オールドゲーマーの、アーケードゲームとその周辺の記憶

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オリンピア・たぶんこうだったんじゃないか劇場(3):第3幕

2022年02月06日 12時52分24秒 | 風営機

第3幕:「仁義なき戦い(前編)」
(この物語は実際の出来事を基に創作したフィクションです)


登場人物
・ミハイル:大東貿易の社長。ウクライナ出身。日本語に堪能。
・社員:大東貿易の社員。
・レメヤー:サービスゲームズ社の社長。
・女将:高級料亭の女主人。

・時代:昭和39年(1964年)頃
******************

(前回のあらすじ)
娯楽機器を自社開発しようと決意した大東貿易は、開発と製造を専門とする子会社「パン・パシフィック工業」を設立し、ライバルのサービスゲームズ社が製造するスロットマシンのコピーである「ローヤルクラウン(ROYAL CROWN)」を完成させるに至った。

社員:社長、大変です。
ミハイル:なんなら、騒々しい。
社員:ローヤルクラウンが売れません。
ミハイル:わりゃ、ふざけたこと抜かすとしごうしたるぞ。サービスゲームズ製と同じ性能のもんがなんで売れんのじゃ。
社員:アジア圏の米軍基地はサービスゲームズが「飲ませる抱かせる握らせる」の接待攻勢でがっちり食い込んでいて、どこも門前払いです。
ミハイル:おのれド外道め。アメリカはどうなんじゃ。
社員:アメリカの民間市場はネバダのみですが、先行する大手に独占されて新参者が入り込む余地がなく、サービスゲームズ製さえわずかです。
ミハイル:うぬぬ。じゃあイギリスはどうじゃ。
社員:見込みがゼロではありませんが、販売網が致命的に脆弱です。サービスゲームズはイギリスの大手ディストリビューターと既に手を組んでいます。
ミハイル:おのれサービスゲームズめ、抜かりはないちゅうんか。しゃあないけえ、まずはイギリス当たってみてや。残りはワシが何か考えるけえ。

作ったはいいが売れない「ROYAL CROWN」を抱えて苦境に陥った大東貿易。しかしここで、ミハイルに一つのアイディアが閃いた。

ミハイル:そうじゃ。ローヤルクラウンを7号(注・風俗営業機)に流用できんもんかのう。
社員:パチンコ業界ですか? しかし、スロットマシンは1951年に一度風俗営業の申請が出されましたが、1954年に賭博機だと結論付けられて却下されてますよ。
ミハイル:そんくらいわかっちょるわ。その理由はスロットマシンには技術介入性が無く完全に偶然のゲームだったからじゃ。
社員:ではROYAL CROWNに技術介入性を付けるというのですか?
ミハイル:ほうよ。ストップボタン取り付けて、客が自分の意思でリールを止めるんじゃ。
社員:理屈の上ではわかりますが、前例主義の役所が新規のゲームをそう簡単に認めてくれるでしょうか。
ミハイル:難しいのはわかっちょる。しかしこのままじゃわが社は大損じゃけえ、少しでも可能性があるならやるしかないんじゃ。

こうして大東貿易の警察(国家公安委員会)詣でが始まった。最初のうちはけんもほろろだった警察の対応も、大東貿易の、時に違法すれすれ、時に涙すら誘う懸命の努力により、ついに1964年、スキルストップボタンを付け加えたローヤルクラウンに風俗営業の許可が降りた。

スキルストップボタンが付いたクラウン機。但し画像の個体は風営機として認定された機種と同一のものではなさそう。スキルストップボタンは押し込むタイプではなく、つまみを押し下げるタイプになっている。ワタシはこのタイプのスキルストップボタンが付いたスロットマシンを、1974年頃に渋谷のゲーセン(全線座(現東急イン)か、もしくはその向かいの渋谷東口会館のどちらか)で一度だけ見たことがあるが、それがこれと同種の機械であったかどうかは覚えていない。なお、この画像の出どころは忘れてしまっており、ウェブ上を検索しても一致するものはヒットしなかった。

社員:社長、我々はついにやったんですね!
ミハイル:おお。苦節4年、ワシらが独自に作った機械がついに業界に新しい分野を築きよったんじゃ。そうじゃ、今年は東京五輪が開催されるめでたい年じゃけえ、記念にこの機械をオリンピアと名付けよう。

念願がかなった大東貿易は社を挙げて祝賀ムードに包まれた。しかし、それも束の間だった。

社員:社長、大変です。
ミハイル:なんなら、騒々しい。
社員:サービスゲームズが我々の尻馬に乗ってスロット型の風営機を作り出しました。
ミハイル:なんじゃと、あのド外道が!
社員:社長、私は悔しいです。警察の担当官にさんざんいびられ馬鹿にされ、それでも日参して時には飲ませ食わせ、幇間の真似までしてきた我々の苦労で得た成果が横から攫われるなんて耐えられません。うううう。
ミハイル:その思いはワシとて同じじゃ。よっしゃ、わしが話付けてくるけえ泣くなや。おのれサービスゲームズ、許さん。

激怒したミハイルは、サービスゲームズの社長であるレメヤーに直接抗議するつもりで、高級料亭に呼び出した。

女将:ミハイルはん、レメヤーはんがおいでにならはりましたえ。
ミハイル:おう、そうか。こっち通したってや。
女将:へえ。どうぞレメヤーはん、こちらどすえ。

レメヤー、女将に案内されてミハイルの向かいの卓に座る。ミハイルがレメヤーの盃に酒を注ぎ、続いて自分の盃に注いだ。ミハイル、自分の盃に口を付けてから話の口火を切る。

ミハイル:のう、サービスの。こんたびのあんた方のやり方あ、ちいっとばかし仁義に外れよるんじゃありゃせんかのう。

レメヤーは注がれた盃を干して卓に置き、平然と答える。

レメヤー:はて、わしらあは法に則って商売しゆうが、なにか気に障るようなことでもありましたかえ。
ミハイル:オリンピアの件じゃ。ありゃあワシらが長い時間かけて、苦労して警察の許可を取ったもんじゃ。それをあんた方、ワシらになんの仁義も切らんと始めよるそうじゃないか。

レメヤー、自分の盃に手酌で酒を注ぎながらあくまでもとぼける。

レメヤー:オリンピア? ああ、ありゃあオリンピアちゅうがですか。まっことえいネーミングセンスじゃ。わしらあも見習わなきゃならんぜよ。

ミハイル、レメヤーの人を食った態度に湧き上がる怒りを抑えて続ける。

ミハイル:のう、サービスの。今からでも遅うないけえ、ここは一歩退くなり、なにがしかの気持ちを見せるなりしてもらうことは考えられんかのう。

ミハイルは、出方次第では穏便に済ませる姿勢を見せた。これで尻尾を巻かせれば、レメヤーに大きな貸しを作ることができる。レメヤーは自分で注いだ盃を持ったまま視線を落とし、少し考えるそぶりを見せてから口を開く。

レメヤー:ほたら大東さん、ちくと聞きたいことがあるがじゃ。おまさんらあ、こう言っちゃなんじゃが、メーカーとしてはまだ駆け出しも駆け出しろう。どうやってオリンピアを作ったがじゃ? 

あれこれと言い訳を並べ立てて来ると予想していたミハイルは当惑し、まさかサービスゲームズの機械をコピーしたとは言えず、言葉を濁す。

ミハイル:そりゃあんた、アレじゃ。あー、いろいろ研究に研究を重ねてじゃな、あー、まあ、そ、そういうようなことじゃ。
レメヤー:ほう。研究。

レメヤー、再び自分の盃に酒を注ぐと、タンと音を立てて徳利を卓に立てる。

レメヤー:おまさんらあのとこじゃ、コピーを研究ちゅうがですか。

痛いところを遠回しに突かれたミハイルの胸中に突如として暗雲が立ち込め始め、それは猛烈な勢いで膨張した。

(次回第4幕:「仁義なき戦い(後編)」につづく)

方言参考:はだしのゲン(中沢啓治)、とろける鉄工所(野村宗弘)、おーい竜馬(小山ゆう)、仁(村上もとか)


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2 コメント

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Unknown (EM好きおじさん)
2022-02-07 19:48:52
いやあ面白いです。
当時の出来事をだれかがこっそり記録しておいたんじゃないのかと思える程です。この先どうなるのでしょうか?
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Unknown (nazox2016)
2022-02-08 00:19:16
EM好きおじさん、またもやお褒めいただきありがとうございます。お楽しみいただけていると聞いてうれしいです。

この物語は、「実はタイトーもローヤルクラウンと言うスロットマシンを作っていた」という事実と、「タイトーがオリンピアの風営許可を得た」という二つの事実の間に、これまでに収集していた知見を都合よく嵌め込んで作っています。最終回ではファクトチェックを掲載する予定ですので、どうぞいましばらくお付き合いください。
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