「半夏生(ハンゲショウ)」と「ヘメロカリス」
★ 何時も同じことを思うのだが、この白い葉っぱを見ると「不思議な花もあるもんだ」、と。なんで、このように中途半端に白い葉を持つ花「半夏生」と、赤黄色の原色を厚く塗ったような花「ヘメロカリス」が、しかも同時期に咲くのか。でも、今にも雨が落ちてきそうな天気の下で、二つの花が並んで咲いている姿を見ると妙に似合うから不思議だ。
「半夏生」、象の鼻のように垂れ下がっているのが花で、花の付け根の白い葉が花弁の役割を果たすらしい。花に虫を誘うために葉を白く進化させたのではないかと言われている。季節限定、しかもほんの数週間だけ楽しめる、この半夏生の白い肌は、「ここまで来ると厚化粧もちょっとな」という気持ちになる。しかし、その葉の白い部分は、花が咲き終わった夏の盛りに少しずつ色褪せて緑色に戻る。役割を終えたということなんだろう。白い葉にはちゃんと理由があった。
昨年も書いたが、「半夏生」を非常にうまく表現している興味深い随筆(團伊玖磨の随筆(昭和58年7月15日のアサヒグラフ誌))なので、気に入っている。
「半夏生の語源は、どの暦の解説書にも、辞典にも、丁度この頃半夏が生えるからだと記してあって一寸不思議な気がする。暦の上で半夏という候があって、その頃に生える植物の名が半夏生になったのなら判るが、半夏の方が植物の名として先にあって、その植物が生える頃だから半夏生という候が暦に載るというのだから、順序が逆な気がする。それにしても、半夏生の名はどうも半化粧の方が感じが出る。
……その先端の二、三枚の葉を白化させているのを見ていると、花魁(おいらん)か芸者か知らないが、玄人筋の女が鏡台の前で厚化粧に取り掛かっている最中に、用を思い立ってふと立ち上がったような姿に見えてならない。
……もう少し論理的な見方は、この葉の白化は、注意深く見ると表側だけで、葉の裏側は淡い緑色をしているので、表側だけ化粧して、あとの半分、裏側は化粧していないと見て半化粧の名が付いたのではと考えることも出来る。古和名の片白草はそうした観察から付いた名であろう。中国では三白草と呼び、上の一枚が白化した時には小麦を食らい、二枚目が白化した時には梅や杏を食らい、三枚目が白化した時には黍(きび)を食らう、などと言う」
★ もう一つの花は、「ヘメロカリス」。
赤と黄色の原色の絵具を厚く塗りたくったようで、如何にも初夏に似合う。 「ヘメロカリス」は絵具を塗りたくった色具合だから、玄人筋の女が口紅やホホを赤や黄色に厚化粧した姿を思い出させる。しかも、面白いのは原色の花弁には皺(シワ)があるのだ。
「半夏生」と「ヘメロカリス」の対比は実に面白くてユニークだ。
「半夏生」を花魁が鏡台の前で厚化粧に取り掛かっている最中に、用を思い立ってふと立ち上がったような姿とすれば、 「ヘメロカリス」は用が済んで鏡台に戻ってきた花魁が、急いで付けた口紅やホホの厚化粧となる。
★ 何時も同じことを思うのだが、この白い葉っぱを見ると「不思議な花もあるもんだ」、と。なんで、このように中途半端に白い葉を持つ花「半夏生」と、赤黄色の原色を厚く塗ったような花「ヘメロカリス」が、しかも同時期に咲くのか。でも、今にも雨が落ちてきそうな天気の下で、二つの花が並んで咲いている姿を見ると妙に似合うから不思議だ。
「半夏生」、象の鼻のように垂れ下がっているのが花で、花の付け根の白い葉が花弁の役割を果たすらしい。花に虫を誘うために葉を白く進化させたのではないかと言われている。季節限定、しかもほんの数週間だけ楽しめる、この半夏生の白い肌は、「ここまで来ると厚化粧もちょっとな」という気持ちになる。しかし、その葉の白い部分は、花が咲き終わった夏の盛りに少しずつ色褪せて緑色に戻る。役割を終えたということなんだろう。白い葉にはちゃんと理由があった。
昨年も書いたが、「半夏生」を非常にうまく表現している興味深い随筆(團伊玖磨の随筆(昭和58年7月15日のアサヒグラフ誌))なので、気に入っている。
「半夏生の語源は、どの暦の解説書にも、辞典にも、丁度この頃半夏が生えるからだと記してあって一寸不思議な気がする。暦の上で半夏という候があって、その頃に生える植物の名が半夏生になったのなら判るが、半夏の方が植物の名として先にあって、その植物が生える頃だから半夏生という候が暦に載るというのだから、順序が逆な気がする。それにしても、半夏生の名はどうも半化粧の方が感じが出る。
……その先端の二、三枚の葉を白化させているのを見ていると、花魁(おいらん)か芸者か知らないが、玄人筋の女が鏡台の前で厚化粧に取り掛かっている最中に、用を思い立ってふと立ち上がったような姿に見えてならない。
……もう少し論理的な見方は、この葉の白化は、注意深く見ると表側だけで、葉の裏側は淡い緑色をしているので、表側だけ化粧して、あとの半分、裏側は化粧していないと見て半化粧の名が付いたのではと考えることも出来る。古和名の片白草はそうした観察から付いた名であろう。中国では三白草と呼び、上の一枚が白化した時には小麦を食らい、二枚目が白化した時には梅や杏を食らい、三枚目が白化した時には黍(きび)を食らう、などと言う」
★ もう一つの花は、「ヘメロカリス」。
赤と黄色の原色の絵具を厚く塗りたくったようで、如何にも初夏に似合う。 「ヘメロカリス」は絵具を塗りたくった色具合だから、玄人筋の女が口紅やホホを赤や黄色に厚化粧した姿を思い出させる。しかも、面白いのは原色の花弁には皺(シワ)があるのだ。
「半夏生」と「ヘメロカリス」の対比は実に面白くてユニークだ。
「半夏生」を花魁が鏡台の前で厚化粧に取り掛かっている最中に、用を思い立ってふと立ち上がったような姿とすれば、 「ヘメロカリス」は用が済んで鏡台に戻ってきた花魁が、急いで付けた口紅やホホの厚化粧となる。