにマシュー・ヴォーンの枕詞は「キック・アスの」でも「キングスマンの」でもなく、はたまた「時々描写がエグい」でも「微妙に悪趣味な」でもなく「マーク・ストロングをかっこよく撮る」マシュー・ヴォーン、でございますよ!その記念すべき最初のタッグがこれ。ソーターさんが演じるのは冷酷非情な第七王子、セプティマス。ライバルである兄たちを次々と蹴落とし(=殺し)て王座を狙う切れ者の野心家でございます。漆黒の衣装に身を包み、黒髪をなびかせて馬を駆るその姿の何と凶兆に満ちた素敵さよ。アイスランドを舞台にしたという素晴らしいロケーションにも目を奪われます。
空飛ぶ船や一角獣、魔女に魔法に乙女の心臓、王の宝石に呪われた姫君と、ファンタジー好きのツボを突いて来る道具立てを揃えながらも、皮肉な視点とブラックな笑いに満ちた本作、とても現代的な作品でございます。何より、デ・ニーロの弾けっぷりがいい。どう弾けているかは見てのお楽しみ。それから息子たちに王位を争わせる父王を演じているのが、御歳75歳であったピーター・オトゥールでございまして。このキャスティング、絶対『冬のライオン』のパロディですよね。
この王が臨終の枕辺に子供達を呼び寄せた時、一人娘の王女が来ていないことに気づいて…

王「セプティマ〜ス(ニヤニヤ)」
セ「何です」
王「王位を継ぐのは男子のみと決まっておるのだぞ(なのに妹まで殺っちゃったな〜この悪い子め〜ニヤニヤ)」
セ「分かってます。私が妹を殺すわけないでしょう、まだこのアホども(=兄たち)が残ってるのに」(真顔)
王「それもそうだな」

…というやりとりがもう大好きで。
なお「残ってる」といってもこの時点で生きているのは7人兄弟のうち、末っ子のセプティマスを含めてたった3人。他の兄弟たちはとっくに殺されており、頭にオノが刺さったり顔がひん曲がっていたりと、殺された時のままの姿で幽霊として物語に参加して来ます。これがまた実に傑作なんでございます。同監督の『キングスマン』がスパイ映画のパロディとしてのスパイ映画であるように、『スターダスト』はファンタジー映画のパロディとしてのファンタジー映画でございます。ファンタジーはちょっと…という方にもぜひ観ていただきたい。


もっと渋目の、演技をがっつり堪能できるようなのがいいとおっしゃる方にお薦めしたいのが『裏切りのサーカス』(2011)。

New Tinker Tailor Soldier Spy Clip - Be suspicious; be very suspicious


できれば原作を先に読んでから鑑賞した方がよろしいかと。といいますのも、原作である傑作スパイ小説『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』の映像化はこれが初めてではなく、そのせいもあってか映画は必要最小限の語りとごくごく抑えられた演出で進んでいくからでございます。それにソーターさんが演じるジム・プリドーという登場人物、小説の方ではより詳細にに描かれるこいつが本当にいい奴でして。軍人のような無骨さと、スパイには不向きなほど暖かい心の持ち主、生真面目で嘘が下手で、「懸命に隠している優しさ」を結局は隠しきれないでいる傷ついた男、ジム。このキャラクターをマーク・ストロングが演じるのかあ、とワクワクしながら読み進めるのも、いいもんでございます。登場シーンは決して多くはございませんが、まなざしだけで全てを物語る演技は必見でございます。特にクリスマス・パーティの追憶から連なるラストシークエンスは、ジムの期待と失望、愛と孤独がほんの数十秒の展開の中でひしひしと伝わってまいりまして、見る者の胸を締め付けずにはおりません。
さらにこの映画、ソーターさんの他にも主人公スマイリー役のゲイリー・オールドマンをはじめ、ジョン・ハート、コリン・ファース、トム・ハーディ、ベネディクト・カンバーバッチと名優ぞろいの超豪華キャスト作品でございまして、視線や顔の角度やちょっとした身振りひとつで心の機微を表現する繊細な演技の数々も見ものでございます。ジョージア映画批評家協会賞、セントラルオハイオ映画批評家協会賞などでベスト・キャスト賞受賞。
当ブログの関連記事はこちら↓
『ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ』のこと - のろや
インタヴューwithゲイリー・オールドマン&マーク・ストロング その1 - のろや
インタヴューwithゲイリー・オールドマン&マーク・ストロング その2 - のろや

映画も演技もよかったけどやっぱりマーク・ストロング成分が足りないぞという方、そんなあなたにも絶対にご満足いただけるのが、上でも少し触れました『橋からの眺め』(ナショナル・シアター・ライヴ 2016)でございます。

A View from the Bridge at the Young Vic


アーサー・ミラーによる荘厳な悲劇。誰もが最初から何となく予想しながらも、そうならないで欲しいと願う結末へ向かって、物語はきしりながら進んで行きます。怒りとも嫉妬とも名づけがたい激情に押されて、自分が最も忌み嫌っていたはずの行動に出て破滅していく主人公エディを演じるのがソーターさん。純粋さと狂気、人間らしい苦悩と神話的な荒々しさを体現するかのような鬼気迫る演技で、ローレンス・オリヴィエ賞、シアター・ワールド賞で主演男優賞受賞。

↓☆4.3!とりわけマーク・ストロングに関しては絶賛の嵐でございまして、読んでいると嬉しくなります。
ナショナル・シアター・ライヴ 2016「橋からの眺め」 - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks


次回に続きます。


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