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ピンボールのアートワークの話(5):当時のゴットリーブのアーティスト・その1:ロイとアート

2018年12月16日 20時59分25秒 | ピンボール・メカ
「ポインティ・ピープル」が描かれたのは1965年~1973年の9年間ですが、製品寿命自体は少なくとも数年程度はありますので、70年代の半ば過ぎくらいまではまだ「ポインティ・ピープル」はロケーションに残っていました。しかし、1976年前後ころから、それまでエレクトロ・メカニカル(EM)機構で作動していたピンボールに、電子技術であるソリッドステート(SS)が採り入れられるようになり、市場の機械も急速に入れ替えが進んで、「ポインティ・ピープル」が描かれた機械も消えていきました。

EMからSSに移行するちょうど境目のころに開発されていたタイトルの中には、旧式のEM機と新式のSS機の両方でリリースされたタイトルもいくつかあります。「そのようなタイトルの旧式(EM)の方はもっぱら日本に輸出されていたのだが、今は海外の好事家たちの需要で、日本にあるEM版が『逆輸入』される事態になっている」と、先日お会いした、拙ブログをご高覧くださっている方からうかがいました。

いきなり横道に逸れてしまいましたが、今回は、「ポインティ・ピープル」が全盛だった時期でも独自路線を貫いたGottliebのアートワークについて、調べたことを記録しておこうと思います。

Bally, Williams, Chicago Coinsの3社の機械に「ポインティ・ピープル」が描かれていた期間、Gottliebのアートワークを担当したアーティストは(少なくとも)3人います。

一人は、「ロイ・パーカー(Roy Parker、以降ロイとする)」と言う人で、筐体のアートワークを描くアーティストとしては、フリッパー装置が発明される1947年(注1)よりずっと前の1935年から、1966年までの間に300機種近く(バージョン違いも含む)を担当したようです。そのほとんどはGottliebの機械ですが、Chicago CoinsとWilliamsの機械も若干手掛けています。

(注1)一般的には、初めてフリッパーを装備したピンボールは1947年にGottliebが発表した「Humpty Dumpty」とされていますが、これは電気的に作動するフリッパーを装備した初の機種と言う意味です。電気を用いず、純粋にメカニカルな仕掛けのみで作動する「フリッパー」を備えたピンボール機はそれ以前から存在していました。なお、「Humpty Dumpty」のアートワークもロイの手によるものです。


ロイの作例として、「KINGS & QUEENS (Gottlieb, 1965)」のアートワーク。

ロイの画風を何と呼ぶものなのか、ワタシにはその知識がありませんが、デフォルメが殆どなく写実的傾向で描かれる人物は、見るからにオールドファッションドな印象を受けます。しかし、ロイの最後の作品が発表された1966年の時点では、ジェリーが描いた前衛的・先鋭的な「ポインティ・ピープル」はまだ3機種しかなかったころで、WilliamsやBallyにもロイと同傾向のアートワークは残っていました。

二人目は、「アート・ステンホルム(Art Stenholm、以降アートとする)」です。この人は、「ポインティ・ピープル」が登場する前年の1964年から、「ポインティ・ピープル」全盛の1971年まで活躍していたようです。アートの初期の作風はロイとよく似ており、ワタシには違いがあまり感じられません。


アートの初期作品から「KING OF DIAMOND (Gottlieb, 1967)」。前出のロイの「KINGS & QUEENS」と比較すると、タッチに若干の違いは感じるものの、全体から受ける印象はあまり変わらない。

アートのバックグラスアーティストとしてのキャリアは1964年から始まっており、はじめのうちはBallyとWilliamsの両方で描いていますが、1966年からGottliebに描くようになりました。その後は、1967年にいくつかWilliamsでの仕事が混じりますが、1968年半ば以降はGottlieb一社に絞られています。これは想像ですが、アートもクリスと同様ジェリーの作風を模倣するよう要請されたものの、これを拒否して、以降はGottliebに集中したのかもしれません。

アートは、1967~8年頃から若者を多く描くようになり、描かれる女性の服装にミニスカート(しかも時代が下るほど短くなる)が増えるなど、ファッションも現代的になっていきました。また、背景も、近景に対する単なる遠景だけでなく、デザインで埋める作品(SPIN-A-CARD (1969))も見られるようになって、いくらかモダンな印象を受けるようになります。しかし、やはり「ポインティ・ピープル」と比較すると、今一つ垢抜けない印象はぬぐい切れません。




アートのモダンな印象を受ける作品の例として、「SPIN-A-CARD (1969)」(上)とサイケ調の「CRESCENDO (1970)」(下)。ミニスカートの若い女性や背景に施されたデザインが時代の反映に見える。

ところで、「ポインティ・ピープル」以前のピンボールのアートワークと言えば、ロイの作品と同傾向のものが殆どでした。そんな時代の中で、1966年にWilliamsが発売した「8 Ball 」のアートワークは非常に異質です。


「8 Ball (Williams, 1966)」のアートワーク。コミカルな人物の造形は完成度が高く、現代でも通用しそうに見える。

この時代のピンボールで人物をマンガ的に描いている例は「King Pin (Williams, 1962)」や「Hot Line (Williams, 1966)」(共にアーティストは不明)のように、少数ながら他にもありますが、それらは「8 Ball」ほど完成された画風ではありません。この極めて異質なアートワークを描いたのは、これまでに拙ブログで何度か参照しているオランダのウェブサイト「PINSIDE」は、驚くことにアートだとしています

しかし、別のピンボール情報サイトである「The Internet Pinball Database」では、「8 Ball」のアートワークの作者名を特定しておらず、その他のウェブサイトを見ても「PINSIDE」を支持する情報は見つかりません。アートの作風は全作品を通じて概ね一貫しており、これをアートの手によるものとする説には大いに懐疑的にならざるを得ません。しかし、本当であれば、この時代にこのスタイルの作品をもっと残しておけば、「ポインティ・ピープル」と並ぶもう一つの潮流として残っていたかもしれないのにと、残念に思います。

長くなったので、三人目の「ゴードン・モリスン(Gordon Morison)」については次回へ。

(次回「ゴットリーブの3人のアーティスト・その2:ゴードン」につづく)

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4 コメント

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Unknown (tom)
2018-12-24 19:47:16
私は、ロイさんの画風はアメコミ調と感じていました。

お顔の"ほうれい線"もちゃんと描かれていますね!

あと子供の頃から、Gottlieb社は「トランプ」を題材にしたデザインが多いなと思っていました。

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Unknown (nazox2016)
2018-12-25 23:01:29
tomさん、コメントをありがとうございます。
最近私生活の方が少し慌ただしく、最低週一回を目指していた
更新も滞ってしまいました。どうもすみません。

ロイの時代の絵は、確かにほうれい線が描かれているものが多いですね。
人物があまり若く見えないのもそのせいかもしれません。

また、おっしゃるように、Gottliebにはカードが描かれるテーマが
他社に比べて多い気がします。

アメコミ調というと、次回で触れる予定の「ゴードン・モリスン」は
よりアメコミ調であるように思います。
なんとか年内にはこのシリーズの決着をつけたいと思っておりますので、
どうか今しばらくお待ちください。


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Unknown (Hiro)
2020-06-14 13:02:30
はじめまして、たまたまネットを散歩中に立ち寄りました。「今は海外の好事家たちの需要で、日本にあるEM版が『逆輸入』される事態になっている」とありますが、具体的には何の台でしょうか?EM/SS両バージョンあるとすればBally マタ・ハリ、イーブル・クニーブル、ブラックジャック、ナイトライダー、Gottlieb クロスエンカウンター、チャーリーズエンジェルス、ソーラーライド、シンバッドなどですが、それらが日本で発見されて海外に渡ったというのは個人的には考えにくいです。
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Unknown (nazox2016)
2020-06-14 23:22:11
Hiroさん、はじめまして。コメントをいただきありがとうございます。
ご指摘の件は、本文をお読みいただければご理解いただけると思いますが、あくまでも人から聞いた話で、具体的な機種は聞いておりませんので、すみませんがわかりかねます。

どのような経緯で「逆輸入」が行われていたのかについても聞いておりませんが、日米には国をまたいで情報交換するファンが多くいますので(私もその一人です)、「日本で発見されて」と言わねばならないほど奇跡的な出来事ではないと思いますよ。
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