のろや

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マーク・ストロング映画勝手にガイドその2

2018-01-20 | Weblog
1/19の続きでございます。

さて、マーク・ストロングの出ているものなら何でも見たいという気になって来たあなたに、満を持してオススメしたいのが『リボルバー』(2005)。そう、ガイ・リッチーの失敗作として名高い一本でございます。

リボルバー 予告編 -Revolver-


スタイリッシュな映像と、進むにつれて加速度的に観客置いてけぼり感を高めていく展開、独特といえばそうではありますが、アートフィルムと呼ぶには俗っぽく、エンタメ映画と呼ぶには不親切という宙ぶらりんな作品でございます。暗転と沈黙のうちにエンドロールが終わったあと、観客の頭にこだまするのは「何これ」と「でもソーターはよかった」という声でございましょう。見た人100人が100人とまではいわずとも、およそ98人くらいは賛同してくださると思います。
「情緒不安定な殺し屋」、ソーター。冴えないサラリーマンのような風貌に、吃音でつっかえつっかえ話すうつむきがちなおっさん。この人物が有能なヒットマンであるとは見た目からはとうてい信じがたい。ところがどっこい、ひとたび銃を構えれば(そして気分が悪くなければ)素早い判断と正確無比な狙いでターゲットを確実に葬るハイパー凄腕でございます。しかもたとえ雇い主の意向であっても、拷問や子供の犠牲といった残酷な仕打ちは許せないという、案外に熱い心の持ち主でもあります。ちょっとネタバレになりますけれども、映画の終盤でソーターが女の子を助けるシーンときたら、まさしく 胸 熱 でございます。男性だろうと女性だろうと、あの一連のシーンを見てソーターに惚れない人類なんて存在するのかしらと思いますよ、ええ。
失敗作ではあろうとも、この映画はワタクシがマーク・ストロングという俳優を知るきっかけとなった作品でございます。それにワタクシ、ソーターというキャラクターが本当に大好きでございますので、当ブログにおいてはマーク・ストロングのことをしつこくソーターさんと呼び続けております。いちいちマーク・ストロングと打つのが面倒くさいからでもありますが。
ジェイソン・ステイサム演じる主人公の心の声と映画の中の現実が錯綜して話がわかりにくく、よほどの物好き以外には薦めにくい作品ではございますが、マーク・ストロング好きなあなたにならば自信を持って言えます。今すぐ見ましょう!今すぐ!マーク・ストロング好きなら決して損はしません!ソーターの勇姿を見ないでうっかり死んだら、人生無駄骨でございますよ!!


というわけでワタクシがマーク・ストロングを発見したのは『リボルバー』においてであったのですが、世間一般で言うところのソーターさんの出世作といえばBBCの4話ものドラマ『The Long Firm』(2004)でございます。

Mark Strong - The Long Firm video


原作の小説は『暗黒街のハリー』のタイトルで日本語訳されております。またDVDは英語字幕が出るように設定できますので、リスニングが苦手でもセリフは追えます。
1960〜70年代のロンドンを舞台に、才覚とカリスマ、そして非情さを武器に裏社会で頭角を現していくユダヤ人、ハリー・スタークスの生き様を描いた本作。ドラマの方は時系列に進みますが、小説ではいきなりハリーが熱した鉄棒を手に「ショウほど素敵な商売はない」を口ずさみながら、椅子に縛り付けたもと恋人の青年(ハリーは同性愛者)を拷問しようとしているショッキングなシーンから始まったのち、青年の回想のかたちでハリーとの馴れ初めが描かれます。そののち語り部がハリーと関わりのあった仲間や友人へと章ごとに交代して行き、一人称でナレーションすることのないハリーという人物を外部の視点から描いていくのはドラマも小説も同じ構成。
相手を屈服させることを好み、「俺はこの手で椅子に縛り付けられないような人間とはビジネスをしたくない」と言い放つハリー。脅迫に拷問に殺人と極悪非道なことも平気でやるくせに、妙に夢見がちでナイーヴな側面があるハリー。母親思いで、恋人には優しく(もちろん裏切らないかぎりは)、抗鬱剤を手放せないハリー。ショービジネスに憧れ、ジュディ・ガーランドを崇拝し、ちょっとセンスが時代遅れのハリー・スタークス。

ハリーは凶暴さの中にも魅力があり、人々は吸い寄せられるように集まった。いやでも引きつけられてしまう強引なほどのカリスマ性を持ち、そのカリスマ性が放つオーラの中にいれば安全だと思わせた。ちょうど鮫にぴったり近づいて泳ぐ小魚のように、ハリーのスリップストリームの中にいると守られている感じがするのだ。(byテリー、p.22)

ハリーは人を脅して従わせる稀有の才能を持ち合わせている。「ただの心理的な駆け引きさ」とハリーは言う。そういうむずかしい話はおれにはわからない。しかし、極悪非道であることは確かだ。そしてハリーは、極悪非道以外の何物でもない。(byジャック、p.143)

ショービジネスのことになると、ハリーはセンチメンタルな思い込みが激しい。ちょうど魔法の世界に憧れる子供のように、エンターテイメント業界を無邪気な目で見ているのだ。(byルビー、p.257)

私は上の空でうなずいたけれど、そのとき突然、ハリーのいおうとしていることがわかった。人殺しの罪をかぶってやろうといっているのだ。この私の罪を。(byレニー、p.376)

この人物をソーターさんが演じているというだけでワクワクしませんか?しますでしょう。面白いことに当初ドラマの制作陣の間では、マーク・ストロングでは「いい人そう」すぎて、凶悪さや深みを持つハリーの役は務まらないのではないかと懸念する声もあったとのこと。どっこい、蓋を開けてみればソーターさんの演じるハリーがあまりにも素晴らしかったので、その後の数年間ソーターさんには悪役のオファーが殺到することとあいなったのでございました。なおこの時プロデューサーであったリザ・マーシャルさんとソーターさんはのちにご結婚されるわけですが、彼女のアメリカ側の親戚、つまりソーターさんの非・悪役時代をよく知らない方達から「あんな怖そうな人と結婚して大丈夫なのか」と心配されたんだとか笑。
しかし上記のようにハリーはただ凶暴なだけのキャラクターではございません。時々露わになる素朴さやもろさ、虚栄、友情、傷つき、そうしたものが折り重なった複雑多岐な側面を、文句なしの説得力で演じきったソーターさん、英国アカデミー賞主演男優賞ノミネート&放送報道組合賞の主演男優賞を受賞されました。


ここで『The Long Firm』以降のソーターさんの悪役&悪党遍歴をちょっと見て見ましょう。すごいですよ。2014年のジャガーのCMほか - のろやも含めると、10年間毎年欠かさず、なにがしかの悪党を演じた作品が公開されております。

2005
『オリヴァー・ツイスト』トビー・クラキット:ゴロツキ
『シリアナ』ムサウイ:二重スパイ
2006
『トリスタン+イゾルデ』ウィクトレッド:裏切り者
2007
『サンシャイン2057』ピンバッカー:狂信者
『スターダスト』セプティマス:冷酷な王子
2008
『バビロンA.D』フィン:裏切り者
2009
『ヤング・ヴィクトリア 世紀の恋』ジョン・コンロイ:威圧的な野心家
『シャーロック・ホームズ』ブラックウッド卿:テロ扇動者
2010
『キック・アス』フランク・ダミーコ:ギャングの親玉
『ロビン・フッド』サー・ゴドフリー:裏切り者
2011
『ザ・ガード 西部の相棒』コーネル:麻薬密輸犯
『グリーン・ランタン』シネストロ:悪役予備軍
2012
『ジョン・カーター』マタイ・シャン:神かなんか
2013
『ビトレイヤー』スターンウッド:大物犯罪者


そんなわけで、次回はソーターさんが悪党を演じた映画について取り上げさせていただきたく。

続きます。


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