まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

悲しみの麦畑

2008-10-10 | イギリス、アイルランド映画
 「麦の穂をゆらす風」
 2006年のカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した、名匠ケン・ローチ監督作品。
 20世紀初頭のアイルランド。医学を志していた青年デミアンは、イギリスの圧制に抵抗する義勇軍に加わり、激しい戦いに身を投じる。やがてイギリスと和平条約が締結されるが、その支持派と反対派が対立。仲間同士で争う内戦となってしまう...
 ああ~ほんと悲しい、やるせない話です。あまりにも悲惨で、観ていて欝になりました。ヘヴィすぎる。平和狎れしてる精神には、かなりキツい映画です。こういう映画を観るたびに、つくづく思います。現代の日本に生まれて、ホントよかったと...
 アイルランド人を虐げるイギリス軍人が、ほんと悪魔!ひどい!ほとんどナチスドイツです。鬼のような形相と怒号が、狂気的で怖い。あんな冷酷非道なことが、ほんとにまかり通ってたんですね。年端もゆかない少年たちでさえ、無残に拷問・処刑されたりして、暗澹とした気分にならずにはいられません。必死に戦って悪魔を追い払っても、今度は同胞同士で血みどろの争い...引き裂かれるデミアンと兄の絆が、悲痛すぎて...ああ~エンドレスな悪い夢みたい。
 若い命を散らす青年たちも哀れですが、それを見送らねばならない家族、特に母親が悲劇的です。お国のためとはいえ、愛する息子を目の前で理不尽に殺されたり、死地に向かわせねばならない母親の胸の内、察するに余りあります。私が母親なら、卑怯者!と呼ばれても、息子と一緒に外国に逃げる!自分ひとりならまだしも、大事な者を死なせてもOK!じゃない私は、愛国心のない非国民でしょうか...
 戦争の元凶である、愛国心と宗教。前者はともかく、後者は無神論の私にとって、何だか空恐ろしい。安らぎや救いを得られるのではなく、苦しみや痛みに耐えることが信仰なのかなあ、と。デミアンをはじめ、仲間たちも女子供も、みんな誇り高く根性がすわってて、どんなに悲惨なことになっても見苦しく取り乱さないところに、私も含めて日本人ってくだらないことに大騒ぎしすぎ、と恥ずかしくなります。
 
 アイルランドの風景が、これまた美しく牧歌的なので、終わりなき流血が余計に悲惨に映ります。
 デミアン役は、キリアン・マーフィ。珍しく好青年風なキリアン、激闘の中でも静かな優しさと悲しさをたたえた演技が胸に沁みます。今まで珍奇な役でインパクトをくれてたキリアンなので、フツーっぽい風貌が少し新鮮です。
 ケン・ローチ監督の演出は、いかにも作ったようなドラマティックさやお涙ちょうだいなシーン&台詞など極力排除していて、それが返って強く深い衝撃と感銘を生んでいます。
 アイルランド、いつか行ってみたい国のひとつです。
 
コメント
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