のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『蒔絵展』

2008-11-29 | 展覧会
会話が苦手でございます。

それはさておき

京都国立博物館の蒔絵展へ行ってまいりました。

いや、これはたいそう大規模な展覧会でございました。
時代としては平安から明治まで約1000年に渡るスパンを扱い、地域としては日本はもちろんフランス、イギリス、デンマークやザクセンの王室のコレクションになっていたもの、またインドや中国で蒔絵を模してつくられた工芸品などなど、実に幅広うございました。

年代順に展示されております中で、のろが最も心魅かれたのは、いわゆる南蛮美術を集めたセクションでございました。
国博HPの「展示作品紹介」→「大航海時代が生み出した蒔絵---南蛮漆器」で見られます。

いったいワタクシは南蛮美術というものが好きでございます。
洋のものとも和のものともつかないデザインの品々は、まるでおとぎ話の中から出て来たようでございますし、この素材・この技法でそのデザインかい?!という意外性が実に面白いではございませんか。
南蛮美術に限ったことではございませんが、全く異質な文化が交錯した所に生まれたモノには、そのどちらの文化からも少しズレた自由さがあって、それがいっそう面白うございます。
本展の「南蛮蒔絵」について言えば、独特の「埋め尽くし感」も大変よろしうございました。
例えばチラシにも使われております、いとも華麗な書見台。
幾何学的な文様で埋め尽くされた板の中央に、光輪のデザインとともにイエズス会のマークがあしらわれております。
決して大きな作品ではないのでございますが、漆の黒、ちらちらと虹色にきらめく螺鈿、渋い輝きを見せる金でかたどられた幾何学文様はまことにおごそかでございます。反語的ではございますが、びっしりと文様で埋め尽くされていることがかえって寡黙な雰囲気をかもし出しているように、ワタクシには思われました。

このセクション以降は、外国に輸出された品々の展示が続きます。
きらびやかな家具や小箱それ自体も素晴らしいものでございましたが、そうしたモノたちの背景にある文化史的なことがらがいっそう面白うございました。

例えばヴィクトリア&アルバート美術館所蔵のコモド(引き出し箪笥)。
これも国博のHPで見られます。
いかにもバロックまっ盛りといった雰囲気の、華麗な金のマウントで縁取られた足付きの箪笥。
左右対称に湾曲したその側面には、確かに蒔絵が施されております。
しかし日本で作られたとはとうてい思われない形をしております。
解説によると、もともとの箪笥は形が流行遅れになってしまったので、蒔絵部分だけを数ミリ分はがして、当時流行っていたかたちの箪笥に貼付けたのだとか。いやはや、えらいこってございます。
蒔絵がそれだけ珍重されていたことを示すものでもございましょうが、そうまでして流行に遅れまいとする、17世紀ヨーロッパにおける社交界の情熱が垣間見えて、興味深いではございませんか。

この他にも、和と洋が奇妙に折衷した家具や輸出用につくられた蒔絵の品々、そしてそういったものが鎖国の間にもヨーロッパに渡り、王侯貴族たちに愛されていたという事実はワタクシにとってまさに「蒔絵の知られざる歴史」でございました。
なにしろ点数が多うございますのでじっくり見通すのは少々疲れましたが、それだけの価値はある、質・量ともに大変充実した展覧会でござました。

『田中一村展』

2008-11-21 | 展覧会
万葉文化館で開催中の田中一村展へ行ってまいりました。
一村の作品に会ったのは2年前の『日曜美術館30年展』以来でございます。





田中一村といえば奄美の自然を題材とした作品が思い浮かびますね。
本展にはもちろん、代表作「アダンの木」をはじめ奄美時代の佳作が展示されております。
しかしいかにも一村、という作品のみならず、画業の初期に描かれた南画風の作品や、東京美術学校(現東京芸術大学)時代の作品、また旅先の風景を描いた、葉祥明作品のようにほのぼのとしたものもございました。
あの写実性と装飾性の共存する画風が、決して一朝一夕で確立されたものではないということが定かに見られ、なかなかに興味深い展示でございました。

さらには一時期それによって生計を得ていたという、木彫りの帯留めや木魚(!)までもが展示されておりました。
かわいらしいほおずきが三つ連なったデザインの帯留めは、ひと粒がせいぜい1センチ大という小ささにもかかわらず葉脈がリアルで繊細な起伏を見せており、おなじく帯留めとして作られた椿の白い花びらには一枚、一枚、内から外へと丁寧に繊維が彫り込まれております。
精密さといいデザイン感覚といい、実に見事なものでございました。

一村は「良心を満足させる」絵を描くために画壇と決別し、奄美に引っ込んで極貧の暮らしをしながら絵を書き続けるという、たいそう不器用な生き方をした人でございます。その一方で技術的には、さまざまなタイプの絵を描き、デザインや彫刻もこなす、とても器用な人であったことが本展で分かりました。
本展の解説冊子で美術史家の戸田禎佑さんが書いておられるように、一村は「他者の様式に敏感に反応」し、「時代、地域を超越してストレートに名作の表現を自家薬籠中のものにする」ことができる、器用さと貪欲さを持っていたのでございましょう。

もしも人気画家の道を歩もうと思ったならば、それは技術的には実に容易なことだったはずでございます。
しかし、一村の芸術家としての「良心」、というよりもむしろデーモンとでも呼ぶべきものが、そうした生き方にはどうあってもがえんじなかったのでございましょう。

一村の独特で鮮烈な、生命感の張りつめた画風は、ただ一直線に進んで行って到達した境地ではなく、幅広いキャパシティの中から選択され、築かれていったものだったということがよく分かる展覧会でございました。
それを思うと、かの「アダンの木」を前にしたワタクシの感慨もまたひとしおなのでございました。


『書物のアロマ』

2008-11-17 | 展覧会
八木重吉忌の記事でも少し触れました、NPO法人 書物の歴史と保存修復に関する研究会の展覧会が明日18日から30日まで開催されます。

案内ハガキのうらおもて。


展示用の作品のほか、販売用のものも作りました。
2年前に出したものと中身は同じでございます。





そろそろ新しい豆本を作ろうと思っておりますが、今年は果たせませんでした。
また2年後に向けて企画を練りたいと思います。


コンゴ難民支援

2008-11-14 | Weblog
たまたまかの国に生まれた人々は何の落ち度もないのに命の瀬戸際に立たされていて
たまたまこの国に生まれたのろは何の取り柄もないのにのうのうと生きているなんてなあ。


UNHCRとAvaazから、内戦が激化しているコンゴ民主共和国の難民支援を呼びかけるメールが届きました。


以下、UNHCRのメールから転載いたします。

・コンゴ民主共和国で内戦激化―
「世界最大の人道危機」に緊急支援をお願いします!
----------------------------------------------------

コンゴ民主共和国 東部では、反政府勢力と政府軍の戦闘が
激化しており、多くの人々が避難を余儀なくされています。

この北キブ州での戦闘は2006年後半より悪化し、2008年1月には
この地域で8万人もの国内避難民が発生、16か所の避難民キャンプ
にてUNHCRが1万人を支援しています。
▼詳細はこちらから
http://www.japanforunhcr.org/act/a_africa_drc_01.html

元UNHCRゴマ事務所 所長で、現JICA アフリカ部客員専門員である
米川正子さんからコメントが届いています。
「反政府勢力がコンゴ キブ州のルチュルを支配し、そこにあった5ヵ所の
避難民キャンプを破壊し、避難民は方々に散り去らなければなりませんでした。
キブンバ避難民キャンプの住民もゴマ近郊に逃亡しています。・・・」
▼続きはこちらから
http://www.japanforunhcr.org/act/a_africa_drc_01.html

現地の様子を「フォトギャラリー」でご覧いただけます。
http://www.japanforunhcr.org/act/a_africa_drc_04.html

このコンゴ民主共和国の内戦の犠牲となって避難を強いられている
人々を支えるために、皆様の迅速なご支援をお願いいたします!

■下記サイトから、「アフリカ地域:コンゴ民主共和国 緊急支援」を
ご指定ください。
http://www.japanforunhcr.org/donate/index_mn.html
※通信欄に、「メールニュースを見て」とお書き添えください。

■ご寄附を郵便局からご送金いただく場合
郵便局 : 口座番号 00140-6-569575 加入者名 UNHCR協会
※通信欄に、「コンゴ 緊急支援」とお書き添えください。
※振込み手数料は「加入者負担」です。
  用紙が必要な場合はご連絡ください(03-3499-2450)。


以下は今日届いたもの。

【【【【 緊急支援 】】】】
 コンゴ民主共和国で内戦により逃げ惑う人々―
 「世界最大の人道危機」に緊急支援をお願いします!
----------------------------------------------------

コンゴ民主共和国 東部では、反政府勢力と政府軍の戦闘が
依然として続いており、何万人もの人々が家を追われ、
避難生活を余儀なくされています。

「銃声を聞いてから、何千もの人々が、これまで暮らしていた
キバティのキャンプから逃げ出しました。子どものいる家族は
数少ない所持品を集めて、コンゴ・キブ北部の州都ゴマに
向かいました。大勢の人々が同時に移動する混乱の中で、
迷子になった子どもたちが親を求めて泣き叫んでいました…」

UNHCRは、この紛争を今すぐ中止するための国際社会への
呼びかけの後押しをしています。
▼詳細はこちらから
http://www.japanforunhcr.org/act/a_africa_drc_01.html

UNHCRと他の国連機関は、無法状態で極度に不安定な状況に
おかれている人々の生命を守るため、迅速に支援を行うよう
努力しています。
▼支援物資が届いています!フォトギャラリーでご覧ください。
http://www.japanforunhcr.org/act/a_africa_drc_04.html

このコンゴ民主共和国の内戦の犠牲となって避難を強いられている
人々を支えるために、皆様の迅速なご支援をお願いいたします!

■下記サイトから、「アフリカ地域:コンゴ民主共和国 緊急支援」
をご指定ください。
http://www.japanforunhcr.org/donate/index_mn.html
※通信欄に、「メールニュースを見て」とお書き添えください。



以下はAvaazからのメール(抜粋&訳)

コンゴの人々は私達の助けを必要としています。この数週間で20万人以上が家を追われ、殺人とレイプが横行しています。国連の平和維持活動も、市民を保護するには至っていません。このメールが送られている今まさに、人々は命からがらで逃げまどい、反政府勢力とコンゴ政府軍の残忍な暴力の間で板挟みになっています。食料もなく、寝泊まりできる場所もなく、唯一の避難所である難民キャンプは過密化し、伝染病の危険にさらされています。想像を絶する規模での人道危機が起きています。

全ての関係者によりよい外交活動が求められますが、人々の保護のため、二週間以内に充分な装備を持った中立的な兵力を展開できるのはヨーロッパの国々だけです。ヨーロッパの外務大臣たちは今週の初めに会合を開いたものの、この問題には目をつぶり、何も行動を起こしませんでした。もし欧州諸国が中立的な兵力をコンゴに送り、非常に危機的な状況にある人々を保護すれば、そして国連やアフリカの他の国々とともに、コンゴ政府とその周辺国に実効的な圧力をかければ、この人道危機の決着も、恒久的な平和の実現も可能です。

ルワンダの大虐殺の教訓は、手遅れになる前に介入せよ、ということでした。政治家たちはこのことを忘れてしまったのでしょうか。東コンゴの人々は今、私達を必要としています。ヨーロッパをはじめ、世界中の国々の指導者が立ち上がるよう、プレッシャーをかける必要があります。どうぞ下のリンク先から、アクションに参加してください。そしてお友達やご家族にもこのメールを送ってください。私達は週末にこのキャンペーンの成果を、政治的指導者や新聞社へと届けます。状況は日々悪化しています。アクションに参加する人が多ければ多いほど、自分は国民や世界中の市民から、コンゴの人々を守るよう期待されているのだ、と感じる指導者も多くなることでしょう。下の署名にどうぞ参加してください。

STAND WITH THE PEOPLE OF CONGO

*送られるメッセージ(訳)*

EUの指導者および国連安保理の皆様へ
我々は皆様に、早急な中立的な兵力の派遣により、急速に悪化しているコンゴの情勢に介入することを求めます。市民をレイプや殺害や飢餓から守り、人道的支援へのルートを確保することを求めます。国連平和維持軍は上記のような支援を強く求めています。皆様の支援により、彼らはコンゴでより効果的で、バランスのとれた活動をすることができるでしょう。国連、EU、そしてアフリカ諸国は政治的に連携し、誠実な仲介者として和平プロセスを押し進め、党派主義や搾取から人々を守る役割を果たすべきです。

*のろ注*

下の Sign the petition 欄に Name:お名前、Email:メールアドレス、Country:国籍(選択)、Postcode:郵便番号 を入力の上、ピンクの Send:送信ボタンをクリックすると署名に参加できます。
右側に表示されている数字(*** have taken action, help us reach 100,000)の***は現在の署名の総計です。
送信後、ご署名ありがとうメールが届きます。


最近ンクンダ将軍の兵とコンゴ政府軍の衝突がありましたが、それ以前からこの国では市民が犠牲になり、武装勢力により何年にも渡ってテロが行われて来ました。500万人以上の人々が命を落としています。ルワンダ、ウガンダ、ジンバブエ、アンゴラそしてナミビアというアフリカ諸国が関係しているため、この紛争は「アフリカの世界大戦」とも呼ばれています。紛争はコバルトやダイアモンドや金といった、私達にもつながりのある鉱物資源の採掘をめぐる経済問題により、いっそう拍車がかかっています。

暴力はエスカレートしている上に、アンゴラやジンバブエの軍隊がコンゴ政府軍に混じって戦闘を行っていることも疑われています。コンゴ政府軍の兵士たちは残虐行為を行い、ルワンダのフツ族軍隊---1994年のルワンダ大虐殺に関わった指導者も含む---とも行動を共にしています。その上、ルワンダ政府軍が支持しているンクンダ将軍(のろ注:ルワンダで虐殺の対象となったツチ族出身)とも。ルワンダ政府軍の方ではコンゴ政府に、くだんのフツ族軍隊を解散させようとごり押ししているのです。こうしたアフリカ特有の外交戦術がうまくいっていないのは全く驚くにはあたらず、外部の中立的な兵力が必要となるのも当然のことです。各国の指導者たちが背を向けているからといって、コンゴの恐ろしい状況を改善するチャンスを見逃すわけにはいきません。今、コンゴには各国が一致団結して関与することが必要です。ヨーロッパをはじめ世界各国の指導者たちに、行動を強く求めようではありませんか。


以下、メール本文(抜粋)

The people of Congo need our help. In recent weeks over 200,000 people have been driven from their homes, and murder and rape are rife. The United Nations peacekeeping mission to Congo has not intervened to protect civilians. As this email is sent, families are running for their lives, stuck between the brutal violence of both the rebels and the Congolese army, without food or shelter - their only refuges are crowded camps which now face epidemics of disease. This is a human tragedy of unimaginable proportions.

All actors need to support better diplomacy, but only Europe can deploy a well-equipped, neutral protection force to be on the ground in two weeks - and European foreign ministers meeting earlier this week blinked, failing to act. If they send a neutral force to the region to protect civilians who are desperately in need, and help put real pressure on Congo and neighbouring countries with UN and African officials, this humanitarian crisis could be addressed and a lasting peace made possible.

The lesson of the genocide in Rwanda was -- step in before it's too late -- politicians seem to have forgotten that. The people of eastern Congo need us now. We need to put overwhelming pressure on European and global leaders to step up, so please follow the link below to take action yourself and forward this email to friends and family -- we'll be delivering the campaign later this week to decision-makers and in newspapers. The situation is deteriorating by the day. The more of us take action, the more leaders will feel that their citizens and people around the world expect them to respond and protect the Congolese people. Sign the petition here:

http://www.avaaz.org/en/global_action_on_congo/

The recent clashes between General Nkunda's militias and the Congolese army are the latest in a place where the population has been attacked and terrorised for years by armed groups. Over five million people have been killed. It's been termed 'Africa's world war', with Rwanda, Uganda, Zimbabwe, Angola and Namibia all getting involved. The fighting is fed by a lethal war economy based on the extraction of minerals such as coltan, cobalt, diamonds and gold, to which we're all connected through the worldwide market.

Violence is escalating and allegations abound of Angolan and Zimbabwean troops fighting alongside the Congolese army -- Congolese army soldiers committing atrocities and working with militias including the Rwandan Hutu Forces, some of whose leaders were responsible for the 1994 Rwandan genocide -- and the Rwandan army supporting General Nkunda to muscle the Congolese government to fulfill its commitment to demobilise these same Hutu militias. So it is no surprise that African-only diplomacy is faltering, and that there is a need for an external, neutral force. We cannot let the best chance to stop the terror in Congo slip by as leaders turn their backs -- Congo needs concerted engagement now. Let's flood European and global leaders with requests for action.




コロー展

2008-11-07 | 展覧会
神戸市立博物館:特別展 コロー 光と追憶の変奏曲 へ行ってまいりました。



身体的にも精神的にも近視眼であるのろは風景写真や風景画を見る目がございません。
よって当然「風景画家」であるコローのファンというわけではございません。
しかし以前にも申しましたとうり、コローの人物画は大好きなんでございます。
本展には人物画の代表作である「真珠の女」と「青い服の婦人」が来ることが、早い時期から大きく宣伝されておりました。この2点が一度に見られるというだけでものろは大興奮でございましたが、行ってみましたらその他にも15点以上もの人物画が展示されておりまして、まーいわゆるひとつのウハウハでございました。

抑制のきいた色使い、瞑想的な表情にさりげないポーズで描かれた人物たちからは、風景画において見られる銀灰色に煙る桃源郷風のイメージとはまた違った、確固とした存在感が感じられます。ある者は視線を落とし、ある者はこちらに眼差しを向けておりますが、おおむね共通しておりますのは、もの静かでな内向的な雰囲気でございます。
また表情にしても背景や衣服の描写にしても、比較的ざっくりと描かれたものが多いんでございますね。見る者を引き込むような魅力の一因は、描きすぎないことによって見る者の想像や投影を誘うという点にもございましょう。

風景画家を自認していたコローは、人物画を飽くまでも余技として描いていたということでございます。あるいはそれゆえにこそ、画家自身の優しく慎ましい性格が、より率直に絵の中に現れているのかもしれません。
生前に発表されたコローの人物画はたったの4点でございました。しかし荒めのタッチで描かれたみずみずしい人物像が、同時代の画家たちに強い印象を与えたであろうことは想像に難くございません。

そうした数々の作品の中でもとりわけ印象深かったのは「青い服の婦人」でございます。



薄暗い室内に、もの柔らかく浮かび上がる女性の白い腕。
青いドレスはコローらしく上品にくすんだ、落ちついた色あいでございますが、褐色の背景の中でいとも鮮やかに見えます。
ふと休息しているかのような、なにげないポーズ。彼の人物画の多くがそうであるように、目元には影が落ち、その表情は定かではございません。こちらに微笑みかけることすらいたしません。
ドレスの生地は、例えばルーベンスの絵に見られるようなすべすべと豪奢な輝きは見せず、地味な背景はアトリエの一角をそのまま描いたようで、技術的な派手さや華やかさはございません。
しかしそうした技術的な派手さや鑑賞者へのあからさまな働きかけを控えたからこそ、この作品の単なるポートレイトを越えた存在感と、メランコリックでありながら見る者を強く引きつける、不思議な雰囲気とがかもし出されているのでございましょう。

小品にも素晴らしいものがございました。


「マンドリンを手に夢想する女」

これは画集でも見たことのない作品でございました。
本来、初対面の絵にいきなり近づいて行くのはよろしくないこととのろは思っております。
初対面の印象というのは二度と体験できるものではないのでございますから、遠くから一歩一歩、対話をし、印象を深めながら接近するべきなのであって、いきなり近寄ってまじまじとディテールを見るようなことをしては勿体ないのでございます。
とはいえ、牽引力のある絵というのはまさしくそちらへ引っぱられるような心地がするものでございまして、この絵にも、ひと目見るや我知らずぐんぐんと歩み寄ってしまいました。
近くで見ますと、女性の引き結んだ唇、そしてうつむいた顔から心持ち上を見つめている深い眼差しに気圧され、何か失礼なことをしたような心地で思わず後ずさりいたしました。
瞑想的な表情もさることながら、陰影の表現が素晴らしいですね。


神戸市立博物館での特別展は平日に行っても滅茶混みなことが多うございますけれども、今回は意外なほどすいておりました。
コロー作品の地味な印象ゆえでございましょうか。
おかげで椅子に腰掛けてじっくりと作品と向き合うこともでき、なかなか快適に鑑賞することができました。
ルーブル美術館が太っ腹にも貸出ししてくれたコローの「三大名画」に、日本にいながらにして会えるチャンスでございます。
コロー好きはもちろん、よく知らないというかたも、あるいはあのワンパターンな風景画は好かんのよというかたも、この機会に足を運んでみる価値はあるかと存じます。

米大統領選

2008-11-05 | Weblog
もしアメリカ人だったら確実に民主党支持者になっていたであろうのろは、オバマ氏勝利のニュースにとりあえずほっとしております。
しかし人々の期待が高いだけに、少しでもコケたら大きな反動があるのではないかと懸念してもおります。
就任するのは来年1月とのことですが、それまでに内外に抱えた深刻な問題がすっぱり解決するとはとうてい思えません。
いわば就任後最大の課題は、先立つダブヤ政権8年間の尻拭い。
いい条件でのスタートとは決して言えないわけでございますが、プレッシャーに負けず頑張っていただきたいものでございます。

オバマ氏の、多様性を良しとする価値観は今までの言説にも(この度の勝利演説にも)現れております。
そのような価値観を持った人物がかの大国の指導者となったことに、ワタクシも期待を寄せております。
いわゆる保守系やキリスト教右派の人にとってはその価値観こそが非難の対象なのかもしれませんがね。
今からこんなことを申しますのも不穏なことではございますが、氏に不当な危害が加えられることがないよう、心から祈らずにいられません。


ところで
日本ではいつ選挙をしてくれるんでございましょうかね。
「経済対策が先」とかおっしゃってますけれども、もし支持率が高かったら経済対策なんぞそっちのけでさっさかさ~と解散&総選挙してたんじゃないんですの?



あの話は

2008-11-01 | KLAUS NOMI
どうなったんでございましょうねえ??
ええ、映画化の話でございますよ。
クラウス・ノミの生きざま、そしておそらくは、死にざまについての。
「映画化決定」というニュースを忘れた頃になってようやく公開、なんてのは、まあ、よくあることではございます。
しかしこの企画についてはそもそも映画化が決定したのかどうかも定かではございませんし、あんまり資金が集まらないやもしれません。題材が題材なだけに。
気長に、かつ、あまり期待は抱かずに続報を待つべし、と自らに言い聞かせるのろではございますが、やはり気がかりなのでございます。題材が題材なだけに。

ああ、せめて制作が本決まりしたのか否かを知りたい所なんでございますがねえ。
で、もし制作が決まったとしても、全身タイツにプラスチック製タキシード、白塗り顔に黒い唇にスリー・ポイント・ヘアという恰好をしてくれる俳優が、はたして見つかるんでございましょうか。それを役者魂でクリアしていただいたとしても、あの恰好をして似合う人間がクラウス・ノミ以外にいるとはなかなか思えません。まあ、いないでしょう。
それでも、それでも、作っていただきとうございますねえ。
それによってヤツの知名度が上がり、ホーン監督のドキュメンタリー以外の観点からのノミ像が描き出され、またワタクシのような遅れて来たファンに、ヤツの更なる足跡が-----それがどんなに些細なものであっても!-----知らされるのであれば。

俳優については、以前アラン・カミングの名前が挙がっておりましたね。
風貌や芸風にはとりわけ不満はございませんが、今年で43歳でございましょう。
すでにノミより年上になってしまってるんでございますよ。
彼で撮るんなら、ちと急いでいただかなくては。

のろの読み間違いかもしれませんが、以前お見かけしたある海外のブログではイライジャ・ウッドがノミを演じるんじゃないかと危惧していらっしゃいましたっけ。
イライジャ・ウッドですと???
いやいやいやいやいやいやいやいや、いくらなんでもそれはありますまい!
別にイライジャ・ウッドに恨みはございませんけれども、このキャスティングはどうあっても、どうあってもいただけません。
そりゃまあ、目は大きいですし鼻はとんがってますし、身長もいいぐらいかもしれませんよ。
しかし、あの首の太さではクラウス・ノミはつとまりますまい。
ええ、つとまってたまるもんですか。

じゃあ誰ならいいんだって話になりますが、そうですねえ。
例の『クリムト』で神経質で子供っぽい雰囲気のシーレを好演したニコライ・キンスキーなんかどうでしょう。
あの濃いぃ眉毛を抜き払ったらわりといいノミに(単に許容範囲という意味ですが)なるんじゃないかと。
背もそう高くはなさそうですし、もちろんドイツ語もできますし、親爺ゆずりのいいドイツデコをしてらっしゃいます。鼻はちとネックではございますが、まあ、これも親爺ゆずりってことで仕方ございません。ただ親爺さんと違って、変態、いやエキセントリックさで売っているわけではないようでございますので、はたして全身タイツにプラスチックタキシードを着込んでくださるかどうかは甚だおぼつかない所でございます。

そうそう。話は変わりますが映画と言えばノミ、在りし日のインタヴューで「サロメ」を映画化したいって言っておりましたねえ。
サロメと言えばモローさんでございます。



ノミのサロメってどんなのかしらん。
こんなのかしらん。



いっそサロメだけでなく、登場人物全員ノミで撮ってほしい所でございました。
ヘロデもヘロデヤもヨハネもナラボスも全部ノミ。
おおっ
これは見たい!
いや、見たかった…。