「日経 Web刊」
6月14日、15日に開催された「ル・マン24時間耐久レース」の結果を、神戸新聞は「逃がしたルマン24時間優勝」「イメージ戦略、足踏みか」として、
トヨタが必勝を期した今年のルマン24時間で優勝できなかったことで、企業イメージ向上や技術力のアピールを目指すトヨタの戦略は足踏みを余儀
なくされ、このまま未勝利のまま撤退すればすれば、企業イメージのが低下する可能性さえあると報道している。
そして、レース専用車の開発は市販車との共通する技術は多くないとされると書いてあったが、これは何を意味するのか疑問に思った。
神戸新聞記事の意図はどのような意味があるのだろうか。ルマンの勝利に掛けていたトヨタは残念ながら勝てなかった。で、これを機にトヨタは
耐久レースからF1撤退のように撤退するかもしれないともとれる、その理由の一つにレース専用車と市販車の共通技術は多くないとさえ書いている。
レース専用車とはクローズドサーキットをいかに速く走れるかを探求したマシンであり、大多数の一般市民が公道を安全で快適に走ることを追求した
市販車作りとは当然のことながら異なるのは当たり前。そんなことは子供でさえ知っている。神戸新聞は何を言いたいんだろう。
神戸新聞は、ルマンのレース結果を踏まえて、トヨタと直接面談して書いた記事なんだろうか。
本ブログでも、「
四輪のモータースポーツ」として、トヨタが取り組むモータースポーツとモータースポーツこそ創業以来のDNAだとしてレースに取組んできた
ホンダの考え方を、彼らが公表した資料にもとづいて自分なりの所感を簡単に述べてきた。
特に、トヨタのレース活動については「
2014年 モータースポーツ活動発表会ムービー」に詳しく語られている。
そこには、市販車の技術とレース専用車が追求する技術は同じで、レース専用車の技術がそのまま市販車に活用できるからレース参戦を志すとは書いてない。
トヨタもそう、ホンダもそうだが、レース専用車はサーキットという専用のコースの中で如何に誰よりも早く走れるかを追求し、しかも24時間という耐久性
もを追求する技術競争であり、そこにあるのはレース車に要求される技術力の極限の競争だとしている。市販車に要求される技術力とは当然異なる。
だから、その点では神戸新聞の記事(市販車とレース専用車の技術は異なる)はその通りだが、彼らがレースに参戦する目的はそんな次元な話ではない。
彼らがモータースポーツ、レースの世界で戦う理由を自分なりに解釈すると、企業にとって最も重要な競争力学を重視し、極限状態で戦うことで
大企業病にかからぬ組織を作る、その戦略の一つがモータースポーツ活動なのだろうと思う。戦いのなかで蓄積された人的・物的な知識・技能の伝承、
いわゆる組織技術ソフトウェアの蓄積の重要性から言えば、レース運営組織が経験的に企業グループ内で運営し続けたいとの思いが、トヨタ、ホンダの
経営トップからの市場に向けて、いや社内に向けての直接の声と取ることもできる。
市販車の開発は所謂自己完結型のもので、ベンチマークは存在するもあくまで社内の自己目標ルーティングに達すれば良しとしている。一方、レース専用車
の開発は競争相手にあくまで勝たねばならぬという宿命があり、その目的は競争相手も全く同じが故に、勝ち負けや相手の実力はいざ戦ってみないと分からない。
そういう怖さがレースの世界にはあるので、単に車が目標通りに出来たと言っても競争に負ければ、まだ目標に達せずとなる。一生懸命にやったんだけどな
と言っても、競争相手はもっと努力したかもしれない。勝つためには、技術の極限の戦いに耐えうる組織を構築せねばなるまい。これが自己完結型の市販車
開発とは自ずと異なるものだと思う。
しかし、ルマン24時間はWEC(FIA 世界耐久選手権)の1戦にすぎないが、このレースに勝つ意味は大きかった。
レースに勝つことで富裕層が好む強力なブランド力を構築でき、それが新興国への販売に直結し、結果的に企業収益に大きな影響を与えるだけに、
世界市場に君臨したいトヨタにとってレース活動は絶対に止められないはず。そう信じている。これは二輪事業にとっても重要だと思うがどうだろうか。
一方、18日の日経Web刊に、「
トヨタ、アウディに惜敗、ル・マン挑戦を続けるワケ」とあった。
「トヨタ7度目の挑戦は、またしても王者アウディ(ドイツ)に跳ね返された。しかしここで挑戦をやめるわけにはいかない。欧州メーカーはレースに勝つことで
世界の富裕層をひき付け、ブランド力に直結させている。世界の高級車市場を制するために、ル・マンは避けて通れない道である」と書いてあった。
要点を取り出してみた。
■レースの結果は販売に直結する
トヨタは93年、94年、98年、99年、2012年、13年と6回ル・マン挑戦し、2位が4回でいまだ優勝がない。12年からはル・マンの最上位クラスの参加資格が
ハイブリッド車に限られ、世界最大のハイブリッド車メーカーであるトヨタにとってル・マンは「どうしても勝ちたいレース」になった。しかし、
得意のハイブリッドでどうしても頂点に手が届かない。 レースで勝つことはメーカーにとって重要だ。
欧州の富裕層はル・マンやF1といった最高峰のレースで勝つメーカーのクルマを好む。それがブランド力となり、新興国の富裕層を引き寄せる。
アウディの場合、ル・マンで勝ち始めた2003年の世界販売台数は77万台だったが、10年間、レースで勝ち続けた結果、世界販売は157万台に跳ね上がった。
レース効果は欧州だけではない。アウディの世界販売の三分の一は中国が占めているのだ。
中国のル・マン人気は日本よりはるかに高く、レースの結果は販売に直結する。
■勝つことでブランド力高める欧州勢
アウディはレースと市販車を結び付けるマーケティングにもたけている。世界的に有名なラリーのWRCで連勝した時に開発した四輪駆動技術「クワトロ」は、
その後、同社のスポーツモデル市販車の代名詞になった。ル・マンでは最新のディーゼルエンジンで連勝し、今や市販車の半分がティーゼルになった。
レースでブランド力を高めるのは欧州メーカーの得意技だ。メルセデスベンツは最速を競うフォーミュラーワン(F1)、BMWは市販車をベースにした
ツーリングカーレースなどで積極的にレース活動を展開し、勝つことでブランド力を高めている。だから欧州メーカーの利益率は高い。
高級車の販売台数は自動車全体の1割強にすぎないが、利益では5割を占める。調査会社のIHSオートモーティブによると、高級車市場の7割は
メルセデスベンツ、BMW、アウディの独三大ブランドが占めているが、「日の丸高級ブランド」のシェアは1割にとどまる。
■実用一点張りの日本車が増加
過去10数年、日本メーカーはバブル崩壊やリーマン・ショックの度にレース活動から遠ざかってきた。「スピードより環境性能と実用性」という方針で、
ハイブリッド車やワンボックス車、軽自動車に力を入れてきた。その結果、実用一点張りの日本車が増え、新興国市場での苦戦や若者の自動車離れを招いてしまった。
自らもレースドライバーとしてハンドルを握るトヨタの豊田章男社長の口癖は「わくわくするクルマづくり」。
そのためには来年こそ、ル・マンの表彰台の真ん中に日の丸を掲げ「世界最速ハイブリッド」の称号を手に入れなければならない。
下記の広告は、2年前の神戸新聞にあったものだが、トヨタもこれに類する広告が出来た時こそ、本当に質の高い世界の頂点に立つトヨタかもしれない。
そうなることを期待している。