まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

ある夜の出来心

2020-12-08 | 欧米のドラマ
 2016年のテレビミニシリーズ「ザ・ナイト・オブ」を観ました~。全8話。
 ニューヨークで家族と暮らすパキスタン系アメリカ人の大学生ナズは、夜の街で出会った若い女性アンドレアと一夜を共にするが、目覚めると彼女の惨殺死体を発見し逃走してしまう。逮捕されたナズの弁護を引き受けたストーンは、独自に事件の調査を開始するが…
 シーズン2とか3とか、やたらと長いテレビシリーズは苦手なのですが、8話ぐらいで完結するミニシリーズは好きです。ミニシリーズは長さがコンパクトなだけでなく、ハイクオリティなドラマが多いような気がします。ダラダラと引っ張らずに、ギュっと凝縮した作りになってるからでしょうか。このドラマも、評判通りの質の高さでした。チャラチャラした軽薄なドラマや、毒にも薬にもならないポリコレドラマばかりな日本では絶対に製作できない、ヘヴィでダークな社会派ドラマです。

 複雑で不可解な司法制度と裁判の進め方、不当な扱いを受けるマイノリティの絶望と荒廃、暴力と悪意に満ちた都会の底辺社会、無秩序な刑務所etc.アメリカの闇と病巣が、静かに冷ややかに描かれています。人間や社会そのまんまのような、いつも陰鬱なニューヨークの天気と空は、観てるほうも気が滅入ります。常に用心してないと人生がおびやかされる危険に満ちた街。そんな場所で生きてると、心も荒んだり病んだりしますよ。このドラマに出てくる人々も、みんな暗い鬱屈を抱えていて思いやりが希薄で、諦めや不信感でがんじがらめになってます。特に黒人たちがみんな、見た目もキャラも極悪、凶悪、卑劣。最近の映画やドラマの中の黒人は、いろんな配慮や忖度もあってか、魅力的で高徳な人物が多いのですが、このドラマでは黒人、怖い!と久々に思った。差別偏見につながる!と怒られなかったのでしょうか。

 誰が犯人なのか?よりも、逆境の中での主人公ナズの成長に重点が置かれています。成長といっても悪い形で、というのが怖くて面白かった。ひとの善い、優しく内気なフツーの青年が殺人容疑者になったことで、絶望や怒り、悲しみや不信感にまみれて無垢な心を奪われ、過酷な環境で生き抜くために強靭になる心身の変貌が驚異的でした。ナズを演じてるのは、近年躍進が著しいパキスタン系イギリス人俳優のリズ・アーメッド。エミー賞受賞も納得の素晴らしい演技でした。

 全然オーバーな熱演などしておらず、どちらかといえば台詞も動きも少ない、感情的に激するシーンもほとんどない、とても静かな演技なのですが、哀れな冤罪被害者がしだいに、ん?何かおかしい…うっすら放ち始める怖いヤバい雰囲気。何を考えてるのかわからない、近くにいるのに遠くにいるような表情。とにかく静かにミステリアスなのです。軟弱そうな青年からコワモテ野郎への変貌もインパクト強烈。そして何より、軟硬どっちの時もすごい美男子!大きな美しい瞳!極小顔!やっぱちょっとピエール・ニネに似てると思った。わりと小柄なのも親近感を抱かせる可愛いさ。

 それにしても。ナズって、魔性の男。彼に関わる人々は、ことごとく悲運、不幸に見舞われるんですよ。ナズには悪意や害意など微塵もないのに。明菜のTANGO NOIRじゃないけど、生きてるだけであなた罪な男~♪刑務所のボス囚人も、そういうナズの得体の知れない魔性に魅せられて、彼を寵愛したのでしょうか。人間って、何かのきっかけで別人になってしまう、いや、もともと覚醒してないだけの秘密の本性が誰にでもあるのでしょうか。刑務所でのナズは、ジャック・オディアール監督の「預言者」の主人公を彷彿とさせます。恐ろしいボスがナズだけには優しく親身で、それがちょっと不器用でホロ苦い片想いっぽいところに、腐はかすかなBLを感知します。

 ストーン弁護士役は、コーエン兄弟監督作品の常連だったジョン・タトゥーロ。クセの強いキャラを、ひょうひょうと好演。ストーンの孤独な日常と皮膚病が、悲痛かつ滑稽だった。アンドレアが遺した猫とのエピソードが、なかなか微笑ましかったです。殺人の真犯人よりも、猫がどうなるかが気になって。強さと引き換えに真人間には戻れなくなったナズのこれからの人生はいったい…という重苦しい余韻を残しながらも、猫のおかげでホっとできたラストも秀逸でした。

 ↑ 聴覚障害のドラマーを演じた新作「サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ」での熱演も高く評価され、オスカー候補も噂されてるリズ・アーメッド。ノミネートされますように!
 

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