ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

平和的利用の原子力が殺した百万人の命

2011年06月04日 | 日本とわたし


2011年4月26日、チェルノブイリの事故より、まる25年になります。
その一方、世界中の原子力業界は、再興を図っています。

この重要な本が出版されました。
『チェルノブイリ~大惨事の環境と人々へのその後の影響』について取り上げていきます。
この本は、公開された医学的データに基づき、事件の起きた1986年から2004年までに、98万5千人が亡くなったとしています。
そしてその死者数は、さらに増え続けています。
スタジオには、ジャネット・シェルマン博士をお迎えしています。
ジャネット博士は、この本の寄稿者であります。
共著はベラルーシのアレクシー・ヤブロコフ博士、バシリー・ネステレンコ博士、そしてアレクシー・ネステレンコ博士です。

ようこそジャネットさん。
チェルノブイリ原発事故の死者は100万人ということですが、死因は何でしょう?

癌、心臓病、脳障害や甲状腺ガンなど、死因はさまざまでした。
何より、多くの子供達が死にました。
胎内死亡、又は、生後の先天性障害です。


科学者たちが、98万5千という死者数を特定した方法は?

これは、公開されている医学的データを基にしています。

原子力を規制・奨励する国際機関である国際原子力機関(IAEA)は、チェルノブイリの死者数を約4千人とホームページで発表しています。
これは本に発表されている98万5千人と、大きく異なるのはなぜでしょう?

IAEAが発表したチェルノブイリフォーラムという調査書は、350の論文に基づき英文で公開されている資料でしたが、ヤブロコフ博士とネステレンコ博士たちは、5千以上の論文を基にしています。
それは英文の論文に限りません。
また、実際に現場にいた人達の声を基にしています。
現場にいたのは医師、科学者、獣医、保健師など、地域の人々の病状を見ていた人たちです。


この本によりますと、世界保健機構(WHO)でさえ、チェルノブイリの真実を語っていないと批判していますね。
WHOはIAEAと協定を結んでおり、発表することができないとのことですが、それについて説明していただけますか?

1959年に結ばれた協定は、それ以来変わっていません。
一方がもう一方の承諾を得ることなしに、調査書を発表することを禁じています。
WHOは、IAEAの許可なしには、調査書を発表できないのです。


IAEAは世界中の原子力の規制だけではなく、原子力の促進を行う機関でもありますからね。
当然、WHOに「原子力は健康に有害だ」と言われては困るわけですね。

そのとおりです。こうした協定は終結すべきです。協定は破棄されるべきです。

さて、毒物学者として研究に生涯を捧げておいでのあなたが、今この本の編集をされている中、
あらゆる科学的なデータをみた上で、チェルノブイリの犠牲者数は100万人と仰る。
これは、科学技術による史上最悪の事故、ということですね。

そのとおりです。

データを読み取り、本を編纂された時の感想は?

事態は、私が思っていた以上に深刻でした。
人々が癌や心臓病で命を落とすだけでなく、体中のすべての臓器が害されて、免疫機能、肺、眼内レンズや皮膚など、すべての器官が、放射能の悪影響を受けたのです。
しかも人間だけではありません。
調査した全ての生き物、人、魚、木々、鳥、バクテリア、ウイルス、狼や牛など、生態系のすべてが、例外なく変わってしまいました。


そのことがこの本に書かれてあるんですね。

人間への影響にとどまらず、鳥や動物にも、人間と同様の悪影響がありました。

今となっては、癌と放射能の関係はわかりますが、心臓病はどうして起こるのでしょうか?

私がこの本を編集するときに気付いた、重大なことの一つですが、
バンダシェフスキーという科学者は、研究で、子供達の体内に蓄積されたセシウム137の量が、実験動物と同じ値になっていることを発見し、
それが心臓にダメージを与えていることに気づきました。
この研究結果を発表したことで、彼は刑務所に収監されてしまいました。


刑務所に収監されたんですか?

そうです。

彼は動物実験をしたんですか?

病理学者だった彼は、まず動物実験を行ってから、子どもへの影響を調べようとしました。 
その結果、亡くなった子供たちの心臓に蓄積されたセシウムの量は、動物の場合と同じでした。
これを発表したために逮捕され、刑務所に収監されました。


チェルノブイリからの放射能によって、ロシア、ベラルーシ、ウクライナは、高濃度で汚染されましたが、
この本によれば、それどころか、世界中に拡散したと書かれていますね。

そのとおりです。
放射能がもっとも集中したのは、前述の三国ですが、最大量の50%以上は、北半球全体に行きわたったのです。


特に北はスカンジナビア、東はアジア圏へと、中国までもですね?

そうです。

チェルノブイリの事故による死者は、近隣国だけでなく、もっと広いエリアで見られたということですが。

もちろんそうです、世界中です。

この悲劇はいつまで続くのでしょうか?

放射性物質が浄化されるには、千年はかかるでしょう?
もちろん、セシウム137、及びストロンチウム90だけでも、半減期は30年、少なくとも3世紀は残ります。


多くの同位体が千年残るはずですので、おっしゃる通りです。
この本には最大の被害が起きたのは最初の数ヶ月、もしくは数週間と強調していますが、とてつもない大火事が起きていた時のことですね?

はい、今でも原子炉から水道へダダ漏れしています。
今も、原子炉の周りの構造も安全ではありません。
もし小地震でもあれば、建物が崩壊する可能性もあります。
原子炉は安全に覆われ、漏れてはいないとは言えません。


チェルノブイリの真実を語るこの本は、権威ある『NY科学学会』によって発行されましたね。
科学の専門機関はこれ以外にもあるわけでしょうが、チェルノブイリの情報を外に出すことについて、彼らの立場はどうなっているのでしょうか?

情報を外に出すことに好意的なグループもあり、原子力御用学者と組み合い、どの様な内容が書かれていたのかは明らかではなかったようです。

著者のヤブロコフ博士とネストレンコ博士たちは、チェルノブイリの影響を調べる為に、あなたとどのように取り組んだのですか?

彼らは、WHOとIAEAの協定の事を、前から知っていました。
実は、ジュネーブのWHO本部の前で一日中、協定を抗議するデモを行っている人々がいます。


この方々がデモを行っている人達ですね?

そうです。

この本には、IAEAとWHOの『談合の協定』、と呼んでいますね。

そうです。
チェルノブイリの件で、ヤブロコフ博士は、ゴルバチョフとエリツィンの補佐を務めていました。
事故直後の3年間、ソ連政府は、情報の隠蔽を続けていましたし、一般に真実を知らせまいと、データ収集もしませんでした。
ヤブロコフ博士はそれを知り、情報収集を始めました。
出版された論文の数は15万以上でしたが、この本の執筆には5千点以上が使われました。
これらの資料は英語に訳されたことが無く、ほとんどがウクライナ語、ロシア語、ベラルーシ語の論文でした。
こうした情報が西側世界の目に触れるのは初めてです。


人、動物、植物への影響について、違いはなんでしょうか?

メカニズムは同じです。
放射性同位体に汚染されると、人、鳥や動植物が受ける影響は、細胞が破壊されダメージを受けるということです。
DNAへの損傷をもたらし、遺伝メカニズムがダメージを受けるという点で同じです。
細胞を破壊するのであれば、癌にはなりませんが、細胞にダメージが与えられると癌になります。
もしくは、先天性障害の原因となります。
人や鳥だけでなく、植物にさえ先天性障害が出ます。
チェルノブイリのせいで、植物にも変異が起こりました。


風の影響で、北西が被害を受けたとのことですが、チェルノブイリや原子力とはまったく無縁だった、スカンジナビアのラップランドの人々でさえも、雨などによる放射性物質拡散で余波を受けました。
こうした事後的影響については?

最近の研究によると、チェルノブイリ事故当時に生まれたスカンジナビアの子供は、高校を卒業する割合が低いようです。
知的能力に、影響が出たのではないかと思います。
私が知る限りのチェルノブイリの最悪な影響は、健康と言えるベラルーシの子供は、わずか2割だということです。
つまり、8割のベラルーシの子供達は、チェルノブイリ事故以前のデータと比べると、健康でない状態だということです。
医学的に健康でないだけでなく、知的にも標準以下となってしまっているのです。


知的能力の低下と放射能の関係について教えてください。

妊婦たちが食べる物の汚染については、きちんと知らされていない場合が多かったようです。
または、汚染されていない食べ物が手に入らなかったんです。
妊娠中に、放射性同位体が体内に入ると、母体を通じて胎児に届き、心臓、肺、甲状腺、脳とすべての細胞、免疫系統にもダメージを与えたのです。
こうした子どもたちは未熟児で、生まれつき健康状態が悪く、死産の率も非常に高く、これは被曝がもたらした結果です。
人間の文化に起こりうる最悪の悲劇です。


チェルノブイリの原発事故があったウクライナは、旧ソ連の一大穀倉地帯でした。
チェルノブイリ原発の3機の原子炉は、今でも運転中です。
そこでとれた食べ物は、あちらこちらへと出荷されました。
これはきわめて深刻な問題です。
数百年間も土壌汚染が続く中、どの様にして人々に食料を賄っていけばよいのでしょうか?
しかも、小麦やライ麦などの穀物だけでなく、マッシュルームも汚染されています。
重要な食料と思えないかもしれませんが、この地域では広く流通する食材で、非常に高濃度で汚染されています。


本は医学的データに基づき、死者数は98万5千人と結論づけました。
けれども、このデータは1986年から2004年までのもので、番組のはじめに『100万人の犠牲者』という言葉を使いましたが、
やはりチェルノブイリの犠牲者の数は、その位になりますでしょうか?

そう思います。やがて、その莫大な規模が知られることでしょう。
例えば『清算人』と呼ばれた人たちがいました。
近隣諸国から、主に軍より召集された、若き男女でした。
火災を消火し、問題の原子炉を封印する仕事をさせられました。
その15%が死亡しています。
この人達は、18~30歳位の若い男女だったのです。


原子炉から放出された放射性物質の数量ですが、これにつきましても、本が記す数値と公式発表された数値に、大幅な違いがありますね?

まったくです。もし放出されたのが少量だったならば、低レベルの放射性物質は、極めて危険だということですし、
もしそれが、大量に放出されたのだったら、その甚大な被害の規模をみなければなりません。
しかし、私達はいまだに、真相を知らないのです。
なぜなら、原子炉に残されているものは何か、地下水に漏れ出しているものは何かを、実際に現場へ行って、確かめる事ができないからです。


原子力の安全性は、どういうことになりますか?
原子力産業、原子力関係の組織は大抵、政府系の機関だったりするもので、
原子力「ルネサンス」の再興を押しまくり、原発をもっと建設しようとしていますね。
チェルノブイリ原発事故の教訓は?

私が思う教訓とは、技術を促進する前に、慎重に考えることだと思います。
例えば、BP社によるメキシコ湾の石油採掘については、何の問題もないと、私たちは聞かされていました。
一つの問題として、技術者たちは技術に関する事については分かりますが、彼らは生物学をよく理解していません。
彼らは、設備周辺にある、生物生命に与える影響を理解していません。
チェルノブイリ事故の最大の教訓は、汚染されたすべての生物に影響を与えたことです。
例外はないのです。


本には、フクロウの事も書かれていましたね。
動物への影響についても、少し詳しくお願いします。

本のカバーの写真を撮った、南カロライナ大学のティム・ウーソールさんは、25人以上の科学者をチェルノブイリ現地に連れて行き、昆虫、鳥、フクロウと、あらゆる動物を調査しました。
現地調査をしている時、突然、ミツバチがいないことに気づき、木の実が落ちていないことにも気づいた、と言ってました。
実がないのは、花粉を運ぶミツバチがいないからです。
現実になっているかもしれない彼の予想ですが、今だに崩壊し続けている放射性同位体によって、チェルノブイリ周辺の生命体が、すべて失われた可能性もある、という事です。
すべての種を、絶滅させるかもしれないのです。
そこは、渡り鳥の主な飛行ルートです。
渡り鳥が来た後、どうなっているかわかりませんから、土壌にある物を何でも食べて、チェルノブイリを飛び立って行きます。
食べた小果実が糞となり、チェルノブイリ以外の場所で排便されているはずです。


放射能は、遺伝子に甚大な影響を与えるのですよね?それについてはどうお考えですか?

これは、改善する見込みのない話です。
一度遺伝子が損傷を受けると、何世代にも引き継がれます。
ですから、こういった損傷が、人、鳥や植物の遺伝子に起きていて、それぞれの種が増進することは無いでしょう。


具体的に、どの様な遺伝子損傷のことですか?

脳や心臓、肺への影響、腕のない子供、水頭症の赤ちゃんです。
鳥の場合は、羽毛とくちばしの変化、脳の大きさなどがあります。
これらの鳥は、あまり利口ではなく、汚染されていない鳥に比べ、それほどよく生きていません。
植物も、永久的に変ったのも分かっています。
難しいことではないのです。放射性同位体の行き先は明らかです。
ヨウ素は甲状腺に、ストロンチウムは骨や歯に蓄積します。特に胎児に影響が及びます。
セシウム137は心臓と筋肉に蓄積されます。
これは謎などではありません。
これを知っている為、どんな悪影響がでるのかを予測できます。
そして、結果はまさに予測通りであり、それを本で証明しました。


「チェルノブイリ事故による犠牲者は、わずか数千人」とよく引用されて聞きますが、これは史上最大の嘘の一つですよね。

はい、追及もされずに逃れています。
私たちはWHOと国連に圧力をかけねばなりません。
WHOとIAEAを分離させることです。


WHOとIAEAのみならず、ここ、米国の原子力規制委員会もまた、放射性物質の影響を過小評価しようとしていますね。

全くその通りです。
私は、原子力規制委員会の前身であった、原子力委員会(AEC)で働いていました。
それはカリフォルニア大学内で、1952年のことでした。新卒で働いていました。
当時の私の限られた教育と経験でも、他の人が思っているより、放射能は危険だとわかっていました。
放射能のもたらす害については、米国民に対しても何十年間に渡り、秘密と嘘で騙されていました。
隠蔽及びデータの書き換えが行われ、多少の放射能なんか大丈夫だ、と吹聴されました。
しかし、デービスベッセ原発所では、メンテナンス不足の為、炉心が格納容器の中で溶けだすところだったことがわかっています。
米国でなくとも、世界のどこかで再び、原発事故が起こるのは時間の問題だ、と信じています。


50年以上も原子力産業に携わってきたあなたがなぜその様な事を言うのですか?
それはお金のためですか?それとも、技術を推進する為ですか?

原子力産業の関係者はなぜ嘘やごまかしをするのでしょうか?
複合的な要因があるでしょう。
金や、原子力を促進する企業による支配もそうですが、米国の人々は、あまりにも原子力について無知です。
生物学を全く理解していない学者がいます。
町で20人の人を集めて、「肝臓に手を当てて!」と言っても、できる人は半分もいない、と私は賭けますよ。
放射能の害についての教育を考えると、現在の米国はあまりにもお粗末で、子供達は生物・物理・化学を学んでいない。
原子力が米国の文化、経済に占める位置は大きいのに……。


チェルノブイリの影響を表すデータを見る上で、数十年前のご経験は役に立ちましたか?

もちろんです。
放射能が与える悪影響につきましては、もう何十年にも渡り広く知られています。
ここ数年間で、突然明らかになったことではありません。
物理を少しでも知っている科学者なら誰でも、放射性同位体が人体、植物、又は鳥のどこに入っていくか位はわかるはずです。
謎の科学ではありません。


チェルノブイリの犠牲者が100万人というとき、テクノロジーの歴史やその現場にとって、何を意味しますか? 

技術だけに頼るのは、間違いだということです。
それを設計・操作する人間にも頼るべきでもない。
なぜなら、最終的にチェルノブイリ事件の様なミスを起こすのは、人間だからです。


健康への影響は大規模ですね。

そのとおりです。北半球全域にわたります。
放射性物質の降下地点で、人々は死んでいます。
死ななければ、子どもたちは知的・医学的障害をもって生まれてきています。
これがいまだに続いており、まだ終りではないのです。


この本はどこで手に入れることができますか?

私にメールをください。toxdoc.js@verizon.netです。

チェルノブイリ事故で何が起きたのか、人々が真実を知ることがとても重要だと思います。
貴重なお仕事に感謝します。
私カール・グロスマンがお送りしました。
ごらんいただきありがとうございました。

*     *     *     *     *     *     *

このビデオの収録を行ったのは、2011年3月5日でした。
日本の福島原発大惨事がはじまる6日前です。
チェルノブイリ、そしてこの日本の悲劇の教訓は、すべての原発を停止するべきだということです。
原発は明らかに、地球上の生命に危険をもたらしています。
二度と新たな原発の建設をすべきではありません。
原子力への税金を使った補助金を、やめにすべきです。
効率のよいエネルギー政策にただちに転換し、すでにある風力・地熱・太陽光など、安全でクリーンな技術をフルに回転させるべきでしょう。
死を招く原子力は、完全に不必要なものです。