23日のCycle News.comの記事「
Kawasaki Planning “Extreme” ZX-10RR For WorldSBK 2020」は、ある状態に陥ったチーム心理を推し量る上で参考になった。
「ZX10R:Cycle News.com」
今年の世界WSB選手権(全13戦予定)は未だ4戦しか終了していないが、これ迄4戦の結果では、予選のスーパーポールから本番のレースに至るまで、DUCATIワークスに対抗できる選手は皆無で、DUCATIワークス・A Bautista 選手の完勝に終わっている。昨年までのチャンピオン・カワサキワークスのJONATHAN REA選手も、ゴールではかなり離され勝負にならない。Ducatiワークスと Bautista選手が圧倒的に強いという
レース結果に、全く勝てず苦戦中なのが昨年の覇者Kawasakiで、その渦中にあるKawasaki Race Directorのインタビュー記事がドイツの雑誌「Speedweek」に掲載され、その記事がCycle News.comに載った。
上記Cycle News.comの記事で、気になった文面を拾うとこうなる。
「
Catching Ducati this season is difficult、Their engine comes from the MotoGP World Championship—their whole package is from MotoGP・・・We would not be able to reach their speed.」に続いて、「
a new, limited edition ZX-10RR for the 2020 WorldSBK Championship?」 と言う質問については
「That’s the solution」と回答し、
「Ducati continues with this bike next season, we need a machine like that. We are not in the championship just to be there. If we bring a motorcycle with a similar concept, then we can beat Bautista and Ducati」と続けている。
KawasakiのRace Directorの意見を色々考えてみたが、推測するに、今年のDucatiワークスに対しKawasakiワークスチームは早々と白旗を挙げた、つまり降参を意味しているんだろうか。そして、KawasakiのWSB運営チームが勝てない理由はKawasakiのマシン性能がDucatiに劣っているからで、仮にKawasakiがDucati同じコンセプトのマシンを開発できる(過去の経験から可能と述べている)とすれば、KawasakiはDucatiに勝てるのだと、斜に構えて言えば、勝てないのはチーム運営ではなくKawasakiマシンが悪いからで、彼らと同等のマシンさえあれば勝てるのだといった、言うなら”たられば”の話の様に受け止められて解釈される可能性がある。
で、同じくCycle News.comの記事には読者コメントが投稿してあるが、在野ファンの意見も面白い。
「This seems like a bit of an excuse for Rea and a disservice to Bautista. Lets not forget that he was a bad man even in GP so now with him in WSB the talent gap is highlighted.・・ I think that WSB and Kawasaki need to come to terms with the fact that there is a difference between "good" and "ELITE"」
「The problem seems to be Bautista and not the machine. Chaz Davis can't finish on the podium let alone win, and he's on the same bike.・・ Being a Kawasaki fan, I didn't see them complaining too much when Rea was doing the same thing a couple of years ago.」
どちらかと言えば、在野のファンはKawasaki Race Directorの見解に批判的な意見であるようだ。Ducatiワークスが強い理由は、単に、V4のDucatiのマシンとBautistaのライディングスタイルの相性が抜群に良かっただけの話(参考:MotogPライダーの意見「
ロッシ&マルケス、リンス:バウティスタはマシンのおかげで勝ってるわけじゃない」)だと考えるのが一般的で、Kawasaki Race Directorはマシンが悪いから勝てないんだとするのは言い訳(excuse)にしか聞こえてこず、勝てなくなった途端に見苦しい言い訳では情け無くはないか、という意見のように解釈できる。
DUCATIワークスは今年、エンジンも車体も一変した。エンジンも車体も一変したマシンが全日本や世界選手権レベルのレースに始めて参戦する場合、熟成を重ねた他社マシンと勝負できるレベルに仕上げるには相当な工数、つまり時間を要するのが一般的だが、DUCATIの新マシンは、その前例が全く当てはまらな程強い。世界選手権初参戦後、11ヒート全戦優勝とは、驚嘆以外になく、素晴らしいマシンが登場した。「
ドゥカティ、2018年に世界的な販売を強化し パニガーレがスーパーバイクのベストセラーモデルに」によると、ドゥカティ・モーター・ホールディング最高経営責任者(CEO)は「私たちは、MotoGPで数多くのレースを制し、優れたモーターサイクルを開発しました。つまり、会社は健全な状態を維持しており、革新的な機能と製品開発を推進するという姿勢を貫くことが可能になっています。今後数年間にわたって、私たちはモーターサイクルのアイコンとなる新しいスタイルとテクノロジーを備えた製品を、引き続きお客様に提供いたします」とある。日本企業に比ぶべくもない程小さい企業規模のドゥカティが採った、製品の技術の質の更なる深化を図るコンセプトが、見事に市場に受け入れられたと言う事だろうから、このコンセプトは賞賛に値すると素直にそう思う。だからこそ、昨年までのチャンピオン
Reaのコメントにあるように、「現実を受け入れ、アルヴァロやドゥカティが物凄いことを成し遂げてるんだと称賛しなければ。とにかく、アルヴァロに接近して行けるようなサーキットが回ってくるのを待ちますよ」と冷静に考えるのが正解だろう。一方、全日本のワークスチームには、通年、8耐も含めなかなか勝てずに数年前の古いマシンだと酷評されながらも、今年、「
高橋巧が前人未踏の2分03秒台でダブルポール」にあるように、鈴鹿サーキットを半年足らずに5秒台から3秒台で走れるスーパーバイクマシンに仕上げて登場させるのだから、技術の進化は途轍もなく凄いと思う。