映画の豆

映画の感想をだらだらと。
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「女王陛下のお気に入り」

2019年03月07日 | 歴史映画

監督ヨルゴス・ランティモス

フランスと膠着状態が続く18世紀初頭の英国、
アン女王は、財政を圧迫する戦争を
継続するか終結させるかの決断を迫られていた。
継続派の女傑、マールバラ公爵夫人サラは、
幼いころからの女王の友人で同性愛関係にもあり、
その影響力を政治に及ぼしていた。
ある日侯爵夫人のところに、没落した遠縁の美しい娘がやってきて、
自分を召使として雇ってくれないかと懇願する。
夫人は彼女を台所の下働きとして置くが、
やがて彼女は女王の看病をきっかけに顔を覚えられ、
徐々に女王の寵愛を得るようになっていく、というあらすじ。

3人の女性は実在する人物で、史実が元になっています。
ハートフォードシャーのハートフィールドハウスで撮影された
お屋敷の内部の重苦しい陰、背景の美術品と調度の美しさ、
3人の女性の衣裳、偏執的な美意識でまとめられています。
3人の愛情の話のような、そうでないような、
きれいはきたない、きたないはきれい、という感じの話。
演技合戦が見ものです。
3人全員がアカデミー賞助演・主演にノミネートされた。
オリヴィア・コールマンが主演女優賞をとりました。

同監督「ロブスター」を見ているので、
絶対に明るいラストではないし、
もしかすると小動物が苦しんで死ぬかも、という心の準備はしてました(笑)
とりあえずウサギ虐待はありますが、死なない。
鳥が何羽も死んで血が飛び散るのでそこは注意。

飲み過ぎげろ、食べ過ぎげろ、食あたり(毒)げろ、
フルセット揃ってます。美女のげろマニアの方は劇場へ今すぐ。

ラストばれ

欲望渦巻く宮廷劇であり、監督なりの恋愛物語でもあるような。
夫人の愛は支配と権力欲を伴うものではあったけど偽りではなかった。
アン女王は関心と愛情の餓鬼となって何も見えなくなった。
アビゲイルは他人も自分も道具のようにしか思っておらず、
それゆえに女王の望むまま躊躇なく何でも与えられたが
最後まで愛情からは遠いところにあった。

「私を取り合うなんて最高ですもの」というアン女王の台詞に、ぞわ…としました。
国境と性別を越えて、人間は取り合われるのが好きなんだな。本能だな。
映画とは関係ない現実の話だけど、
通常、人間はなぜか自分への愛情と称賛を疑えないようにできているので、
愛情と関心への飢えは注意してコントロールしなければならない。
最悪、無一文になって死にますよ本当。

この監督の作品は性愛への関心と意欲が高すぎて
「人間に性愛以上の大切なことってありますか!?」
ってパッションで他が見えにくいので、性愛抜きの映画を一度撮ってほしい。
あ、でも「聖なる鹿殺し」を見てないので、それがそうかも。
なるべく早く見ます。

痛風の痛みに牛肉を巻く!?宗教!?
って思ったんですが、冷やしてるんですね。
冷やすのは現在でも行われているらしいです。マッサージはよくないそう。
女王、終盤になるにつれ身体の左側が麻痺しているように見えましたが、
あれは痛風なんだろうか…?そして演技で表現しておられたんだろうか?





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「清須会議」

2013年12月04日 | 歴史映画

いつもの三谷さん映画のシチュエーションコメディではなく、
どちらかと言えば「組!」系の、
史実をそのまま使いつつ、それを面白い方向に
ゆるーく曲げる感じの話です。
流れは原作小説ほぼそのままですが、
領地分配のシーンと(私の好きな)イノシシ狩りのシーンはカット。
まあ…イノシシ狩りを入れるとロケ地の手配や
撮影期間の延長で製作費が嵩んだでしょうから
仕方ないのは分かりますが…
佐藤さんのコメディシーンが増えたからいいですが…
イノシシ…。

光秀を討取ったあと、織田家の跡取りを誰にするか、
古参の家臣や成り上がり者の家臣、
仇討で功をあげたもの、あげられなかったものが一堂に会し
城の中に籠って協議をするという、いわば密室劇です。

皆さん楽しそうにのびのびと演じられていて実にいいです。
特に寧役の中谷さんがキュートだった。
原作では秀吉に対してもうちょっとニュートラルだったのですが
映画では明るく献身的な、ツキを運んでくる女性という感じ。

柴田勝家の役所さん、丹羽長秀の小日向さん、
秀吉の大泉さん、池田恒興の佐藤さん、このあたりは安定した演技で
芝居と笑いを回してらっしゃいました。
しかし西田敏行さん、松山ケンイチさん、天海祐希さんはすごいチョイ役で
それでよかったの!?本当に!?と聞きたくなりました。

内容ばれ

妻に関する丹羽のアドバイスとか、
原作にないシーンがちょいと足され、
逆に勝家の空涙などが削られて、
円満なラストになるよう、映画っぽいカタルシスが得られるよう
工夫がしてありました。
麿眉と鉄漿が殊の外お似合いだった剛力さんの例の告白も
寧さんが受け手だったのでちょっと丸くなった。

1人称小説って映像化は難しいと思うんですが、
さすが作者だけのことはあります。
(原作・脚本・監督=三谷さん)

最後に「さまざまな声:山寺宏一」って出たんですが
さまざまな声ってなんだろう…。


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「リンカーン」

2013年04月22日 | 歴史映画

最近やたらリンカーンの映画ばかり見ているような気がします。
といってもまあ、「声をかくす人」は暗殺に関する裁判の話だし、
「リンカーン/秘密の書」は吸血鬼と闘う大統領だった訳ですが。

スピルバーグはリンカーン大ッ好きで、
アメリカ人もまた基本的にリンカーン好きなので、
そこのところをまず理解していないといけません。
この映画は南北戦争とかゲティスバーグ演説とかメジャーな部分ではなく、
憲法第13条修正をメインに描いています。

うんまあなんか大統領への愛がだだ漏れている映画なので
リンカーン好きには楽しい150分になるでしょう。
(「リンカーン/秘密の書」を見ると大抵は大統領を好きになりますよ)
主演のダニエル・デイ=ルイスは亜弓さんとマヤが合体したみたいな完璧俳優らしいですが、
まさにリンカーンが甦ったような、畏れ多いと感じさせるオーラの出まくった演技をなさっています。
彼はこの映画でアカデミー賞主演男優賞を受賞。
1人で3回主演男優をとったのは歴史上この方だけだそうです。

内容ばれ

汚い裏工作も描かれると聞いていたので、
リンカーンの負の部分も出るのかと思いましたが全然そんな事はなく、
大統領は高潔でした。彼は筋斗雲に乗れる!
票獲得の裏工作も、国務長官(ファンクラブ会長的な)やロビィストたち(ファン)が
大統領のために積極的に頑張ってくれたわけで、
大統領のやったことと言えば、和平使節団の存在を隠蔽したことと
あと少し票が足りないってときに大っぴらに切り崩しに走ったことくらいです。
反対派もそりゃもう寝返りますよころりと…。

・最初の方、奥さんとリンカーンが向かい合って立つ所、
 奥さんがちっこくて可愛かった。リンカーンは身長193センチの巨神兵ですが、
 ダニエル・デイ=ルイスは187センチらしいので、やや上げ底だったのかな?
・メアリー・トッド・リンカーンは、映画のように心の不安定な女性で
 リンカーンはしばしば執務室に寝泊まりしていたらしいですが、
 サリー・フィールドも迫真の演技でした。
 (あのトミー・リー・ジョーンズを罵倒するところとか…足震える)
 彼女はERでアビーのおかんを演じた女優さんでしたが
 あのおかんも「アビー…家でて正解だよ…」と思わせるのに十分な演技だったので
 心に問題のある人を演じなさるのが上手いのでしょう。
・息子役のジョセフ・ゴードン・レヴィットは、やや存在が希薄でした。
 うんまあシナリオがな……。
・リンカーンは話術がともかく巧みだったそうです。
 この映画でも様々な大統領の小噺が聞けました。
 たとえ話から入って、なんとなく本題も納得させてしまうという大統領のトークテク。
 落語の枕のような。みんなをリラックスさせるために喋った、肖像画の話が好きです。
・脚本はミュンヘンのひとで、ドキュメンタリがお得意なのかな?
 あまりエンタメー!という話の作りではない。
・曲と、その使い方が、ややもっさりしてたな……と思ったら
 ジョン・ウィリアムズ御大だった。あれれ!?御大どうしたの!?
・トミー・リー・ジョーンズの演じていたおっさんがかわいかった。
 相手を罵倒する時まず臭さから攻めるのは癖なのか。
・しかしなんといっても国務長官のリンカーンへの愛の深さ。
 尽くさずにはいられない器の人なのだという事がよく分かりました。
 あと国務長官は襟元が常にお洒落だった。スケッチしたかった。
 なかのひとの首が長いのか、タイがよくお似合いでした。



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