野々池周辺散策

野々池貯水池周辺をウォーキングしながら気がついた事や思い出した事柄をメモします。

#kx50yearsanniversary:③、KIPS

2023-07-19 06:20:03 | 二輪事業
 
「KX50周年のwebsite」関連情報の続編③がカワサキから投稿されている。
#kx50yearsanniversary」という動画で、カワサキの2ストロークエンジンモトクロスマシンに採用された出力可変制御装置「KIPS」の事を、カワサキはこう書いている。
「KIPS - Kawasaki Integrated Power-valve System was revolutionary. Exhaust devices for 2-stroke engines can be divided into two types: those that offer exhaust port control, and those that offer exhaust chamber control. The former type regulates the size of the exhaust port opening, making it smaller at low rpm and larger at high rpm; the latter added a resonator near the entrance of a high-rpm exhaust chamber, enabling chamber volume to be increased so that it could function as a low-rpm exhaust chamber as well. KIPS (Kawasaki Integrated Power-valve System), the device that Kawasaki developed, did both. 
Debuting midway through the 1984 All Japan Motocross season, a KIPS-equipped KX125SR earned its first win in the hands of Mikio Tatewaki in only its second round of competition. It also helped Jeff Ward win his first AMA National Motocross 125 title that same year. KIPS was later adopted for use in mass-production machines: the 1985 KX250 and KX125 featured KIPS valves that simultaneously opened and closed the exhaust sub-port and resonator. 
Favorably received for its ability to generate easy-to-manage low-mid range torque from its first year, KIPS continued to evolve with every model change. In addition to controlling exhaust sub-ports and resonator opening and closing, later versions added a valve to regulate timing of the main exhaust valve. 2-stage 3-way KIPS also moved sub-valves in two stages.#KX50yearsanniversary #KawasakiKX #KIPS」
KIPS(カワサキ・インテグレーテッド・パワーバルブ・システム)は画期的なエンジンの性能向上装置だ。2ストロークエンジンの排気制御装置は、排気ポートの制御を行うものと、排気ポートにつながるチャンバー室の制御を行うものがある。前者は排気ポートの開口部の大きさ(排気口を開くタイミング)を制御し、低回転域ではその開口部のポート面積を小さく(排気口を開くタイミングを遅く)、高回転域では大きく広げる(排気口の開くタイミングを早く)する制御機構で、後者は高回転域の排気ポートの出口付近に設けたレゾネーターを、低回転域時、固有振動数域で共鳴させることでトルクを向上させる装置である 。カワサキが開発したKIPS(カワサキ・インテグレーテッド・パワー・バルブ・システム)は、その両方を有機的に実現したもの。
KIPS搭載のKX125SRは、1984年の全日本モトクロス選手権シーズン中盤にデビューし、その2戦目で、カワサキワークスライダー立脇三樹夫選手が騎乗し初優勝した。また、同年、全米モトクロス選手権においても、KIPS搭載のKX125SRは、USカワサキのワークスライダーJeff Ward選手のAMAナショナル・モトクロス125㏄チャンピオン獲得にも、大いに貢献した。1985年のKX250とKX125には、副排気ポートとレゾネーター室を同時に開閉するKIPSバルブが採用された。初年度から低中速トルクを扱いやすく発生させることで好評を博したKIPSは、モデルチェンジのたびに進化を続けた。副排気ポートとレゾネーターの開閉制御に加え、後期型ではメインエキゾーストバルブのタイミングを調整するバルブが追加された。2ステージ3ウェイのKIPSは、サブバルブも2段階に動かした。
#KX50yearsanniversary #カワサキKX #KIPS
  
モトクロスエンジンの出力向上競争の過程で得られたKIPSは、カワサキの2ストロークエンジン性能向上を図る最大の技術の一つである。その過程は、当時の社内技報や国内外の内燃機関の専門誌等に論文発表され、なおかつ内燃機関の国際会議でも報告されたカワサキの誇るべき固有技術である。

さて、2ストロークエンジンの開発を成功させるためには、たくさんの汗をかかねばならない(=多くの実験をこなすこと)ことはよく知られた事実で、勘の鋭さと執念も同じくらい必要であるが、しかしながら当時、400PS/L以上を簡単にだせるエンジン形式はそうざらに有るものではなかった。例えば、同時期、戦績が振るわず悪戦苦闘していた2ストローク2気筒250㏄ロードレースマシンが開発中断に至った時期に、2ストロークロードレース用エンジンの可能性を調べてくれとモトクロス部門に指示があり、急遽KIPS付き125㏄の単気筒エンジンを試作しモトクロスの技術で性能向上をテストした。試作エンジン完成後1月も満たない短期間で50PS(400PS/L)以上を確保実現したが、すでにロードレースからの撤退が決定していた。KIPSがない時代の2ストロークエンジンの出力向上は、排気系を試行錯誤しながら、それこそたくさんの汗と勘の閃きが重要な要素だったが、KIPSが出来てからは低速域と高速域のコンビネーションの最適な組合せの選択となった。しかし実際のレースにおいては、モトクロスやロードレースのエンジン開発で台上数値以上に重要なのは、エンジンがライダーの要求に素早く反応してくれることである。レースと言う競争の場で、必要な時、必要なだけ、それこそ他社のマシンより素早く反応する出力特性の追求であり、それは台上ベンチ上だけで確保するのははだはだ難しい。選手が必要とする優れたエンジンの過度特性を得るためには、吸気孔や排気孔の形状も大きく影響し、単に大きいだけではだめで、設計や実験者固有の経験と勘の良さが重要となってくる。更に加えて気化器、電気系統、点火特性も極めて大きく影響する重要な要素だ。特に気化器の研究には多くの時間を割き新形式の気化器開発にも大きく関与したこともあって、過度特性の優秀さにおいては、他社に先行した技術を得たと信じているし、また当時の主流の点火装置だったインナーローターマグネットは非常に高価だったが、小型アウターロータを三菱電機と共同で試作研究し量産化に漕ぎつけたのは大成功で、コスト低減と過度特性向上に貢献した。2ストロークエンジンの性能向上にKIPSが果たした役割は大きいが、基本である素性の良い特性を得るにはたくさんの汗をかき、勘の鋭さに執念でやり遂げるしかないのは変わらない。思うに2ストロークエンジンは摩訶不思議なエンジンで、これらを改良していくには一芸に秀でた職人を日頃から育成していく覚悟がいると痛感したが、かつ競争という世界で生き延びるには、持てる技術を磨き続ける忍耐も必須の道だと思う。
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