のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

とどこおり中。

2016-09-28 | Weblog
さくさく投稿して旅行記をいいかげん終わらせたいのですが、この所Macさんの具合がたいへん悪くて。
5年目だし、冬は激寒・夏は極暑の劣悪環境だし、寿命かしらん
何もかもままなりません。

長野行その3(川本喜八郎人形美術館)

2016-09-17 | 展覧会
長野行その2の続きでございます。


ホールのミニチュア人形たちを満喫し、満を持していよいよ展示室へ。
人形たちを太陽光や外気から守るため、展示室入口には窓のない自動ドアが設けられており、通路からは中の様子が窺い知れません。
憧れの大スターに会いに行くような心地で、いささか緊張しながらほの暗い展示室に足を踏み入れますと...
いきなり呂布&貂蝉!
ダウンライトを浴びて暗闇の中に寄り添い立つ呂布&貂蝉!
やっほう!

というわけで以下、怒濤の呂布語り。

さてひと口に三国志演義ファンといいましても、登場人物の好みはまちまちでございましょう。ヒーローすぎる劉備・孔明は嫌いだという人もあれば、義人とはいえ傲慢な振る舞いもある関羽はいけ好かないという人もおりましょう。悪役の曹操が嫌いだという人や、張飛は粗暴すぎて嫌だという人もおりましょう。しかし「演義」ファンの中で、呂布が積極的に嫌いだという人はいないのではないだろうかと、ワタクシ何となく信じております。何故ならば「演義」の呂布は、全話を通じて最強と言ってもいい程の武勇を誇るとんでもなく勇猛な武将である一方、あらゆる人間的な誘惑に屈するとんでもないバカでもあり、要するに憎めない奴だからでございます。

うちの呂布。(海洋堂出身、身長6cm)

装束の色合いは実物と若干違いますが、とてもよくできております。

バカ、といっても頭が悪いということではございません。天下無双の名馬に釣られて義父(兼主君)を裏切り、傾国の美女に釣られて次の義父(兼主君)も裏切り、目の前の城に釣られて協力者を裏切り、かと思えば口のうまい輩には簡単に丸め込まれ、妻に泣きつかれれば軍師の献策を踏み倒し、進退窮まっては酒に溺れ、ついには部下に裏切られ、捕らえられた後も潔く死ぬでもなく、最後の最後までじたばたしたあげくに処刑される、とまあ人間的弱さの見本市のようなキャラクターであり、行動がいかにも大人げないという意味での「バカ」でございます。しかもこれだけトラブルの種をまき散らしながら「俺は争いごとが嫌いな性分なのだ」と自分が裏切った当の劉備に向かって言い放つ無神経さ。

とはいえ呂布には、金銭にがめついだの地位にしがみつくだのといったいやらしさは見られません。また何かをいつまでも根に持つといったな底意地の悪さや、先々のためにこっそり根回しをする、表と裏の顔を使い分けるといった陰湿な側面もございません。ひたすら目の前の「いいもの」に釣られてあちらにぶつかり、こちらによろけ、その過程であらゆる信頼関係を破壊しながら突き進む様は、むしろ妙に子供っぽさすら帯びております。また一騎当千の猛者であり「人中の呂布、馬中の赤兎」ともてはやされながらも、短絡的な選択を重ねて自ら滅んで行くその姿には、一抹の悲哀が漂います。

単純脳筋野郎と見られがちなキャラクターではありますが、実際はそんな爽やかなものではありませんし(笑)、爽やかではない所が呂布の魅力の一つであろうとワタクシは思います。直情型でも張飛のような愛嬌はなく、勇猛でも許褚のように素朴ではなく、千人並みの武勇を誇りながら精神的にはひどく脆弱で、猛々しさと子供っぽさと悲劇性を併せ持つ英雄。こうした複雑な魅力が、川本人形の呂布には見事に表現されております。緑と赤を基調にしたいとも華やかな衣装も、天下の名馬・赤兎にうちまたがり無人の野を行くがごとく戦場を駈けめぐる猛将のイメージにぴったりです。声を担当した森本レオの演義も素晴らしかった。

ところでTV画面で見た時、呂布は他の人形たちと比べて大きく見えたものでございます。しかし実際に貂蝉と寄り添って立っているのを見ますと、少し背が高いくらいで、それほど甚だしい違いはございません。おそらく他の武人系人形と同じ程度の大きさかと。おそらく両肘を張ってのしのし歩く歩き方や、横目で睨みつけながら顎を反らすゼスチャーなどの傲然とした身振りが、実際よりも人形を大きく見せていたのであり、人形遣さんの巧みさの現れという所でございましょう。

そうそう、人形の動かし方なんですけれども。
展示室内に衣装を着ていない状態の人形が置いてありまして、何とこれを、来館者が手に取って動かしてみることができるんですぜ。持ってみて驚いたことには、人形の腕を動かすための棒が意外に重い。ピアノ線製なのだそうです。人形遣いさんは片手で人形の支柱を持って首の角度を変えるレバーを操りつつ、もう片方の手で支柱を支えながら人形の手首に接続している2本の棒を動かさなくてはなりません。これがまあ、やってみると実に大変で、人形の腕がすぐ変な方向へよれてしまいます。


実際の棒はもっと長かったです。

展示室に出されていたのは一番簡単なつくりの、首と腕が動くだけの人形でしたので、目を動かす時はどうするのかとスタッフのかたに尋ねた所、さっそく奥から目用と口用とレバーがついた人形を出して来て実演してくださいました。他にも衣装は人形の体に縫い付けてあるとか、三国志人形の中で一番の衣装持ちは劉備である(17着もあるんですって!)とか、色々と教えて頂きました。


需要の有無に関わらず次回に続きます。

長野行その2(川本喜八郎人形美術館)

2016-09-09 | 展覧会
9/5の続きでございます。


長年の念願かなってやって来ました川本喜八郎人形美術館。入ってすぐのロビーには、名文として名高い「出師の表」を背にして、サイズの大きめな孔明人形が佇んでらっしゃいます。ワタクシとしてはどうしても、劇中で使われていた、頭部が大きめに作られた人形のイメージがあるものですから、この7頭身の孔明人形にはとりわけ感慨は抱きませんでした。そう、ワタクシはちょっとよそよそしい「この」孔明人形ではなく、水色の衣に黒い背子をはおり、いつも心持ちうつむき加減で、水が流れるようにさらさらと歩を進める「あの」孔明人形に合いに来たのですから。とはいえ衣の陰影が実に美しいので横からもパチリと。展示室内は撮影禁止ですが、ここは自由に写真を撮ることができます。


ロビーの片隅、展示室へと向かう階段のふもとに、美術館スタッフが作ったというミニチュア人形たちが並んでおりました。こちらは期間限定の企画のようです。

ウェルカム人形展とすてきな世界の人形劇ポスター展 2 | 飯田市川本喜八郎人形美術館 | お知らせ

今回の展示テーマ「後漢末〜三顧の礼」に合わせたのでしょうか、三顧の礼の一場面が再現されております。


午睡中の孔明先生、黙って目覚めを待つ劉備、怒る張飛となだめる関羽。隅っこの方についでのように超雲がいるんですが、なぜか槍先に血糊がついてるYO!


(←左)城壁の外には妖しい道士ズ。左の白い方は左慈ですが、右の方は于吉か管輅か、はたまた紫虚上人でしょうか。


ワタクシは人形劇三国志が本当に大好きです。子供の頃は毎週放送を楽しみにしておりましたし、10年ほど後に再放送されたものはことごとくビデオに録画し、好きな話は何度も繰り返し観たものです。しかし、こんなワタクシにしてもどうしても擁護できない点が3つございます。即ち、

1.左慈が出しゃばりすぎる
2.呂蒙の扱いがひどすぎる
3.龐徳の声がせんだみつお

そう、左慈がですね、やたらと出張って来るのですよ。劉備の所にまで現れて幻術で惑わそうとするわ、曹操を催眠術で操ろうとするわ、もうやりたい放題でございます。左慈は他の人形たちと違って眼球が入っておらず、代わりに妖術を使う時に眼が赤く光るなど面白い所もあったのですが、あんまりしつこく出て来て幻術の大盤振る舞いをしやがりますので、しまいには「もういいよ」という気分になってしまいました。これが『水滸伝』だったら別に構わないのですよ、ええ、杖の一振りで狂風が吹きまくろうが、派手に幻術大会やらかそうが。最終的には公孫勝先生が出て来てエイヤッとやっつけてくれますしね。でも、三国志ではちょっとねえ。

(→右)呉コーナーは「碧眼紫髭」の孫権がいるのでそれと判りますが、孫権の横の周瑜以外はちょっと誰が誰やら判りかねます。後列のもみあげ延ばしてるのは闞沢かなあ?

(←左)こちらは魏コーナー。白面に三白眼の曹操が中央におります。向かって左の眼帯姿は夏侯惇に違いありません。右のひねくれた表情をしているのは曹丕でしょうか。

(→右)曹操の後ろにいるのは曹操以上に目つきの悪い司馬懿。

(←左)一番手前には董卓・王允・貂蝉・呂布の「連環の計」カルテットが。この4体、他と比べていやに作りが丁寧な気がします。再現度も素晴らしい。王允の首の突き出しようといったら。

(→右)手前の人たちは誰だかちょっと判りませんが、奥で悲しそうに空箱を抱えているのは荀彧ですね。その横は周瑜に一杯食わされた蒋幹でしょう。顔が実物の人形にそっくりです。
荀彧は正史でも、また正史を下敷きにしたフィクションである『三国志演義』でも、若い頃から曹操に使えた重鎮でございます。しかし人形劇での荀彧は、主君である曹操から空箱を贈られるという嫌がらせを受けて憂悶のあまり自殺するというエピソードのためだけに登場する老臣であり、正直「ポッと出」感が否めません。この人形劇では悪役である曹操陣営の参謀たちはたいがい性格悪そうな顔立ちに造形されておりますので、宦官の横暴に対抗する清流派の名士であり容貌も勝れていたという、要するに気骨ある美男子イメージの漂う荀彧のようなキャラクターは出しづらかったのかもしれません。不品行であったという割には真面目そうなイケメンに造形してもらった郭嘉とも被ってしまいますしね。


長野行レポ、さくさく進めるつもりが案の定川本喜八郎美術館の所でとどこおっておりますが、途中でやめるのも何ですので次回に続きます。

長野行その1

2016-09-05 | Weblog
今年は1週間連続で休みがありましたので遠出をしようという気にもなり、長野県は飯田市の川本喜八郎人形美術館へ行くことにしました。長いこと行きたい行きたいと思っていた美術館です。

飯田市川本喜八郎人形美術館

鉄道では行きにくい所なので長距離バスを利用しようとしましたが、帰省ラッシュのせいか京都→飯田便はすでに満席となっておりました。そこで青春18きっぷで名古屋まで出て、名古屋→飯田便に乗ることに。バス席の確保もビジネスホテルの予約もネットでさくさく完了。いやはや便利な世の中です。
20年来使っている旅行用のリュックサックを久し振りに引っ張り出し、最近は持っている人をあまり見かけなくなったデジカメのバッテリーをめいっぱい充電し、化膿しているできものの痛み止めに秘蔵のロキソニン5錠を携え、最寄りのJR駅から7:40発の便でのんびりと出かけます。

ラッシュ時ほどではありませんがそこそこの混みようで、大きなスーツケースを携えている人もちらほら。米原で乗り換えてからは座席に座ることができ、10:30に名古屋駅到着。午前中とはいえ太陽はかんかん照りで、京都に勝るとも劣らない暑さでございます。桜通口改札からてくてく歩いて名鉄バスセンターへ行き、中のコンビにで買った鮭おにぎりを頬張りつつ11:00の発車を待ちます。バスの中でご飯を食べるのは嫌ですからね。
バスは定刻通りに無事出発。斜め後ろに座っているおばさまと、そのお隣の席の飯田市出身らしいおばさま、たまたま乗り合わせた他人同士のようですが、早速なごやかに世間話を始められました。しばらくはおばさまがたの会話をBGMに窓外を眺めておりましたが、バスが高速に入ってしまうと両面壁ばかりで面白くありませんので寝てしまいました。

目が覚めると、交通事情で20分ほど遅れているとのアナウンスが。ともあれ、昼過ぎには飯田市に着きました。斜め後ろのおばさまがたは既に10年来の知己のように親しげなご様子。しかし片方が目的地に着いたこととて、親戚一同へのお土産らしい紙袋を手に、爽やかに別れの挨拶を交わして降りてゆかれました。ワタクシも後に続きます。

ほぼ真上から照りつける太陽の下、徒歩で美術館へと向かいます。
マンホールにはリンゴがあしらわれております。


ゆるい坂道を下って、上って、10分ほどで到着。ああ、ここに皆さんいらっしゃるのですね。
川本人形といえば、まず誰をさし置いてもまず孔明先生でございましょう。代表作なだけあって、至る所に顔を出して来館者を迎えてくださっております。


よく見ると他の面々も。上から『平家物語』の清盛、『三国志』の関羽、『花折り』の小坊主、『死者の書』の郎女(いらつめ)。

階段を見れば「川本喜八郎」と「人形美術館」の間には三国志人形のシルエットが描かれております。
しかも一つ一つ違う。

方天画戟を構えているのは呂布ですね(賈華だったらびっくりだ!)。その上の段にいるのは貂蝉。ううむ、実に正しい位置関係です。

階段を上り切ると、おや、奥の方に誰かいらっしゃるようです。


次回に続きます。