徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

ドイツ:メルケル&シュルツTV対決

2017年09月04日 | 社会

昨夜はドイツ首相候補のTV対決を見ていました。ビデオはこちら

個人的には「引き分け」だったように思うのですが、TV対決終了後に行われた世論調査研究所 Infratest Dimap の調査によると、メルケルの方が優位だったようです。どちらが説得力があったかという質問に対して、メルケルと答えたのは55%、シュルツと答えたのは35%でした。まだ投票先を決めていない人たちの中では48%がメルケルの方に説得力があると答え、シュルツと答えたのは36%でした。

ツァイトオンラインの記事でも指摘されていますが、司会が外交や難民政策の議題にかなり時間を割いたので、現職のメルケル首相が12年の経験を踏まえてしっかりとバランスよく政策をプレゼンできたのに対して、シュルツは大まかな路線でメルケルに賛同するしかなく、唯一トルコについてだけ独自路線を打ち出すことができただけなので、不利な印象を残したようです。

 

個々のポイントでの評価は以下の通りです。

攻撃的: メルケル 5%、シュルツ 87%

弁論: メルケル 44%、シュルツ 38%

能力: メルケル 64%、シュルツ 20%

信頼性: メルケル 49%、シュルツ 29%

好感度: メルケル 49%、シュルツ 31%

市民視点: メルケル 24%、シュルツ 55%

 

シュルツは、CDU議員や連立パートナーとなると目されているFDPが70歳からの年金給付開始を提唱していることに言及し、メルケルを窮地に追いやることができました。メルケルは「私が首相でいる間は70歳からの年金給付開始はあり得ない」と強調しましたが、すぐさま、彼女が以前同じように「自動車高速道路料金はあり得ない」と言っていたにもかかわらず、結局EUの承認を得て実現したことを指摘されて、少したじたじとなっていました。

他のメルケルのウイークポイントは、ディーゼルスキャンダルに関してのディーゼル車購入者に対する補償問題と外交問題ではトルコと難民問題ですが、シュルツはこれらの点を逃さずにうまく切り込んでいました。

ただ残念ながら、ここぞという時にシュルツはどもったり、口ごもったりして、自信がないような印象を与えてしまっていました。それに対してメルケルは窮地に立たされても冷静に対応し、安定した弁論を展開していたので、やはりどちらかと言えばメルケルに軍配が上がったと言えるでしょう。

参照記事:

Statista, 04.09.2017, "Merkel entscheidet TV-Duell für sich"

Zeit Online, 04.09.2017, "Merkel gegen Schulz: er stockt, sie verteidigt sich"


ドイツ:世論調査(2017年9月1日)~2030年からの内燃エンジン禁止反対多数


書評:村田紗耶香著、『殺人出産』(講談社文庫)

2017年09月04日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

『殺人出産』(講談社文庫)は2014年に発行された短編集で、表題作の他、「トリプル」、「清潔な結婚」、「余命」の3編が収録されています。どれも「性と生」を独特の観点から問いかける常識破壊作品です。

『殺人出産』では、避妊技術が発達し、初潮が始まった時点で子宮に処置をするのが一般的になり、恋をしてセックスをすることと、妊娠をすることの因果関係が乖離しているという100年後の世界が描写されています。殺人出産制度というのは、【産み人】として20年間10人出産すると、一人殺す権利が与えられ、殺す対象として選ばれた人は【死に人】として崇められ、みんなに見送られるというシステム。このシステム外で行われる殺人は犯罪で、【産刑】という一生牢獄の中で命を生み続ける厳刑に処されることになっています。その際男は人工子宮を埋め込まれるとのこと。

シュールレアルな世界ですが、医学の発展と共に生死の境界が曖昧になり、また生命の誕生においても遺伝子レベルで介入が可能になりつつある今、今後生命の倫理はどうあるべきかが問われてきます。そこにこの作品はより非現実的な架空の設定を創造することで新たな観点から問題を切り込んでいるように思います。

『トリプル』は、カップルではなく、3人で恋人関係になることが若い世代の間で普通になり出した世界を描いています。親の世代の感覚では「乱交」とか「3p」とか呼ばれて「ふしだらなこと」とされていたが、高校生などの若い子の間ではトリプルの方が自然なことになりつつあり、男女カップルのセックスを知らない、または知って吐き気を催すなどの拒絶反応まで示しています。そのくらいトリプルのセックスはカップルのセックスからかけ離れていた。。。いわゆる「3p」というものともかなり違っています。よくそんなことを思いついたなと感心しつつ、それって「あり」なのか?と疑問に思わざるを得ない古い私でした。

『清潔な結婚』は、セックスレスな家族としての結婚を描いた作品で、このように結婚したカップルが子供を欲しいと思ったらどうするかという問題の解決策(?)を提示しています。世の中にはセックスレスな夫婦が多くあると思いますが、最初からそれを前提に結婚し、人工授精またはその他の方法で子供を作るというのはまだないでしょう。でもこれからそういうことも起こってくるのかも知れません。ここで提示されたクリニックの治療はかなり滑稽でしたけど ( ´∀` )

最後の『余命』は、数ページの超短編で、人間が普通に死ななくなった世界を描いています。だから死ぬ時と場所と死に方を一人一人が考えて決めなければならず、また死の決行前に蘇生拒否手続きをする必要があるという。「死亡許可証」なるものも発行してもらい、それで致死量の薬を買うことができる。

「今はわざわざ、人目を気にしてセンスのいい死に方を探しながら自分を葬らなくてはいけないのだから」という独白が本人の自意識過剰ぶりを表してますが、SFでもあり得ないような世界ですね。人類は本当にそこまで医療技術を発展させることができるのでしょうか?

どの作品もかなり破壊力があると思うので、万人受けするようには思えませんが、自由な発想で新たな「常識」を構築することで見えて来るものも多いかと思います。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村


書評:村田紗耶香著『コンビニ人間』(文春e₋Book)

書評:村田紗耶香著、『きれいなシワの作り方~淑女の思春期病』(マガジンハウス)