のろや

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ノミ話2

2006-01-05 | KLAUS NOMI
何が楽しいって、好きな人を描くより楽しいことなんて、ありはしないのでございますよ。


お寒うございますね。
こんな夜にはクラウス・ノミの「Cold Song」がぴったりです。
この曲は英国のモーツァルトとも称される17世紀の作曲家、ヘンリー・パーセルの作品です。
歌詞はこうです。

汝はいかなる者か 
地の底より来る力よ
私を起き上がらせるのか 
私が望みもせぬのに 
ゆっくりと 永遠なる雪の伏床から

汝にはわからないのか 
私がいかに固くこわばり 
いかに年老いていることか
この恐ろしい寒さには 
私はとても耐えられぬ

私は身動きもできぬ
息つくことすら ままならぬ
私は身動きもできぬ
息つくことすら ままならぬ

どうか お願いだ
どうか お願いだ
再び私を凍えさせてくれ
どうか お願いだ
再び私を凍えさせ 死に赴かせてくれ

こんな歌詞を乗せて
まさに死者が棺からゆっくりと起き上がるかのように、張りつめた美声がテノールからソプラノへと高まってゆき、また低音へと収束してゆくのであります。
音域がとても広いので、「歌い手が女性なのか男性なのか解らなかった」という証言も、ままございます。

映画『ノミ・ソング』の終盤、フルオーケストラを従えたノミさんがこの曲を歌います。
ヨーロッパツアー中の映像です。
即ち このときすでにHIVに感染しており、翌年1月には入院を余儀なくされ、約半年後には死を迎える
という状態です。
そんな身体で
どんな思いで この歌詞を唄ったのでしょう、ノミ。
それを思うと親分、あっしゃあね、涙が出てきやすよ。

さておき。
ノミさんはそもそもオペラ歌手を目指していたお人なので、クラシックの歌曲を本当に美しくお歌いンなります。
「Cold Song」は、美しくも荘厳にして荘重、少し怖いような曲です。
うち続く冬と長い夜によって凍り付いた世界 を眺めているかのような。そんな心地になる曲です。
そんな曲が、「聞いてよBaby、わかるよね~、男ってこういう生き物だからさ~」で始まるバカポップ曲「Lightning Strikes」やら
「キャ~ハハハハ」とかわいい笑い声でシメる「The Twist」やらと一緒に、1枚のアルバムに収められているのであります。
しかも「Lightning Strikes」などは、ステージでは 肩の張ったタキシードに白手袋 という妙にかしこまったいでたちで歌うのですよ。
このアンバランスさが、ノミさんの魅力 の ひとつ ですね。

まだまだ続きますよ、ノミ話。
誰も読まなくったって語っちゃうもんね。
ははん。