まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

痴情小説家

2019-11-24 | 日本映画
 「火宅の人」
 作家の桂一雄は、妻子をよそに若い愛人との情事に溺れ、私生活を題材にした小説を書いて糊口をしのいでいた。いつしか女たちとの相克に疲れ、放浪の旅に出る桂だったが…
 やっぱり昭和に作った昭和の映画はいいですね~。とにかく内容も脚本も演出も演技も、すべてにおいて濃ゆいです。最近の邦画は薄すぎて味気ない。そんな物足りなさを抱いてる若い人たちにも観てほしい昭和映画のひとつです。実在の作家、檀一雄をモデルにした主人公、桂の生き方や女性関係なんて、令和のポリコレ的には完全にアウトです。でもポリコレ的な人の話なんか全然面白くありません。他人と深く関わることが苦手な私なんかからすると、眉をひそめるどころか憧れさえする桂の激しく自由な人生です。とにかく桂先生、元気すぎる。創作と情痴に東奔西走するバイタリティには驚嘆するばかりです。

 妻、愛人、行きずりの女。おっさんの三股なんてフツーなら醜悪で気持ち悪く、卑劣で許せないはずなのですが、桂先生ってばいつもドタバタ、アタフタと忙しく大真面目に一生懸命なので、薄汚いゲス不倫おやじには見えないんですよね~。ドロドロした情念の修羅場というよりも、どちらかといえばコミカルな喜劇っぽかったのが意外でした。笑えるシーンが多いです。「仁義なき戦い」もそうでしたが、深作欣二監督の作品ってテンションが高く激しすぎて、何だか滑稽でもあるんですよね~。かなりすっとぼけてる桂だけでなく、女たちもみんなちょっと変わってるというか、泥沼不倫でありがちな陰惨さや深刻さが希薄で、みんな元気でマイペース。桂に翻弄されつつも彼に人生を左右されない強さが、珍妙かつ魅力的でした。男はズルくて可愛い、女は愚かで強い。無気力な今の男女は少し見習ってもいい、元気な男ざかり女ざかり情痴話でした。

 恋多き作家役を、緒形拳が情熱的かつ愛嬌たっぷりに演じてます。こういう役、こういう演技ができる俳優、今いないよな~と、あらためて緒形拳の偉大さ、貴重さを思い知りました。無責任で自分勝手だけど、何か憎めない、つい許してしまう情けなさ、優しさがまさに女殺し。とぼけてるけど男の欲望でギラギラと脂ぎって、ぜんぜん乾いてないぬめりがエロい。この映画でも濡れ場たっぷり。キスというより口吸い、全裸の体の重ね方や絡め方とか、緒形拳が得意だった濡れ場には、今の邦画ではもう見ることができない生臭い官能であふれています。子どもたちには優しく面白い父で、女たちには常に優しく言葉遣いが丁寧なところが可愛かったです。

 緒形拳をめぐる3人の女たちを演じた女優たちも、すごくチャーミングな好演。今の女優たちにはない独特な個性と美しさ。妻役のいしだあゆみが、なかなか強烈です。尽くす妻、耐える妻なんだけど、桂に対してすごいつっけんどんで冷淡な言動が笑えた。感情を押し殺した無表情で、家事に介護に夫の仕事の手伝いにテキパキ動く姿や、ダメ亭主を結局は手のひらの上で転がしてる貞女の余裕など、昭和の良妻賢母って感じをよく出してました。新興宗教にハマって変なお祈りをする奇態もクレイジーで笑えました。いしだあゆみは当時、大ヒットドラマ「金曜日の妻たちへ」など女優として絶頂期。顔も体もガイコツみたいに細いけど、ドスのきいた低い声と喋り方なので、ぜんぜん弱々しく見えません。緒形拳とは「野獣刑事」でも共演してましたね。
 桂の愛人役の原田美枝子が、若々しく大胆!緒形拳との濡れ場では、豊満な美巨乳を惜しげもなくさらし、もまれ吸われまくってヨガる顔も声もエロい!けど、隠微さはなくとにかく明るく元気。桂と旅を共にする行きずりの女役は、深作監督の恋人だった松坂慶子。彼女も当時、美貌といいキャリアといい絶頂期。ほんと美人!「事件」や「鎌田行進曲」など、美しいけど人が善すぎる男運の悪い場末の女、といえば彼女の十八番。彼女も濡れ場では美裸体を披露してます。昔はトップ女優といえどバンバン脱いでました。今はもうそんな果敢な女優もいないし、それを必要とする映画も作られなくなりました…
 昭和に作った昭和の映画ならではの昭和感、昭和臭も、全編に沁みわたっているのも魅力。桂一家の家とか暮らしぶりには、ノスタルジーを覚えずにはいられません。あと、桂の日本脳炎で寝たきりになってしまった息子が入院する病院。今のポリコレ邦画では絶対ありえない障害児描写です。
コメント (4)
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