徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:夢枕獏著、『陰陽師』1~4巻(文春文庫)

2017年09月23日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

馴染みのオンライン書店での【ポイント50倍】キャンペーンにつられて夢枕獏の『陰陽師』シリーズ全17巻を大人買いしてしまいました。取り敢えず最初の4巻を読み終えたので感想を書いておきたいと思います。

第1巻の『陰陽師』はなんと昭和の作品なんですね。2巻が出るまでに7年の間隔があいたそうで。ただ、舞台は平安時代、陰陽師・安倍晴明の怪異エピソード集というようなものなので、書かれたのが昭和でも平成でも全く差はないかと思います。

収録されているのは6話で、「玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること」、「梔子の女(ひと)」、「黒川主」、「蟇(ひき)」、「鬼のみちゆき」、「白比丘尼」。うち第1話は今昔物語の「玄象琵琶為被取語 第二十四」からのエピソードであることが明らかにされていますが、その他のエピソードも様々な昔話がベースになっていると思います。白比丘尼は人魚の肉を食べてしまって不老不死になってしまった女性の言い伝えがベースにあり、ネタとしてはかなり有名な部類かと思います。

主人公の安倍晴明は「当代一の陰陽師」の名声を確立しているとはいえ、まだ30代くらいで独身。かの有名な土御門の屋敷に1人暮らしらしい様子。そこに用事があったりなかったりで訪ねて来るのが源博雅という醍醐天皇の血筋の武士。彼は「今昔物語」を始めとする様々な文献に言及されている非常に雅を解する笛などの名手だったようですが、そういうやんごとないご身分にも拘わらず供もつれずに徒歩で清明宅にやって来て酒を酌み交わし、そして二人で問題の場所へ出かけて行き、怪異を解決するというのがエピソードのパターンになっています。

二人で出かける際のやり取りが、

「ゆかぬか」

「うむ」

「ゆこう」

「ゆこう」

そういうことになった。

と実にのんびりと平安的な感じがして、物語全体に感じられる牛車と徒歩のゆっくりとしたペースと草花の匂いで満たされた湿った空気と夜の平安京の深い闇によく調和しています。

第2巻『陰陽師 飛天ノ巻』は、1995年に単行本発行された作品。清明と博雅の話がホームズとワトソンの話のようにファンを集めているとあとがきに書いてあります。実際に「清明と博雅の話」という感じはします。寒くても暑くても土御門の屋敷で特に手入れされているとは思えない特殊な趣の庭を眺めながら、酒を飲み、つまみを食しつつ、「いい夜だ」、「それも呪(しゅ)よ」などと噛み合ってるような噛み合ってないような会話を交わして、「ゆこう」「ゆこう」と出かけていくのは毎度のことなので。

収録エピソードは、「天邪鬼」、「下衆法師」、「陀羅尼仙」、「露と答へて」、「鬼小町」、「桃園の柱の穴より児の手の人の招くこと」、「源博雅堀川橋にて妖しの女と出逢うこと」の7話。

特に前巻の話の内容を踏まえていないと分からないというようなことはなく、淡々と平安時代不思議物語が展開されています。

 

第3弾「付喪神ノ巻」は、「瓜仙人」、「鉄輪(かなわ)」、「這う鬼」、「迷信」、「ものや思ふと……」、「打臥の巫女」、「血吸い女房」の7篇が収録されています。

うち「ものや思ふと」は「今昔物語集」巻第二十七、「於京極殿 有詠古歌音語第二十八」を元にしたエピソードで、天徳4年(960年)に村上天皇によって催されたという内裏歌合が事の発端になっています。そこで競われたという和歌、壬生忠見の

「恋すてふわが名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひそめしか」

と平兼盛の

「忍ぶれど色にいでにけりわが恋はものや思ふと人の問ふまで」

は百人一首の40・41番として収録されており、内裏歌合での勝負の話は有名なエピソードですが、ここでは負けた方の壬生忠見の方にスポットがあてられています。この勝負に負けたのが悔しくて、ものも食べられなくなり、死して鬼と化したというのです。勝負の裏話とでもいうのでしょうか、非常に興味深いエピソードだと思いました。

他のエピソードも淡々と「日本昔話」風に清明・博雅コンビのやり取りが展開されていて定番の面白さがありますが、私はこの「ものや思ふと…」が一番面白いと感じました。

 

第4弾「鳳凰ノ巻」には、「泰山府君祭」、「青鬼の背に乗りたる男の譚」、「月見草」、「漢神(からかみ)道士」、「手をひく人」、「髑髏譚」、「清明、堂満と覆物の中身を占うこと」の7編が収録されています。安倍晴明のライバルと言われる蘆屋道満(または道摩法師)が最初と最後のエピソードに登場します。この巻で初登場というわけではないのですが、二つのエピソードに登場する重要キャラとして以前よりも親しみが湧くような気がしました。変わり者で、「退屈しのぎ」にちょっと人としてどうよ、と思うこともしてしまう、人を喰ったところがある人物ですが、清明には何やら同類の親しみのようなものを感じているようで、彼との付き合いを楽しんでいる風があります。

「清明、堂満と覆物の中身を占うこと」では方術対決という朝廷の見世物という舞台設定のため、珍しく比較的派手な術が披露されていて、なかなか面白い展開になっています。

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