「KX50周年のwebsite」関連情報の続編がカワサキから投稿されている。
「In 1989, the KX125SR and KX250SR entered the All Japan Motocross Championship with a revolutionary new type of frame: a steel perimeter chassis that used two tubes that wrapped around the fuel tank rather than a single beam. That year, Kawasaki factory rider Atsushi Okabe won in the 250 class on this new chassis which eventually evolved into the aluminium perimeter frame still in use today and first introduced on the 2006 KX250F and KX450F. 」
1989年、新型ペリメータフレームを装着したワークスバイクKX125SRと KX250SRは世界で初めて全日本モトクロス選手権のレース場に登場し、その年度、ワークスライダー岡部篤史選手がペリメータフレームを搭載したワークスマシンで最高クラス250㏄クラスチャンピオンとなった。
「KX250SR」
「RACERS」と言う、全世界の二輪レースサーキットで大きな戦績を挙げ話題となった各社のワークスマシンを取り上げた日本の専門雑誌がある。日本の購買層の特殊性から、取り上げる話題は圧倒的にロードレースで活躍したマシンが多いが、そんな中で編集長が取り上げた数少ないモトクロスバイクがカワサキのペリメータ搭載のKXだ。「RACERSvol26」誌は編集長がKXペリメータフレーム開発物語を取り上げた理由をこう書いている。
「巻頭言で、編集長はペリメータフレームを採用したカワサキKX125デザインの”圧倒的かっこよさ”を「RACERS」特集に選んだ理由として述べている。かつ、他社比較車と対比しながらKXを絶賛し、この”圧倒的かっこよさ”が多くのユーザーを引き付け、例えば当時カワサキKXの最大の競争相手だった、ホンダの技術者でさえ、ホンダのモトクロッサーではなくKXを買ったと書いてある。その理由とは”KXが格好良いから”だったという。それまでのモトクロスフレームとは一線を引いた、言わばモトクロッサーのフレームとはこれだと言う既成概念を一掃してしまう”かっこよさ”がKXにはあった。そのことがホンダの技術者のみならず多くのモトクロスユーザーに注目されたとある」
その後のモトクロスマシンの多くはカワサキのペリメータフレームを基本に発展していった。当ブログでも「RACERSvol26」読書感想として取り上げている。
参考までに書くと、カワサキはその後、ペリメータフレームを発展させたアルミフレームを試作し、’90年代初頭にはアルミフレームのKX250SRを当時のワークスライダーエディ・ワーレン選手に乗せて全日本モトクロス選手を戦ったこともあり、またミニバイクにもアルミフレームをトライしたこともある。これ等を通じて、当時のアルミフレームの課題を追求していた。
その後、日本製モトクロスマシンは4社とも類似のペリメータ構成のアルミフレームに転換して長いが、そのアルミフレームに異を唱え、鉄のクロモリフレームを依然として採用し続けているのが、欧州の覇者KTMとHusk社だ。昔はいざ知らず、KTMのモトクロスマシンは、今や世界の頂点に立ちその地位は揺るぎないもので、世界中の顧客から信頼と支持され続けている。モトクロスマシンは二輪の原点でもある競争するためだけに、そのレースに勝つためだけに開発販売されるマシンだから、技術的合理性にそって設計されている。昔から技術的合理性の追及は日本の二輪企業が得意とするところで、その技術的優劣を競うレースに勝つことで、日本企業は彼らの技術的優秀性を世界中に認知してきた歴史がある。その戦いの場で、日本の企業はモトクロスバイクのアルミフレームを固守し、一方、世界の頂点に立つ欧州企業のKTMとHuskは技術的合理性を求められるモトクロスマシンに鉄のクロモリフレームを採用してきた。
2018年に発行された「
RACERS vol49」は、スズキ125MX(RAシリーズ) 栄光の10連覇を成し遂げたライダーの一人、モトクロス世界選手権唯一の日本人チャンピオン”渡辺明”選手を特集しているが、この雑誌 の最後に、渡辺選手が雑誌記者に”これだけは言っておきたいので、ぜひ掲載して欲しい”と述べた文面がある。そこにはモトクロスのマシン作りに関することで、こう書いてある「ここ15年、日本の4メーカーはアルミフレームの商品価値にこだわり作り続けてきましたが、世界のレースシーンでは鉄フレームが勝ち続けている。アルミの場合、剛性は優れていても、特にオフロードでの重要な衝撃の吸収性では鉄に劣り、ライダーの体力的負担が大きい。過去15年のレース結果がすべてを証明していませんか。新しい鉄フレームの開発を決断すべき時だと思います」とある。つまり、モトクロスマシンの主流をなす、アルミフレームの是非を問うている。
渡辺選手が言いたいのは、類推するに多分、今やモトクロスの頂点は欧州のマシンであり、彼らが長年にわたり採用しているのが鉄フレームであること。モトクロスマシン設計で最も重要要件の一つはフレームやサスの衝撃吸収性であるが、フレームが適度にしなり衝撃を緩和することによってライダーへ衝撃負荷を軽減させ体力的負担をより少なくすることでレースに集中できる、と言うことだろうと思われる。フレームが適度に撓むことによる衝撃吸収性は強度上断面係数つまり剛性を高くせざる得ないアルミ材より鉄フレームが優れており、鉄フレームについて再検討すべき時期にあるとの意見だと思う。こうしてみると、モトクロスバイクの開発にはまだまだ検討すべき課題がいっぱい残っているようにも見えるから面白い。