野々池周辺散策

野々池貯水池周辺をウォーキングしながら気がついた事や思い出した事柄をメモします。

差別化とは宗教化することかな

2012-06-26 06:28:09 | 二輪事業

24日、ドゥカティのDiavelを駆ってドラッグレースに出場した、MotoGpライダーのV.ロッシが面白い発言「ドゥカティって宗教みたいなんだよね」をしている。「本当に信じられないようなことなんだけど、 ドゥカティのマシンを買う人って言うのは別に技術的な面だけで選んでるんじゃなくって、その背後に哲学があるって言うか… いや、もう、ほとんど宗教みたいなもんなんだよね。ここのファミリーから離れるなんて辛いことでしょうねぇ… このままここで続けて、デスモセディチ機を強いマシンにできたらスゴいだろうなぁ。イタリア人の間でも、その方が具合が言いわけだし。」

ドゥカティは既にドイツのアウディに買収され、ポルシェ、ランボルギーニ等と同じVWグループに加入した。そして、「高性能バイクのドゥカティ」としてのブランドイメージを更に確立させることで、低迷している二輪市場、特に米国での販売を大幅に伸長させている。ブランド・ロイヤリティを得て顧客の囲い込みを確実化しつつある欧州の二輪企業だ。(「米国ドゥカティの2012年1月~5月までの販売台数」は4,844台で昨年比+19%、2010年比で見ると+98%もの大幅増)
 
二輪の販売を伸ばしたいなら、製品を前面に出すのでなく、その背景を売れ、ブランド信仰、つまり宗教化すること・・・かな。
「ドゥカティ信仰論」、V.ロッシはドゥカティと言うブランドを極めて上手に表現した頭の賢いアスリートだと思う。
さすが、世界高額アスリート・トップ100の20位にランクされることはある。

これと同じことをハーレーダビットソンの項でも書いた。「安定して高い収益性を確保している二輪企業の代表がハーレーダビットソンだが、その好調さを維持し続けている理由の一つとして、 ハーレーはアメリカの歴史や強大なアメリカそのものを背景にしている」「日本の二輪企業がハーレーと類似の製品を開発できても、 ハーレーのもつアメリカの背景や泥臭い匂いまで売ることはできない。」
 参考:「ハーレーでなければダメなんですか」」
ハーレーの日本向け販売は少し低下したようだが、世界的に見ると依然好調に推移している。

このような事例は何処にもあって、例えば、スターバックスはコーヒーの味というスペックで競争していない。
 スタバが特別な存在で、高いコーヒーを売り続けられるのは、コーヒーを売るのではなく、
 「サードプレイス」という場所を提供すると言うコンセプトが他にはマネのできないこと。 

6月24日の日経ネットに、「富士重工の吉永社長のインタビュー記事」があった。
「スバル」好調の理由を、コンセプトによる「差異化」と強みへの「絞り込み」だと言う。
「レガシィ」や「インプレッサ」が販売店から足りないと言われるくらい、今売れているらしい。
 自分たちが好きな車だけを造る事から方向転換し、消費者の声や不満をひたすら聞きつつ、技術志向は失わないようにする。
 スバルがスバルで無くなったら、魅力を失い、国内最小の自動車メーカとしての個性が埋没してしまう。
 業績好調の理由を「差異化」と「絞り込み」の結果としている。

「差異化に関して、足して2で割るような開発はしない。
 そして誰も手掛けていないコンセプトを織り込んで、他社と比べられないようにしている」と語っている。
 そのコンセプトは「安心と楽しさ」と言う切り口で、スペックではなく、コンセプトで差別化する。

「絞り込みに関しては、フルラインアップの品ぞろえをやめて、強みに特化。
 トヨタの傘下に入ることによって、スバルはスポーツカーの開発に経営資源を集中することが可能となった。」

「考えるべきはコンセプトによる差別化、コンセプトで差別化された商品は、高くても売れる。
 スバル車のアメリカでの値引き額は800ドル程度と業界平均の3分の1になっている」とインタビューで語っている。

 
★吉永社長は日経ビジネス4月16日号の「編集長インタビュー」にも登場し、製造業の経営者としては珍しい哲学を披露している。
それは、「コスト競争は大の苦手」、「安全と楽しさで差別化追求」だった。 「価格」と「品質」を金科玉条のようにオウム返ししている幾多の製造業社長の中にあって、異質な発言だ。 経営戦略って、「ヒトの行かない裏道に桜を探す」という行為である。
 
また、こんな発言もしている。
「輸出比率の高い当社にとっても円高進行は打撃だ。それでも好調な要因は、主として三つある。  高単価を維持できるブランド力、工場のフル操業が続いていること、値引き販売をしないことだ。  日米共に販売は好調で、むしろ好調過ぎることが組織の緩みにつながることを懸念している。」

そして、 富士重が生き残るための戦略は何かの質問については、 「明白なのは、スケールメリットを追い、上位メーカーと同じ土俵に乗ってはいけないということ。  コスト競争では勝てない。基本方針は、「スバル」の個性を維持することだ。 趣味性の高いユーザーを味方につけるための投資は惜しまない。  そうはいっても、やがて世界のメインストリームが環境対応車になったときに、即座に商品投入できる“手段”は準備しておかなければならない。  トヨタ自動車と資本提携しているのもハイブリッド技術で支援を得るためだ。」

★一方、社長インタビューとは別に、「米国販売が伸びた理由は下記2点にあるとする現場の意見もある。
 ●インセンティブ依存症からの脱却。
  販売を正常化するために、価格を1000ドル下げてインセンティブが必要なくなればいい。クルマの価値を変えずに値下げすれば、米国で一般的なリース販売でも顧客に有利な条件が設定できる。販売店にとっても歓迎すべき話だった。
 ●マーケティングも変えた。
  従来のテレビCMは「大草原か雪道を走り、最後には値引きや自動車ローンのキャンペーンに触れる」といったマンネリ化したものばかり。そこで「安心」「安全」「頼りがい」といったイメージを訴求する一方、メーカーが展開するCMでは価格には触れないことにした。

これ等の方法が販売店には大好評だったとある。

富士重工業インタビューからは、米国販売好調の理由を「差異化」と「絞り込み」にあるとし、コンセプト戦略の勝利と分析しているようだ。ハーレー、ドゥカッティやスタバに見られる「ブランド背景」なるものの存在についての分析がなされていないのも興味を引く。
いずれにしても、世界販売に占める国内生産比率同規模のマツダが大幅赤字(営業利益 △387億)を計上したのに対し、富士重工業は黒字(営業利益440億)を計上した。この違いはなにか、何か面白い分析が出てくる可能性も期待でき、今後の動きを注視し続ける価値はありそうだ。

「差別化」と言う、何れの企業でも、ごく当たり前に使用されてきた用語を成功に導いた好例で、参考になった。


★ハードを全面に押し出すのではなく、ソフト戦略を前面に出すことにより顧客を囲い込む事でハードの販売に結び付ける術は、実は身近にもあったように思う。 かって、カワサキの国内販売社が国内販売7万台を達成した時代の手法と似通っているが、どうであろうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする